夫婦別姓

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夫婦別姓(ふうふべっせい)とは、夫婦結婚後もそれぞれのを名乗ることである[1]。日本法では「」ではなく「」が用いられているため法的には「夫婦別氏」(ふうふべっし)という[2]。夫婦別姓と夫婦同姓を選択できる制度を、「選択的夫婦別姓」(せんたくてきふうふべっせい)、法的には「選択的夫婦別氏」(せんたくてきふうふべっし)と呼ぶ[2][3][注 1]

一方、婚姻時に両者の名字(氏)を統一する婚姻および家族形態、またはその制度のことを「夫婦同姓」(ふうふどうせい)、法的には「夫婦同氏」(ふうふどうし)という。日本の民法750条では夫婦同氏が原則である(夫婦同氏の原則)。

世界の状況[編集]

に関する法制度は、社会構造の変遷によって従来の血縁集団ではなく夫婦間に構成される生活共同体が重要性をもつようになり、その生活共同体に共通する呼称を氏という形で示すようになったものと考えられている[誰?][5]

ドイツでは、民法制定時は婚氏統一(夫婦同氏)であり、オーストリアスイスインドタイ、そして日本もこのゲルマン法グループに属するとされる[6]。しかしながら、ドイツの民法が1993年に改正される[7]などした結果、2014年現在は、法的に夫婦同姓を強制している国家は日本のみとなっている[8][9][9][10][11][注 2]

国連女子差別撤廃委員会の勧告[編集]

日本を含む130カ国の賛成で、国際連合1979年に採択された「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」では、選択的夫婦別氏の導入が要求されている[8][15][16][17][18][19]

国際連合女子差別撤廃委員会は、2003年、2009年、2016年の勧告で、日本の民法が定める夫婦同姓を「差別的な規定」と批判し、「本条約の批准による締約国の義務は、世論調査の結果のみに依拠するのではなく、本条約は締約国の国内法体制の一部であることから、本条約の規定に沿うように国内法を整備するという義務に基づくべき」(2009年)、「過去の勧告が十分に実行されていない」「実際には女性に夫の姓を強制している」(2016年)と勧告した[20][8]

2003年8月の勧告では、委員会は婚姻最低年齢、離婚届後の女性の再婚禁止期間の男女差、非嫡出子の扱いと共に「夫婦の氏の選択などに関する、差別的な法規定を依然として含んでいることに懸念を表明する」と日本に勧告した[21]日本国政府は2008年4月に選択的夫婦別氏制度について、国民の議論が深まるよう努めていると報告したが[22]2009年8月に再度、委員会は前回の勧告にもかかわらず、差別的な法規定が撤廃されていないことについて懸念を有すると勧告する[23]

日本国政府は、2014年8月に報告書を提出したが[24]、2016年に委員会は再度、勧告が十分に実行されていないと勧告した[25][26]

日本経済新聞は、批准から30年経っても、まだ夫婦同姓を強制している日本の異様さは、国際的にも非難の対象となるとした[27]。国連女性事務局長のプムジレ・ムランボヌクカは、日本の夫婦別姓を認めない規定について、「男女の平等を確かなものにするため、選択肢を持たなければならない。」と述べている[28]。その他、米国務省による世界199カ国・地域の人権状況に関する年次報告書(2015年版)においても、日本の夫婦別姓を認めない民法規定が言及されている[29]

各国の状況[編集]

東アジア[編集]

日本の旗 日本
同氏制[30]1898年明治31年)に施行された明治民法により「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」(民法750条)と規定されて以来、夫婦同氏が原則である。それ以前は夫婦別氏が原則であった(明治9年太政官指令)。なお、国際結婚の場合は、夫婦同氏・別氏を選択することが可能である。夫婦同氏を強制する国家は現在、日本のみである[8][9][10][11]
中華人民共和国の旗 中華人民共和国
1950年の婚姻法(1980年改正)において男女平等の観点から「自己の姓名を使用する権利」が認められ、夫婦双方が自己の姓名を用いることができる。これは相手方の家族の成員になった場合でも妨げられない。また夫婦自らの意志で夫婦同姓や複合姓(冠姓)を用いることもできる[31][32][33][34]。子供の姓は1980年婚姻法において両親のいずれかから選択することになり、2001年改正でより夫婦平等な文言になったが、漢民族の伝統によりほとんどの場合父の姓が使われる[35]
中華民国の旗 中華民国台湾
選択できるが、別姓が多い。1985年民法において、冠姓が義務づけられていたが、当事者が別段の取り決めをした場合はその取り決めに従うとされていた[36]。その後1998年の改正で、原則として本姓をそのまま使用し、冠姓にすることもできると改められた。職場では以前から冠姓せず本姓を使用することが多かったという[37]。子供の姓は、原則的に父系の姓が適用されていた(入夫の場合は逆)が、1985年の改正で、母に兄弟がない場合は母の姓にすることもできるようになった。この結果、兄弟別姓が可能である[37]。これも男女平等原則の違反とされ、2008年戸籍法改正で父の姓か母の姓か両親が子供の姓を合意し、両方の署名を入れ役所に提出することとなった。合意に至らない場合は役所が抽選で決める[38]
韓国の旗 韓国
各自の氏を称する[30]。子に関しては、原則的に父親の姓を名乗っていたが、2005年改正により、子は、父母が婚姻届出の時に協議した場合には母の姓に従うこともできるようになった[39][40]。なお、古代の律令制導入以来からあった、日本と同様の戸籍制度は、2008年血統主義に立脚した正当な理由のない制度であるとして廃止されている[41]

南アジア・東南アジア[編集]

インドの旗 インド
地域・宗教によって様々な習慣があり、ヒンズー教徒は夫婦同姓とするとされている[20]。平成13年の男女共同参画会議基本問題専門調査会ではインドは「同氏制」とされ、妻は夫の氏を称すると報告された[30]。しかし、K.B. Agrawalによれば、氏名を自由に変更することが可能で、結婚時の姓に関する厳密な法律的な規定は存在しない[42]。なお、マハーラーシュトラ州では婚前の姓を名乗ってよいことが2011年に明文化された[43]
タイ王国の旗 タイ
1913年の個人姓名法により国民全員が名字(姓)を持つことが義務化された。同12条では妻は夫の姓を用いると定められていたが2003年にタイの憲法裁判所は「夫の姓を名乗るとする条項は違憲である」との判決[44]を出し、2005年に同12条が改正された。現行の同12条では夫婦の姓は合意によりいずれの姓を選ぶことができ、またそれぞれの旧姓を選ぶことも可能となった[45]
フィリピンの旗 フィリピン
法律では、結婚時に女性側は、自分の姓を用い続け相手の姓をミドルネームとして加えるか、相手の姓を用いるか、相手のフルネームにMrs.をつけるか、を選ぶことが可能、とされていたが、2010年に、裁判所は、女性の権利を守る観点から、これらに加えて、相手の姓を用いず自分の姓のみを用い続けることも可能、との判断を下した[46]
ミャンマーの旗 ミャンマー
ミャンマーは基本的に姓が存在せず、アウン・サン・スー・チーはアウン・サン(父の名前)・スー(父方の祖母の名前)・チー(母の名前)と自由につけた姓である[47]
ベトナムの旗 ベトナム
ベトナム社会主義共和国では、完全な夫婦別姓である。子供の名前を付ける時は、ミドルネームに当たる部分に、父親か母親の名前を入れることが一般的であるが、キン族以外の少数民族では例外もあり、正式名称がとても長くなる場合もある。そのため、苗字ではなく最後に付けられた名前を呼び合うのが、ベトナムでの習慣である。

南北アメリカ・オセアニア[編集]

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
環境・社会問題研究者の田中めぐみによると、アメリカ合衆国では州ごとに制度が分かれており、別姓の他にミドルネームなど概ね5つの選択肢が与えられているものの、女性の67%が夫の姓を選択しており、子供にも夫の姓を付ける夫婦が多いという[48]。また、両親の離婚を経験した女性たちには、自身の結婚の際に夫と同姓になることを選択する傾向が増えている[48]
ジャマイカの旗 ジャマイカ
慣習では夫婦は同姓である[20]が、法で規定されているわけではないため、姓を変更せずに結婚することもできる[49]
ニュージーランドの旗 ニュージーランド
伝統的には男性の姓を名乗ることが多いが、法的には、別姓、結合姓、同姓いずれも可能である[50]
オーストラリアの旗 オーストラリア
別姓、結合姓、同姓いずれも可能である。さらに、氏名の変更も比較的容易に可能である[51]

西ヨーロッパ[編集]

イギリスの旗 イギリス
不当な目的でない限りで自由に氏を選択できるが、妻が夫の氏を称するのが通例[30]
フランスの旗 フランス
法的には規定がない。近代化に伴い、人民管理が容易となる「氏名不変の原則」が唱えられるようになり(それまでは明治以前の日本と同様、随時、氏を変えることは禁止されていなかった)、婚姻によって姓が強制的に変わるという規定はなく、妻には夫の姓を名乗る選択肢が与えられている[52][53]。また、父母が別姓の場合には、子どもの姓は父か母の姓を選ぶことができる[54]
ドイツの旗 ドイツ
1993年の民法改正で[7]、夫婦の姓を定めない場合は別姓になるという形で選択的夫婦別姓となった。子供に関しては、親権が父母それぞれにある場合には、どちらの姓とすることも可能であるが、子供一人ごとに姓を変えることはできない。婚姻で姓を変更して後離婚・死別した場合には、旧姓に戻す選択肢の他、旧姓を婚氏に加える二重氏を選択することもできる(ドイツ民法1355条)。
オーストリアの旗 オーストリア
2013年までは、原則として夫または妻の氏(その決定がない場合は夫の氏)を称する(同氏)。自己の氏を後置することもできる[30]、とされていたが、2013年4月以降、婚前に特に手続きしないかぎり原則として婚前の氏を保持する、と変更された[55][56]。夫の氏に変更、あるいは複合姓を選択するためにはそのように婚姻前に手続きを行わなければならない[56]
スイスの旗 スイス
2013年以前は、夫の氏が優先。正当な利益があれば、妻の氏を称することもできる(同氏)。自己の氏を前置することもできる[30]、とされていたが、2013年以降、婚前に特に手続きしないかぎり原則として婚前の氏を保持する、と変更された。配偶者の氏に変更、あるいは複合姓を選択するためにはそのように婚姻前に手続きを行わなければならない[57]
オランダの旗 オランダ
夫の氏は不変。妻は夫の姓(同姓)または自己の姓(別姓)を称する。妻は自己の姓を後置することもできる[30]
イタリアの旗 イタリア
1975年までは、婚姻時に妻が夫の姓に改姓する、という民法の規定が存在していた[注 3]が、1975年に民法が改正され、それ以後は別姓および結合姓が認められている[59]。子の姓に関しては法的な規定はないが、これまで慣習法として父親の姓としていた。これに対し、母親の姓を子の姓として選択できるようにするべき、との判決が2014年に欧州人権裁判所において出され[60]、2015年現在、法改正へ向けて動いている[61]。なお、イタリアは極めて離婚が少ない国として知られている[62]
スペインの旗 スペイン
個人の名は、一般的には「名、父方の祖父の姓、母方の祖父の姓」であるが、1999年に「名、母方の祖父の姓、父方の祖父の姓」でもよい、と法律が改正された。婚姻によって名前を変える必要はないが、女性はその他の選択肢として「de+相手の父方の姓」を後置する、「母方の祖父の姓」を「相手の父方の姓」に置き換える、「母方の祖父の姓」を「de+相手の父方の姓」に置き換える、などの選択が可能である[63]
ポルトガルの旗 ポルトガル
2011年の時点では、既婚女性の60%が婚前の姓をそのまま用いている[64][65]

北ヨーロッパ[編集]

スウェーデンの旗 スウェーデン
選択制で、夫婦同氏もしくは別氏、自己の氏または相手の氏を中間氏とすることもできる(1983年氏名法)[30]

東ヨーロッパ[編集]

ロシアの旗 ロシア
1995年家族法典では同姓、別姓、結合姓が選択できる(第32条1項)[66]。また、14歳以上であれば、姓も名前も父称(ミドルネーム)も自分の意思で変更可能である[67]
ポーランドの旗 ポーランド
婚姻後の姓はどちらかの姓に統一しても良いし(同姓)、変えなくても良い(別姓)し、婚姻前の自分の姓の後に結婚相手の姓をつなげても良い(別姓、複合姓)[68]。ただし複合姓にする場合、3つ以上の姓をつなげてはいけない[69](1964年)。

中東[編集]

トルコの旗 トルコ
2001年の法改正により女性の複合姓も認められた[70]。さらに、2014年には、最高裁において婚前の姓のみを名乗ることを認めないことは憲法違反、と判決が下された[71]

論評[編集]

  • 選択的夫婦別姓制度導入に反対している日本政策研究センターが発行する月刊誌『明日への選択』編集長の岡田邦宏は、ヨーロッパ諸国においては、日本では可能な夫が妻の姓を名乗ることが可能な制度はほとんど[どこ?]見られない[72]、と主張している。
  • フランスの状況について、選択的夫婦別姓制度導入に反対している日本政策研究センターの岡田邦宏はフランスでも妻が夫の姓を名乗るという慣習法が前提であると主張している[72]。日本政策研究センターや浅野素女は、選択的夫婦別姓を導入しているフランスでは家族の個人主義を追求するあまり、家制度による拘束の拒絶どころか「結婚という制度それ自体が拘束ではないか」と考える男女が出始め、彼らはそれゆえに結婚という制度を拒否してあえて「事実婚」という共同生活の形態をとっており、婚外子が日本よりも圧倒的に多くなっている[73][74]と主張している。
  • ドイツの状況について、選択的夫婦別姓制度導入に反対している日本政策研究センターの岡田邦宏は、改正後も基本的な考え方は夫婦同姓原則で、合意ができない場合にのみ夫婦別姓を例外として認めるものであると主張している[72]産経新聞によると、ドイツでは8割の女性が夫の姓を選択しているとされる[75]
  • スウェーデンの状況について、選択的夫婦別姓制度導入に反対している日本政策研究センターの岡田邦宏や加藤彰彦は、1983年に法改正をして同姓制度から選択的夫婦別姓を導入したスウェーデンでは当時事実婚が急増しており、同姓と別姓が混在していたため、子供たちを守るために社会の実態を追認する形で選択的夫婦別姓という法制度を整備されたが、法律婚と事実婚の差が曖昧になったことから、さらに事実婚、婚外子、複合家族、欠陥家族を発生源とした青少年犯罪を増加に拍車をかけて結果的に家族崩壊をもたらしたため、現在スウェーデンでは再家族化の動きが出てきている[72][76]、と2002年に主張している。
  • 韓国の状況について、選択的夫婦別姓制度に反対している櫻井よしこは、夫婦別姓である韓国では結婚後も女性は旧姓を名乗るが、女性運動が華やかだった1960~70年代に、韓国の事例は女性蔑視の例として語られ、女性を差別するがゆえに夫と同じ姓を名乗らせず、族譜(家系図)にも載せないのだと批判されてきた[77]、と主張している。

日本の夫婦姓の歴史[編集]

中国朝鮮明治以前の日本など儒教的な文化が強い文化圏では、父の氏の変更を伴う夫婦同姓は認められず[5]、また血縁意識が強いために夫婦別氏が原則だったといわれる[78][79][80]

飛鳥時代 - 平安時代初中期[編集]

」(うぢ、うじ)・「氏名」(うじな)と「」(かばね)があった。「藤原」が氏であり「朝臣」が姓である。大宝2年(702年)御野国加毛郡半布里戸籍、同年豊前国仲津郡丁里戸籍、養老5年(721年)下総国葛飾郡大嶋郷戸籍、延喜2年(902年)阿波国板野郡田上郷戸籍等には夫婦同氏と別氏が見られるが、寛弘元年(1004年)讃岐国入野郷戸籍・同年国郡未詳戸籍では19夫婦の全てが同氏となっている。日本には「同姓不婚」の習慣はなく、養老令の戸令にも改姓規定がないため、この同氏は同族婚とする見方がある[81]。この時期、女性名には「刀自売(とじめ)」「二子」「定子」「犬子」などの型があった[82]。但し嵯峨天皇期(809-823年)には下の名前の唐風化が行われ、「童名(わらわな)」(つまり幼名)と「諱(いみな)=実名(じつみょう)」(つまり成人名)の区別、男性の実名に「嘉字」(縁起のよい字)と「系字」が導入された。系字とは同一世代の男性に同じ一字を共有するもので、「正良」「秀良」「業良」のようなものである。これは父系親族組織内の世代序列を示すもので、「輩字」ともいう。女性の実名は「2音節の嘉字+子」が内親王に導入された[83]

平安後期 - 中世前期[編集]

氏姓に加え名字が発生。系字は横(同一世代)の共有字であったが、11-12世紀頃に縦(父-子)の「通字(とおりじ)」へと変化した。これは「家」の形成に伴い、家系を示すものとされる[84]。例えば桓武平氏の本流ではみな「盛」を通字として持っている。但し藤原摂関家で「忠実-忠通-基実-基通」のように「実」「通」を交互に継承した例も見られる[85]。氏姓は夫婦別氏姓であり名字は夫婦同名字である[86]。但し「北条」の子がそのまま「北条」を名乗るわけではなかった[87]。名字はその世代限りのものであり、代々継承される永続的な組織の名(家名)ではなかった[88]。鎌倉時代までは貴族・武士・庶民とも氏(姓)の使用の方が一般的であり、夫婦別氏であった[89]。下の名前は、「頼朝」のような実名・諱のほか、「犬次郎」のような仮名(けみょう)・字(あざな)・通称を持ち、同一人物が社会関係に応じて両者を使い分けた[90][91]。女性名は「刀自売」型から「鶴女」型へ移り、13世紀に比率が高まる。「二子」型は13世紀までは半分以上を占めるがやがて減少する。また「紀氏女」型が11世紀後半に現れた[82]。男性名は「源次」のように氏(姓)を含む字、「和泉大夫」「左衛門」のように国名や役職名を用いる字、「犬次郎」のような童名の字、「西念」のような法名、その他「孫太郎」のような字などがあった[86]

中世後期:名字の家名化[編集]

家産家業などを継承する永続的な「家」が成立するとともに夫婦同名字が一般化し、名字が家名となった[92][86]摂関家も夫婦別氏・同名字であった[93]。また父親の字「平三郎」が長男へ継承され続けたと思われる例が近江国菅浦(すがのうら)の文書(13世紀-16世紀)に多数見られ、そのような人名が家名化したとする説がある[86]。庶民の女性名は「紀氏女」型も「二子」型も姿を消し、「鶴女」のような童名や「兵衛女」のように「男性名+女」の型、「妙賢禅尼」のような法名を名乗った。殊に戦国期以降はかなりの割合が童名型を生涯名乗るようになった[92][86]

江戸期[編集]

庶民が氏・苗字を「名乗る」ことは禁止されたが、氏・苗字を持つ庶民も多くいた[86]芦東山の妻が夫の幽閉赦免願書に「飯塚【女へんに召】」(いいづかちょう)と生家の苗字での署名があったり、松尾家に嫁いだ妻多勢(たせ)が平田国学に入門した際の誓詞帳に「松尾佐治右衛門妻 竹村多勢子」と実家の姓名で署名する例があったり、或いは夫婦別苗字の墓標があったりする(大藤(2012)、58ページ)など、氏も苗字も実家の父方のものを名乗る例もある[94]。また妻の死後実家の墓地に「帰葬」する習慣が北陸から東北にかけて広く分布する[95]。なお「家名」として通用していたのは苗字ではなく通称(「○左右衛門」や「○兵衛」など)や屋号であったとする説がある[96]

明治大正期[編集]

  • 1870年 (明治3年)9月19日 太政官布告:平民に氏使用が許可される[97]
  • 1872年3月9日(明治5年2月1日)(戸籍法施行:壬申戸籍
  • 1872年(明治5年)5月7日 太政官布告:一人一名主義
  • 1872年(明治5年)8月24日 太政官布告:改姓・改名の禁止
  • 1875年(明治8年)2月13日 太政官布告:苗字の使用を義務化(兵籍取調の必要上といわれる)[97]
  • 1876年(明治9年)3月17日 太政官指令15号-:夫婦別氏の発令。妻の氏は実家の氏を用いるとされた[97]。夫婦別氏とする理由として太政官法制局は3つの理由を指摘。「妻は夫の身分に従うとしても、姓氏と身分は異なる」「皇后藤原氏であるのに皇后を王氏とするのはおかしい」「歴史の沿革を無視」[98]。なお、増本敏子らは、地方においては、民間普通の慣例によれば婦は夫の氏を称しその生家の氏を称する者は極めて僅かであった[99]、としている。
  • 1878年 民法草案。フランスからジョルジュ・ブスケギュスターヴ・ボアソナードを招聘し起草に当たらせ、フランス民法典(ナポレオン法典)の影響が強かったが、民法典論争によって施行されなかった[100]
  • 1880年(明治13年)1月13日 太政官指令:改名禁止の緩和
  • 1890年(明治23年) 民法草案(旧民法)が法律28号として制定されるも、実施はされず[101]
  • 1898年(明治31年) 明治民法成立:夫婦同氏の制定[97]。戸主制度(家父長制)を導入した家制度を構築し、戸籍は家を体現するものと位置づけた上で「妻ハ婚姻ニ因リテ夫ノ家ニ入ル」ことになり(明治民法788条)、日本の法制上初めて「夫婦同氏」が規定された[102]。岡田邦宏は、旧民法は家制度を導入し,夫婦の氏について直接規定を置くのではなく,夫婦ともに「家」の氏を称することを通じて同氏になるという考え方に基づく、と主張している[97][103]

昭和以降[編集]

  • 1947年(昭和22年) 改正民法成立:夫婦同氏制を維持[97][104]。戦後、明治の家制度は廃止され、それまでは戸主の同意を必要としていた婚姻も、20歳以上で両性の同意のみがあれば可能となった(日本国憲法第24条)。この時、夫婦の氏は、婚姻前の夫のものか、妻のものかのいずれかを選べるようになったが、夫婦同氏は残った(民法750条)。夫婦の一方の改氏による夫婦同氏は、届出の際に必須の形式的要件となる(民法750条、戸籍法74条1項)。
  • 1948年(昭和23年) 改正戸籍法施行:現行戸籍の開始。戸籍戸主と家族を記載するの登録から、個人の登録へと変わった。ただし戸籍の編成基準が一組の夫婦とその夫婦と氏を同じくする子(戸籍法6条)であることが明記された。

日本の選択的夫婦別姓法案[編集]

1975年に参議院に選択的夫婦別姓制度のための民法改正を求める(佐々木静子[105][106]1991年には法制審議会が「民法の婚姻・離婚制度の見直し審議」を開始した[8]。また、民法を改正し婚姻時に夫婦が同姓か別姓かを選択する「選択的夫婦別姓制度」とする民法改正案が、国会に議員立法により提出されるようになった。1996年には法制審議会が選択的夫婦別氏制度を含む「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申した[8]。また男女共同参画社会基本法の成立および男女共同参画局の設立によりその政策の中心的課題と位置づけられ、政策的にさまざまな推進策が展開されてきた。一方、これらの男女共同参画や選択的夫婦別姓制度を求める運動に対して危機感を起こした家族観における保守層が、日本会議神道政治連盟などの「ジェンダーフリー反対」「選択的夫婦別姓反対」などを掲げる「バックラッシュ」とも呼ばれる運動を起こした、とも指摘されている[107][108][109][110]。その後、この民法改正案に関していまだに決着をみていない。

1996年の法制審答申後、自民党内の選択的夫婦別姓制度を求める議員ら(野田聖子ら)は法案の国会提出を模索したが、自民党内の事前審査で合意に達することができず国会提出が見送られた。当初政府案は法制審答申の民法改正案を提案していたが抵抗が根強く、政府案は例外的夫婦別氏制度と呼称や内容を変更するも合意には達せず、さらに反対派に譲歩し(西川京子が自民党法務部会にて発言した)家裁の許可を要件とすることを盛り込んだ例外的夫婦別氏制度を議員立法で自民党法務部会に提出したが合意に至らなかった。以後、自民党内ではほぼ議論はなされないまま今日に至っている[111][112][113][114]

一方、民主党社民党共産党などは、法制審答申以来、超党派で会期ごとに民法改正案を国会に提出し続けているが、審議されないまま廃案と再提出を繰り返す状況である[115]

試案[編集]

これまで提案されてきた夫婦別姓案導入のための民法改正の試案は概ね以下の6種に分類される。これらの案は1994年の法務省民事局参事官室「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」や1996年の法制審議会答申で出された民法改正案[116]から派生したものである。

原則夫婦別姓
別姓を原則とし、同姓も認める。1994年法務省「B案」はこの趣旨である。なおこのB案では子供の姓は出生時に決定するものとする[90]
選択的夫婦別姓(子供の姓を統一しないもの)
婚姻時に夫婦同姓か夫婦別姓か自由に選択できるとし子供の姓は出生時に決め、兄弟姉妹の姓を別々にすることを認める案。夫婦同姓と夫婦別姓とを同列に扱うが同姓の場合、兄弟姉妹の姓を別々にすることを認めない。
選択的夫婦別姓(子供の姓を統一するもの)
婚姻時に夫婦同姓か夫婦別姓か自由に選択できるとするが子供の姓は婚姻時に決め、兄弟姉妹の姓を別々にすることを認めない案。夫婦同姓と夫婦別姓とを同列に扱い、両者の間に形式的にも実質的にも差別はない。1995年「婚姻制度の見直し審議に関する中間報告」[117]、1996年法制審議会で答申された民法改正案[116]は、これに相当する。但し第1子出生時に、婚姻時に決めた姓から変更可とする付則も後に検討された(2001年法務省、自民党法務部会へ提案)。
例外的夫婦別姓
夫婦別姓を望む場合には例外的に認めるとする案。夫婦同姓を原則とするがそれはほぼ形式的な差別であり、実質的には自由に夫婦別姓を選択できる。1994年法務省「A案」。2002年に法務省が提案。
家裁許可制夫婦別姓
夫婦同姓を原則とし、夫婦別姓は家庭裁判所による許可を得た上で認めるとする案。祭祀の継承や職業上の理由など、許可理由を限定する。2002年に自民党の一部の議員による「例外的に夫婦の別姓を実現させる会」が提案(提案者は本案を「例外的夫婦別姓」と称するが先に提案された上記の例外的夫婦別姓と明らかに内容が異なるため、「家裁許可制」として区別する)。
通称使用公認制
夫婦同姓の原則を堅持する代わりに、通称使用を法律で認めるとする案。1994年法務省「C案」。また夫婦別姓制度に反対する自民党の一部などの勢力による対案。:1997年に野中広務が提案した「旧姓続称制度」[118][要高次出典]、1993年に高市早苗が提案した[119]。旧姓続称制度は、配偶者の同意を得た上で届け出れば、社会生活上の全ての場面で旧姓を使うことができるようにしようというもの。離婚後も婚姻時の姓を名乗れるという「婚氏続称制度」(1976年の民法改正で採用)を参考に、野中が1997年に自民党内に提案した[118][要高次出典]

関連活動・主張・評価[編集]

各政党の姿勢[編集]

党として選択的夫婦別姓制度を支持している政党
  • 公明党:選択的夫婦別姓制度は「男女共同参画に必要な制度」[114]であり、一貫して導入に努力してきたとする[120][121]。代表の山口那津男は、2016年に「時代に応じた立法政策を決めていくのが政治の責任だ」と述べている[122][123]。参議院会長の魚住裕一郎も「国会で議論をまきおこしたい」と述べている[124]。一方で、連立政権の足並みの乱れを生じさせたくないため、自民党を積極的に説得していない、との報道(2015年12月)も見られる[124]
  • 民進党:民法改正に意欲的である[125]。2016年には、民進党を含む超党派野党4党で選択的夫婦別姓の導入を盛り込んだ民法改正案を衆議院に提出している[126][127]。また、前身の民主党は審議には至っていないものの衆参両院において法案を提出してきた[115][128][129][130][131][132][注 4]。「民主党は結党以来その必要性を訴え、過去繰り返し法案を提出してきた」としている[134]維新の党と合流前の2016年2月には、維新の党と共同で選択的夫婦別姓と再婚禁止期間短縮等を柱とする「民法の一部を改正する法律案」を共同議員立法として登録[135]、民進党へ党名変更後も、党の柱として挙げる「民進党11の提案(共生イレブン)」の中に、選択的夫婦別姓の実現を盛り込んでいる[136]。代表の岡田克也は、2015年に「結婚すれば一つの姓になるということ自身が、非常に偏った一方的な見方だ。自由な選択肢というものがあってしかるべきだ」と述べ[137]、代表代行の蓮舫は「時代の要請に応じて当然変えるべきものだ」と述べている[124]。2016年の民進党への党名変更後も、政調会長の山尾志桜里が、「再婚禁止期間、選択的夫婦別姓、婚姻年齢をパッケージとして出していく」、と述べている[125]
  • 日本共産党:審議には至っていないものの衆参両院において法案を提出してきた[138]。家族に関する法律上の差別を全面的に改正したい、としている[139][140]。委員長の志位和夫は「本当の意味での両性の平等、個人の尊厳、基本的人権の観点から認めるべきだ」と訴えている[114]
  • 社会民主党:2009年の衆議院選挙公約でも導入の実現を盛り込むなど[141]、夫婦別姓に賛成[114]
党として選択制別氏制度法案に反対あるいは積極的ではない政党
  • 自由民主党:党の姿勢として選択的夫婦別氏制度に「反対」、あるいは積極的でない(2015年時点)[114][124][19]
    • 野田聖子2002年例外的に夫婦の別姓を実現させる会を立ち上げ選択的夫婦別姓制度の導入を目指したが頓挫[111][112][113][114]。その後自民党は、野党であった2010年の党公約において反対を掲げた[142][124]。野田は党内で選択的夫婦別氏が推進されない背景に神社庁の反対があると述べている[143]。また、党の女性活躍政策に対して「女性が別姓を名乗れないことによる損失をわかっていない」と批判し[144]立法府が時代に適応した法律を作らないのは立法府の怠慢であるとしている[145]
    • 小泉純一郎首相(当時)は2004年、石井郁子の質問に対し、夫婦同氏が「男女平等に反する」という意見があるが、民法の規定は、氏のいずれを称するかを夫婦の選択にゆだねており、男女平等に反しないと答弁した[146]
    • 安倍晋三は2010年に、「夫婦別姓は家族の解体を意味する。家族の解体が最終目標であって、家族から解放されなければ人間として自由になれないという左翼的かつ共産主義ドグマだ」と述べたが[147]、2016年2月29日に衆議院予算委員会で岡田克也からこの発言の真意を質問され、「(民法750条を合憲とした)最高裁判決における指摘や国民的議論の動向を踏まえながら慎重に対応する必要がある」と回答[148][149]
    • 稲田朋美は、地元福井の女性に「夫婦別姓」を望む人はほとんどいないとし、選択的夫婦別姓運動は「一部の革新的左翼運動、秩序破壊運動」に利用されていると主張している[150]。また、別姓推進派は男女平等や女性の社会進出を掲げることが多いため、選択的夫婦別姓に反対すると「女性蔑視だとか女性を家庭に閉じ込めておこうとする古い考えの持ち主」などと批難されることを恐れ、「反対が言いにくい空気がある」ことが厄介だと主張している[150]。さらに、民主党法案では、婚姻届の提出時に生まれてくる子の姓を決めて提出せねばならず、年齢や健康上の事情により子が授からない場合にも選択させるのは人権侵害であると主張している[150]
    • 2014年に男女共同参画担当大臣であった森まさこは、自民党の野党時代における選択的夫婦別姓制度への反対は、「民主党が当時提出した法案への反対」であった、と説明した[151][152]
  • 日本のこころを大切にする党:党の運動方針として反対の立場をとっている。[153]。幹事長の中野正志は、「夫婦別姓は親子が別々の姓を名乗ることでもあることにも関わらず、夫婦別姓を求める運動では、家族が同じ姓を名乗ることを子供が望んでいることは省みられていない」と主張している。また、法改正不支持の理由として、社会に通称使用の緩和が進んでいることや、夫も妻の姓を選択できることなどを挙げている[154]
党としての賛否を表明していない政党・院内会派
  • 維新の党:2015年の党分裂後の賛否は不明だった[114]が、2016年2月に民主党と共同で選択的夫婦別姓と再婚禁止期間短縮等を柱とする「民法の一部を改正する法律案」を共同議員立法として登録している[135]。議員単位では賛成も反対もある[155]。代表の松野頼久は「どちらかといえば賛成」としている[155]。(維新の党は2016年3月に『民進党』に合流[156])
  • 生活の党と山本太郎となかまたち:党としての賛否不明。共同代表小沢一郎は、2014年に「どちらとも言えない」としたが[155]、過去に選択的夫婦別姓制度について「基本的に賛成」と回答[157]
  • 日本を元気にする会: 党としての賛否不明。代表・幹事長の松田公太は選択的夫婦別姓制度へ賛同[158]
  • 無所属クラブ:院内会派としての賛否不明。2015年の超党派野党による改正案には所属議員も参加[132]
  • 新党改革:不明
  • 沖縄社会大衆党:党としての賛否不明。委員長の糸数慶子は導入に賛成で、政府世論調査について「結婚改姓をしている女性たちは圧倒的に選択的夫婦別姓を容認している。男女とも反対は60歳以上だが、60歳以上に反対が多いから必要ないということでは、若い世代をないがしろにしていると言われても仕方がない。」とコメントした[159][160]他、この問題は国連人権委員会から勧告されている人権問題である、とも主張している[161]
  • おおさか維新の会:党としての賛否不明。同党発足時の暫定代表だった橋下徹は、選択的夫婦別姓への反対論として挙げられる「家族のきずな」について、2010年の大阪府議会において「自身は橋下、母親は東山と姓は違うが、子どもの立場で悪影響を受けたことも家族のきずなが薄まったなどということもない。姓と家族のきずなというものを簡単に同一視することには非常に危険性がある」と述べている[162]
  • 改革結集の会 :党としての賛否不明。代表の村岡敏英は2014年に「どちらかと言えば反対」としていた[155]

メディア(新聞)の論調[編集]

法案に賛成あるいは肯定的
  • 日本経済新聞は、2012年の内閣府の調査でも、法案改正についての意見は割れていると報道したうえで、選択的夫婦別姓制度には前向きな姿勢を示している[163]。また、「夫婦別姓の議論に終止符を打ってはならない」と国民的議論を喚起している[164]
  • 朝日新聞は選択的夫婦別姓制度賛成の立場をとっており[47]、2015年11月7日の社説では「個を大切にし多様な家族を認め合う寛容な社会をめざすべき」「実質的に女性が姓の変更を強いられており正当化できない」とし、「家族の一体感が損なわれるなどを理由とした」反対論は「今の時代にそぐわないのは明らかだ」としている[165]
  • 毎日新聞の小国綾子は、別姓問題の本質は「同姓・別姓のどちらが良いか」ではなく、「自由に選べる制度が良いか」「自分と違う他者の選択を容認できるか」だと述べている[166]
  • 讀賣新聞は、選択的夫婦別姓制度について、「多様な価値観に配慮を」としている[167]ほか、2015年12月16日に最高裁が下した民法の夫婦同姓規定に関する合憲判決を受けて、「家族に関する法制度に関し、議論を深めるべき時にきている」と国民的議論を喚起している[168]
  • 東京新聞は、選択的夫婦別姓問題は、普遍的な人権問題として考える必要があり、現状は女性差別撤廃条約にも反する、としている[169]
  • 沖縄タイムスは、社説において、「夫婦同姓を規定する国は日本以外にはなく、世界標準から大きく乖離している」「一見平等に見えても、女性の約96%が改姓している現実は明らかに偏っている」と指摘している[170]
  • 日本農業新聞は、同姓でなければ夫婦は破綻しやすい、夫婦間の子どもの成長に影響が出るなどということはなく、夫婦同姓の強要による弊害に目を向けるべき、多様な生き方を認める社会を、国民全体で考えるべき、としている[19]
  • 中国の日本新華僑報 (日本新華僑通信社)は、民主党政策について、「日本の伝統的な家族制度に打撃を与えることになるが、日本人に嫁ぐ中国人女性には福音だ」と報じている[171]
法案に反対あるいは否定的
  • 産経新聞は、「世界に合わせて」選択的夫婦別姓制度を訴える人々と、「日本にしかない」憲法第9条の堅持を訴える人々が同じメンバーであるとして、「不思議」であると報じている[172]。また、民法改正を求める側の主張について、「(1)結婚により夫婦の一方が姓を変更するのは多くの手続きが必要で、仕事上の連続性もなくなる (2)結婚で一方の家名がなくなる (3)姓を変えることで自分が失われてしまう気がする」の3点がみられるという、八木秀次の主張を報じている[173]。また、現代史家の秦郁彦の、「20歳代のカップルが、姓の選択をめぐって激論になったという話は聞いたことがない」し「カップルの大多数は無意識に男の姓を選んでいる」との主張を紹介している[47]

各種団体の関連活動・主張[編集]

法案支持
法案反対
  • 日本会議は、「家族の一体感が損なわれる」などとして選択的夫婦別姓制度に反対している[180]。また、関連する国会議員連盟である日本会議国会議員懇談会も、選択的夫婦別姓制度導入への反対運動を行っている[181][182]
  • 神道政治連盟は、「職業生活上で結婚前の姓を使い続けたいのであれば通称使用で十分」であるとし、通称使用を可能とする関連法の改正を行えば、選択的夫婦別氏制度の導入は不要であると主張している[183]。「祖先の祭祀」については、姓が変わった子孫が行う例は多いとし、「姓の継承とは全く別物」とした上で、選択的夫婦別氏制導入は危険だと主張している[183]
    • 1996年の法制審議会で中村敦夫は、神道政治連盟国会議員懇談会に属する議員や大臣が、その懇談会の意向を政策にしたがって選択的夫婦別氏導入に関する法案を論ずることは政教分離に反し憲法違反ではないかと質問し[184]、これに対し臼井日出男国務大臣は、「一般論として申し上げるならば、そうした各宗教団体と宗教団体のカウンターパートである議連、必ずしも考え方が一緒であるということではない、それぞれお互いの意見を交換しながらより理解を深めていく、こういう形になろうかと思います。」と答弁している[184]
  • 世界平和統一家庭連合(統一教会)は、選択的夫婦別姓が危険なものであるとしている[185]
  • 日本政策研究センターは、その情報誌「明日への選択」紙上やその出版物において、選択的夫婦別姓制度に反対する議論を数多く行っている[186]。なお、同センターを設立した同センター代表の伊藤哲夫は、日本会議の常任理事(政策委員)[187][188][189]

世論調査[編集]

政府の世論調査

1996年に選択的夫婦別氏制度を含めた法制審議会答申が出た後の政府の世論調査は設問は同じ文言になっている[190]。2001年5月の選択的夫婦別氏制度に関する世論調査によると、夫婦別姓を希望する人は7.7%であった。

内閣府が2012年12月に実施した「家族の法制に関する世論調査」によると[注 5]、「婚姻をする以上,夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり,現在の法律を改める必要はない」と答えた者の割合が36.4%、「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが、婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては、かまわない」と答えた者の割合が24.0%、「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」と答えた者の割合が35.5%であり、6割以上の者が選択的夫婦別姓のために法改正することに反対の立場をとった[192]。別姓に「反対」の回答は、男性の60歳代、70歳以上、女性の70歳以上で多く、「別姓容認」は男性の40歳代、女性の20 - 40歳代で多く、女性の20歳代では半数を超えた(53.3%)。若い世代は賛成が多数派であった[191][193]。一方、夫婦の姓が違うと「子供にとって好ましくない影響があると思う」は67.1%、「影響はない」の28.4%を上回った[194]。結婚による改姓については、「名字(姓)が変わったことで、新たな人生が始まるような喜びを感じると思う」が47.5%、「相手と一体となったような喜びを感じると思う」が30.8%、「名字(姓)が変わったことに違和感を持つと思う」が22.3%[191]。「名字(姓)を変えたくないという理由で正式な夫婦となる届出をしない内縁の夫婦もいると思う」が6割を超えた[191]

その他の世論調査

夫婦別姓訴訟[編集]

2011年(平成23年)2月に、高校教師を退職し、「選択的夫婦別姓」の訴訟を目的として「選択的夫婦別姓の会」(ななの会)をたちあげ、会の代表として活動をした女性メンバーらが[209]「自分の名前で死ねず辛い」とし、夫婦別氏を認めない民法規定が、憲法違憲であるという訴えた裁判である[210][211]

2015年(平成27年)12月16日に、上告人が夫婦が婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称すると定める民法750条の規定が、憲法13条14条1項24条1項及び2項に違反するとして国に賠償を求めた裁判で、最高裁判所は「名字が改められることでアイデンティティが失われるという見方もあるが、旧姓の通称使用で緩和されており、憲法に違反しない」「わが国に定着した家族の呼称として意義があり、呼称を1つに定めることには合理性が認められる」と位置づけ、現在の民法規定を合憲とし訴えを退けた[212][213][214]

寺田逸郎裁判長は補足意見として「民法上の家族は、夫婦とその間に生まれた子供が基本をなしている」「子供は夫婦と同じ姓を持つ存在として意義づけられている」「現在の家族制度は社会の多数に受け入れられており、その合理性を疑う余地があるとは思えない」としている[215][216]

夫婦別姓を認めない民法の規定は、日本国憲法が保障する「婚姻の自由」を侵害しているなどとして、5人の男女が日本国政府に損害賠償を求めていた裁判では、最高裁大法廷は、2015年平成27年)12月16日に、夫婦別姓を認めない民法の規定を合憲とする判断を下した。このとき、15人の大法廷裁判官のうち、女性裁判官全3名(鬼丸かおる岡部喜代子桜井龍子)を含む5人の判事は「違憲である」反対意見を表明した[217][218]

判決に対する論評[編集]

批判
  • 木村草太(憲法学者)は、民法750条には「氏の変更を強制されない自由の侵害」も「男女間の不平等」」も存在しないとし、合憲判決へのメディアの反発が強いとはしながらも、「原告の主張に対する法律論としては筋が通っており、やむをえない」と述べている[170]。ただし、男女間の不平等ではないとしながらも、「氏の変更を容認するカップル」と「氏の変更を容認しないカップル」間には不平等が存在するとし、選択制夫婦別姓を認めるか、事実婚にも法律婚と同等の権利を与えることによって解消できるとしている[170]。また、民法750条は、「別姓希望カップルやその子どもを法律婚から排除するだけ」とし、「家族の一体感にも子どもの利益にも、かえってマイナスの影響を与えてしまっている」としている[170]
  • 三浦まり(政治学者)は、裁判官出身か弁護士出身かという前職のプロフィルが反映された判決であるとしている[219]
  • 新見正則(医学者)は、裁判官の男女比率が男女ほぼ同数であれば違憲となった可能性をあげ、マイナンバーがあれば姓に関係なく個人の特定が可能であるため、「結婚したらまったく新しい姓を名乗るようなシステム」でも良いのではないかと主張している[220]
  • 下重暁子は、家族間の殺人等の犯罪が増加する中、「我が家は幸せだ」と言う人は「外にいい顔をしたいだけ」で、「個」の集団の家族を信じるなど幻想にすぎないとし、「先進国で夫婦同姓が残っているのは日本だけ」であり、合憲判決は「時代遅れで恥ずかしい」と主張している[221]
  • 国家公務員一般労働組合は、裁判官15人のうち女性が3人であることをあげ、男女比率がEU並になると判決が逆転すると主張し、「日本は男性が優位な地位を占め続けているから女性差別大国になってしまっている」と主張している[222]
  • ニッセイ基礎研究所社会研究部主任研究員の土堤内昭雄は、世界的には同性婚の広がりなどがみられるように結婚観が多様になり、家族のあり方として夫婦が同じ姓を名乗ることを、全ての夫婦に対して法律が一律に規定する国は少なく、多様な価値観に基づく議論を大いに期待する、としている。さらに、少子高齢化という人口構造の変化がシルバー民主主義をもたらし、社会制度づくりの意思決定の議論に歪を与えてはならない、とも述べる[223]
  • 伊藤正志(毎日新聞論説委員)は、毎日新聞の論説で、合憲判決について「女性の理解を得られるのかは極めて疑問だ」とし、たいていは女性が改姓することで「屈辱感を抱いたり、不便を感じたりする人は少なくない。」ため、選択的夫婦別姓制度導入を進めるべきだと報じている[224]
  • 東京新聞の社説では、「高裁で人格権の一部だと判断された姓を一方だけが変えなくてはならないのは差別的」と報じている[169]
  • 愛媛新聞は、合憲判決について、「国際的にも時代遅れで、不当な女性差別との批判も強い」とし、家族の絆や「幸せの形」も人によって異なる中、「法が個人を生きづらくし、逆に差別や排除の理由になってしまっては本末転倒」であると報じている[225]
  • 琉球新報の社説で、国会に判断を委ねる判決であるとし「法の番人」としての責任を果たしていないとし、国会での法改正を急ぐべきと報じている[226]
支持
  • 産経新聞は、多数の裁判官が、夫婦同姓が結婚で姓が変わる人が被る不利益を重視し、2013年時点で公務員や弁護士、上場企業約3700社の約65%が通称や旧姓使用を認めているなど、「通称使用が広がることにより、不利益は緩和され得る」ために合憲と判断したと報じている[216]。また、寺田長官は補足意見で、両親と子の姓が異なることについて、「嫡出子との結びつきを前提としつつ、夫婦関係をどうするのかに議論の幅を残す」と補足意見があり、子の姓に関して「(1)結婚後のどの時点で姓を選択するのか(2)一組の夫婦に複数の子供ができた場合、子供ごとに姓を選択するのか(3)「きょうだい」で統一とするのか」等の議論が存在することを報じた[216]。また、選択的夫婦別姓導入について、「国会で論じられ、判断されるべきだ」とした判決は妥当とし、別姓を「希望しない」が8割を超えている世論を考慮すべきと報じている[172]。元最高裁判事の泉徳治がグローバルな視点から「日本は遅れている」とした点[227]、国連の女性差別撤廃委員会が、民法の規定を「女性差別にあたる」とした点については、「同姓がもたらす家族の一体感」は、日本の伝統・文化であると反論している[172]
  • 自民党稲田朋美は「(自民党は)女性の社会進出に伴う通称使用を拡大することを公約しており、そうした方向性が多数意見と思う」と主張している[228]
  • 小林よしのりは、合憲判決は当然であるとし、「民法の規定は夫婦が同一の姓にするよう定めているだけで、男女どちらの姓にしてもいい。制度上は男女平等の規定なのである」と主張している[229]。また、「社会における男女間格差のせいで、女性の方が改姓を強いられているというのであれば、その社会の不平等を正さなければ意味がなく、これまた民法の規定の問題ではない。」と主張している[229]。同様に、「妻の姓を名乗る夫は婿養子」という日本の古い男性差別的固定念がある事が妻が夫の姓を名乗る事を通例化させていると主張し、「夫婦同姓が女性差別だと言うのは、問題のすり替えである」という反論も出ている。また、原告団長が、結婚前の母親の姓には無関心で、父親の姓のみを保持したいと主張することが、「シナ父系血統主義の感覚」による「男尊女卑」であると主張している[229]
  • 八木秀次(憲法学者)は、この裁判は史上初めて最高裁が家族を「社会の構成要素」「社会の自然かつ基礎的な集団単位」であると位置づけた判決であり、この文言は世界人権宣言第16条と国際人権規約A規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)第10条の内容を踏まえていることから、判決が家族共同体の意義を重視したものと主張した[230]

日本における議論[編集]

選択的夫婦別姓法案導入の是非に関する論点[編集]

以下、選択的夫婦別姓(氏)法案に関する賛成論、反対論を概説する。

賛成論・肯定的議論 反対論・否定的議論
法制審議 日本学術会議日本弁護士連合会は、一方の姓の変更を強要する夫婦同氏制は、憲法第13条で保証された人格権を尊重しているとは言えないとしている[8][15][16]

榊原富士子らは、1996年法制審議会が答申した民法改正案要綱が、立法府においてきわめて長期間にわたり放置されている状況は、異常である[8][231][232]、とする。

葛西大博(毎日新聞記者)は、最高裁判決は「選択的夫婦別姓制度について合理性がないとするものではなく、国会で論じられるべき」としており、それを怠るのは司法の軽視にもあたる[233]、としている。

民法の規定は、夫又は妻の氏のいずれを称するかを夫婦の選択にゆだねているものの、実際には妻の側が改氏する割合が全体の96%[234][注 6]といわれており、日本学術会議などは、これは女性の間接差別に当たり男女平等に反する、としている[8][234][236][16]

榊原富士子によれば、反対論に民法750条の立法目的が「家族の一体感の醸成」であったなどという主張が見られることがあるが、東京地方裁判所は平成25年の判決において、そのような主張は明確に退け、立法時の資料に忠実に同姓を強制する制度が「婚姻制度に必要不可欠のものであるとも、婚姻の本質に起因するものであるとも説明されていない」と認定している[232][237]

百地章(憲法学者)は、国際規約(10条1項)で国による家族保護が定められているため、婚姻を結ぶ者が家族よりも過度に個人を優先する風潮は、国際的な国家による「家族保護」の義務に逆行し憲法の精神にも反すると主張し、夫と妻に同等の権利を与えた現在の夫婦同姓制は、一方で「個人の尊厳」や「両性の平等」を尊重しつつ、他方で「家族を保護」しようとした憲法の精神にふさわしいものであると主張している[238]。選択制別氏制度導入については、親子別姓をもたらし、「親子の一体感の希薄化や子供の不安感などが生じ、成育に支障を来す」と家族の崩壊につながる、と主張している[238][239]。また、別姓の場合は容易に家系をたどれなくなり、「祖先を敬うという日本人の道徳観に悪影響を与える可能性」もあるとしている[239]。選択制夫婦別姓に賛成している人の大多数は、『自分は同姓を選ぶがしたい人は別姓にすればよい』人であると主張し、夫婦別姓導入論は、ごく少数のために、悪影響が生じかねない国の制度を導入することが正しいことなのかという視点が欠如している、と主張している[239]。また、百地は、明文化されなかったが、当初のマッカーサー草案には「家庭は人類社会の基礎」と明記されており、新憲法下でも善き意味の家族制度は否定されないというのが、憲法制定当時の政府見解であったとしている[238]

宮崎哲弥(評論家)は、夫婦同姓の強制は人格権侵害というが、親の姓の使用強制(例えば親の離婚再婚によって親権が変わることで子供の姓が変わることなど)や親が子につけた名前も同様に人格権の侵害に当たるはずであり、人格権を根拠にする賛成論者は姓氏全廃を主張しないとおかしいし、選択的夫婦別姓制度は人間を自由にしないと述べている[240][241]

日本政策研究センターは、法務省による世界各国で多くの国が選択的夫婦別姓制度を採用しているとの主張について、ドイツフランス中国では同姓もしくは別姓を原則とし、例外的に別姓(別姓の国においては同姓)を認めているとした上で、日本において法務省が主張している選択的夫婦別姓制度案は、こうした原則・例外を全く認めない、選択不可能な内容であるとして、これを「選択制」という言葉を用いて、ヨーロッパのように夫婦別姓を取り入れた国々と同趣旨の法案だと主張するのは言葉のトリックであると批判した[72]。また、女性の改姓が多いのは、両者の合意に基づく結果であり、民法の規定のせいではないとし、姓の選択の「機会の平等」を保障した法律を、「結果の平等」のために改正するのは、憲法の平等原則に反すると主張している[242]

国際情勢
伝統 選択的夫婦別姓制度賛成論の多くにおいて、夫婦同姓になったのはたった100年前であり、1898年に制定された明治民法以降に法制化されたのだから歴史が浅いとし、夫婦同姓が伝統的とはいえないとしている[8][80][32][243][244]

山田昌弘(ジェンダー論専門の社会学者)は、夫婦同姓制度は、明治政府が西洋化政策の一環として法律で強制したものであるとし、多様性を認めるべきであるとしている[245]

吉田信一(法学者)はたとえ僅か100年程度の歴史しかない夫婦同氏を日本の伝統であると仮に認めたとしても、「伝統の強制」はするべきではない[246]、としている。

田中優子(エッセイスト)は江戸時代の武家は夫婦別姓だったので同姓という選択肢はなく、今は別姓という選択肢がないが、選択肢がある方がよいとする[247]

北条政子日野富子などからわかるとおり夫婦同姓は伝統ではない、との主張があるほか、家制度家父長制度に関しても伝統的ではないという主張がなされている[248][249][250][251][252]

ホーン川嶋瑤子(お茶の水女子大学ジェンダー研究センター教授)は、アメリカのフェミニズム等に端を発する制度革命が必ずしもアメリカ市民にとって幸せをもたらしたとはいえないとし、日本がフェミニズム等の流れに追従する必要はないと主張している[73][253]

ある観念が社会に定着するには100年は十分すぎる長さであり、今や日本人の意識の中に確固として根づいている[252][誰?]。日本は古来より母性原理が強く、八百万の神に守られた多神教社会であるため集団依存型の国民性である。しかし、これを無理に欧米のような父性原理が強く、一神教の中で罪と罰、善と悪、主体と客体などのように常に切断、分離していく個人独立型の社会で採用されている選択的夫婦別姓制度を導入すれば、社会的背景が全く違うため適応できない者から家庭崩壊を招く恐れがある[254][255]、といった主張がある。

戸籍制度 松田澄子(山形県立米沢女子短期大学)は、日本が戸籍制度を輸出した台湾韓国では現在別姓となっており、別姓制度を導入できないのはおかしいし、別姓を選んだ夫婦別々の戸籍を作ればよいと主張している[256]。また、松田は、完全夫婦別姓論者の代表として佐藤文明をあげ、夫婦別姓を求めるのであれば、戸籍制度を廃止して個人の身分登録制とし、「家」ごとの登録を崩すことで、女性だけではなく在日外国人や非嫡出子も含めた社会的弱者への差別の根源をなくすべきという主張を紹介している[256] 秦郁彦(現代史家)は、日本は世界でほぼ唯一と言って良い「全国一律の戸籍制度」を保持しているとし、日本のような戸籍制度を持たない国と夫婦の姓に関する仕組みを比較しようとしても、制度の次元が異なるために比較にならず、空論にすぎないと批判している[47]

八木秀次(憲法学者)は、賛成論には「選択的夫婦別姓は別姓にしたい人に選択肢を与えるだけであり、同姓にしたい人はそのままで結構なのだから、別姓を希望する者に自分たちの価値観を押し付けるべきではない」とする意見があるが、選択的夫婦別姓を認めると、一つの戸籍の中に二つの姓(氏)が存在することになり、共通の姓(氏)は存在しなくなる。つまり、家族の呼称を持たない家族が存在することになる。これを制度として認めると個々人の姓(氏)はもはや家族の呼称ではなく、個人の呼称の一部となるため、家族の氏は廃止されるということになる。そうなれば、これは同姓を選んだ家族にも及ぶ問題となり、制度として家族の呼称としての姓(氏)が廃止されたのだから、同姓夫婦・親子にも家族の呼称はなく、氏名の一部が共通しているに過ぎないことになる。それゆえに、選択的夫婦別姓制度の議論は同姓を選択する人にも影響を及ぼす問題であるため、一国の制度のあり方として国民全員が議論しなければならない[230]と主張している。また、現在では登記簿パスポートにも通称の併記が可能であり、銀行口座も本人確認ができれば通称使用可能な場合もある。職業上の不便も各業界や組織・団体、あるいは個別法規の改正で足り、民法改正の必要性とするには足りない[173]と主張している。また、八木は、結婚すると夫婦は同じ戸籍に登載され、その間に生まれた子供も同様である。そのため夫婦同姓の制度は戸籍制度と一体不可分である。つまり、姓(法律上は氏)は夫婦とその間に生まれた子供からなる家族共同体の名称という意味を持つ。別姓になれば、姓は共同体の名称ではなくなる[173]。制度として別姓を認めると氏名の性格が根本的に変わる。氏名は家族共同体の名称(姓・氏)に個人の名称(名)を加えたものだが、別姓を認めると、家族の呼称を持たない存在を認めることになり、氏名は純然たる個人の呼称となってしまう[173]と主張している。また、選択的夫婦別姓制度の導入により、夫婦の間に生まれた子供の姓(氏)を夫と妻のどちらの姓にするのか、どの時点で決めるのか、複数生まれた場合はどうするのか、といった問題が生じてくる[173]と主張している。

久武綾子(歴史学者)は、日本の氏は戸籍と密接な関係にあるので、簡単に選択制は導入できないし、夫婦同姓も別姓も文化であり、国によって違いがあってもよいし、氏について十分な議論がなされていないので、1989年の論考において、時期尚早と主張[256]

家名

日本農業新聞は、例えば長男長女が結婚した場合、選択的夫婦別姓制度導入により双方の墓を守る選択肢が従来より増える可能性もあると指摘している[19]

賛成論の一部に、夫婦同姓であると結婚で一方の家名が無くなるとの議論がある。その多くが子供が1人といった場合に強く主張されたが、さらに次の世代()を養子にして家名を継がせればよく、どのみち孫が複数生まれなければ家名の継承者はいなくなる。そのため別姓での解決は不可能である。そもそも、選択的夫婦別姓制度は家制度の打破を意味しているのに、保守的な意味で家名を残したいから選択的夫婦別姓制度賛成というのは矛盾している[257][173]、といった主張がある[誰によって?]
個人の尊重・多様な価値観の尊重 武蔵野大学経済学部教授奥野正寛は、結婚しても旧姓での戸籍を選択できれば、女性の国際的な活躍の場を広げられるとする[258]山田昌弘は選択肢が広がることはよいと主張[259]。また、反対論は結局、理屈ではなく感情であり、その底にあるのは、社会の同調圧力であると批判した[260]福岡県弁護士会は、議論されている制度は「選択制」であるから、別氏にすると家庭が崩壊すると思う人は同氏を選択すればよいだけである、としている[261][262]

公益財団法人せんだい男女共同参画財団・佐藤莉乃は家族の形が多様になる中、選択的夫婦別姓制度を認め、いろいろな夫婦、家族のあり方を尊重することが大事[263]とする。

朝日新聞は社説で、「別姓反対を叫ぶ人たちには、他人への寛容さが欠けている。それは、自分なりの生き方を選ぶ少数者に対する差別や偏見にさえつながりかねない」[264]、としている。

日本社会は1980年代後半以降、国際的な男女平等の潮流と女性の経済的自立の傾向から、家族観、婚姻観、男女の生き方や役割観に変化があり、社会における男女の働き方、家族形態は多様化した[8][265]出口治明(ライフネット生命保険会長兼CEO)などは、多様な価値観を認めることが現代の日本では求められている、としている[243][266][19][163]

また、宮内義彦(オリックス元会長・社長・グループCEO)らは、社会、国のあるべき姿として、現在の制度のように、法的婚姻をすることで社会生活をする上で不便に耐えたり、または好ましい使い慣れた姓を捨てさせたりするところまで強制力を持つ社会は窮屈で非寛容である[267][243]、としている。

日本学術会議は、国民の意識が変化しつつあり、別氏が選択でないため事実婚で我慢せざるを得ず婚姻の自由が侵害されている人たちにも平等に婚姻の権利を与える必要がある[8]、としている。

日本学術会議二宮周平(法学者)は、民法上でも民法2条の解釈基準と矛盾をきたす、としている[8][268]日本学術会議は、同姓の強要は、男女における個人の尊厳・両性の平等を定める憲法第14条憲法第24条に抵触する[8][269]、と主張している。

佐々木くみ(東北学院大学)は、民法750条における婚姻時の氏の変更という要件は、憲法第13条人格権としての「氏の変更を強制されない自由」と憲法第24条で保障される「婚姻の自由」の双方の自由を同時に満たすことができず、またそのような要件を課す十分な合理性があるとも認められず、民法750条は憲法第24条に違反する、としている[270][271][272]

井戸田博史(歴史学者)は、婚姻により強制的に氏を変更させられ新たな姓を世間に公表させられることはプライバシー侵害であるとしている[90][273]

二宮周平(法学者)は、国際結婚では現在の制度でも夫婦別姓が可能であるが、日本国民同士の婚姻で夫婦別姓が認められないのは不公平である、としている[274][275]

久保利英明(弁護士)は「別姓がだめなら、仮に亀井静香という人がいて、荒川静香という人と結婚したらどうする」と述べている[276]

日本政策研究センターは、本来夫婦というものは「われわれ」という連帯意識で最小単位の社会集団を構成し、相倚り相扶けあって世の荒波をくぐり抜けていくものである。しかし、個人主義を追求しすぎた国では「われ」に拘れば拘るほど「われわれ」は崩壊してしまっており、「われわれ」という意識がまず確保されなければ、「われわれ」という意識は最後まで確固たるものにはならない[73]、と主張している。

氏の問題は単なる個人の自由の問題ではなく、公的制度の問題であり、選択の自由を持ち出すだけでは済まない[241]

アイデンティティ・人権・不平等

林陽子(国連女子差別撤廃委員会委員長)は、夫婦の98%[90](2015年の報道では96%[234])において女性が改姓することは、女性の間接差別にあたる[277]、としている。

大塚玲子(ライター)は、離婚時に離婚前の姓と旧姓を選べるのに、結婚時に旧姓を選べないのはおかしい[278]、とする。

杉田水脈は、夫婦同姓制度が女性にのみ姓の変更を強要しているように感じ、もし『男女』が逆になった場合男性も同じことを思うだろう、といった意見がある[279]、としている。

土堤内昭雄(ニッセイ基礎研究所主任研究員)は、同性婚などの結婚観が多様な広がりがある現代において、法律による同姓規定が問われるようになっているとし、同姓をアイデンティティと感じられる夫婦は良いが、氏にアイデンティティを感じている人同士で一方が改姓しなければならない場合は、人権侵害にあたる可能性があるとしている[280]

秦郁彦(現代史家)は、賛成論の側からは、現行民法で夫婦は「夫又は妻の氏を称する」と規定しているが実際には96.1%が夫の姓を選んでいることを「実質的に女性が姓の変更を強いられており、正当化できない」とする議論があるが、10%前後いる養子による改姓はこの中からは除外されているとし、2012年内閣府が行った選択的夫婦別姓の世論調査から、夫婦別姓制を容認する女性(35.5%)の中で、自らも別姓を「希望する」と答えた割合(23.4%)が女性全体に占める割合を計算すると僅か8.2%に過ぎず、もし結婚に際し自分の姓の「選択の機会」を奪われたとして不満を抱えている女性が大勢いるとすれば、こうした数字は理解しがたいと述べている。さらに、若いカップルが結婚の際に姓の選択をめぐって激論になったという話は少ない。そのため、もし改姓したくない女性が相手に改姓をお願いすれば受け入れる男性も多いのではないかと述べている[47]

杉田水脈(政治家)は、男女が逆になったら男性も夫婦同姓に対して不平等に思うだろうという意見に対して、明治時代日本人苗字を持つようになってから、一般的には男性が姓を変えるとなっていたとしたら同じことで、今でも「女性が変えないといけない」とは民法にも憲法にも書かれておらず、実際男性が変える場合も多くある。頭から「女性=弱者」と主張すること自体がおかしいとしている[279]

社会的損失・コスト

全国司法書士女性会は、姓名はのれん、看板名、という財産的価値を持ち、婚姻後も業務を継続するためには選択的夫婦別姓制度が必要、としている[177]

八幡彩子(熊本大教授)は、名刺、戸籍名だけでは結婚前と同一人物の論文だと理解してもらえず、使い分けは煩雑、と述べる[281]

岩田規久男(経済学者)は、夫婦別氏を選択できるようになることによって、ほかの人が不利益をこうむることはない、とする[282]

牟田和恵(大阪大学)は、現実の不便や苦労を感じなくても良い人々が反対するのはおかしい、とする[283]

井戸田博史らによれば、現在の制度において、長年月、社会生活を行ってきた者が、その姓を変えることは、多大の社会的損失[90][284][285][107]ならびに個人的損失[286][287][288]をもたらす。

旧姓を用いていた期間は晩婚化によって以前よりも長くなっており、さらに共働き家庭も増えており、そのような損失はより大きくなっている[289][290]。1997年にはすでに、共働き世帯の数が専業主婦世帯の数よりも多くなっており[286]、2014年時点では共働き世帯が1077万世帯、男性雇用者と専業主婦からなる世帯は720万世帯、と共働き世帯が大幅に専業主婦世帯を上回っている[291][123]

職業上、氏の変更が業績の連続性や信用、キャリアにとって損害となる場合もあるという主張がある(江上敏哲[292])[19][293][294]。研究者にとって改名による業績の断絶は致命的である[292]、ビジネスにおいて名前はブランドであり、変えると、今まで積み上げてきたものをリセットしなければならず、経済的にも損失である[287]。現在の制度において、社会で活躍している女性などが結婚によってそれまで通用していた姓を変更すると、周りに混乱を起こしてしまうことがある[267]。また、姓は変わらない方が便利である[295]、氏の変更の際の様々な手続きは面倒でコストがかかる(朝日新聞[286])、などの指摘もある。

少子化問題 少子化対策として進めるべき施策である、との主張もある(日本経済新聞[296]、週刊東洋経済[297]勝間和代[298][299])。小笠原泰、渡辺智之は、出生率を改善するには、選択的夫婦別姓制度すら認めないような家族観は抜本的に見直す必要があると主張している[300]

板本洋子(全国地域結婚支援センター代表)は、婚姻率が下がっていることが少子化の大きな原因であり、選択的夫婦別姓を認めることは婚姻率を高める可能性が高く、少子化対策として非常に有効な施策であると考えられ、特に農村などでは特に跡取り男女の未婚者も多く夫婦同姓の規定は結婚の障害となっている[296]、とする。内田亜也子は、別氏制が法制度化され社会に周知されれば偏見に基づく「いじめ」等もなくなるとの意見がある[241]、とする。

家族観[注 7] 選択的夫婦別姓制度賛成論の多くは、日本の「家族の一体感が損なわれるなどを理由とした」反対論は、時代遅れであると主張している[301][302][80][303][304][305][306][307][308]

井戸田博史(歴史学者)は、現在の制度では夫の氏を婚氏とする(夫婦同姓の98%[90]、2015年の報道では96%[234])ことは、夫の「家」に入ることになり、「嫁」と意識されることに結びつき、結婚する女性にとっては、姓の変更が男性への従属を意味するように感じられる、とする(井戸田博史[90]、奈良新聞[309])。

夫婦同姓制度とは家父長制度父権制であり、あるいはそれに準じる意識がDVの原因となっているとの指摘がある(R.E. Dobash[310],K. Yllo[311],[312],松島京[313])。

秦郁彦(現代史家)は、朝日新聞などが、選択的夫婦別姓制度反対論について「今の時代にそぐわないのは明らかだ」、「海外でも夫婦に同姓を義務づける国はほとんどなく」、と報じることについて、「次元の違う制度比較」であり「空論」であると主張している[47]。秦は、「そもそも全国一律の戸籍制度を完備してきた国は日本以外はほとんどない」とし、誕生も結婚も教会に登録するキリスト教国は重婚という罪も起こるし、「姓名の変更も欧米では法的規制が緩やかで、極端に言えば自由自在に近い」と主張し、世界の姓名事情は多彩であり、「女性差別」とは無関係であると主張している[47]。また、夫婦別姓が親子別姓となってしまうことが問題であるとし、結婚の態様には(1)同姓婚(通称併用は可)(2)別姓婚(3)事実婚(4)新姓創造(結合姓を含む)(5)通称拡大(戸籍法の裏付け)-の5つつがあり、現状は(1)だが、(5)通称拡大の方向へ進みつつあるとしている[47]

森隆夫(教育学者)は、夫婦別姓による親子別姓により、家族のきずなが切れたり弱まる、親と異なる姓がトラウマを招く、子ども同士で親と別の姓であることでいじめに発展する危険性がある、孤独感が増すといった問題点がある、と主張している[183]

加藤彰彦(明治大学教授)は、女性の社会進出により共働き夫婦やパートで働く女性が増え、妻方に近居し祖父母から子育て支援を受ける傾向や、子どもの成長後は夫方からの支援を受けて二世帯住宅に改築のうえ共住、あるいは近くに持ち家を取得する傾向が強まっている。このような三世代関係は、外孫(姓を異にする孫)と内孫(姓を共有する孫)の分別によって父方と母方の祖父母間の利害調整(片方が「名」をとり片方が「実」をとる)が存在することで可能となっているが、選択的夫婦別姓制度はこのような調整をできなくするため、祖父母という重要なサポート源を失わせることで子育て環境を悪化させ、出生率を低下させる可能性が高い。実際、専業主婦であっても、第1子において祖父母からの子育て支援がない夫婦は予定子ども数が低くなる傾向がある[314]と述べている。また、国立社会保障・人口問題研究所の『第14回出生動向基本調査第・報告書』によると、2000年以降、日本人の家族意識は脱伝統から伝統回帰へと転換する傾向を特に若い世代で顕著にみせている。伝統的家族観を支持している夫婦と支持していない夫婦の理想の子供数・予定の子供数の比較では、「結婚したら、家族のためには自分の個性や生き方を半分犠牲にするのは当然だ」などの伝統的家族観に関する全11項目中すべての項目で伝統的家族支持の夫婦の出生意欲が不支持の夫婦を上回っている。このような再家族化の動きはヨーロッパでも始まっている[314]としている。

また、夫婦同姓は決して「単なる形式」ではない。それは家族統合のための大切な象徴であり、また日本文化の基本の型である。もちろん愛情も家族の絆を強める大切な働きをしているが、同一の姓という象徴もまた心理学的な絆を強める重要な働きをしている。全く異なる範疇の愛情と象徴を比較して、どちらが重要かという議論をするのはナンセンスである[315][252][誰?]

現行法のもとでの結婚は、夫婦二人を基本単位として、それを中心に家族単位を形成するという思想に基づいている。この制度の下では、結婚離婚を決断するにはそれなりの覚悟を要する。例えば、離婚をすれば姓が変わる、結婚しないで子を産めば非嫡出子になる等の代償を払うことになるが、これらは子供を守るために夫婦を簡単に離婚を決断させないための心理的歯止め、社会としての防衛策になっている。そのため、低いハードルで容易に結婚や離婚が出来てしまう選択的夫婦別姓制度は、婚外子の増加や離婚率の上昇に作用する恐れがある[252][誰?]

選択的夫婦別姓制度は、子供の成育を保障する場を担う家庭・家族の崩壊を後押しするもので時代に逆行するとの批判がある、と産経新聞は報じている[316][241]

子供の姓 本田和子(児童学者)は、子供への悪影響は不寛容な社会の風潮が原因であり、意識革命によって画一志向を払拭すべきだと主張している[241] 秦郁彦(現代史家)は、問題の核心は夫婦別姓を選択すると親子別姓となる点であり、子の姓を決める名案が存在せず、しわ寄せは子どもにいくと主張している[47]。秦が民主党が提出した法案の作成を命じられた法務省の官僚に聞いたところでは、子の姓について、「ジャンケンで決めようとか、交互に姓を分けたらとか、成人後の子に最終選択権(1回だけ)を与えたら」などの案を検討するなど、条文化に苦慮したという[47]。結局、最終案は、カップル間で別姓結時に子の統一姓を決め、「登録しないと結婚届を受理しない」という「荒業」となったが、双方の親も加わる協議がまとまらない場合には、事実婚となり、子は自動的に母親の姓になる[47]。これについて、法務省の担当者は「少数のわがまま女性はそれが狙いかも」とやけ気味の返答したという[47]

阿比留瑠比(産経新聞記者)は、選択的夫婦別姓というと夫婦で納得すればいいと思いがちだが、別姓を選択した夫婦に子供が生まれた場合、子供は必ず片方の親と別姓になる。つまり夫婦のあり方や親の自由だけの問題ではなく子供の人権にも大きな影響を及ぼすことであり、簡単に「誰にも迷惑をかけない」と言い切れないとしている[317]

小谷野敦(比較文学者)は、選択的夫婦別姓制度では子供の姓は最初に決めておくとなっているが、その取り決めの拘束力は不明確であり、導入された場合「やっぱり子供を自分の姓にしたい」などという裁判が起こる可能性もあり、進歩的と思ったら大間違いであると述べている[318][319]

賛成論として「家族の個人主義化」を要求するものや、家庭を築く夫婦が「個人の自由」「自己実現」「非拘束的な関係性を選択する自由」を持つことを要求するものがある。しかし、それらは子供のニーズよりも大人の性的・情緒的ニーズを重視するものであり、選択的夫婦別姓により「夫婦の自由」が保障されることと引き換えに「子供の不自由」が発生することを忘れてはいけない。個人の自由とは他人に迷惑をかけない範囲内で保障されるべきものであり、家族(配偶者・子供)を持つということは他人と関わりを持って社会集団を築くということであるため、(改姓による諸手続きの煩わしさなど)自分の自由に一定の制約が発生することは避けられないことである。個人主義を過度に認めた家族が結果的にどのような姿をもたらすのか、余りにも不明確である[73][320]、といった主張がある[誰?]

通称の使用[編集]

旧姓の通称利用は生活上不便とも指摘され[15][321][322]戸籍姓しか認めない職場[15][323][324][256]運転免許証印鑑登録証健康保険証銀行口座が旧姓で登録できないこと[15][注 8]役員登記での旧姓併記[326][327]や、二重の姓を使い分けるのは不便との指摘(野口由紀[293]、大塚玲子[278][328])、姓が2つある生活はアイデンティティが2つに分裂するような感覚がある(大塚玲子[278])、といった意見も見られる。名前管理上の企業負担[294]等の指摘もある。また通称によって夫婦同姓制度による不利益が緩和される、といった意見が最高裁判決等であるが[329][330]、通称は本人にとって嬉しいものではないといった意見もある[267]

通称として旧姓を使用する権利を求めた裁判として国立大学夫婦別姓通称使用事件がある。東京地裁は判決で、通称名も法的保護の対象になりうるが[331]、同一性を把握する手段として戸籍名の使用は合理性があり、通称名が国民生活に根づいていない、また大学は業績の公表などで通称使用を配慮しており、よって大学側の規制に違法性はないとした[332]

夫婦創姓論・結合姓論[編集]

鎌田明彦は、同姓制度と同様に「家族の姓を定めて名称夫婦・家族の一体性」を「夫妻平等」に実現するなら、夫妻とも氏を変えるべきではないか、あるいは反対に、選択的夫婦別姓制度は「旧姓にこだわりすぎた制度である」、「そもそも選択をみとめるならば、夫婦いずれかの姓以外の選択肢(創姓など)もみとめるべきではないか」といった反対意見をあげ、それらを解決するためのものとして、婚姻時などに新たに姓を決める夫婦創姓や、夫婦の旧姓を結合して姓とする夫婦結合姓を含めた制度が、選択的夫婦別姓制度に代わるものとして提案している[333]

鎌田は、夫婦の姓を創成する案について、現実感の乏しい机上の空論である、家族名称に執着するのは時代遅れだ、標準的な核家族以外のいろいろな家族形態に対応できないのではないか、規制緩和の時代だ、実現は困難だ、別姓も例外的に認めてもよいのではないかという反論があることを紹介している[333]岩田規久男も、これらの夫婦創姓論や結合姓論に対し選択的夫婦別姓論者が望んでもいない議論を起こす理由はない、と反論している[282]

日本の年表[編集]

年月日 出来事
1876年02月13日 太政官指令、「婦女は結婚してもなお所生の氏(婚姻前の氏)を用いること」、すなわち夫婦別氏が原則とされた[334]
1898年07月16日 明治民法制定、家制度の導入。妻は婚姻により夫の家に入り、家の氏を称する。このことにより夫婦同氏の原則に転換することとなった[103]
1948年01月01日 民法改正、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」[104]
1955年07月05日 法制審議会民法部会、夫婦異姓を認める案を論議[241]
1959年06月29日-30日 法制審議会民法部会、夫婦異姓を認むべきか否かの問題はなお検討の必要があるとする[241]
1975年09月26日 選択的夫婦別姓制度のための民法改正を求める初めての請願が参議院に提出される[105][106]
1976年06月15日 民法改正離婚時の婚氏続称可能に[335]
1984年05月25日 国籍法改正国際結婚の際に外国姓への改姓(同姓)可能に[336]
1985年06月24日 女性差別撤廃条約、日本国批准[337]
1988年05月09日 事実婚夫婦、住民票続柄記載差別訴訟、東京地裁(1991年敗訴、2005年最高裁棄却)[338]
1988年11月28日 国立大学女性教授通称使用を求める訴訟、東京地裁(1993年敗訴、1998年東京高裁で和解)[339]
1989年01月20日 東京弁護士会が「選択的夫婦別姓採用に関する意見書」を法務省に提出[340]
1989年06月23日 別姓婚姻届不受理処分の取り消しを求める訴訟、岐阜家裁、却下[341]
1992年12月01日 法務相民事局参事官室「婚姻及び離婚制度の見直し審議に関する中間報告(論点整理)」、夫婦同氏制度と夫婦が別氏を称することのできる制度との対比[241]
1994年07月12日 法務省民事局参事官室「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」A案B案C案の3案が俎上に[241]
1995年08月26日 法制審議会民法部会、子の姓は婚姻時に統一するA案を軸にまとまる[342]
1995年09月12日 法務省民事局参事官室「婚姻制度の見直し審議に関する中間報告」[117]
1996年01月16日 法制審議会民法部会、「民法改正要綱案」決定[343]
1996年02月26日 法制審議会、民法の一部を改正する法律案要綱[344]を法相に答申。(これより政府案としてこの民法改正案を軸に国会提出を与党内で模索する。)
1996年06月18日 長尾立子法務大臣、法案の提出を正式に断念。埼玉県新座市、市職員の旧姓使用を4月に遡って実施[345]
1996年010月25日 日本弁護士連合会、選択的夫婦別姓制導入並びに非嫡出子差別撤廃の民法改正を求める決議[346]
1997年03月27日 法学者260人「選択的夫婦別姓制度の導入と婚外子相続分の平等化の実現を求めるアピール」。なお、このうち婚外子相続分の平等化については、2013年9月4日、最高裁判所は、相続において婚外子を差別する民法の規定が違憲であるとの判断を下した[347]
1998年06月08日 超党派野党、衆議院に民法改正案を提出[115]
1998年07月25日 政府、女子差別撤廃条約実施状況第4回報告、選択制を「引き続き検討」[348]
1999年12月10日 超党派野党、衆参両議院に民法改正案を提出[115]
2000年01月20日 超党派野党、参議院に民法改正案を提出[241]
2000年10月31日 超党派野党、参議院に民法改正案を提出[115]
2001年05月10日 超党派野党、参議院に民法改正案を提出[115]
2001年10月01日 国家公務員の旧姓使用が可能に[349]
2001年10月11日 内閣府男女共同参画会議基本問題専門調査会、「選択的夫婦別姓制度に関する審議の中間まとめ」発表[349]
2002年03月14日 自民党法務部会、例外的夫婦別氏制度の法務省試案を議論[241]
2002年09月13日 政府、女子差別撤廃条約実施状況第5回報告、選択制「制度の導入に向けて努力」[350]
2003年07月08日 女子差別撤廃条約実施状況第4回・第5回報告に対する国連女子差別撤廃委員会最終コメント、「夫婦の氏の選択などに関する、差別的な規定を依然として含んでいることに懸念を表明する」[351]
2004年03月11日 自民党、職業上の理由などで必要な場合に家庭裁判所の許可を得て別姓を認める改正案の国会提出を見送る[352][353]
2004年05月14日 超党派野党、衆参両議院に民法改正案を提出[115][241]
2005年03月30日 超党派野党、参議院に民法改正案を提出[115][241]
2006年03月20日 パスポートに旧姓を併記し得る基準が緩和され、学者や記者だけでなく、「職場で旧姓使用が認められており、業務により渡航する者」も可能となる[354]
2006年04月25日 別姓婚姻届不受理処分の撤回を求める訴訟、東京家裁、却下[355][要高次出典]
2006年05月31日 超党派野党、参議院に民法改正案を提出[356][115]
2006年06月08日 超党派野党、衆議院に民法改正案を提出[115]
2008年04月22日 超党派野党、参議院に民法改正案を提出[357][115][241]
2008年04月30日 政府、女子差別撤廃条約実施状況第6回報告、「選択的夫婦別氏制度について、国民の議論が深まるよう引き続き努めている」[22]
2009年04月24日 超党派野党、参議院に民法改正案を提出[115]
2009年08月07日 女子差別撤廃条約実施状況第6回報告に対する国連女子差別撤廃委員会最終見解、「夫婦の氏の選択に関する差別的な法規定が撤廃されていないことについて懸念を有する」[358]
2011年02月14日 男女5人、違憲を争い選択的夫婦別姓を求める国家賠償提訴、東京地裁[359][360]
2011年02月24日 別姓婚姻届3度提出、不受理処分の撤回を求め、却下、東京地裁[361]
2013年05月29日 男女5人、違憲を争い損害賠償請求、棄却、東京地裁[362][270]
2013年09月11日 別姓婚姻届訴訟、却下、最高裁[363][要高次出典]
2014年03月28日 男女5人、控訴棄却、東京高裁[364]
2014年06月23日 日本学術会議が、提言「男女共同参画社会の形成に向けた民法改正」において選択的夫婦別姓制度の導入を提言[8][365]
2014年09月05日 第2次安倍改造内閣松島みどり法務大臣は就任直後の会見で、旧姓使用など現実的な運用の改善を検討する意向[366][114]
2015年02月15日 改正商業登記規則が施行され、役員登記において旧姓の併記を行うことが認められた[367]
2015年02月18日 事実婚の夫婦合わせて5人が「夫婦別姓を認めない民法の規定は憲法違反」として、日本国政府に対し損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷は、審理を大法廷に回付し、憲法判断される[368]
2015年06月12日 超党派野党、参議院に選択的夫婦別姓を認める民法改正案を提出[131][132]
2015年12月16日 事実婚の夫婦合わせて5人が「夫婦別姓を認めない民法の規定は憲法違反」として、日本国政府に対し損害賠償を求めた訴訟で、最高裁判所大法廷は、民法の規定を合憲とする判断を示し却下[369]。ただし裁判官15人のうち5人は違憲とする判断。特に女性裁判官3人は全員が違憲判断を示した[217][370][371][372][373]
2016年03月07日 国連女性差別撤廃委員会が日本に対し、「過去の勧告が十分に実行されていない」「実際には女性に夫の姓を強制している」として、選択的夫婦別姓制度導入のための民法改正を求める再度の勧告[25]
2016年05月12日 超党派野党、衆議院に選択的夫婦別姓を認める民法改正案を提出[126][127]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ このほか、現行制度の下での非法律婚(事実婚)のことを夫婦別姓と呼ぶこともある[4][要高次出典]
  2. ^ 2007年の時点で、第166会国会衆議院内閣委員会で宮山洋子はトルコ、タイが法改正をしたので選択の自由がないのは日本だけであると指摘した[12]。また同年、二宮周平は「氏と名の組み合わせで個人を特定する制度ないし習慣を持つ国々では、周知のように、夫婦別氏あるいは旧姓の併用を認める国がほとんど」としている[13]。また、2001年時点でも、別姓や結合姓など、何らかの手段で結婚前の姓を結婚後も名乗ることができるところがほとんど[どこ?]である、と報告されている[14]
  3. ^ ただし、この規定については、1961年の最高裁判決で、「妻は婚姻で本来の姓を使用する権利を失うのではなく、夫の姓を使用する権利を得る」と解釈されており、1975年以前も実質的に夫婦別姓が可能だった[58]
  4. ^ ただし、民主党政権時には連立政権を組んだ国民新党の反対や党内からの異論があり法案提出には至らなかった[114][133]
  5. ^ なお本調査は2012年12月6日から12月23日にかけ、全国5,000人以上の成人男女を対象に実施。有効回収率は60.8%であった(調査不能だった者の中には「被災」者も4割近くを占める)。男性1,366名、女性1,675名の回収となった[191]
  6. ^ 厚生労働省の2014年の調査で96.1%[235]
  7. ^ 法務委員会調査室内田亜也子「家族法改正をめぐる議論の対立」によれば、別姓への消極論、積極論は伝統的家族モデルにおいて最も対立するという[241]
  8. ^ パスポートは必要な事情がある場合には旧姓を括弧書きで付記することが認められることがある[325]が、パスポートに旧姓を表示した場合でも、ICチップには旧姓名は入らない。そのため、旧姓での航空券の自動発券機等の利用ができない場合がある[321]クレジットカードやパスポートと旧姓の不一致のために、海外のホテルなどの予約ができないことなどもある[321]

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  364. ^ 時事通信2014年3月28日
  365. ^ NHK NEWS WEB 2014年6月30日
  366. ^ 読売新聞2014年9月5日
  367. ^ 「 新姓・旧姓、職場で使うのは? 旧姓派も4分の1 既婚女性1000人調査」日本経済新聞、2015年3月5日
  368. ^ 毎日新聞 2015年2月18日
  369. ^ 「夫婦同姓は合憲=最高裁が初判断」、時事通信、2015年12月16日
  370. ^ 「夫婦同姓規定は『合憲』、原告の請求退ける 最高裁判決」朝日新聞、2015年12月16日
  371. ^ 「女性裁判官は全員が『違憲』意見 夫婦同姓の合憲判決」朝日新聞、2015年12月16日
  372. ^ 「夫婦別姓認めない規定 合憲判断も5人が反対意見」、NHKニュース、2015年12月16日。
  373. ^ 「「判決の瞬間、涙が溢れた。本当に悲しい」夫婦別姓禁止「合憲」受けて原告が怒り」、弁護士ドットコムニュース、2015年12月16日

参考文献[編集]

  • 稲田朋美 『私は日本を守りたい: 家族、ふるさと、わが祖国』 PHP研究所2010年6月24日。ISBN 978-4569777672。
  • 井戸田博史『夫婦の氏を考える』世界思想社、2004年
  • 大藤修「姓と苗字」『新体系日本史2 法社会史』山川出版社、2001年。
  • 大藤修『日本人の姓・苗字・名前:人名に刻まれた歴史』吉川弘文館、2012年
  • 鎌田明彦『夫婦創姓論―選択性夫婦別姓論に代わるもうひとつの提案』マイブック社、2007年
  • 後藤みち子『戦国を生きた公家の妻たち』吉川弘文館、2009年
  • 坂田聡「中世の家と女性」『岩波講座日本通史第8巻中世2』岩波書店、1994年
  • 坂田聡『苗字と名前の歴史』吉川弘文館、2006年
  • 新田一郎「中世」『新体系日本史2 法社会史』山川出版社、2001年。
  • 二宮周平『事実婚を考える―もう一つの選択』日本評論社、1991年
  • 日本弁護士連合会編『今こそ変えよう!家族法―婚外子差別・選択的夫婦別姓を考える』日本加除出版、2011年
  • 長谷川三千子 (他) 『ちょっとまって!夫婦別姓』日本教育新聞社、1997年
  • 久武綾子『氏と戸籍の女性史:わが国における変遷と諸外国との比較』世界思想社、1988年
  • 久武綾子『夫婦別姓—その歴史と背景—』世界思想社、2003年
  • 民法改正を考える会『よくわかる民法改正―選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて』朝陽会、2010年
  • 森謙二「家(家族)と村の法秩序」『新体系日本史2 法社会史』山川出版社、2001年。
  • 八木秀次宮崎哲弥 (編) 『夫婦別姓大論破! 』洋泉社、1996年
  • 渡辺淳一『事実婚―新しい愛の形』集英社、2011年
  • 杉井静子 『たかが姓、されど姓 家族の変化と民法改正の焦点』、かもがわ出版、2010年

関連項目[編集]