いかけ屋

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いかけ屋(いかけや)は、上方落語の演目の一つ。『いかけや』『鋳掛屋』とも表記。歴代桂春團治のお家芸として知られる。

この項では成立期の演題である山上詣り(さんじょうまいり)についても記述する。

概要[編集]

いかけ屋(『守貞謾稿』より)

いかけ屋(道端で店を出し、壊れた鍋、釜などの鋳物製品を溶接によって修理する業者)と町場の悪童たちとのやりとりを描いた噺。いかけ屋は溶接の際ふいごを用いるが、ふいごのおもしろさから子どもたちにからかわれてしまって仕事にならない[1]

成立[編集]

もともとは『山上詣り』(『大山詣り』とは異なる)という、二場構成の噺の前半部分である。前半はいかけ屋が主人公であるが、後半はうなぎ屋が主人公となる。

「山上詣り」とは、山伏に似た服装で大峰山蔵王権現へ参詣する旅行者を指した呼び名であるが、戦後までに、この風習が廃れたことと、登場人物が急変するなど、筋の運びに無理があることから、うなぎ屋の場面はほとんど演じられなくなった。すべての部分の口演は初代桂春團治2代目桂小南らの録音が残されている。

春團治一門と『いかけ屋』[編集]

  • 初代春團治は、尊敬する2代目桂米喬の十八番だった『いかけ屋』を自身もやってみようと、この噺を知っている後輩の桂麦團治(のちの4代目桂文團治)に声をかけて教えてもらった。ただし教わったのは大まかな筋だけで、あとは初代春團治が独自のくすぐりを入れて全く違う噺にしてしまった。麦團治は「ワシが得意にしてたのに、向こうの方がおもろいねん。えらい損や」とこぼしたが、彼は2代目春團治3代目春團治にも教え、晩年は「春團治三代に『いかけ屋』教えたンやで」と誇りにしていた。
  • 2代目春團治は、3代目襲名公演の際、会場の角座で『いかけ屋』を演じ、中継放送を行ったが、録音が現存していない。

あらすじ[編集]

いかけ屋と悪童[編集]

いかけ屋が商売の準備のため、火を起こしているところに、近所の悪童たちが「いかけ屋のオッタァーン」と奇声をあげてやってくる。悪童たちはいかけ屋を取り囲み、「オッタン。そのプウプウ火ィ起こしてンのは、どういう目的や?」と問う。いかけ屋が「カネを湯ゥに沸かしてる(いかけに使う金属を溶融している)んや」と答えると、ある子は「オッタン、造幣局か?」などと言ってとぼける。悪童たちは他にも「あんさんは、細君(妻)がおわすか?」「お子さんは若子(わこ)さん(=男の子)でやっか? 姫御前(ひめごぜ=女の子)でやっか?」などと、次々と下らない質問をしてからかっては、いかけ屋の反応を楽しむ。

そこへさらに「悪ガキの大将」と称される少年が来て「こら、おやじ!」。いかけ屋は気にさわり、「そういうものの言い方するもんやないで。もっと『おっちゃん』とか『オッタン』とか、可愛らしゅう言わんかい」と叱るが、悪ガキの大将は「何ぬかしやがンねん。このヘタ」と平気なものである。「人間にヘタがあってたまるかい。何の用じゃアホンダラ」と、いかけ屋が聞けば、悪ガキの大将は「石ほじくる(または「塀に穴あける[注釈 1]」)さかい、カナヅチ貸せ」という。「そんなもんに貸せるかい。貸したる代わりにな、家帰って、おのれとこの鍋釜の底に、ボーンボーンと、穴あけて来い!」「そんなことしたら、お父っつぁん、お母ん、怖いがな」「それくらいのこともできんで、一人前の悪さになれるか。おっちゃんがおまえらの頃は、カナヅチ持って、よう鍋釜の底に穴あけとったわい」「ははあ、そンで、大きゅうなって(成長して)直しに回ってんのンか」。いかけ屋は完全にやり込められる。

「貸せ。貸せ言うとんのじゃい。貸さんかったら火ィ消すぞ」「おっちゃんが苦労しておこした火、どないして消すねん」「へへへ。ションベン(小便)で消したろか」「ぬかしやがったなこのガキ。消せるもんやったら消してみい」「ああ。何でもないこっちゃ。おい、市松ちゃんに、虎ちゃんに、みな来い。みな来い」悪童たちは炉に向かって、一斉に小便を始める。

「あああ、ホンマに消しやがった!」

いかけ屋の嘆きをあとに悪童たちは次の標的、うなぎ屋をめざして駆けて行くのであった。

うなぎ屋と山上詣り[編集]

屋台のうなぎ屋は、悪童たちを見つけるなり「こらっお前やな。この間、300円と500円の値札を張り替えた奴は。看板を『ヘビ屋』に書き換えたんはお前か。おい、タレに指を突っ込むな」と叱るのに忙しい。そこへ山伏のような服装をした男が現れ、「うなぎ君、君の持っているのは何かね」「どうぞ、なぶらんように。これはウチワですが」「何、ウチワ? そらおかしいなあ、ここは外じゃ。外なら『ソトワ』、いうのじゃないか。ぐうとでもいえますか」「へえ。ぐう」「ああ、静かにしなされ、さいなら」

子供ばかりか、大人にまでからかわれたうなぎ屋が悔しがっていると、居合わせた人が「お前そんなら、『お前山伏か。山伏なら、山行け間抜けが。里歩いたらサトブシやないか』。こう言うたれ」と言う。うなぎ屋が男を追っかけて「山伏なら、山行け」と言うと「わしゃ、山伏やない」と言う。続きが言えなくなったうなぎ屋はとっさに質問する。

「ほんならそのナリ(服装)はなんじゃい」「わしゃ、山上詣りや」「ああ。……ごきげんようお参り」(山で行き交う参詣人同士の挨拶のパロディ)。

バリエーション[編集]

  • うなぎ屋の場面のサゲは、山伏にかけて「どおりで、ホラ吹きやがった」というものもある(ホラガイほら話をかけている)。

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 2代目桂小南のバージョン

出典[編集]

参考文献[編集]

  • 高橋啓之 『落語登場人物辞典』 東京堂出版、2005年9月。ISBN 4-490-10667-X。