新世界訳聖書

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新世界訳
New World Translation of the Holy Scriptures in various languages and versions.jpg
正式名 新世界訳聖書
英語名 New World Translation of the Holy Scriptures
略称 新世訳、NWT
言語 122の言語
ヘブライ語聖書出版 1982年
ギリシャ語聖書出版 1973年
完全版出版 1982年
外典 なし
翻訳者 新世界訳聖書翻訳委員会
ヘブライ語原文 ビブリア・ヘブライカ
ギリシャ語原文 ギリシャ語原語による新約聖書
改訂版 1985年
出版社 ものみの塔聖書冊子協会
著作権状態 © Watch Tower Bible and Tract Society of Pennsylvania.
印刷数 2億083万部以上
教派 エホバの証人
ウェブサイト オンライン聖書

新世界訳聖書(しんせかいやくせいしょ)は、エホバの証人で構成された匿名の「新世界訳聖書翻訳委員会」によって翻訳された英訳聖書。ならびに、これを元に、同委員会の監督の下に他の諸言語に翻訳された聖書。本書を書店で販売していないため、本書の入手には通常はエホバの証人に直接注文する方法しかない。

本書が登場するまで、英語圏のエホバの証人は、長年にわたりジェームズ王欽定訳やアメリカ標準訳を主に使用してきた。[1]また日本のエホバの証人は日本聖書協会文語訳聖書口語訳聖書を主に使用してきた。しかし、本書の刊行以降、エホバの証人が集会で使用する聖書はほぼ世界的に、本書へと統一されるようになってきている。とはいえ、個人研究では本書以外の翻訳の使用も推奨している。実際、英語版の研究ツールであるJW Libraryには本書以外に『生きた英語による聖書』、『アメリカ標準訳』、『ジェームズ王欽定訳』が含まれている。[2]

本書を翻訳するにあたり、ヘブライ・アラム語聖書を翻訳する底本としてルドルフ・キッテルの『ビブリア・ヘブライカ』第7版から第9版(1951年 - 1955年)の校訂本文が使用された。さらに『ビブリア・ヘブライカ・シュトゥットガルテンシア』(1977年版)、死海写本、他の言語に翻訳された数多くの初期の訳本も参考にされている。また、クリスチャン・ギリシャ語聖書については、主にウェストコットとホートによる『ギリシャ語原語による新約聖書1881年版を使用、これについても数多くの初期の訳本が参考にされた。[3][4]

英語版は1950年から1960年にかけて分冊で発表され、1961年には1冊にまとめられて出版された。最新は2013年改訂版[5][6]

日本語版は1973年にギリシャ語聖書(新約聖書)の分冊が発行され、1982年にはヘブライ語聖書(旧約聖書)の部分も含めた全巻が発行された。最新は1985年版。

エホバの証人は本書を正確で読みやすい聖書であると評価している[7]。一方、伝統的諸教会は、三位一体論にかかわる箇所を中心としてエホバの証人の教理に沿った恣意的な訳文が見られるとし、「エホバの証人の教理に合わせて改竄された偽物の聖書である」と批判している。[8]


日本語1985年版の特徴[編集]

  • 本書は神の名「エホバ」の訳出に積極的である。多くの聖書翻訳において神の名は「主」や「神」といった称号に置き換えられているが、本書はこれを復元した。『ビブリア・ヘブライカ』(略称BHK)ならびに『ビブリア・ヘブライカ・シュトゥットガルテンシア』(略称BHS)のヘブライ語本文中において、神の名前を示すヘブライ語の四文字語יהוה(YHWH)は6,828回使用されているが、新世界訳聖書は、裁き人(士師記)19章18節以外の箇所においてこれを「エホバ」と訳している。また、『セプトゥアギンタ訳聖書』の読みに倣い、申命記30章16節、サムエル第二15章20節、歴代第二3章1節でも四文字語を復元し、これを「エホバ」と訳している。また、BHK・BHSの脚注に基づき、イザヤ34章16節とゼカリヤ6章8節の1人称単数代名詞を「エホバ」と訳している。さらにマソラやソフェリムによって神名が修正された141カ所において四文字語を復元し、これを「エホバ」と訳している。[9]
  • ギリシャ語聖書(新約聖書)中においても、ギリシャ語聖書の27のヘブライ語訳に基づいて237箇所に神名を復元し、これを「エホバ」と訳している[10]
  • 他の翻訳で「十字架」と訳されているギリシャ語σταυρος(スタウロス)を「苦しみの杭」、ギリシャ語ξυλον(クシュロン)を「」と訳している[11]
  • 他の翻訳で「地獄」や「陰府」と訳されているヘブライ語שאול(シェオール)、ギリシャ語αδης(ハーイデース)を「シェオル」、「ハデス」と音訳し[12]、ギリシャ語γεεννα(ゲエンナ)を「ゲヘナ[13]、ギリシャ語ταρταρω(タルタローサス)を「タルタロス」と音訳している[14]
  • 他の翻訳で「」・「」・「」とさまざまに訳されるヘブライ語נפש(ネフェシュ)、ギリシャ語ψυχη(プシュケー)を一貫して「」と訳している[15]
  • 他の翻訳で「再臨」・「再来」・「来ること」と訳されるギリシャ語παρουσία(パルーシア)を「臨在」と訳している[16]
  • 他の翻訳で「会堂」・「会衆」・「教会」と訳し分けられるヘブライ語קהל(カーハール)、ギリシャ語εκκλησια(エックレーシア)を一貫して「会衆」と訳している。[17]
  • 他の翻訳で「」と訳されるギリシャ語αιων(アイオーン。字義、時代・存在の期間の状態)を「事物の体制」と訳し、ギリシャ語κοσμος(コスモス。「世界」の意)と訳し分けている。[18]
  • ヘブライ語聖書の底本はルドルフ・キッテルの『ビブリア・ヘブライカ』(BHK、第7版、8版、9版)に載せられたレニングラード写本B19Aである。1985年版の研究資料を準備するため、『ビブリア・ヘブライカ・シュトゥットガルテンシア』(BHS、1977年版)が用いられた。また、ドイツ聖書協会が1935年に発行した『ギリシャ語セプトゥアギンタ』からの翻字も含まれている。[19]
  • ギリシャ語聖書の底本はウェストコットとホートの『ギリシャ語原語による新約聖書』(1881年版)である。イエズス会の学者ホセ・マリア・ボーベルおよびフランシスコ・カンテラ・ブルゴス編『聖書』(1943年)、アウグスティヌス・メルク編『聖書』(1948年)、聖書協会世界連盟発行『ギリシャ語新約聖書(The Greek New Testament)』(1975年)、『ギリシャ語新約聖書(Novum Testamentum Graece)』(1979年)などの、他のギリシャ語本文も参考にされた。シリア語ペシタ訳』(1826年版、ならびに聖書協会世界連盟による再版、1979年)、ラテン語ウルガタ訳聖書』(ウュルテンベルク聖書出版社、1975年版)も参考にされた。[20]
  • 全巻は横組みで、章と節は「ジェームズ王欽定訳」の章節番号に従っている。普通版には上部に見出し、中央に参照聖句が記され、巻末に聖書語句索引と付録が付いている。参照資料付き聖書には下部に欄外脚注が載せられている。2013年現在、「マタイによる書」のみ参照聖句・欄外脚注なしの縦組み本が存在する。
  • 外典(間約聖書、旧約聖書続編)は含まない。

論争[編集]

  • 伝統的諸教会は一般的に、エホバの証人をキリスト教における異端、またその本書を改竄された聖書であると考えている。そのため、本書の訳文の是非を巡って多くの論争が提起されてきた。
  • 主要な論点となるのは「三位一体」についてのテーマである。伝統的諸教会は三位一体の論理に基づいて「キリストは神性を備えており神ご自身である」「聖霊もまた、人格を持つ存在で、神性を持つ神ご自身である」と考えるが、エホバの証人は「キリストは神性を備えてはいるが神ご自身ではなかった[21]」、「聖霊は人格的なものではなく、神の活動力である[22]」と論じる。
  • 聖書の箇所ごとについての論争
    • ヨハネ 1:1:「初めに言葉がおり,言葉は(God)と共におり,言葉は神(a god)であった。(新世界訳、括弧は英語版、下線は日本語版原文)」……エホバの証人は「言葉はとともにおり」の「(テオン)」には冠詞(トン)があり、「言葉は神(テオス)であった」の「神」には冠詞がないことを重視。後半部分を「言葉(イエス・キリスト)は神のようなものであった」[23]と主張する。一方、伝統的諸教会は冠詞の有無によって区別されないとし、「言葉」はイエス・キリストを指し、このイエス・キリストが神と呼ばれていると解釈する[24][25]。さらに、ヨハネの福音書において、1:6、1:18(前半)等16箇所においての「神(エホバ)」について、冠詞がないことも指摘する。
    • これについて、エホバの証人は、「神」という称号はエホバ固有のものではなく、ヘブライ語聖書ではイエス(イザヤ9:6)やみ使い(詩編8:5)、ギリシャ語聖書では悪魔サタンにも用いられており(コリント第二4:4)、しかもヘブライ語エールには冠詞がない("God"と"a god"の区別がない)ため、福音書筆者がヘブライ語聖書から引用して「言葉」(イエス)を「神(God)」と呼んでも問題なく、それがエホバとイエスが同格だという意味ではない、と考えている。[26]また、西暦初期のギリシャ語を翻訳した古代コプト語訳のヨハネ1:1が、新世界訳と同様に訳していることにも注目している。[27]
  • 聖書の翻訳において特に問題となるのは神とキリストとが平行して言及されている箇所の訳し方である。ギリシャ語には「AとB」という表現が「AであるB」と読みうるという文法上の問題がある。それは「神とキリスト」という表現が「神であるキリスト」と読みうることを意味している。このような問題を生じさせているすべての句において本書は「神とキリスト」の読みを採用した。[28]
    • テサロニケ第二1:12においては本書と新共同訳聖書口語訳聖書が「神とキリスト」の読みを採用し、新改訳聖書が「神であるキリスト」の読みを採用している。
    • ペテロ第二1:1においては本書と新共同訳聖書口語訳聖書が「神とキリスト」の読みを採用し、新改訳聖書が「神であるキリスト」の読みを採用している。
    • テトス2:13においては本書と「新アメリカ聖書」(英語)、「現代英語の新約聖書」(英語)が「神とキリスト」の読みを採用し、「新共同訳聖書」と「口語訳聖書」と「新改訳聖書」が「神であるキリスト」の読みを採用している。
      • 伝統的諸教会は一般的に、聖書がキリストの神性に言及している箇所(ヨハネ1:1、あるいは上述の句など)について、「本書の訳文は改竄されており、キリストの神性を否定する異端的な内容に書き換えられている」との批評を述べる[29]
      • 一方、エホバの証人は、上記の訳は本書固有の訳ではなく、上述のように旧約聖書でイエスも「神」と呼ばれているので、そのような問題はないと論じている。そもそも、どちらの訳し方が正しくても、上記の聖句から「聖霊が神である」という結論は得られないため、エホバの証人からすれば、上記の聖句から三位一体は成立しえないのである。

付録[編集]

普通版には聖書の各書の一覧表、重要語句索引、「話し合いのための聖書の話題」、原語の説明、地図などが付録として載せられている。

参照資料つき版(脚注つき)には聖書(重要)語句索引、脚注語句索引、付録としてエホバの名の説明、聖書の原語の音訳他、生命の状態、聖句の説明、神とキリストの違い、他換算表、地図と図表、などがある。

他の版[編集]

  • 2013年10月現在、(点字・手話を含め)122の言語で2億083万部以上発行[30][31]

全訳版:アフリカーンス語アラビア語アルバニア語アルメニア語イタリア語イボ語イロカノ語インドネシア語英語点字版あり)、エフィク語オセット語オランダ語韓国・朝鮮語キニャルワンダ語ギリシャ語キルギス語キルンジ語グルジア語クロアチア語コーサ語サモア語ショナ語シンハラ語スウェーデン語ズールー語スペイン語点字版あり)、スラナン語スロバキア語スロベニア語スワヒリ語セソト語セブアノ語セルビア語セルビア語(ローマ字)、タガログ語チェコ語チェワ語中国語簡体字)、中国語繁体字)、ツォンガ語ツワナ語デンマーク語ドイツ語トウィ語(アクアペム)、トウィ語(アサンテ)、トルコ語日本語ノルウェー語ハンガリー語フィンランド語フランス語ブルガリア語ペディ語ベンバ語ポーランド語ポルトガル語点字版あり)、マケドニア語マダガスカル語マルタ語ヨルバ語リンガラ語ルーマニア語ロシア語

部分訳:アゼルバイジャン語アゼルバイジャン語(キリル文字)、アムハラ語、イタリア語点字版、ウクライナ語ウズベク語エウェ語エストニア語、オテテラ語、カオンデ語カザフ語ガンダ語カンナダ語カンボジア語キリバス語キルバ語グアラニー語グン語コンゴ語サンゴ語ソロモン諸島ピジン語タイ語タタール語タミール語チルバ語ツバル語ティグリニャ語トゥンブカ語トク・ピシン語トンガ語(Chitonga)、トンガ語(Tongan)、ネパール語ハイチ・クレオール語パピアメント語(クラサオ)、パンガシナン語パンジャーブ語ヒリガイノン語ヒリモツ語ヒンディー語フィジー語ベトナム語ヘブライ語ベンダ語マヤ語マラヤーラム語ミャンマー語ラトビア語リトアニア語ルバレ語ロジ語ワライ語

DVDアメリカ手話、イタリア手話、韓国手話、コロンビア手話、ブラジル手話、メキシコ手話、ロシア手話

日本語版には、普通版、ソフトカバー版、ソフトカバーポケット版、大文字版(分冊)、参照資料付き版、デラックス版、デラックスポケット版、コンパクト・ディスクMP3版、インターネットダウンロード版、ウェブ版、デイジー図書CD版、デイジー図書DVD版がある。また、本書を収録した聖書研究ソフトウェアとして、Watchtower Library、Watchtower Library Mobile、ものみの塔オンライン・ライブラリ(エホバの証人の公式ウェブサイト)がある。

参考資料[編集]

  1. ^ 『聖書全体は神の霊感を受けたもので,有益です』,「研究7-現代の聖書」, 320-327ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  2. ^ JW Library
  3. ^ 『新世界訳聖書—参照資料付き』序文,6-12ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  4. ^ 『聖書から論じる』, 「新世界訳」, 245ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  5. ^ オンライン聖書(英語)(エホバの証人の公式ウェブサイト[英語])
  6. ^ 年次総会の報告2013(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  7. ^ オンライン聖書(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  8. ^ 『キリストの神性と三位一体』100ページ(いのちのことば社)
  9. ^ 『新世界訳聖書―参照資料付き』付録1イ, 1753-1754ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  10. ^ 『新世界訳聖書―参照資料付き』付録1ニ, 1756-1758ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  11. ^ 『新世界訳聖書―参照資料付き』付録5ハ, 1769-1770ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  12. ^ 『新世界訳聖書―参照資料付き』付録4ロ, 1766ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  13. ^ 『新世界訳聖書―参照資料付き』付録4ハ, 1766-1767ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  14. ^ 『新世界訳聖書―参照資料付き』付録4ニ, 1767ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  15. ^ 『新世界訳聖書―参照資料付き』付録4イ, 1765-1766ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  16. ^ 『新世界訳聖書―参照資料付き』付録5ロ, 1768-1769ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  17. ^ 『聖書に対する洞察』第1巻、515-519ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  18. ^ 『聖書に対する洞察』第1巻、1084-1085ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  19. ^ 『新世界訳聖書―参照資料付き』,「序文」, 6ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  20. ^ 『新世界訳聖書―参照資料付き』,「序文」, 6-11ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  21. ^ 「聖書は実際に何を教えていますか」付録 「父,子,聖霊に関する真理」(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  22. ^ 「ものみの塔」2013年11月1日号,5ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  23. ^ 「ものみの塔」2009年4月1日, 18-19ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  24. ^ 「ものみの塔の新世界訳聖書は改ざん聖書」
  25. ^ 「新世界訳聖書の実像」
  26. ^ 「聖書に対する洞察」第1巻、602-605ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  27. ^ 「ものみの塔」2008年11月1日, 24ページ(エホバの証人の公式ウェブサイト)
  28. ^ 「ものみの塔の新世界訳聖書は改ざん聖書」
  29. ^ 「ものみの塔の新世界訳聖書は改ざん聖書」
  30. ^ 『新世界訳聖書』2013年英語改訂版PDF、4ページ参照(エホバの証人の公式ウェブサイト[英語])
  31. ^ 年次総会の報告2013―121の言語(エホバの証人の公式ウェブサイト)