オイラーの公式

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オイラーの公式の図形的な表現。グラフは横軸が実数軸、縦軸が虚数軸の複素平面であり、φ は複素数 e の偏角である。

数学、特に複素解析におけるオイラーの公式(オイラーのこうしき、: Euler's formula)とは、指数関数三角関数の間に成り立つ以下の関係をいう。

e^{i\theta} =\cos\theta +i\sin\theta.

ここで e· は指数関数、i虚数単位cos(·), sin(·) はそれぞれ余弦関数および正弦関数である[注 1]θ実数なら、θ複素数 e がなす複素平面上の偏角に対応する。

公式の名前は18世紀の数学者レオンハルト・オイラーに因むが、最初の発見者はロジャー・コーツとされる。コーツは1714年に今日オイラーの公式と呼ばれる等式を発表したが、その証明は曖昧なものだった。その後オイラーによって1748年に再発見され、有名になった。

この公式は複素解析をはじめとする純粋数学の様々な分野や、電気工学物理学などで現れる微分方程式の解析において重要な役割を演じる。物理学者のリチャード・ファインマンはこの公式を評して「我々の至宝」かつ「すべての数学のなかでもっとも素晴らしい公式」 [1][2]だと述べている。

オイラーの公式は、変数 θ が実数である場合には、右辺は実空間上で定義される通常の三角関数で表され、虚数の指数関数の実部と虚部がそれぞれ角度 θ に対応する余弦関数 cos と正弦関数 sin に等しいことを表す。このとき、偏角 θパラメータとする曲線 e は、複素平面上の単位円をなす。 特に、θ = π のとき(すなわち偏角が 180 度のとき)、

e^{i\pi}=-1

となる。この関係はオイラーの等式 (Euler's identity) と呼ばれる[注 2]

θ が純虚数である場合には、左辺は実空間上で定義される通常の指数関数であり、右辺は純虚数に対する三角関数となる。

オイラーの公式は、三角関数 cos θ, sin θ双曲線関数 cosh(), sinh()/i に対応することを導く。また応用上は、オイラーの公式を経由して三角関数を複素指数関数に置き換えることで、微分方程式フーリエ級数などの扱いを簡単にすることなどに利用される。

指数関数と三角関数[編集]

実関数として定義される指数関数 ex および三角関数 cos x, sin x を各々 x = 0 の周りのテイラー展開[注 3]を行えば

e^{x} = \sum^{\infin}_{n=0} \frac{x^n}{n!}\quad\mbox{ for all }x

 

 

 

 

(1)

\cos x = \sum^{\infin}_{n=0} \frac{(-1)^n}{(2n)!} x^{2n}\quad\mbox{ for all } x

 

 

 

 

(2)

\sin x = \sum^{\infin}_{n=0} \frac{(-1)^n}{(2n+1)!} x^{2n+1}\quad\mbox{ for all } x

 

 

 

 

(3)

となる。各級数の収束半径が ∞ であることをダランベールの収束判定法によって確認する。級数

\sum_{n=0}^\infty a_n x^n

の収束半径 R は、極限

r=\lim_{n \to \infty}\left |\frac{a_{n}}{a_{n+1}}\right|

が存在すれば、R = r である[注 4]ex の収束半径は

\begin{align}
\lim_{n \to \infty}\left|\frac{1/n!}{1/(n+1)!} \right|
&=\lim_{n \to \infty}\left| \frac{(n+1)!}{n!} \right| \\
&=\lim_{n \to \infty}\left(n+1\right) \\
&=\infty
\end{align}

となる。cos x の収束半径を求めるには、y = x2 についての級数と考えて、その収束半径を求めればよい。

\begin{align}
\lim_{n \to \infty}\left|\frac{(-1)^n/(2n)!}{(-1)^{n+1}/\{2(n+1)\}!} \right|
&=\lim_{n \to \infty} \frac{\{2(n+1)\}!}{(2n)!} \\
&=\lim_{n \to \infty} (2n+2)(2n+1) \\
&=\infty
\end{align}

となるので、任意の y で収束し、したがって任意の x でも収束する。sin x もほぼ同様で、まず

\sum^{\infin}_{n=0} \frac{(-1)^n}{(2n+1)!} y^n

を考える。この級数の収束半径は

\begin{align}
\lim_{n \to \infty}\left |\frac{(-1)^n/(2n+1)!}{(-1)^{n+1}/\{2(n+1)+1\}!} \right|
&=\lim_{n \to \infty} \frac{(2n+3)!}{(2n+1)!} \\
&=\lim_{n \to \infty} (2n+3)(2n+2) \\
&=\infty
\end{align}

であるので、任意の y で収束し、y = x2 を代入した級数も任意の x で収束し、それに x をかけた級数(すなわち sin x のマクローリン展開)も任意の x で収束する。

以上で (1)(2)(3) の右辺の収束半径が ∞ であることが証明された。すなわち、これらの級数は x が全複素平面上を動く複素変数と見て、広義一様に絶対収束し、整関数を定める。(これらは多項式でないので超越整関数であり、無限遠点真性特異点にもつ[3][4][5][6][7][8]。)これら級数の収束性と正則関数に関する一致の定理により、正則関数としての拡張は全平面でこの収束冪級数によって確定されるため、複素関数としての指数関数および、三角関数は通常、この級数展開式をもって定義される。

ここで、 exxix に置き換え、eix の冪級数が絶対収束するために級数の項の順序を任意に交換可能である事を考慮すれば

\begin{align}
e^{ix} 
&= \sum^{\infin}_{n=0} \frac{i^n}{n!} x^{n}\\
&=\sum^{\infin}_{n=0} \frac{(ix)^{2n}}{(2n)!} +\sum^{\infin}_{n=0} \frac{(ix)^{2n+1}}{(2n+1)!}\\
&=\sum^{\infin}_{n=0} \frac{(-1)^n}{(2n)!} x^{2n} +i\sum^{\infin}_{n=0} \frac{(-1)^n}{(2n+1)!} x^{2n+1}
\end{align}

が成り立つ。上記式と三角関数の冪級数展開を比較すれば

e^{ix} = \cos x + i\sin x

が得られる[9]。これは冪級数展開よる本公式の証明である。 この公式は、歴史的には全く起源の異なる指数関数と三角関数が、複素数の世界では密接に結びついていることを表している。 たとえば、三角関数の加法定理は、指数法則 eaeb = ea + b に対応していることが分かる。ただし、指数法則を複素数まで拡張する場合は、複素数での指数法則の性質を証明する必要がある。下記のようにea + b を冪級数で表し、各項を二項展開し、整理すれば、ea + b = eaeb が導出できる[10]

\begin{align}
e^{a+b}
&=\sum^{\infin}_{n=0} \frac{(a+b)^n}{n!}\\
&=\sum^{\infin}_{n=0} \frac{1}{n!} \sum^{n}_{r=0} \frac{n!}{r!(n-r)!}a^{r} b^{n-r}\\
&=\sum^{\infin}_{n=0} \sum^{n}_{r=0} \frac{a^{r} b^{n-r}}{r!(n-r)!}\\
&=\sum^{\infin}_{n=0} \sum^{\infin}_{n=r} \frac{a^{r} b^{n-r}}{r!(n-r)!}\\
&=\sum^{\infin}_{r=0} \frac{a^{r}}{r!} \sum^{\infin}_{n=r} \frac{b^{n-r}}{(n-r)!}\\
&=\sum^{\infin}_{r=0} \frac{a^{r}}{r!} \sum^{\infin}_{m=0} \frac{b^{m}}{m!} \qquad (m \equiv n-r)\\
&=e^{a}e^{b}
\end{align}

さらに

\begin{align}
\cos z &= \frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2}, \\
\sin z &= \frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i}
\end{align}

と置き換えることで、三角関数は全て指数関数の一部であると見なすこともできる。

証明[編集]

この公式には、上記の冪級数展開による証明の他にも異なる幾通りかの証明が知られている。ここにいくつかの証明を挙げる。

微分による証明[編集]

関数の微分を用いた証明を示す。実変数 x の関数 f (x) を次のように定義する。

f(x) \overset{\underset{\mathrm{def}}{}}{=} (\cos x-i\sin x)\cdot e^{ix}.

 

 

 

 

(1)

f (x) の微分は以下のようになる。


\begin{align}
f'(x)&= (\cos x-i\sin x)'\cdot e^{ix} +(\cos x-i\sin x)\cdot (e^{ix})' \qquad \mbox{(Leibniz's rule)} \\
     &= (-\sin x-i\cos x)\cdot e^{ix} +(\cos x-i\sin x)\cdot ie^{ix} \\
     &= \left\{(-\sin x-i\cos x) +(i\cos x + \sin x)\right\}\cdot e^{ix} \qquad (i^2 = -1)\\
     &= 0
\end{align}

したがって、すべての実数 x について f' (x) = 0 が成り立つ。これは f (x)定数関数であることと同値である。よって f (x) = f (0) より、

f(x)=(\cos 0-i\sin 0)\cdot e^{i\cdot 0}=1

 

 

 

 

(2)

となる。(2)(1) に代入すると次のようになる。

(\cos x-i\sin x)\cdot e^{ix} =1.

 

 

 

 

(3)

ここで (3) の両辺に、左辺の eix の係数の複素共役 (cos x + i sin x) を掛ければ、三角関数に関するピタゴラスの定理 sin2x + cos2x = 1 よりオイラーの公式が得られる[11]

e^{ix} =\cos x+i\sin x.


別解として、実変数 x の関数 f (x) を次のように定義する。

f(x) \overset{\underset{\mathrm{def}}{}}{=} (\cos x+i\sin x)\cdot e^{-ix}

 

 

 

 

(4)

f (x)x について微分すると以下のようになる。


\begin{align}
f'(x)&= (\cos x+i\sin x)'\cdot e^{-ix} +(\cos x+i\sin x)\cdot (e^{-ix})' \qquad \mbox{(Leibniz's rule)} \\
     &= (-\sin x+i\cos x)\cdot e^{-ix} -(\cos x+i\sin x)\cdot ie^{-ix} \\
     &= (-\sin x+i\cos x-i\cos x+\sin x)\cdot e^{-ix} \qquad (i^2 = -1)\\
     &= 0
\end{align}

したがって、すべての実数 x について f' (x) = 0 が成り立つ。 ゆえに f (x) は定数である。 よって f (x) = f (0) より

f(x)=(\cos 0+i\sin 0)\cdot e^{-i\cdot 0}=1

 

 

 

 

(5)

が成り立つ。 (5)(4) に代入すると

(\cos x+i\sin x)\cdot e^{-ix} =1

が導出される。
上記式の両辺に e ix を乗算し、eaeb を冪級数で定義した後に二項展開するなどして複素数まで拡張可能なことが証明された指数法則 eaeb = ea + b を利用すれば[10]

\begin{align}
e^{ix}
&=(\cos x+i\sin x)\cdot e^{ix}e^{-ix}\\
&=(\cos x+i\sin x)\cdot e^{(ix-ix)}\\
&=(\cos x+i\sin x)\cdot e^0\\
&=(\cos x+i\sin x)\cdot 1\\
\end{align}

以上より

e^{ix} =\cos x+i\sin x.

が得られる[12]

微分方程式による証明[編集]

微分方程式を用いた証明を示す。x を実数、x の関数 f (x) を以下のように定義する。

f(x) = \cos x + i\sin x.

また記法を簡潔にするために補助的な方程式

y = f(x)

によって y を定める。これらをまとめると以下の方程式を得る。

y = \cos x+ i\sin x.

 

 

 

 

(1)

(1)x = 0 を代入すると

y = \cos 0 + i\sin 0 = 1

 

 

 

 

(2)

を得る。(1) の両辺を x について微分し、両辺に虚数単位 i を掛けると以下のようになる。

i\frac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x} 
= \underbrace{-i\sin x}_{\frac{\mathrm{d}\cos x}{\mathrm{d}x} = -\sin x} 
- \underbrace{\cos x}_{\frac{\mathrm{d}\sin x}{\mathrm{d}x} = \cos x}

 

 

 

 

(3)

(3)(1) より

\frac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x} =iy

 

 

 

 

(4)

を得る[注 5](4) は、右辺の係数が実であれば、実数の指数関数の解析学的な定義に他ならない。すなわち、任意の 0 でない複素数 α について、関数 eαx は次の関係を満たす。

\frac{\mathrm d}{\mathrm{d}(\alpha x)}e^{\alpha x} = e^{\alpha x}.

 

 

 

 

(5)

(4)(5) を見比べ、α = i と置き換えれば、

y=e^{ix}

 

 

 

 

(6)

が成り立つ。最後に (1) および (6) から y を消去すればオイラーの公式が得られる。

e^{ix} = \cos x + i\sin x.

2階線型微分方程式による証明[編集]

2階線型微分方程式を用いた証明を示す。実数 x を変数とする関数

\begin{cases}
\displaystyle y = e^{ix} \\
\displaystyle y = \cos x \\
\displaystyle y = \sin x
\end{cases}

 

 

 

 

(1)

はいずれも以下の2階の線型常微分方程式の解である。

\frac{\mathrm{d}^2y}{{\mathrm{d}x}^2} + y = 0.

 

 

 

 

(2)

(2) は斉次な方程式なので、一般解は基本解の線型結合として表すことができる。 cos xsin x(2) の基本解なので、 (1) および (2) より

e^{ix} = C_1 \cos x + C_2 \sin x

 

 

 

 

(3)

が成立する。また、(3) の両辺を微分したものは

ie^{ix}=-C_1\sin x + C_2 \cos x

 

 

 

 

(4)

となる。(3), (4)x = 0 を代入したものはそれぞれ、

\begin{align}
1 = C_1\\
i = C_2
\end{align}

 

 

 

 

(5)

となるので[注 6](5) より (3) の線型結合はオイラーの公式を与える[13]

e^{ix} = \cos x + i\sin x.

ロンスキー行列による証明[編集]

ロンスキー行列式を用いた証明を示す。線型微分方程式の解の独立性は、解の組が成すロンスキー行列のディターミナント、すなわちロンスキー行列式によって決定される。微分方程式の解の組が得られたとして、それらの成すロンスキー行列式が 0 になり、かつそれらから解を 1 つ取り除いた場合のロンスキー行列式がいずれも 0 でないなら、元の解の組は線型従属であり、すなわち解のいずれかは他の解の線型結合で表すことができる。この性質を利用して、指数関数 eix が三角関数 cos x および sin x の線型結合に書き換えられることを導く。 cos xsin xeix のロンスキー行列 W

W=\begin{pmatrix}
\cos x & \sin x & e^{ix}\\
\left(\cos x\right)' & \left(\sin x\right)' & \left(e^{ix}\right)'\\
\left(\cos x\right)'' & \left(\sin x\right)'' & \left(e^{ix}\right)''
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
\cos x & \sin x & e^{ix}\\
-\sin x & \cos x & ie^{ix}\\
-\cos x & -\sin x & -e^{ix}
\end{pmatrix}

 

 

 

 

(1)

となる。(1) のロンスキー行列式

|W|=\begin{vmatrix}
  \cos x & \sin x & e^{ix}\\
  -\sin x & \cos x & ie^{ix}\\
  -\cos x & -\sin x & -e^{ix}
\end{vmatrix}
=\begin{vmatrix}
  0 & 0 & 0\\
  -\sin x & \cos x & ie^{ix}\\
  -\cos x & -\sin x & -e^{ix}
\end{vmatrix} = 0

 

 

 

 

(2)

を計算すると、cos x, sin x, eix のいずれも微分方程式 y'' + y = 0 の解であるから、(2) のロンスキー行列式の第 1 行に第 3 行を足せば、第 1 行は 0 にすることができる。行列のいずれかの行または列がゼロベクトルなら、その行列式は 0 になるので、3 つの解が成すロンスキー行列式が 0 になることが示せた。

次に 2 つの解の組のロンスキー行列式がいずれも 0 でないことを示す。cos x, sin x について、

\begin{vmatrix}
\cos x & \sin x\\
-\sin x & \cos x
\end{vmatrix} = \cos^2x + \sin^2x = 1,

 

 

 

 

(3)

eix, cos x について、

\begin{vmatrix}
e^{ix} & \cos x\\
ie^{ix} & -\sin x
\end{vmatrix} = -(\sin x + i\cos x)e^{ix},

 

 

 

 

(4)

sin x, eix について、

\begin{vmatrix}
\sin x & e^{ix}\\
\cos x & ie^{ix}
\end{vmatrix}=-(\cos x - i\sin x)e^{ix}

 

 

 

 

(5)

となる。(3), (4), (5) の行列式はすべて 0 でないため、解の組 (cos x, sin x, eix) が線型従属であることがいえた。従って指数関数は三角関数の線型結合として表すことができる。

e^{ix} = C_1 \cos x + C_2 \sin x.

 

 

 

 

(6)

後は2階線型微分方程式による証明と同様にして係数 C1, C2 を求めれば、オイラーの公式

e^{ix} = \cos x + i\sin x

が得られる[14][15]

別解として

|W|=\begin{vmatrix}
e^{ix} & \cos x +i\sin x \\
ie^{ix} & -\sin x+i\cos x
\end{vmatrix}=e^{ix}(-\sin x + i\cos x) - e^{ix}(i\cos x - \sin x)=0

として cos x + i sin xeix が線型従属であることを確認する。 ここで、ある定数 C について

e^{ix} = C(\cos x + i\sin x)

が成立する[注 7]。ここで x = 0 を代入すると C = 1 となり

e^{ix} = \cos x + i\sin x

が得られる[16]

ド・モアブルの定理による証明[編集]

ド・モアブルの定理を用いた証明を示す。
ド・モアブルの定理より

\begin{align}
\cos n\theta+i\sin n\theta
&=(\cos \theta+i\sin \theta)^n\\
\end{align}
\begin{align}
\cos n\theta-i\sin n\theta
&=(\cos \theta-i\sin \theta)^n\\
\end{align}

辺々加えて

\begin{align}
2\cos n\theta
&=(\cos \theta+i\sin \theta)^n+(\cos \theta-i\sin \theta)^n
\end{align}

右辺の 2 つの項を二項定理によって展開すれば、 i奇数乗の項は相殺し、 i偶数乗の項だけを二重に加えることになるので

\begin{align}
\cos n\theta
&=\sum_{k=0}^{\left[\tfrac{n}{2}\right]} (-1)^k\binom{n}{2k}\ (\cos \theta)^{n-2k}(\sin \theta)^{2k}\\
&=\sum_{k=0}^{\left[\tfrac{n}{2}\right]} (-1)^k\binom{n}{2k}\ (\cos \theta)^{n}(\tan \theta)^{2k}\\
\end{align}

を得る。これが cos θn 倍角の公式の閉じた表示式である ([s] は、s整数部分を表す)。
この式において = x と置き換えると

\begin{align}
\cos x
&=\sum_{k=0}^{\infty} (-1)^k\binom{n}{2k}\left (\cos \frac{x}{n}\right)^{n} \left (\tan \frac{x}{n}\right)^{2k}\\
\end{align}

の上端を に書き直したが、n < 2k のとき二項係数の部分が 0 になるので、内容としては [\tfrac{n}{2}] までの和と同じことである。
n → ∞ の極限においては

\cos \frac{x}{n} \sim 1\ ,\ \sin \frac{x}{n} \sim \frac{x}{n}\ ,\ \tan \frac{x}{n} \sim \frac{x}{n}

となり、各項目においてオーダーが等しいことが確認できる。
したがって

\binom{n}{2k} \sim \frac{n^{2k}}{(2k)!}\ ,\ \left(\cos \frac{x}{n}\right)^n \sim 1\ ,\ \left(\tan \frac{x}{n}\right)^{2k} \sim \frac{x^{2k}}{n^{2k}}

となる。
よって

\cos x = \sum^{\infin}_{k=0} \frac{(-1)^k}{(2k)!} x^{2k}

が得られる。
同様に sin x について考えれば

\begin{align}
\sin x
&=\sum_{k=0}^{\infty} (-1)^k\binom{n}{2k+1}\left (\cos \frac{x}{n}\right)^{n} \left (\tan \frac{x}{n}\right)^{2k+1}\\
\end{align}

より

\sin x = \sum^{\infin}_{k=0} \frac{(-1)^k}{(2k+1)!} x^{2k+1}

が得られる。
ここで、n → ∞ の極限時における誤差の影響について考えると

\cos \frac{x}{n} = 1+a_{n}

とおけば

\begin{align}
\left(\cos \frac{x}{n}\right)^n 
&= (1+a_{n})^n\\ 
&= 1+na_{n}+\binom{n}{2}a_{n}^2+ \cdot\cdot\cdot\\
\end{align}

よって、an が小さいとき、n 乗すると誤差はおよそ n 倍されるが、an\tfrac{1}{n} よりも早く 0 に近づくときには、極限に影響しない。
本議論において

\begin{align}
a_{n}&=\cos \frac{x}{n}-1\\
&=-2\sin^2 \frac{x}{2n}\\
\end{align}[注 8]

であるから

\begin{align}
a_{n}&\sim -\frac{x^2}{2n^2}\\
\end{align}

となる。
したがって、ランダウの記号を用いて漸近挙動を示せば

\cos \frac{x}{n}=1+O\left(\frac{1}{n^2}\right)

ゆえに

\lim_{n\rightarrow \infty}\left(\cos \frac{x}{n}\right)^n=1

ここで、ド・モアブルの定理に立ち返って

\begin{align}
\cos n\theta+i\sin n\theta
&=(\cos \theta+i\sin \theta)^n\\
\end{align}

上記式において = x とおくと

\begin{align}
\cos x+i\sin x
&=\left(\cos \frac{x}{n}+i\sin \frac{x}{n}\right)^n\\
\end{align}

ここで、n → ∞ の極限時において

\cos \frac{x}{n}+i\sin \frac{x}{n}=1+\frac{ix}{n}+O\left(\frac{1}{n^2}\right)

であるから

\lim_{n\rightarrow \infty}\left(\cos \frac{x}{n}+i\sin \frac{x}{n}\right)^n=\lim_{n\rightarrow \infty}\left(1+\frac{ix}{n}\right)^n=e^{ix}

よって

e^{ix} = \cos x + i\sin x

が得られる[17][18][19]

ロジャー・コーツによる考察[編集]

積分による考察[編集]

積分を用いた考察を示す[注 9]
まず sin x = y とおくと

\begin{align}
x&=\sin^{-1} y\\
&=\int \frac{\mathrm{d}y}{\sqrt{1-y^2}}\\
\end{align}

となる。ここで、y = izdy = i dzとおくと

\begin{align}
x&=\int \frac{i \mathrm{d}z}{\sqrt{1-(iz)^2}}\\
&=i \int \frac{\mathrm{d}z}{\sqrt{1+z^2}}\\
&=i \ln(\sqrt{1+z^2}+z)
\end{align}

となる。次に、z = y/i = sin x/i より、z2 = sin2 x/i2 = -sin 2 x と整理できるから

\begin{align}
x&=i \ln(\sqrt{1-\sin^2 x}+\frac{\sin x}{i})\\
&=i \ln(\cos x-i\sin x)\\
\end{align}

となる。したがって

\begin{align}
ix&=i^2 \ln(\cos x-i\sin x)\\
&=\ln\{(\cos x-i\sin x)^{-1}\}\\
&=\ln(\cos x+i\sin x)\\
\end{align}

となる。対数関数表示から指数関数表示に変換すると

\begin{align}
e^{ix}&=e^{\ln(\cos x+i\sin x)}\\
\end{align}

よって

e^{ix} = \cos x + i\sin x

が得られたとした[20]。ロジャー・コーツは、1714年にこのような考察を行った[20]。この考察では、複素対数関数が無限多価関数であり、実部が同じで虚部が 2π の整数倍だけ異なる無数の複素関数が存在することを考慮していない。仮に、自然対数の主値をとれば本公式になるが、なぜ主値をとるかの合理的な説明を行うためには他の証明法を併用する必要がある。したがって、これは厳密な証明ではない。

関連項目[編集]

脚注[編集]

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参照[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 指数関数 e·累乗を拡張したもので、複素数 x, y について ex × ey = ex+y という関係が成り立つ。e = e1 = 2.718281828...自然対数の底あるいはネイピア数と呼ばれる。
    虚数単位 ii2 = i × i = −1 を満たす数である。
    余弦関数 cos · および正弦関数 sin · は三角関数の一種である。正弦関数 sin θ は、直角三角形斜辺とその三角形の変数 θ に対応する角度を持つ鋭角対辺(正弦)の長さの比を表す。余弦関数 cos θ はもう一方の鋭角(余角)の対辺と斜辺の長さの比を表す。単位円(半径の長さを 1 とする円)の中心を原点とする直交座標系をとったとき、単位円上の点を表す x, y 座標はそれぞれ cos θ, sin θ に等しい(θ は円の中心と円周上の点を結ぶ直線と、x 軸のなす角の大きさに対応する)。
    文献によっては、指数関数は、exponent(指数)から3字取って exp x (= ex) と表される。また虚数単位には i でなく j を用いることがある。
  2. ^ 三角関数の周期性(従って複素指数関数の周期性)により、オイラーの等式が成り立つのは θ = π に限らない。すなわち、任意の整数 z について θ = π + 2πz = 2π(z + 1/2)e = −1 を満たす。
  3. ^ このような原点を中心とするテイラー展開はしばしばマクローリン展開 (Maclaurin expansion) と呼ばれる。また一般に関数を冪級数として表すことを冪級数展開と呼ぶ。
  4. ^ 極限が存在しない場合、収束半径はこの方法では求まらない。
  5. ^ i2 = −1 より i = −1/i であることを利用した。
  6. ^ e0 = 1 および sin 0 = 0, cos 0 = 1 を利用した。
  7. ^ cos x + i sin x は関数として 0 でないので。
  8. ^ 三角関数の半角公式を利用した。
  9. ^ 数学的に厳密な証明ではない。

参考文献[編集]

  • ファインマン, リチャード P. 『力学』I、坪井忠二訳、岩波書店〈ファインマン物理学〉、1977年、294, 307。ISBN 4-00-007711-2。OCLC 47339138
  • 吉田, 武 『オイラーの贈物—人類の至宝 eiπ = −1 を学ぶ』 東海大学出版会、2010年、新装版。ISBN 978-4486018636。OCLC 502982012
  • 小笠, 英志 『相対性理論の式を導いてみよう、そして、人に話そう』 ベレ出版、2011年、PP.165-171にオイラーの式を高校数学で納得する方法が載っている。ISBN 978-4860642679。
  • 藤田, 宏 『応用数学 (放送大学教材)』 放送大学教育振興会、1993年。ISBN 978-4595565328。
  • Dunham, William (1999). Euler: The Master of Us All. The Mathematical Association of America. ISBN 978-0883853283.