アルコールハラスメント

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アルコールハラスメント和製英語: alcohol harrassment)とは、主に、飲酒を強要すること(つまり酒類を飲むことを強要すること)。また、飲めない人への配慮を欠くこと。広義には酔って行うさまざまな迷惑行為を含む。それらをまとめて指すための和製英語。略称はアルハラ

概説[編集]

定義[編集]

アルコールハラスメントは、アルコール飲料に関する嫌がらせを意味する用語・概念として用いられている和製英語である[1]

この問題に関する日本の代表的な組織である特定非営利活動法人アルコール薬物問題全国市民協会(ASK)は、アルハラに当たる行為は以下の5つだと定義している[1][2]

  1. 飲酒の強要
    上下関係・伝統・習慣・「集団でのはやし立て」・罰ゲームなどで心理的圧力をかけて、飲酒を強要すること[3][1]
  2. イッキ飲ませ[1]
    一気に飲ませること(「イッキ、イッキ」などと、一気に、つまり一度うつわに口をつけたらそのまま飲み干すことを強要すること)。また飲む速度を競わせること[1]
  3. 酔いつぶし[1]
    はじめから、誰かが酔いつぶれる状態になることを意図して飲み会を行うこと。意図があるので明らかな傷害罪(傷害行為)に当たる
  4. 飲めない人への配慮を欠くこと[1]
    本人の体質や本人の意向を無視して飲酒をすすめる行為や、宴会などの場に酒類以外の飲み物を用意しないこと、また飲めない人をからかったりすること[3]
  5. 酔ったうえでの迷惑行為[1]
    酔ってたとえばいわゆる「悪ふざけ」を始めたり、言葉でからんだり、暴言をはいたり、暴力をふるったり、セクハラなどをすること[1]

なお、飲酒の強要・一気飲ませ・意図的な酔いつぶしなどは、一般に、なんらかの立場の優位(先輩であること、上長であること、社長であることなど。英語で言う「パワー」)を悪用して行われるので、それらは一般にパワーハラスメントの一種でもある。

歴史[編集]

日本では、アルコールハラスメントが原因での死亡者がでたこともきっかけとして1980年代以降に急速に問題視されはじめた[4]


酒の功罪、体質の多様性、飲酒の強要の背景[編集]

もともと酒類には良い面と、悪い面がある。一面としては、軽度の飲酒は楽しい気分になり(注 - あくまでお酒を飲める体質の人であれば、の話である)、人間関係を円滑にする潤滑剤の役目を担う場合もあるが、他方で、過度なアルコール摂取は眩暈・吐き気といった不快な症状をもたらし、しばしば嘔吐に至る。特に、酒類が飲めない体質の人(内臓でのアルコール代謝・分解ができなかったり、その速度が遅い体質の人)にとっては酒は一種の毒物であり、微量でも体調を悪化させるものであり、健康を害するものである。また、急激・大量の飲酒は、酒に弱かろうが強かろうが、急性アルコール中毒の原因となり、端的に言えばの原因ともなりうる。また酔っ払いつまり酔った状態の人というのは、理性や自制心を失い、さまざまな迷惑行為を行い、しばしば事故や犯罪も起こす。飲酒が原因で恒久的に評判を落としたり、酒を飲んでやらかしたことが原因でキャリアをすっかり棒に振ってしまう人も多い。また酒は、たちの悪い習慣性のアルコール中毒も引き起こす。

アルコールを受け付けない体質は、多くが遺伝性の要因によるものである[1]。本人の落ち度ではまったくないし、飲酒の回数や訓練などで改善するものでもない。

特に日本人は約35%がアルコールの解毒能力が弱く急性アルコール中毒に陥りやすいALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)ヘテロ欠損型の体質であり遺伝的にお酒に弱い、と言われている[3]

日本では、飲酒の強要が行われてしまう背景として、上下関係、伝統、社会的な習慣、などといった心理的圧力がある[3]。なお、飲酒の強要などの問題は、上下関係や長幼の序を重んじる東アジアに特有のものとの分析がある一方、アメリカでの大学生による飲酒事故もあることをふまえて、そのような背景のみで起きるわけではない、との分析もある[2]。(アメリカ人はアメリカ人で、学校や職場などで、強者が弱者をいじめる、ということはそれなりに頻繁に起きているし、またアメリカ人はパーティ好きで、つまり集団で、はしゃいだり、悪ふざけしたり、暴走する、という癖があり、それも原因となって、しばしば飲酒の強要が起きる)

日本[編集]

企業内アルコールハラスメント[編集]

日本の企業では、上述の5つの問題行為がおこなわれがちである。

たとえば、誰かを歓待しようとする場合に、(歓待しようとする側にノウハウやアイディアが少なく、いわゆる「ひき出し」の中身が少なく)、やたらと安直に酒宴を行おうとする愚かな者が多く、その結果、しばしば酒宴が行われてしまうが、招かれた側は、(心理的に断りづらいので)酒宴の場に、やむなく身を置いてしまうことになるが、そもそも酒を飲みたくない人や飲めない人がかなりの割合で含まれており、結果として、酒宴を行おうとする者の意図とは反対に、むしろ迷惑がられること、不快に思われることもしばしば、ということになる。[5]

人の状態はさまざまで、アルコールが代謝できない体質の人、酒に弱い体質の人、酒で心理的なガードがゆるむのを心底嫌っている人、酒癖が悪い人(つまり酒を飲むと、トラブルを引き起こしてしまいがちな人)で酒を自重している人などがおり、それらのタイプの人々を総計すると、実際には相当な割合に達している。本当は、事前に社内アンケートなどを行って、ひとりひとりの人の酒に対する態度・嗜好を尋ねておいたほうがよいのだが、それを行わないずさんな人が多すぎるのである。

なお「歓待」のつもりの酒宴が飲酒の強要の場になってしまっているというパターンは、企業の組織内部で従業員同士でやらかしてしまう場合もあるし、また企業の従業員(特に営業担当の従業員)が(組織の外の)顧客を相手にやらかしてしまう場合もある。

特に日本の企業組織内部では、上下関係にまつわる心理的な圧力は強く、そもそもパワーハラスメントが行われがちで、その結果アルコールハラスメントも行われがち、という状況にある。企業のメンバーどうしで開かれる酒宴では、しばしば上司が「部下の労をねぎらう」というつもりで杯をすすめる、という(良くない)風習がある。「上司から勧められた杯を返すことは、礼を失する行為」などという間違った観念が長らく横行してしまったため、杯を進められた部下の側には相当な心理的な圧力がかかり、本当は断りたいが断れない、という状況に置かれてしまうことになる。

また、女性社員が、上司にこびて、一種の「点数かせぎ」をするために酌をしてまわる行為も行われることがあるが、これは弱い立場の者の行為なので、いわゆる「パワハラ」にはあたらないが、こうした行為でも酌を断りづらい雰囲気をつくってしまうと、その上司が酒を飲みたくないと思っている場合(上司だからといって飲みたいと思っているとは限らない)は、(女性従業員の意図に反して)やはりアルコールハラスメントの一種になってしまう。

大学内アルコールハラスメント[編集]

アルコールハラスメントの問題は、日本では、1980年代以降に急性アルコール中毒で死亡する20代の若者が続出したことから注目されるようになった。特に1980年代から1990年代にかけて大学生などのイッキ飲みが急性アルコール中毒死の原因として注目され、社会問題として取り沙汰されるようになると、死亡した大学生の遺族らによる呼び掛けによって、社会運動のキーワードとしてこの語は広まった。

韓国[編集]

韓国など儒教思想の色濃い地域では、このヒエラルキーを重視する同思想の関係から目上の者が目下の者に飲酒を勧めた場合、社会通念上でも固辞することをタブーのように捉える・あるいは固辞されると面目が潰されたと感じる傾向がある。この問題は爆弾酒のような飲酒方法にも絡む。

アメリカ合衆国[編集]

アメリカの大学ではヘイジング(hazing)と呼ばれる「新入りいじめ」の問題があり、この言葉自体は飲酒の強要を指すものではないが、特定のサークルや社交クラブに加わる通過儀礼としてゲーム感覚の飲酒が課され、酒がヘイジングの道具として使用されることで飲酒事故に発展する例がある[2]。このような問題への対策としてアメリカの多くの大学では飲酒関連問題に対応する委員会が設置されアルコールポリシーが定められている[2]

イッキ飲みの強要[編集]

イッキ飲み(一気飲みとも)は、1980年代頃から大学生らの間で流行した、一息に酒を飲み干す行為のことで、当初はビールなどのアルコール度数の低い酒を大ジョッキで飲み干す、一種のお座敷芸だった。しかしこれが次第に、場を盛り上げるために「コール」(英:callと同義)と呼ばれる囃し立てと共に他人に強要されるようになってくると、場をしらけさせているとして下戸までもがイッキ飲みを強要されるようになってきた(→場の空気)。

イッキ飲みが一種の度胸試しのようになってくると、次第にアルコール度数の高い酒を飲み干すことを求められるケースも多くなってきた。中には飲んだら強引に吐かせ、さらに飲ませるという行為まで横行し、飲食店や飲み屋側は酒が売れるならと見て見ぬ振りをすることもあったことが、問題を深刻化させた。

特に、進学シーズンともなると、毎年のように新入生がコンパなどでこのイッキ飲みを強要された挙句、急性アルコール中毒で救急病院に担ぎ込まれるケースが続発し、毎年のように死亡者が多数出る[6]。そのため、今日では店側がイッキ飲みを禁止、制止している場合も少なくない。さらに、未成年者飲酒禁止法により、20歳未満の飲酒と購入、20歳未満への販売・提供が禁止されているが、新入生の多くは18~19歳と未成年者で飲酒経験もない者がほとんどであり、もし未成年者に上記のような事態が発生した場合は、酒を販売・提供した店側の責任も問われることになる。最近では、来店者に年齢確認が可能な公的書類(≒身分証明書)の提示を求め、持っていない人や確認出来た未成年の入店自体を断る店も増えてきている。

塩川正十郎の甥が大学で一気飲みを強要されて急性アルコール中毒で急死し、当時官房長官だった塩川は朝日新聞への投書でこの風潮に問題提起している。

ビンジ・ドリンキング[編集]

飲酒に伴う危険に関して、従来は平均飲酒量や一定期間での総飲酒量で評価されることが多かった[3]。しかし、ビンジ・ドリンキング(binge drinking、無茶飲み)と呼ばれる非日常的な大量飲酒のリスク(事故、虚血性心臓病、アルコール依存症など)も注目されるようになっている[3]

飲酒に関する法律及び指針[編集]

WHO[編集]

世界保健機関(WHO)はアルコールの有害使用低減に関する世界戦略(アルコール世界戦略)の指導方針において「子供、十代の若者、酒を飲まないことを選択した成人は、飲まないという行動が支持され、かつ、飲酒を強いられることから守られる権利を有する」と明記されている[2]

日本[編集]

酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律[編集]

日本においては「酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」(別名:酩酊防止法、よっぱらい防止法)が存在し、酩酊者の行為規制や保護について規定する一方、同法第2条(節度ある飲酒)において、「すべて国民は、飲酒を強要する等の悪習を排除し、飲酒についての節度を保つように努めなければならない」としている[1]

この法律は1961年制定の法律で、第2条の条文の趣旨はアルコールハラスメント防止にもつながる内容となっている[1]。一方で第2条のタイトルが「節度ある飲酒」となっており、ある程度の飲酒が前提になっているような表現になっている点に関しては昔ながらの飲酒文化の影響が垣間見えるとの指摘もある[1]

刑事責任・民事責任[編集]

泥酔者を放置して致死させた場合などには、保護責任のある関係者(酒宴の責任者など)に遺棄罪が問われることもあり(後述)、アルコールハラスメントでは、飲酒の無理強いと並んで、急性アルコール中毒に陥った者を放置した側の責任も、問題の一端に挙げられている。

  1. 飲酒を強要する行為は、強要罪。なお、未遂処罰規定があるため、強要された側が毅然と断っても強要した側は犯罪となる。
  2. 被害者を酔い潰す行為は、意図的なものでなくとも過失傷害罪または重過失傷害罪。酔い潰す結果を意図していた場合には傷害罪
  3. 酔い潰した被害者が死亡した場合、過失致死罪または重過失致死罪。ただし、飲酒強要の態様によっては傷害致死罪も成立しうる。
  4. 酔いつぶれた被害者を放置した場合、保護責任者遺棄罪。放置の結果死亡した場合保護責任者遺棄致死罪。
  5. 直接飲酒を強要したわけではなくとも、周囲ではやし立てるなどしていた結果被害者が酔い潰れた場合には、傷害罪#現場助勢罪。また、直接強要した者の共同正犯ないし幇助犯とされることもあり得る。
  6. 死亡・後遺障害が発生すれば、直接強要した者や、同席の上ではやし立てていた者にも、民事上の賠償責任が発生する。特に大学進学した新入生が、死亡ないし重篤な後遺症を残した場合、余命が長く利益損失が高く見込まれることから、損害賠償が億単位になることもあり得る。
  7. 酔った勢いで公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をする事を教唆又は幇助した者は、酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律4条3項により、当該著しく粗野又は乱暴な言動をした者と同罪に問われる。

対応策[編集]

酒が飲める者と飲めない者が、双方とも宴席を楽しみたいのであれば、一定のガイドラインを設けるべきだという向きも多い。酒を断ることは一種の人権幸福追求権など)である。

一般的には、以下の配慮が必要である。

  1. 酒を飲む側は、自身の酒の適量を知り、常軌を逸しない程度に抑える
  2. 上下関係・伝統・暴力など、本来飲酒とは無関係な理由で飲酒を強要しない
  3. 体質的に飲めない人がいることを理解する(飲めないことを理由に侮辱しない)
  4. 飲酒を何かの芸であるかのように・自分が楽しむために、他人に飲酒を強要しない
  5. イッキ飲み、イッキ飲ませの禁止
  6. 泥酔した人の世話:死亡するのはアルコール濃度が高くなるより、吐物が気道に詰まることによると考えられる

日本でのキャンペーン[編集]

酒はコミュニケーションツールとして人間関係の導入に用いられることも多いため、特に歓迎会の席では酒を断る意思表示が困難なケースが少なくないのが課題であったが、バッジやシールを配布し、それを着用することで意思表示をしようといったキャンペーンを毎年開催し全国の大学620校にポスター・チラシとともに予防対策を促す要望書を送付している。飲まザル及びアルハラ・ヤダピョンも参照。

飲まザル[編集]

アルコール薬物問題全国市民協会(ASK)は「イッキ飲み・アルハラ防止キャンペーン2006」として、「飲まザル」というキャラクターを使用したポスターチラシコースターでアルハラにストップを呼びかけている。「見ざる、言わざる、聞かざる」の三猿モデルである。

なお、コースターは飲料メーカーなどの協力を得て作られ、グラス置きの他にグラスの蓋になり場をしらけさせずに断ることができるようにと工夫がされている。

飲まザルには4種類あり、状況ごとに使う。

  • イッキは飲まザル(赤)
  • 体質的に飲まザル(緑)
  • クルマだから飲まザル(青)
  • これ以上飲まザル(黄)

2006年のキャンペーンが好評だった模様で、2007年春からも「飲まザル第2弾」として、デザインを変えたチラシやコースターなどを配布するキャンペーンを行っている。

アルハラ・ヤダピョン[編集]

「イッキ飲み・アルハラ防止キャンペーン2008」からは、カエルをモチーフとしたキャラクター、「アルハラ・ヤダピョン」が「飲まザル」の後を継ぐ形で登場。こちらもチラシやコースターによってアルハラの抑止を訴えている。チラシでは酒を持ったヘビがカエルに絡みついている。

アルハラ・ヤダピョンも飲まザル同様4種類あり、状況ごとに使う。

  • イッキは飲めません!味わいたい派なので・・・。(桃色)
  • 体質的に飲めません!DNAには逆らえません・・・。(空色)
  • 車なので飲めません!君の口車にも乗らないよ!(青紫)
  • 限界なので飲めません!一杯でいっぱいいっぱい。(山吹)

大学での対応策[編集]

アメリカの多くの大学では飲酒関連問題に対応するため教職員と学生により組織する飲酒関連問題対策委員会が設置されておりアルコールポリシー(飲酒関連問題についての方針やルール)が定められている[2]

脚注[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ a b c d e f g h i j k l m すこやか特集”. コーセー健康保険組合. 2019年3月27日閲覧。
  2. ^ a b c d e f 眞崎睦子「なぜ大学生の飲酒死亡事故はなくならないのか」”. 北海道大学. 2019年3月27日閲覧。
  3. ^ a b c d e f 武藤岳夫「アルコール健康障害の理解と対応~生活習慣病との関連を中心に~」”. 広島県国民健康保険団体連合会. 2019年3月27日閲覧。
  4. ^ 『世界の酒日本の酒ものしり辞典』外池良三、東京堂出版、2005年8月15日、初版、22ページ。ISBN 4-490-10671-8。
  5. ^ 慎重な人は、事前にひとりひとりの酒に対する嗜好を尋ねておき、ひとりでも酒の苦手な人がいれば、酒宴以外の手法を選び、酒抜きで歓迎する手法を選ぶ。世の中には、歓待する手法は無数にある。
  6. ^ 急性アルコール中毒などによる死者数 ASK

関連項目[編集]