アリオラムス

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アリオラムス
生息年代: 白亜紀後期, 70 Ma
Texas Alioramus.jpg
骨格
地質時代
白亜紀後期(約7000万年前)
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 竜盤目 Saurischia
亜目 : 獣脚亜目 Theropoda
下目 : テタヌラ下目 Tetanurae
階級なし : コエルロサウルス類 Coelurosauria
上科 : ティラノサウルス上科 Tyrannosauroidea
: ティラノサウルス科 Tyrannosauridae
: アリオラムス族 Alioramini
: アリオラムス属 Alioramus
学名
Alioramus
Kurzanov, 1976
  • Alioramus remotus Kurzanov, 1976模式種
  • Alioramus altai Brusatte et al.2009

アリオラムス学名:Alioramus)は、中生代白亜紀後期の現モンゴルに生息していたティラノサウルス科に属する獣脚類恐竜の属。模式種アリラムス・レモトゥスは、約7000万年前に湿潤な氾濫原に堆積したモンゴルの流送土砂から発見された部分的な頭骨と3本の中足骨で知られる。標本はソビエト連邦の古生物学者セルゲイ・クルザノフにより1976年に記載・命名された。第2の種であるアリオラムス・アルタイはさらに完全な骨格で知られ、2009年にスティーブン・ルイス・ブルサッテにより記載・命名された。他のティラノサウルス科恐竜との関係性は定かではないが、同時期のタルボサウルスと最も近縁とする仮説を支持する証拠がある。

アリオラムスは既知の全ての獣脚類と同じく二足歩行の動物であり、鋭利な歯から肉食性であったことが示されている。アリオラムスの種はいずれもタルボサウルスやティラノサウルスといった他のティラノサウルス科よりも小型であるが、アリオラムスの種は幼体と亜成体の骨のみから知られているため、成体の体躯の推定は容易でない。キアンゾウサウルスの発見により、ティラノサウルス上科の別個の枝にいることが示唆された[1]。鼻先の最上部に沿って存在する骨質の5つの突起、他のティラノサウルス科よりも遥かに本数の多い歯、他のティラノサウルス科よりも縦に薄い頭骨が特徴である。

発見と命名[編集]

サーモポリスのワイオミング州恐竜センターに所蔵された頭骨

アリオラムスのホロタイプ標本 PIN 3141/1 は、部分的な頭骨と3本の中足骨である。1970年代前半に行われたゴビ砂漠へのソビエト - モンゴル国境調査において、モンゴル国バヤンホンゴル県 Nogon-Tsav で発見された。アリオラムスはソ連の古生物学者セルゲイ・クルザノフが1976年に命名・記載した。突起と細い頭骨の輪郭が他のティラノサウルス科から程遠かったため、ティラノサウルス科の他の属から遠く除外された属であるとクルザノフは確信した。属名はラテン語で「他の」を意味する alius と「枝」を意味する ramus に由来し、アリオラムス・レモトゥスの種小名はラテン語で「取り除かれた」を意味する[2]。アリオラムス属はアリオラムス・レモトゥスのホロタイプ[3]とアリオラムス・アルタイから知られる[4]

記載[編集]

アリオラムス・レモトゥスの体躯とヒトの比較

セルゲイ・クルザノフが1976年に最初に記載した際、アリオラムス・レモトゥスは全長5 - 6メートルと推定された[2]。しかし、クルザノフはこの個体の化石化の間に変形で頭骨が伸びたことを補正しなかった。この標本が幼体であれば成体のアリオラムスはさらに全長が大きくなるが、成体と断定された標本は知られていない[3]

アリオラムス・レモトゥスの頭骨は約45センチメートルである[5]。一般に頭骨は長く縦に薄く、巨大なティラノサウルス科の幼体や基盤的ティラノサウルス上科に典型的である。アリオラムス・レモトゥスの鼻先先端の前上顎骨は発見されていないが、前上顎骨が発見されているティラノサウルス上科では縦よりも横に広がっている[3]鼻骨は癒合し、矢状面上で上へ突出した不規則な骨質の5つの突起の列で修飾され、そこで鼻骨は互いに接合している。この突起は全て高さ1センチメートルを超える。

アリオラムス・レモトゥスの復元図

頭骨の背部には nuchal crest と呼ばれる突起が存在し、癒合した頭頂骨から生じている。アリオラムスではタルボサウルスやティラノサウルスと同様に nuchal crest が非常に厚い。アリオラムスの下顎は細長いことがもう1つの幼体の特徴として確認されている[3]。タルボサウルスと同様に下顎の角骨の外側表面の隆起は歯骨の背面と繋がり、2つの骨は固定され、他のティラノサウルス科に見られる柔軟性が失われている[6]。他のティラノサウルス科では前上顎骨の左右両側に断面がD字型の歯が4本存在する。アリオラムス上顎骨にはそれぞれ16本あるいは17本、歯骨にはそれぞれ18本が並び、アリオラムスは他のティラノサウルス科を上回る76 - 78本の歯を持っていた[7]。アリオラムスの頭蓋は基盤的獣脚類と鳥群の中間型である[8]

アリオラムス・レモトゥスの骨格の残りの部位は中足骨を除いて完全に知られていないが、実質的により完全に知られているアリオラムス・アルタイの発見により、本属の解剖学に光が当たっている[4]

分類[編集]

古生物学者は長い間アリオラムスをティラノサウルス上科に分類していたが、何年もの間化石が乏しかったため、正確な分類はアリオラムス・アルタイが発見されるまで行われなかった[3]2003年に発表された系統解析では、ティラノサウルスやタルボサウルスおよびダスプレトサウルスが分類されるティラノサウルス科ティラノサウルス亜科に分類された[9]2004年の研究でもこの結果は支持されたが、幼体の特徴がティラノサウルス上科の基盤的な位置を示唆しているとして、アリオラムスがティラノサウルス科の外に位置付けられる可能性も同様に指摘された[3]。標本が断片的であるためアリオラムスを完全に除外した研究もある[10]。アリオラムス・アルタイが2009年に発見され、ティラノサウルス亜科への位置づけが確定した[4]

アリオラムス・レモトゥスの頭骨のクラドグラム。発見部位は白色
アリオラムス・アルタイの頭蓋内キャスト

歯骨と角骨の固定構造、ダスプレトサウルス以外のティラノサウルス科では失われた涙骨と繋がる鼻骨の突起を含め、アリオラムスとタルボサウルスは頭骨の特徴を複数共有している。2属は近縁であり、アジアにおけるティラノサウルス科の枝を代表する[6][9]。アリオラムスよりも小さいものの、タルボサウルウスの標本には鼻骨に複数のコブを持つものがある。アリオラムス・レモトゥスの唯一知られている細長い頭骨の形状は、アリオラムスが同じ時代と場所に生息したタルボサウルスの幼体である可能性を示唆している。しかし、アリオラムスの鼻骨の突起が卓越していることと歯の本数が多いことから、アリオラムスの標本が幼体のものしか知られていないとしても、両者は分岐した分類群であることが示され[7]、アリオラムス・アルタイの発見で断定された[4]。タルボサウルスと推定される若年個体の標本には、成体のタルボサウルスと同じ本数の歯が並ぶ[11][12]

2013年に Loewen が発表したクラドグラムでは、アリオラムスはティラノサウルス科のすぐ外に位置付けられている[13]



ディロング Dilong TJV 50.JPG




エオティラヌス




バガラアタン




ラプトレックス




ドリプトサウルス Dryptosaurus by Durbed.jpg





アレクトロサウルス Alectrosaurus flipped.png



シオングアンロン Xiongguanlong remains 01.png





アパラチオサウルス Appalachiosaurus montgomeriensis flipped.jpg





アリオラムス・アルタイ



アリオラムス・レモトゥス Alioramus Life Restoration flipped.jpg




ティラノサウルス科 Gorgosaurus flipped.png










しかし、2014年にアリオラムスとよく類似したキアンゾウサウルスの化石が発見されると、アリオラムスの分類に大きな一石が投じられた。キアンゾウサウルスはアリオラムスと似た形質を持ちつつ、年齢は成体にあたることが判明した[14]。ここから、アリオラムスとキアンゾウサウルスはともにアリオラムス族に分類された。アリオラムス属の分類学上の位置は定かではなく、ティラノサウルス亜科に置く意見とティラノサウルス亜科の姉妹群とする意見がある[15]

以下はキアンゾウサウルス記載論文執筆者による最初の分析に基づくクラドグラム[15]

ティラノサウルス科
アルバートサウルス亜科

ゴルゴサウルス



アルバートサウルス



ティラノサウルス亜科
アリオラムス族

キアンゾウサウルス



アリオラムス・アルタイ



アリオラムス・レモトゥス





テラトフォネウス




ダスプレトサウルス




ティラノサウルス



タルボサウルス







古環境[編集]

アリオラムスの化石が発見されたモンゴル国バヤンホンゴル県

Nogon-Tsav の単層はネメグト層と同一のものと考えられている[2]。この層で放射年代測定が行われたことはないが、化石証拠に存在する動物相から白亜紀末のマーストリヒチアンの間に堆積したと推測されている[16]

モンゴルにおけるマーストリヒト階はネメグト層と Nogon-Tsav に保存され、より早い時代を代表しその下を走る Barun Goyot 層およびジャドクタ層に保存された半乾燥環境と比較して湿潤な環境であった。ネメグト層には氾濫原と巨大な河道および土壌堆積物が保存されているが、周期的な干ばつの発生がカリーチ堆積物により示唆されている[17]。この環境で、前の時代よりも多様で一般に巨大な恐竜の動物相が育まれた。化石の詳細は報告されなかったものの、クルザノフは同じ地域で発見されたタルボサウルスやオルニトミモサウルス類およびテリジノサウルス類を報告した[2]。Nogon Tsav の動物相がネメグト層の動物相と類似していれば、トロオドン科獣脚類や堅頭竜類アンキロサウルス科ハドロサウルス科も生息していたと推測される[16]ティタノサウルス科竜脚類もまた、ネメグト層の捕食動物の獲物であった可能性がある[6]

脚注[編集]

  1. ^ Junchang Lü; Laiping Yi; Stephen L. Brusatte; Ling Yang; Hua Li; Liu Chen (7 May 2014). “A new clade of Asian Late Cretaceous long-snouted tyrannosaurids”. Nature Communications 5 (3788): 3788. doi:10.1038/ncomms4788. PMID 24807588. 
  2. ^ a b c d Kurzanov, Sergei M.. “A new carnosaur from the Late Cretaceous of Nogon-Tsav, Mongolia” (Russian). The Joint Soviet-Mongolian Paleontological Expedition Transactions 3: 93–104. 
  3. ^ a b c d e f Holtz, Thomas R. (2004). “Tyrannosauroidea”. In Weishampel, David B.. The Dinosauria (Second ed.). Berkeley: University of California Press. pp. 111–136. ISBN 978-0-520-24209-8. 
  4. ^ a b c d Brusatte, Stephen L.; Carr, Thomas D.; Erickson, Gregory M.; Bever, Gabe S.; Norell, Mark A. (2009). “A long-snouted, multihorned tyrannosaurid from the Late Cretaceous of Mongolia”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 106 (41): 17261–6. doi:10.1073/pnas.0906911106. PMC 2765207. PMID 19805035. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2765207/. 
  5. ^ Currie, Philip J. (2000). “Theropods from the Cretaceous of Mongolia”. The Age of Dinosaurs in Russia and Mongolia. Cambridge: Cambridge University Press. pp. 434–455. ISBN 978-0-521-54582-2. 
  6. ^ a b c Hurum, Jørn H.; Sabath, Karol (2003). “Giant theropod dinosaurs from Asia and North America: Skulls of Tarbosaurus bataar and Tyrannosaurus rex compared”. Acta Palaeontologica Polonica 48 (2): 161–190. 
  7. ^ a b Currie, Philip J. (2003). “Cranial anatomy of tyrannosaurids from the Late Cretaceous of Alberta”. Acta Palaeontologica Polonica 48 (2): 191–226. 
  8. ^ Variation, Variability, and the Origin of the Avian Endocranium: Insights from the Anatomy of Alioramus altai (Theropoda: Tyrannosauroidea). PLOS Collections. doi:10.1371/journal.pone.0023393;jsessionid=B5ED8399160D7F46A7647ADE513F5B9C.ambra01. http://www.ploscollections.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0023393;jsessionid=B5ED8399160D7F46A7647ADE513F5B9C.ambra01 2012年11月9日閲覧。. 
  9. ^ a b Currie, Philip J.; Hurum, Jørn H; Sabath, Karol (2003). “Skull structure and evolution in tyrannosaurid phylogeny”. Acta Palaeontologica Polonica 48 (2): 227–234. 
  10. ^ Carr, Thomas D.; Williamson, Thomas E.; Schwimmer, David R. (2005). “A new genus and species of tyrannosauroid from the Late Cretaceous (middle Campanian) Demopolis Formation of Alabama”. Journal of Vertebrate Paleontology 25 (1): 119–143. doi:10.1671/0272-4634(2005)025[0119:ANGASO]2.0.CO;2. http://www.bioone.org/perlserv/?request=get-abstract&doi=10.1671%2F0272-4634(2005)025%5B0119%3AANGASO%5D2.0.CO%3B2. 
  11. ^ Maleev, Evgeny A. (1955). “New carnivorous dinosaurs from the Upper Cretaceous of Mongolia” (Russian). Doklady Akademii Nauk SSSR 104 (5): 779–783. 
  12. ^ Currie, Philip J. (2003). “Allometric growth in tyrannosaurids (Dinosauria: Theropoda) from the Upper Cretaceous of North America and Asia”. Canadian Journal of Earth Sciences 40 (4): 651–665. doi:10.1139/e02-083. 
  13. ^ Loewen, M.A.; Irmis, R.B.; Sertich, J.J.W.; Currie, P. J.; Sampson, S. D. (2013). Evans, David C. ed. “Tyrant Dinosaur Evolution Tracks the Rise and Fall of Late Cretaceous Oceans”. PLoS ONE 8 (11): e79420. doi:10.1371/journal.pone.0079420. PMC 3819173. PMID 24223179. http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0079420. 
  14. ^ 別冊日経サイエンス『よみがえる恐竜 最新研究が明かす姿』p35,真鍋真
  15. ^ a b Junchang Lü, Laiping Yi, Stephen L. Brusatte, Ling Yang, Hua Li & Liu Chen, 2014, "A new clade of Asian Late Cretaceous long-snouted tyrannosaurids", Nature Communications 5, Article number: 3788 doi:10.1038/ncomms4788
  16. ^ a b Jerzykiewicz, Tomasz; Russell, Dale A. (1991). “Late Mesozoic stratigraphy and vertebrates of the Gobi Basin”. Cretaceous Research 12 (4): 345–377. doi:10.1016/0195-6671(91)90015-5. 
  17. ^ Osmólska, Halszka (1997). “Nemegt Formation”. In Currie, Philip J.. The Encyclopedia of Dinosaurs. San Diego: Academic Press. pp. 471–472. ISBN 978-0-12-226810-6.