ドクターフィッシュ

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ドクターフィッシュ
ドクターフィッシュ 撮影地:シンガポール
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
: コイ目 Cypriniformes
: コイ科 Cyprinidae
亜科 : ラベオ亜科 Labeoninae
: ガラ属 Garra
: ガラ・ルファ G. rufa
学名
Garra rufa Heckel, 1846
英名
Doctor fish
Garra rufa

ドクターフィッシュ(Doctor fish)は、コイ科の魚ガラ・ルファ(学名 Garra rufa)の通称である[1]

分布[編集]

トルコイランイラクシリアレバノン周辺の西アジア地域の河川

生態[編集]

全長約10cm。西アジアの河川域に生息する淡水魚で、37℃程度の高い水温でも生息できるためトルコなどの温泉にも生息するが通常は河川や池沼に生息する。水温、水質ともに適応の幅が非常に広く丈夫な魚である。餌を求める時は活発に動き回るが、普段は石などの上や陰でじっとしていることが多い。食性は雑食性。口が吸盤のようになっており石や岩などに付着した藻類を舐めるようにして食べることができるほか、底にいる微生物昆虫の幼虫などを食べる。

幼魚の頃は群れで生活するが、成長するとオスは縄張りを持つようになり多少攻撃的な性格にかわる。繁殖は卵生で水草やコケを産卵床とし直径2-3mmの卵を産む。孵化までの期間は水温により異なるものの、25度前後の水温でおおむね3-5日程度で5mm前後の稚魚が孵化する。寿命はだいたい7年、角質を食べるのは生後2ヶ月から2年半ごろまでである。

人間との関係[編集]

魚の通称と利用[編集]

温泉に棲むガラ・ルファがヒトの角質を食べる習性は、温泉では他の生物があまり生息せず、他に食べるものが無いためと考えられ[2]、えさが豊富にある河川などの環境下であればヒトの角質を食べることはあまりなく、非常に珍しい生態学的適応の例である[2]。えさとなるプランクトンや藻が十分に育たない温泉内に物理的に閉じ込められた(隔離された)ガラ・ルファは、河川よりも餌不足で生育が悪くなるが、トルコでは夏場に観光客がやってきて温泉に足をつけるため、よい栄養源となる[2]。トルコの生物学者は「ヒトの皮膚はドクターフィッシュにとって肉のようなごちそう」だとしている[2]

世界の三大美女の1人であるクレオパトラが愛用していた[3]とされるガラ・ルファは、歯が無いため肌を傷つける事もなく、化学薬品を使うこともない。皮膚を吸い取るようについばむ習性と、ついばむ際の小刻みな刺激や振動が皮膚の代謝を促進させる「自然のピーリング効果」及び「マッサージ効果」、「リラクゼーション効果」が期待され、アトピー性皮膚炎乾癬など皮膚病に治療効果があるともされ、「ドクターフィッシュ」の通称で知られる[4]。また、臆病なはずの小魚がヒトに寄って来ることから、心の弱った人にも効果があるとされる[3]

ドイツやトルコではドクターフィッシュによる治療が保険適用の医療行為として認められている。近年[いつ?]、日本でも皮膚病の治療効果が注目され、水族館・動物園[5][6][7]以外にも日帰り入浴施設[4]などで「フィッシュセラピー」としてのサービスが提供されている。ドクターフィッシュは金魚すくい程度の水槽で足湯やセラピー、体験、ふれあいが行える(手だけの場合は通常の観賞魚用の水槽でよい)ため、日本では児童施設で取り扱われたり[8]、理容店[9]、インターネットカフェ[10]などの取り扱い例があり、移動水族館もある。日本では水族館などが繁殖に成功し[7]、またドクターフィッシュのレンタル業者もある。

トルコではガラ・ルファは自然の温泉(水温34度)と河川とを行き来していたが、1950年代、開発により河川から温泉が魚群ごと隔離され、ヒトの角質をえさとする非常に珍しい生態学的適応が始まった[2]。トルコの生物学者は、隔離された魚群は数千年後には別な種に進化する可能性もあると指摘している[2]。トルコで古くから行われるドクターフィッシュであるが、中国の業者はアイディアは中国起源だとしている[2]

ドクターフィッシュは多数の国や地域で利用されている。しかし一部の地域では異なった対応をとる。 アメリカでは、14の州でエステティックサロンによるフィッシュセラピーがエステティック組合内により禁止され[11][12]、アブダビでは全面禁止となっている[12]。 イギリスでは、不特定多数が水槽を利用するため、英国健康保護局(Health Protection Agency)により、HIVHCVなどの感染症の感染率は非常に低いがゼロではないと各施療所に水を取り換えることなどの衛生面の指導がなされている[13][12]。 なお、ガラ・ルファ自体がデリケートで水の汚れに弱い魚であるため、飼育での水の取り換えは推奨される[10][7]

他種の魚[編集]

ガラ・ルファと同様に古くなった角質を好むchin chinというアジア原産のカワスズメ科の魚を、その価格の安さから「ドクターフィッシュ」と称し、サービスに使用する業者がある[11]。ガラ・ルファと違い、この魚には微小な歯があるので、肌が傷つくというトラブルが報告されている[11]。この魚はガラ・ルファと異なる習性をもっており、大きくなると魚同士で戦う[14]

日本近海にも生息するホンソメワケベラは英語で「ドクターフィッシュ」とも「掃除魚」とも呼ばれる。他の大きな魚の体につく寄生虫などをえさにし、魚の中にはベラに寄生虫を取ってもらおうとするものもいる[15]。また、日本の海水魚ゴンズイもヒトの角質をついばむ習性があるが、毒刺を持つため、セラピーには向かない[16]

ギャラリー[編集]

脚注[編集]

  1. ^ ドクターフィッシュ 豆事典 うんちく:福井新聞
  2. ^ a b c d e f g ドクターフィッシュの生態学〜日経サイエンス2007年8月号 日経サイエンスweb
  3. ^ a b 連載「夜の地球の歩き方」よりZAKZAK 2011.08.05 by Mademoiselle・H(マドモワゼル・アッシュ)
  4. ^ a b 淡水魚が皮膚をついばみ代謝促進? 万葉の湯「ドクターフィッシュ」話題に博多経済新聞 2009年07月27日
  5. ^ 須坂市動物園草津熱帯圏サンピアザ水族館新江ノ島水族館のとじま水族館しながわ水族館大洗水族館越前松島水族館、高千穂峡淡水魚水族館、下田海中水族館マリンピア松島水族館さいたま水族館蒲郡市竹島水族館魚津水族館八景島シーパラダイスなど。短期間の展示も含む。
  6. ^ 地上高273メートルの「空中すいぞくかん」 ドクターフィッシュが人気ヨコハマ経済新聞 2009年08月27日
  7. ^ a b c ドクターフィッシュ繁殖に成功 のとじま水族館 体験展示拡大へ2010年1月8日03時37分 北國・富山新聞web 石川のニュース※水の汚れで死ぬ場合もあるとする出典
  8. ^ ドクターフィッシュ 歩廊 miyanichi e press 2012年09月28日。宮崎市の大淀川学習館の例。
  9. ^ 綾瀬の理髪店、節電還元で「ドクターフィッシュ」導入 足の角質を餌に葛飾経済新聞 2011年06月21日
  10. ^ a b 宇部のインターネットカフェで「ドクターフィッシュ」 山口県初登場山口宇部経済新聞 2009年09月07日
  11. ^ a b c Ban on Feet-Nibbling Fish Leaves Nail Salons on the Hook2009年3月23日 By PHILIP SHISHKIN 『WSJ.com』 2013-4-10閲覧
  12. ^ a b c ドクターフィッシュでエイズ感染の恐れ!気持ちはいいが…-政治・社会2011.10.19 『ZAKZAK』 2013-4-10閲覧
  13. ^ "Guidance on the Management of the Public Health Risks from Fish Pedicures". Health Protection Agency. October. p. 9. Retrieved 11 September 2012.(英語)
  14. ^ Frequently Asked Questions 『Doctor Fish Spa』 2013-4-10閲覧
  15. ^ 読売新聞西部1991年6月22日夕刊10頁
  16. ^ ニセ!ドクターフィッシュ登場!?(S.K) 蒲郡市竹島水族館 スタッフ日誌2006年10月16日15:58

関連項目[編集]