のぞみ34号重大インシデント

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
新幹線N700系電車 > のぞみ34号重大インシデント
のぞみ34号重大インシデント
発生日 2017年12月11日
日本の旗 日本
場所 名古屋駅
路線 東海道山陽新幹線
運行者 西日本旅客鉄道
事故種類 重大インシデント
原因 台車の亀裂
統計
死者 なし
負傷者 なし
その他の損害 12月17日まで名古屋駅14番線が閉鎖
テンプレートを表示

のぞみ34号重大インシデントでは、2017年(平成29年)12月11日東海道山陽新幹線のぞみ34号で発生した重大インシデントについて詳説する。

概要[編集]

2017年12月11日、「のぞみ34号」(博多駅13時33分発東京駅行き)で運転中のN700系5000番台K5編成(西日本旅客鉄道(JR西日本)博多総合車両所所属、川崎重工業製)にて、13時50分ごろ、小倉駅発車後に車内に異臭がするのを担当乗務員が発見し、岡山駅でJR西日本・博多総合車両所岡山支所の車両保守の係員が添乗して確認したところ、編成の一部でモーターの異音を認識、係員が「次の駅で列車を止めて点検したらどうか」と提案したものの、東京・新幹線総合指令所の輸送指令が「運行に影響なし」と判断し、そのまま運転を続行した。その後、新大阪駅で乗務員が東海旅客鉄道(JR東海)の乗務員に交代し、JR東海の輸送指令が「念のため」と異臭の確認指示を出したところ、車掌京都駅を過ぎたところで異臭を報告したため、名古屋駅14番線ホームに到着後、JR東海・名古屋車両所の係員が床下の点検を行った(17時3分ごろ)。その結果、13号車(東京駅側から4両目、車両番号785-5505)東京寄りの台車周辺(歯車箱付近)に油漏れを発見。当該編成は名古屋駅での運転中止を決定、乗客は全員、後続便に振り替えた[1]

その後、さらに車両を調べたところ、13号車東京寄りの動力台車にある「WN継手三菱電機製)」が焦げたように変色し、ギアボックス(新日鉄住金製)には油が付着、また台車の枠組み部分(JFEスチール製鋼材)に亀裂が発見された[2][3]

12月12日、JTSB(国土交通省運輸安全委員会)は、脱線事故に繋がる危険性があると判断。この案件を新幹線鉄道としては史上初の「重大インシデント」として認定した[4][5][6][7]

車両の回送[編集]

この事故を受けて閉鎖された名古屋駅14番線を再開させるには、車両を3 km西にあるJR東海・名古屋車両所回送しなければならないが、亀裂の入った台車のまま3 kmの距離を回送させると脱線の危険があることから、JR東海は、名古屋駅にて以下の工程で3日間かけて台車を交換した上で回送することとした[8]

  • 12月14日終電後:16 - 14号車を切り離し、牽引用として用意した別のN700系と連結させて15番線経由で名古屋車両所に移動。
  • 12月15日終電後:13号車をクレーンで釣り上げ、亀裂が入った13号車東京寄りの台車を浜松工場から持ち込んだ別の台車に交換。亀裂が入った台車は、モーター類を気泡緩衝材で梱包し、JR西日本が手配したトラックに載せ博多総合車両所へ輸送(12月17日到着)。
  • 12月17日終電後:13 - 1号車を名古屋車両所まで自走。

台車に生じた亀裂[編集]

12月19日、JR西日本は電動台車の「側梁(そくばり)」(鋼材製、断面は幅16 cm、高さ17 cmのほぼ正方形。鋼材は厚さ8 mmで中空、内部に2枚の補強材[9])外枠の亀裂は枠の内側と外側の面でそれぞれ下から約140 mm、亀裂の幅は最大13 mmに及び、底部でつながってコの字形になっており、17 cmある鋼材の側面高さの大半の14 cmに達していたことを発表[10]。残り3 cmで完全に破断し、大事故に発展する恐れがある「破断寸前」の状態であった。記者会見したJR西日本の吉江則彦副社長兼鉄道本部長は「脱線など非常に大きな事故に至った可能性があった」「途中駅で止めて点検すべきだった。大きな課題だ」との認識を示し、「新幹線の安全性に対する信頼を裏切るものである」と謝罪した[10][11][12]

2018年2月24日、問題の台車が、台車枠の強度が基準を下回っていた可能性があると報道された。台車枠組み立ての鋼材溶接の際、溶接部位の厚さが設計で定められており、厚さを一定にするために鋼材を削って調整していたとみられる[13]

運輸安全委員会の報告[編集]

2018年6月28日、運輸安全委員会は調査の経過報告を公表し[14]、国土交通大臣に意見を提出した[15]。この報告によると、台車の空気ばねの内圧を解析した結果、前日の運行時から台車の亀裂が進行していたことが判明した。また、再現実験の結果、規定通りであれば亀裂が35年程度で底面の角に達するのに対し、川崎重工業が実際に行った鋼材切削作業の場合、この案件の台車のようであれば5年程度で亀裂が進行してしまうことが明らかとなった。さらに、この台車の製造時において、肉盛溶接後に本来行うべき熱処理が行われた形跡がないため、溶接の熱で生じたひずみが部材に残り、そのひずみが台車に加わる力を歪ませた結果、亀裂の進行を大きくしてしまった可能性を示唆した。このほか、報告では台車の見えない部分からの非破壊検査と、走行中の異常検知・伝達システムの確立も求めた[16]

各社の対応[編集]

JR[編集]

JR西日本は2017年12月16日付けで社長を委員長とする「新幹線安全性向上委員会」を立ち上げた[10]

2018年1月5日、JR西日本の来島達夫社長は会見にて、自身の月額報酬を返上するなど、役員12人の社内処分と、人事異動を発表した[17][18]

2018年2月28日、JR西日本は問題の台車の調査結果を公表し、超音波探傷装置や台車温度検知装置などを活用し、安全の確保に努めると発表した[19][20][9][21]。また川崎重工業も、台車製造工程において、現場の班長の指示ミス・確認ミスが原因であることを発表した[22][23]

JR東海によると、当該編成が当日「のぞみ15号」(東京駅8時10分発博多駅行き)で運行した際、小田原市酒匂川豊橋市豊川にある橋梁に設置した赤外線センサー式の「台車温度検知装置」が、台車の「継手」の温度上昇を記録していたことが報道された。この温度上昇は当時の基準の範囲内で警報が出なかったが、JR東海は台車亀裂問題の発覚後に、検知の基準値を下げる対策を行った。その前日の運行では温度上昇は見られなかった。台車温度検知装置はJR東海が開発して2015年7月に導入したが、JR西日本管轄の山陽新幹線区間では設置されていなかった[24][25]が、2018年6月29日に、JR西日本が山陽新幹線区間の5か所にこの装置を設置することが決まっていることが報道された[26]

川崎重工業[編集]

2018年9月28日、川崎重工業はこのインシデントについて「全社品質管理委員会」の調査結果と再発防止策を公表した。石川主典副社長は、台車製造時に規定に反して鋼材が薄く削られていたことについて、担当者が「鋼材の削り込みを禁じる」注意事項を現場に説明していなかったことを明らかにした[27]一方で、作業内容についての明確な記録や当時の作業員の記憶がなく、原因究明が徹底できなかった[28]。この社内の管理体制の甘さと現場任せの作業姿勢に対し、神戸新聞は9月29日に「情報が社内で共有されていなかったことに起因する構造的な問題で、会社全体が風通しの良い組織になる必要がある」と社説を掲載した[29]

出典[編集]

  1. ^ “のぞみの台車、走行中に亀裂か 異臭後も3時間停車せず”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2017年12月13日). オリジナルの2017年12月15日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20171215071203/http://www.asahi.com/articles/ASKDF5SQBKDFPTIL02G.html 2018年2月26日閲覧。 
  2. ^ “新幹線のぞみ、台車に亀裂 初の重大インシデント認定”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2017年12月12日). オリジナルの2017年12月12日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20171212142006/http://www.asahi.com/articles/ASKDD6FCWKDDUTIL06B.html 2018年2月26日閲覧。 
  3. ^ 神戸新聞NEXT (2017年12月20日). “新幹線台車亀裂 製造の川重「調査に全面協力」”. 神戸新聞 (神戸新聞社). オリジナルの2017年12月20日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20171220191228/https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201712/0010832675.shtml 2018年2月26日閲覧。 
  4. ^ 平成29年12月11日に西日本旅客鉄道株式会社 東海道新幹線で発生した重大インシデント[車両障害]”. 運輸安全委員会. 国土交通省 (2017年12月11日). 2018年2月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年2月26日閲覧。
  5. ^ 冷泉 彰彦 (2017年12月14日). “新幹線「重大インシデント」はなぜ起きたのか”. 東洋経済オンライン. 東洋経済新報社. 2017年12月13日(UTC)時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年2月26日閲覧。
  6. ^ “のぞみ亀裂のまま走行3時間……新幹線初「重大インシデント」 JR西N700系”. ITmedia NEWS. 産経新聞 (ITmedia). (2017年12月14日). オリジナルの2017年12月13日(UTC)時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20171213232748/http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1712/14/news052_2.html 2018年2月26日閲覧。 
  7. ^ 澤田晃宏 (2017年12月14日). “年末年始は大丈夫か 新幹線初の重大インシデント 「人手不足で亀裂見逃す?」と専門家”. AERA dot.. 2017年12月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年2月26日閲覧。
  8. ^ “台車亀裂の新幹線、クレーンで修理 16日以降に復旧か”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2017年12月14日). オリジナルの2017年12月14日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20171214113405/http://www.asahi.com/articles/ASKDG574DKDGOIPE01F.html 2018年2月26日閲覧。 
  9. ^ a b “【別紙2】台車枠き裂の発生状況・き裂発生部付近の状況” (日本語) (PDF) (プレスリリース), 西日本旅客鉄道, (2018年2月28日), オリジナルの2018年2月28日時点によるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20180228162112/http://www.westjr.co.jp/press/article/items/180228_02_nozomi.pdf 2018年3月7日閲覧。 
  10. ^ a b c “新幹線車両の台車に亀裂などが発見された重大インシデントについて” (日本語) (プレスリリース), 西日本旅客鉄道, (2017年12月19日), http://www.westjr.co.jp/press/article/2017/12/page_11639.html 2018年2月26日閲覧。 
  11. ^ “のぞみ台車、破断寸前 異常覚知後も走行 JR西が謝罪”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2017年12月20日). オリジナルの2017年12月20日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20171220075215/https://www.asahi.com/articles/DA3S13281404.html 2018年2月26日閲覧。 
  12. ^ “亀裂44センチ、破断寸前=のぞみ台車、脱線恐れも-JR西副社長が陳謝”. 時事通信 (時事通信社). (2017年12月19日). https://www.jiji.com/jc/article?k=2017121901070 2018年2月26日閲覧。 
  13. ^ “のぞみ台車亀裂は強度不足 製造段階で溶接不備か”. 神戸新聞NEXT (神戸新聞社). (2018年2月24日). オリジナルの2018年2月24日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180224001123/https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201802/0011013132.shtml 2018年2月25日閲覧。 
  14. ^ 鉄道重大インシデントの経過報告について (PDF)”. 運輸安全委員会 (2018年6月28日). 2018年6月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年9月9日閲覧。
  15. ^ 東海道新幹線において発生した西日本旅客鉄道株式会社所属車両の鉄道重大インシデント(車両障害)に係る意見について (PDF)”. 運輸安全委員会 (2018年6月28日). 2018年6月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年9月9日閲覧。
  16. ^ “のぞみ台車亀裂 検査体制、異常検知の強化要求 運輸安全委”. 神戸新聞 (神戸新聞社). (2018年6月29日). オリジナルの2018年6月29日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180629211152/https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201806/0011396670.shtml 2018年9月9日閲覧。 
  17. ^ “役員の報酬返上などについて” (日本語) (プレスリリース), 西日本旅客鉄道, (2018年1月5日), http://www.westjr.co.jp/press/article/2018/01/page_11707.html 2018年2月25日閲覧。 
  18. ^ “役員などの異動について” (日本語) (プレスリリース), 西日本旅客鉄道, (2018年1月5日), http://www.westjr.co.jp/press/article/2018/01/page_11704.html 2018年2月26日閲覧。 
  19. ^ “新幹線台車の安全確保について” (日本語) (プレスリリース), 西日本旅客鉄道, (2018年2月28日), オリジナルの2018年2月28日時点によるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20180228095409/https://www.westjr.co.jp/press/article/2018/02/page_11962.html 2018年3月7日閲覧。 
  20. ^ “【別紙1】概況・台車の損傷状況” (日本語) (PDF) (プレスリリース), 西日本旅客鉄道, (2018年2月28日), オリジナルの2018年2月28日時点によるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20180228162351/http://www.westjr.co.jp/press/article/items/180228_00_nozomi.pdf 2018年3月7日閲覧。 
  21. ^ “【別紙3】 異音・異臭の発生に至った推定メカニズム” (日本語) (PDF) (プレスリリース), 西日本旅客鉄道, (2018年2月28日), オリジナルの2018年2月28日時点によるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20180228161948/http://www.westjr.co.jp/press/article/items/180228_03_nozomi.pdf 2018年3月7日閲覧。 
  22. ^ “N700系新幹線車両台車枠の件” (日本語) (PDF) (プレスリリース), 川崎重工業, (2018年2月28日), オリジナルの2018年3月1日時点によるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20180301033049/http://www.khi.co.jp/news/C3180228-1.pdf 2018年3月7日閲覧。 
  23. ^ 新幹線台車亀裂と日航機事故にある共通点”. 政治・社会. プレジデント社 (2018年3月7日). 2018年3月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年3月7日閲覧。
  24. ^ 毎日新聞2018年3月7日朝刊30面
  25. ^ “のぞみ亀裂:事前に発熱検知 折り返し前、小田原と愛知で”. 毎日新聞 (毎日新聞社). (2018年3月7日). オリジナルの2018年3月6日時点によるアーカイブ。. http://archive.today/2018.03.06-215202/https://mainichi.jp/articles/20180307/k00/00m/040/131000c 2018年3月7日閲覧。 
  26. ^ “走行中に車両の不具合を自動点検 JR西が順次設置”. 神戸新聞 (神戸新聞社). (2018年6月29日). オリジナルの2018年6月29日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180629171035/https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201806/0011400658.shtml 2018年9月9日閲覧。 
  27. ^ “新幹線台車亀裂、品質管理に弱さ 川崎重工、現場判断に依存”. 神戸新聞 (神戸新聞社). (2018年9月28日). オリジナルの2018年10月6日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20181006194700/https://www.kobe-np.co.jp/news/zenkoku/compact/201809/0011682744.shtml 2019年1月26日閲覧。 
  28. ^ “のぞみ台車亀裂 川重「作業員の記憶ない」社内調査は消化不良に”. 神戸新聞 (神戸新聞社). (2018年9月28日). オリジナルの2018年10月6日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20181006194713/https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201809/0011684294.shtml 2019年1月26日閲覧。 
  29. ^ “川重再発防止策/風通しの良い組織風土に”. 神戸新聞 (神戸新聞社). (2018年9月29日). オリジナルの2018年10月6日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20181006154907/https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201809/0011684438.shtml 2019年1月26日閲覧。