ナゴルノ・カラバフ共和国

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ナゴルノ・カラバフ共和国
(アルツァフ共和国)
Լեռնային Ղարաբաղի Հանրապետություն
(Արցախի Հանրապետություն)
ナゴルノ・カラバフの国旗 ナゴルノ・カラバフの国章
国旗 国章
国の標語:不明
国歌自由な独立アルツァフ[1]
ナゴルノ・カラバフの位置
公用語 アルメニア語
首都 ステパナケルト
最大の都市 ステパナケルト
政府
大統領 バコ・サハキャン
首相 アライク・ハルチュニャン
面積
総計 11430km2???位
水面積率 不明
人口
総計(2013年 148100人(???位
人口密度 xxx人/km2
GDP(自国通貨表示)
合計(2015年 83,500,000,000ドラム
GDP (MER)
合計(xxxx年 xxx,xxxドル(???位
GDP (PPP)
合計(xxxx年 xxx,xxxドル(???位
1人あたり 117,140ドル
事実上独立
ソビエト連邦から独立宣言 1991年9月2日
通貨 ドラム (AMD)
時間帯 UTC +4[2]DST:なし)
ISO 3166-1 不明
ccTLD 不明
国際電話番号 374 47[2]

ナゴルノ・カラバフ共和国(ナゴルノ・カラバフきょうわこく)、別名アルツァフ共和国(アルツァフきょうわこく)は、南カフカースナゴルノ・カラバフに位置する事実上独立した国家。西でアルメニア、北と東でアゼルバイジャン、南でイランと国境を接する[2]。公用語はアルメニア語、通貨はドラム、首都はステパナケルトである。

アゼルバイジャン・ソビエト社会主義共和国領であったナゴルノ・カラバフ自治州一帯が、ナゴルノ・カラバフ戦争ソ連崩壊に際して独立宣言を行ったことにより成立した。しかし、その実態としてはアルメニアの保護国の様相が色濃く、他国からの国家承認もほとんど受けられていない状態にある。

国名[編集]

国名の正式名称は、「ナゴルノ・カラバフ共和国」と「アルツァフ共和国」の2種類が用意されている[3]。各言語での公式表記は、

  • アルメニア語: Լեռնային Ղարաբաղի Հանրապետություն / Արցախի Հանրապետություն[4]
  • 英語: Nagorno Karabagh Republic / Republic of Artsakh[2]
  • ロシア語: Нагорно-Карабахская Республика / Республика Арцах[5]

とされている。

「ナゴルノ・カラバフ」というカナ表記は「カラバフ高地」を意味するロシア語名称に由来する[6]。「カラバフロシア語版」はテュルク語の「黒い」という語に由来し、この地が緑豊かであることを示す[6]。「アルツァフ」はかつてナゴルノ・カラバフを治めていたアルメニア人王国の名であり[7]、また「解放される」という動詞の派生でもあるため、民族独立を鼓舞する狙いとしても採用されている[6]

歴史[編集]

ナゴルノ・カラバフ戦争が激化しつつあり、そしてアゼルバイジャンソビエト連邦から独立を宣言した1991年8月30日の3日後である同年9月2日[8]アゼルバイジャン・ソビエト社会主義共和国領であったナゴルノ・カラバフ自治州および自治州の北部に隣接するシャウミャン地区 (ru) が合同する形で、「ナゴルノ・カラバフ共和国」の独立を宣言した[9]。ナゴルノ・カラバフ共和国側は、この独立宣言をソ連憲法世界人権宣言国連憲章などに則ったものと主張している[9]。これに対しアゼルバイジャン側は11月26日に自治州を廃止したが[10]、12月10日に実施された住民投票では99.89パーセントの賛成多数で独立宣言が受け入れられた(ただし、共和国のアゼルバイジャン人人口は投票をボイコットしている)[9]

独立宣言後、続く戦争の中でアルメニア人側がさらに旧自治州外まで勢力を拡大したことにより、ナゴルノ・カラバフ共和国はアルメニアと地続きになった[11]。その反面、アルメニア人占領地域から追放されたアゼルバイジャン人は、アゼルバイジャン各地で国内避難民としてキャンプ暮らしを強いられている[11]

政治[編集]

ナゴルノ・カラバフ共和国は、その憲法において自身を、民主主義[12]大統領制[13]に基づく国家と規定している。大統領[14]国民議会ロシア語版[15]の任期はともに5年間。議会は比例代表制による定員33名で[16]、年に2回招集される[17]首相英語版は議会の承認に基いて大統領が指名・任命する[18]。大統領選挙、議会選挙や地方自治体選挙は直接選挙にて実施される[19]普通選挙権[19]は23歳以上の、過去5年に渡って国民であり、恒常的に国内に居住する者に対して与えられている[20]

2015年10月現在、大統領にはバコ・サハキャン[21]が、首相にはアライク・ハルチュニャン英語版[22]が就任している。

公用語アルメニア語であり[23]首都ステパナケルトである[24]アルメニア教会は自国の文化的発展やアイデンティティにおいて重要な存在と認識されてはいるが、政治には関与しないものとされている[25]

司法は三審制をとり[26]死刑制度は存在しない[27]。国民には、納税[28]兵役[29]、そして歴史的・文化的建造物を保護する義務[30]が課せられている。

ナゴルノ・カラバフ国防軍は、ナゴルノ・カラバフ戦争中の1992年4月に発足した自衛委員会を前身として、1995年に設立された[31]

ナゴルノ・カラバフ共和国はアルメニア、アゼルバイジャン、イランの3か国と国境を接するが、アゼルバイジャンとイランとの国境は封鎖されているため、通常はアルメニア側国境からのみ入国が可能となっている[32]。また、アゼルバイジャン側はナゴルノ・カラバフ共和国の正当性を認めていないため、ナゴルノ・カラバフ共和国への「入国」履歴がある者は、以降アゼルバイジャンへの入国を拒否される場合がある[33]

外交[編集]

アブハジア南オセチア沿ドニエストル以外に独立を承認している国はない[34]。どれも一部・未承認国家である。この3か国とは民主主義と民族の権利のための共同体を結成している。

地方行政区分[編集]

行政区画は、首都であるステパナケルトに加え、以下の7地区に分けられている[16]。さらに下位には10町と322村が存在する[16]

ステパナケルトを除いた行政区画。縞の部分は旧自治州に含まれない領域であり、さらに横縞部分はアゼルバイジャン人の支配下にある領域。
地図上 名称 人口
(2013年1月)
面積[35]
(km²)
主都[36]
ステパナケルト 54,500[35]
(2014年1月)
29.12
1 シャフミアン地区ロシア語版 3,521[37] 1,829.89 カルバチャルロシア語版
2 マルタケルト地区ロシア語版 20,185[38] 1,795.07 マルタケルトロシア語版
3 アスケラン地区ロシア語版 18,251[39] 1,191.41 アスケランロシア語版
4 マルトゥニ地区ロシア語版 23,888[40] 951.16 マルトゥニロシア語版
5 ハドルト地区ロシア語版 13,163[41] 1,876.76 ハドルトロシア語版
6 シュシー地区ロシア語版 5,599[42] 382.73 シュシーロシア語版
7 カシャタグ地区ロシア語版 9,656[43] 3,376.57 ベルゾルロシア語版

地理[編集]

ナゴルノ・カラバフ共和国の主張する自国領は、1万1430平方キロメートルとなっている[44](政府は、このうち100平方キロメートルはアゼルバイジャン軍の「占領下」にあるとしている[45])。国土は一般に急峻な山岳地帯で、西部から東部に向かって低くなってゆく[46]。国内最高峰のムロヴ山ロシア語版は3723メートルで、国土全域の平均標高は1097メートルである[46]

気候は穏やかな亜熱帯性で、年間平均気温は摂氏11度[46]。月別最高平均気温は7-8月の摂氏21-22度であり、最低気温は1-2月の摂氏マイナス1-0度である[46]

経済[編集]

通貨はアルメニア・ドラムを使用している[2](名目上はナゴルノ・カラバフ・ドラム英語版も存在するが、アルメニア・ドラムと等価な上実際にはほとんど用いられていない)。2015年上半期の国内総生産は835億ドラムであり、人口当たりで55万8600ドラム(11万7140ドル)となっている[47]。2013年の産業別労働人口は、農業が27.1パーセント、教育・文化・芸術分野が17.7パーセント、マネジメント・防衛分野が15.6パーセント、工業が10.1パーセント、通商分野が8.1パーセントとなっている[48]。同じく2013年の労働人口は6万5000人で、失業人口は2600人となっている[49]

2014年の時点で、国土の51.9パーセントは農地として利用されており、その63.5パーセントが牧草地となっている[50]。40.5パーセントを占める森林も林業資源として利用されている[51]。農業は、なかでも葡萄の生産が盛んで、2500エーカーの葡萄畑から年に3250トンが産出されている[52]

2013年の工業生産の内訳は、手工業が43.2パーセント、31.1パーセントがインフラ事業、25.7パーセントが鉱業となっており、さらに手工業の内訳では食品・飲料品産業が69.4パーセントにのぼる[53]。その他に重要な工業として、木工、エレクトロニクス、宝石加工がある[54]。また、工業生産の48.4パーセントが首都のステパナケルトに集中しており、次いでマルタケルト地区が28.4パーセントを製造している[53]サルサング貯水池英語版の水力発電所は国内最大の電力源であり、年に9-10億キロワットの発電を行っている[55]

国民[編集]

2013年末の統計で人口は14万8100人であり[44]、その95パーセントをアルメニア人が占める[2]。同様に、人口の95パーセントはアルメニア教会の信徒である[2]。2005年の調査では、総人口13万7737人のうちアルメニア人13万7380人、ロシア人171人、ギリシャ人22人、ウクライナ人21人、グルジア人12人、アゼルバイジャン人6人、その他125人となっている[56]

2013年の出生率は1.6パーセント、死亡率は0.91パーセントであり、人口成長は0.69パーセントのプラスである[57]。平均寿命は男性が71.0歳、女性が76.0歳で、両性合わせて73.5歳である[58]。2013年に報告された犯罪件数は446件であるが、そのうち80件は薬物事犯であった[59]

文化[編集]

教育[編集]

義務教育は6歳から18歳までと定められており[60]、2005年の時点で国内には約400校の義務教育機関が存在する[61]。大学校は9校存在し、アルツァフ大学はそのうちで唯一の国立大学である[60]。その他にも、アルメニアの私立大学からの分校がいくつか設置されている[62]。また、国民の大多数はロシア語を流暢に話すことができる[63]

教育機関の拡充には、アルメニア人ディアスポラの慈善家や、アメリカ・アルメニア福音教会ロシア語版、アルメニア救済協会などの援助が役立ったという[64]

祝祭日[編集]

ナゴルノ・カラバフ共和国では、以下の9日間に加え、新年とクリスマスが祝われる12月31日から1月6日に渡っても、国民の休日が設けられている[65]

日付 日本語表記 現地語表記
1月7日 万霊節 Մեռելոց հիշատակի օր
3月8日 国際女性デー Կանանց միջազգային օր
4月7日 母性と美の日 (en) Մայրության եւ գեղեցկության տոն
4月24日 アルメニア人虐殺追悼の日フランス語版 Ցեղասպանության զոհերի հիշատակի օր
5月1日 メーデー Աշխատավորների համերաշխության միջազգային օր
5月9日 戦勝、ナゴルノ・カラバフ国防軍とシュシー解放英語版記念日 Հաղթանակի տոն, Լեռնային Ղարաբաղի Հանրապետության պաշտպանության բանակի եւ Շուշիի ազատագրման օր
5月28日 アルメニア第一共和国の日 Հայաստանի Առաջին Հանրապետության օր
9月2日 ナゴルノ・カラバフ共和国の日 Լեռնային Ղարաբաղի Հանրապետության օր
12月10日 独立に関する国民投票と憲法の日 Լեռնային Ղարաբաղի Հանրապետության պետական անկախության մասին հանրաքվեի և Սահմանադրության օր

脚注[編集]

  1. ^ State Symbols of the Nagorno Karabakh Republic”. Nagorno Karabakh Republic Office in Washington, DC. 2015年10月9日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g General Information”. Official website of the President of the Nagorno Karabagh Republic. 2015年10月9日閲覧。
  3. ^ 憲法第1条
  4. ^ Ընդհանուր տեղեկություններ”. Լեռնային Ղարաբաղի Հանրապետության Նախագահի պաշտոնական կայք. 2015年10月9日閲覧。
  5. ^ Общая информация”. Официальный сайт Президента Нагорно-Карабахской Республики. 2015年10月9日閲覧。
  6. ^ a b c 佐藤信夫編著 『ナゴルノ・カラバフ - ソ連邦の民族問題とアルメニア』 泰流社1989年(原著1988年)、28-29頁。ISBN 978-4884706975。
  7. ^ de Wall (2003) p.149
  8. ^ de Wall (2003) p.161
  9. ^ a b c The History of Formation”. Official website of the President of the Nagorno Karabagh Republic. 2015年10月10日閲覧。
  10. ^ de Wall (2003) p.162
  11. ^ a b 廣瀬陽子 『旧ソ連地域と紛争 - 石油・民族・テロをめぐる地政学』 慶應義塾大学出版会2005年、172頁。ISBN 978-4766411928。
  12. ^ 憲法第3条
  13. ^ 憲法第61条
  14. ^ 憲法第62条
  15. ^ 憲法第77条
  16. ^ a b c State Power”. Official website of the President of the Nagorno Karabagh Republic. 2015年10月9日閲覧。
  17. ^ 憲法第85条
  18. ^ 憲法第100条
  19. ^ a b 憲法第4条
  20. ^ 憲法第78条
  21. ^ Biography”. Official website of the President of the Nagorno Karabagh Republic. 2015年10月9日閲覧。
  22. ^ Prime Minister: Biography”. Government of NKR. 2015年10月9日閲覧。
  23. ^ 憲法第16条
  24. ^ 憲法第17条
  25. ^ 憲法第10条
  26. ^ 憲法第109条
  27. ^ 憲法第18条
  28. ^ 憲法第56条
  29. ^ 憲法第57条
  30. ^ 憲法第58条
  31. ^ NKR Office in Washington, DC (2005) pp.7, 24
  32. ^ Getting There”. Karabakh Travel. 2015年10月10日閲覧。
  33. ^ Информация для посещающих Азербайджанскую Республику”. Генеральное консульство Азербайджанской Республики в Санкт-Петербурге. 2015年10月10日閲覧。
  34. ^ Новости Армении” (ロシア語). ARARAT ONLINE. 2015年10月11日閲覧。
  35. ^ a b The National Statistical Service of NKR (2014) p.24
  36. ^ The National Statistical Service of NKR (2014) pp.36-37
  37. ^ Shahumyan region”. Government of NKR. 2015年10月9日閲覧。
  38. ^ Martakert region”. Government of NKR. 2015年10月9日閲覧。
  39. ^ Askeran region”. Government of NKR. 2015年10月9日閲覧。
  40. ^ Martuni region”. Government of NKR. 2015年10月9日閲覧。
  41. ^ Hadrut region”. Government of NKR. 2015年10月9日閲覧。
  42. ^ Shushi region”. Government of NKR. 2015年10月9日閲覧。
  43. ^ Kashatag region”. Government of NKR. 2015年10月9日閲覧。
  44. ^ a b The National Statistical Service of NKR (2014) p.23
  45. ^ NKR Office in Washington, DC (2005) p.10
  46. ^ a b c d Geographic Location, Climate, Natural Resources and Wildlife of the Nagorno Karabakh Republic”. Nagorno Karabakh Republic Office in Washington, DC. 2015年10月9日閲覧。
  47. ^ “Nagorno-Karabakh GDP Grows by 7.4 Percent in Six Months”. ARKA. Asbarez. (2015年8月21日). http://asbarez.com/138981/nagorno-karabakh-gdp-grows-by-7-4-percent-in-six-months/ 2015年10月9日閲覧。 
  48. ^ The National Statistical Service of NKR (2014) p.56
  49. ^ The National Statistical Service of NKR (2014) p.63
  50. ^ The National Statistical Service of NKR (2014) pp.134, 182
  51. ^ The National Statistical Service of NKR (2014) p.134
  52. ^ Agriculture”. Nagorno Karabakh Republic Office in Washington, DC. 2015年10月10日閲覧。
  53. ^ a b The National Statistical Service of NKR (2014) pp.178-179
  54. ^ Industry”. Nagorno Karabakh Republic Office in Washington, DC. 2015年10月10日閲覧。
  55. ^ Energy Production”. Nagorno Karabakh Republic Office in Washington, DC. 2015年10月10日閲覧。
  56. ^ Tabel 5.1: De Jure Population (Urban, Rural) by Age and Ethnicity (PDF). The Results of 2005 Census of te Nagorno-Karabakh Republic (Figures of the Nagorno-Karabakh Republic) (The National Statistical Service of Nagorno-Karabakh Republic). http://census.stat-nkr.am/nkr/5-1.pdf. 
  57. ^ The National Statistical Service of NKR (2014) p.32
  58. ^ The National Statistical Service of NKR (2014) p.40
  59. ^ The National Statistical Service of NKR (2014) p.131
  60. ^ a b Education”. Nagorno Karabakh Republic Office in Washington, DC. 2015年10月9日閲覧。
  61. ^ NKR Office in Washington, DC (2005) p.35
  62. ^ NKR Office in Washington, DC (2005) p.36
  63. ^ Languages”. Karabakh Travel. 2015年10月10日閲覧。
  64. ^ NKR Office in Washington, DC (2005) p.35
  65. ^ ԼՂՀ տոներ և հիշատակի օրեր”. Լեռնային Ղարաբաղի Հանրապետության Նախագահի պաշտոնական կայք. 2015年10月9日閲覧。

参考文献[編集]