利益相反行為

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利益相反行為 (りえきそうはんこうい)とは、ある行為により、一方の利益になると同時に、他方への不利益になる行為である。

略語としてCOI(conflict of interestの略)が用いられることもある[1]

概説[編集]

利益相反とは、政治家、企業経営者、弁護士、医療関係者、研究者などのように、信託を得て職務を行う地位にある人物において、立場上追求すべき利益・目的(利害関心)と、他に有している立場としての、あるいは個人としての利益(利害関心)とが競合・相反している状態をいう。

このように利益が衝突している場合、地位が要求する義務を果たすのは難しくなる。利益相反は、そこから非倫理的もしくは不適切な行為が行われなくても存在する。利益相反は、本人やその地位に対する信頼を損なう不適切な様相を引き起こすことがある。

利益相反行為は一定の範囲内において不法なものであるとされ、法律でも規制の対象になっている。

また、法律上は規制の対象となっていなくても倫理上問題となる場合もある。

フランスの研究チームが米オンライン科学誌プロスワン(PLOS ONE)に発表した研究結果によると、バチルス・チューリンゲンシスに対する耐性をもつ遺伝子組み換えを行った作物の有用性と永続性に関する論文672本のうち、研究者と遺伝子組み換え作物関連企業の間に金銭的な利益相反の有無が明確に分かる論文は579本、うち利益相反がなかった論文は350本、利益相反があった論文は229本で全体の約40%の論文に利益相反の関係が認められた[1]。さらに遺伝子組み換え作物の関連企業にとって都合の良い結論を出していた論文の割合も、利益相反の関係が認められなかった論文では36%だったのに対し、利益相反の関係が認められた論文では54%だった[1]

日本における利益相反行為の規制[編集]

民法上の利益相反行為[編集]

代理人の利益相反行為[編集]

民法第108条(自己契約・双方代理)
同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
自己契約・双方代理を参照のこと。

親権者・後見人の利益相反行為[編集]

民法第826条 (利益相反行為)
1 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
民法第860条 (利益相反行為)
第826条の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。

たとえば、法定代理人(親権者、成年後見人など)と制限行為能力者との間で利益の相反する行為について、その法定代理人には代理権はなく、その行為をなすにあたっては、家庭裁判所に対して特別代理人、臨時保佐人など第三者の選任を請求をしなければならない。これをせずに代理人が直接行った利益相反行為は、無権代理となる。ただし、後見監督人などの第三者がいる場合はこれを要しない。

利益相反行為の場合、その法定代理人が正常な判断からではなく自己の利益の絡んだ判断をしてしまう恐れがあるので、第三者が公平な判断をするべきだからである。

利益相反行為の有無についての判断基準として、判例は外形説を採る。これは、行為の外形のみを客観的に判断し、「制限行為能力者の財産を減少させて法定代理人または第三者の財産を増加させる行為」を一般的に利益相反行為として扱うものである。しかしこの判断基準を用いると、「増加した法定代理人の財産が結果的に制限行為能力者のために使われる場合(具体的には、子どものお年玉を親が取り上げ、親名義で預金した後、その子どもの学費として使う場合などが挙げられる。)」も利益相反行為として扱われるため、学説からは批判もある。

なお、外形説によって利益相反行為と認められなかった行為においても、当該行為が制限行為能力者の利益を無視して法定代理人または第三者の利益を図ることのみを目的として行われた場合など、法定代理人に代理権を与えた法の趣旨に反すると認められるような特段の事情がある場合には、当該行為は代理権濫用として、その効果は本人(制限行為能力者)には帰属しない。

具体例
第三者の金銭債務について、親権者がみずから連帯保証をするとともに、子の代理人として、同一債務について連帯保証をし、かつ、親権者と子が共有する不動産について抵当権を設定すること(最高裁判例 昭和43年10月08日)。

法人における利益相反行為[編集]

法人においては、以下のような行為が利益相反行為とされ、社団法人財団法人理事や役員、株式会社取締役執行役持分会社業務執行社員等(以下、「理事等」という)がこれらの行為をすることは、法人と理事等の利益が相反する可能性があるため、各法令で規制されている。

競業行為

理事等が、自己または第三者のために、法人の事業の部類に属する取引をすること。

利益相反取引

  • 直接取引
理事等が自己または第三者のために法人と取引をすること。このうち、自己のためにする場合を自己取引という。
理事等が法人に物を売るような場合などで、理事等の利益(高いほうが利益)と法人の利益(安いほうが利益)が相反する。
  • 間接取引
理事等が自己または第三者のために、理事以外の者との間において、法人と理事等の利益が相反する取引をすること。この場合、法人側を代表する理事等は、利益が相反する理事自身でなくても該当する。
理事等の債務に対する法人の保証が典型例で、保証契約自体は第三者である債権者と保証人である法人との取引であるが、保証されることで債務者である理事等の利益となり、実質的には理事等の利益(保証してもらう利益)と会社の利益(保証の負担が無いほうが利益)が相反する。

理事等が、法人との競業行為や直接または間接の利益相反取引を行う場合は、一般社団法人においては社員総会または理事会、一般財団法人においては理事会、株式会社においては株主総会または取締役会、持分会社においては他の社員全員(競業取引)または過半数(利益相反取引)の承認を得なければならない(一般法人法84条197条会社法356条365条419条2項594条595条)。また、学校法人NPO法人医療法人では、法人と理事の利益が相反する事項に関して理事は代理権を有しておらず、この場合、所轄庁や都道府県知事が特別代理人を選任しなければならない(私立学校法第40条の4、特定非営利活動促進法第17条の4、医療法第46条の4)。その他の法人に関しても、これらと同様の制限が存在する。

理事等の法人に対する損害賠償責任[編集]

  • 承認を得ないで行われた利益相反取引によって法人に損害が生じたときは、任務懈怠があったとして、理事等は法人が負った損害について賠償責任を負う。(一般法人法111条第1項、会社法第423条第1項)
  • 承認を得て行われた利益相反取引によって法人に損害が生じたときは、自ら取引を行った理事等のみならず、承認の決議に賛成した理事等もその任務を怠ったものと推定される。(一般法人法111条第3項、会社法第423条第3項)
  • 直接取引のうち、自己のために行った取引(自己取引)については、任務懈怠につき帰責事由がなくても、理事等は責任を免れることができない。(一般法人法116条、会社法第428条

カナダにおける利益相反行為の規制[編集]

利益相反法[編集]

カナダでは利益相反法が制定されており、公職者が贈答品を受け取ることや公職者に対する旅行の無償提供などは利益相反行為の禁止に抵触する[2]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 遺伝子組み換え作物関連論文の40%に利益相反、仏研究 AFP、2016年12月17日
  2. ^ カナダのトルドー首相、バハマの豪勢な休暇を倫理委が調査 AFP、2017年1月17日

関連項目[編集]