シーソー機構

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素粒子大統一理論で、特にニュートリノ質量とニュートリノ振動において、シーソー機構[注釈 1](シーソーきこう)とは、ニュートリノの質量の相対的な大きさを理解するための一般的な理論モデルとして用いられる。観察されるニュートリノの質量は電子ボルト オーダーで、クオーク荷電レプトンはその何百万倍も重い。

モデルにはいくつかのタイプがあり、それぞれ標準模型を拡張したものである。最も単純なタイプ1のバージョンは、弱電相互作用を起こさないような2つ以上の右巻きのニュートリノ場を仮定し、非常に大きな質量スケールがあるとの仮定のもとに標準模型を拡張したものである。この理論では、大統一理論によるスケールで確認できる程度にまで質量スケールを拡張できる。

Type 1 のシーソー機構[編集]

この理論モデルでは、既知の3種類のフレーバーに対応する軽いニュートリノ1つと、それぞれのフレーバーに対応するまだ観測されていない非常に重いニュートリノを生成する。

シーソー機構の背景となる簡単な数学的原理は、以下の特徴を持った任意の2x2 行列で表される。

ここで より十分大きくとられ、2つの非常に不均衡な固有値を持つ。

であるため、大きいほうの固有値 は、ほぼ に等しい。このときより小さいほうの固有値 は、

となる。すると、行列式 となり、大きさ 幾何平均となる。片方の固有値の値が上がるともう片方の値が下がり、この逆も同様となる。これが機構を”シーソー”と呼ぶゆえんである。

この機構は、なぜニュートリノ質量がこれほど小さいかをうまく説明する[3][4][5][6][7]。行列 A はニュートリノの質量行列そのものである。マヨラナ粒子の質量成分 M は大統一理論スケールに匹敵し、レプトン数は破れるが、これは、ディラック質量の成分 m は電弱スケールよりも非常に小さい(以下 VEV とする)からである。小さい方の固有値 1 eV 程度に非常に小さいニュートリノ質量となる。このことは実験と定性的に一致しており、時折これは大統一理論の枠組みを支持する裏付けとされる。

背景[編集]

2×2行列 は、標準作用モデルでのゲージ変換で不変である性質(→ゲージ理論)、またニュートリノ場などレプトン価に対応する一般的な質量行列を考慮する標準モデルから自然に導かれる。

いま、ワイルスピノル を、左手系のレプトンの弱アイソスピンの二重項状態であるニュートリノ要素を表すとする(他の要素は電荷を持たない左手系のレプトンの要素とする)。すると、

これはニュートリノの質量がなくても最低限の標準モデルでは存在するとしたことによるもので、 はその仮説上の右手系のニュートリノのワイルスピノルで、弱アイソスピンの元での一重項を表すとする(すなわち、ステライルニュートリノのように、弱い相互作用はおこなさいもの)。

ローレンツ共変の質量項は3通りの表し方があり、それぞれ

  、   または 

とその複素共役のように書くことができ、これは以下の二次形式で書くことができる。

右手系のニュートリノスピノルはすべての標準モデルゲージ対称性のもとでは電荷を持たないため、 は原則的に任意の値をとることができる規制のないパラメータである。

パラメータ をもつことは弱電ゲージ対称性で禁止されており、これは電荷を持ったレプトンのディラック質量のように、ヒッグス機構を通した対称性の自発的崩壊の後になってのみ現れることができる。特に、ヒッグス場 のような弱アイソスピン 12 を持ち、 が弱アイソスピン 0 となるために、質量パラメータ はヒッグス場で湯川相互作用から生成されることは、従来からの標準モデルの方法の通りである。

これは、 が標準モデルのヒッグス場の真空期待値のオーダーで取りうる値であることを意味する。

無次元量であれば湯川結合は のオーダーとなる。それは一貫してより小さく選ぶことができるが、極端な は非摂動モデルを作ることができる。

一方のパラメータ は、二重項の成分で記述できる弱超電荷弱アイソスピンのもとでは繰り込み可能性をもつ一重項がないため、非繰り込み可能性(nonrenormalizable)のみとなり(=0)、5次の項が許される(ガンマ行列を参照)。これは”タイプ1”のシーソーメカニズムによる質量行列 のスケールの階層やパターンの起源である。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 日本語では「シーソー模型」と呼ばれることもある[1][2]

出典[編集]

  1. ^ クォーク質量のシーソー模型に於けるCP対称性の破れ”.科学研究費助成事業データベース. 2016年9月19日閲覧。
  2. ^ 世界の中の日本人研究者たち1 仁科芳雄”. 東北大学 大学院理学研究科・理学部. 2016年9月19日閲覧。
  3. ^ P. Minkowski (1977). “μ --> e γ at a Rate of One Out of 1-Billion Muon Decays?”. Physics Letters B 67 (4): 421. Bibcode 1977PhLB...67..421M. doi:10.1016/0370-2693(77)90435-X. 
  4. ^ M. Gell-Mann, P. Ramond and R. Slansky, in Supergravity, ed. by D. Freedman and P. Van Nieuwenhuizen, North Holland, Amsterdam (1979), pp. 315-321. ISBN 044485438X
  5. ^ T. Yanagida (1980). “Horizontal Symmetry and Masses of Neutrinos”. Progress of Theoretical Physics 64 (3): 1103–1105. doi:10.1143/PTP.64.1103. 
  6. ^ R. N. Mohapatra, G. Senjanovic (1980). “Neutrino Mass and Spontaneous Parity Nonconservation”. Phys. Rev. Lett. 44 (14): 912–915. Bibcode 1980PhRvL..44..912M. doi:10.1103/PhysRevLett.44.912. 
  7. ^ J. Schechter, en:José W. F. Valle; Valle, J. (1980). “Neutrino masses in SU(2) ⊗ U(1) theories”. Phys. Rev. 22 (9): 2227–2235. Bibcode 1980PhRvD..22.2227S. doi:10.1103/PhysRevD.22.2227. 

関連項目[編集]