ジョージ・スダルシャン

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ジョージ・スダルシャン
George Sudarshan
ECG Sudarshan.jpg
E・C・G・スダルシャン(2009年、ムンバイ・タタ基礎研究所にて)
生誕 (1931-09-16) 1931年9月16日
トラヴァンコール王国パロム英語版
死没

2018年5月13日(2018-05-13)(86歳)

[1]
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 テキサス州[2]
居住 インドの旗 インド
国籍 インドの旗 インド
研究分野 理論物理学
研究機関 テキサス大学オースティン校
インド理科大学院
チェンナイ数理科学研究所英語版
ハーバード大学
ロチェスター大学
タタ基礎研究所英語版
出身校 CMSカレッジ・コッタヤム英語版
マドラス基督教大学
マドラス大学
ロチェスター大学
博士課程
指導教員
ロバート・マーシャク
博士課程
指導学生
Mohammad Aslam Khan Khalil(英語)
Narasimhaiengar Mukunda(英語)
主な業績 光コヒーレンス
スダルシャン・グラウバーのP表現英語版
V-A理論
タキオン
量子ゼノン効果
開放量子系英語版
スピン統計定理
主な受賞歴 ICTPのディラック賞 (2010)
パドマ・ビブーシャン英語版 (2007)
マヨラナ賞英語版(2006)
TWAS賞 (1985)
ボーズ賞 (1977)
パドマ・ブーシャン英語版 (1976)
C・V・ラマン賞 (1970)
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エンナカル・チャンディー・ジョージ・スダルシャン(E・C・G・スダルシャン、Ennackal Chandy George Sudarshan1931年9月16日 - 2018年5月13日[1][2])はインド出身の理論物理学者であり、テキサス大学の教授である。

スダルシャンは、光コヒーレンススダルシャン・グラウバーのP表現英語版、V-A理論、タキオン量子ゼノン効果開放量子系英語版リンドブラッド方程式英語版スピン統計定理、非不変群、密度行列の正値写像、量子計算など、理論物理学の分野において数多くの貢献をしている。彼の貢献には東西関係、哲学、宗教も含まれる。

若齢期[編集]

スダルシャンはトラヴァンコール王国(現 インドケーララ州パロム英語版で生まれた。キリスト教の一派のトマス派の家庭で育ったが、1954年に同級生でヒンドゥー教徒のラリタ(Lalitha)と結婚した際にキリスト教を棄教した。スダルシャンは自分自身を「ヴェーダーンタ学派のヒンドゥー教徒」だと考えていた[3]。彼は、キリスト教を去った理由として、神に対する見方と霊的経験の欠如に関する意見の相違について言及している[4][5] 。妻のラリタは1990年に亡くなつた。2人の間には3人の息子がいる[6]

彼はCMSカレッジ・コッタヤム英語版で学び[7]、1951年にマドラス基督教大学を優等で卒業した。1952年にマドラス大学修士号を取得した。タタ基礎研究所英語版(TIFR)に移り、ホーミ・J・バーバーと短期間共同で研究した。その後、ニューヨーク州のロチェスター大学に入学し、大学院生としてロバート・マーシャクの下で研究した。1958年にロチェスター大学からPh.D.を取得した。その後ハーバード大学に移り、ジュリアン・シュウィンガーの下でポストドクターとして研究した。

業績[編集]

スダルシャンは物理学の色々な分野で大きく貢献した。ロバート・マーシャクとともに弱い力のV-A理論を提唱し、これにより電弱理論への道を開いた。この理論は後にリチャード・ファインマンマレー・ゲルマンによって広く知られるようになったが、ファインマンは、V-A理論がスダルシャンとマーシャクによって発見され、ゲルマンとファインマンによって公表されたことを認めている[8]。スダルシャンはまた、今日ではスダルシャン・グラウバーのP表現英語版として知られるコヒーレント光量子表現を開発した。これによりロイ・グラウバーは2005年のノーベル物理学賞を授与されたが、スダルシャンの貢献は評価されなかった。

スダルシャンの最も重要な業績は、量子光学分野への貢献である。彼の定理により、古典的な波動光学が量子光学と等価であることが証明される。定理はスダルシャン表現を利用する。この表現はまた、純粋に量子的であり、古典的に説明することができない光学的効果を予測する。スダルシャンはまた、光よりも速く移動する粒子であるタキオンの存在を最初に提案した[9]。彼は開放量子系英語版の理論を記述する最も基本的な形式の1つであるdynamical mapsと呼ばれる形式を開発した。彼は、ベイッドヤーナス・ミスラ(Baidyanath Misra)と共同で、量子ゼノン効果を提起した[10]

スダルシャンと共同研究者は、ディラック方程式を使って磁気四重極の集束作用を調べることによって、「荷電粒子ビーム光学の量子論」を創始した[11][12]

彼は、タタ基礎研究所英語版(TIFR)、ロチェスター大学シラキュース大学ハーバード大学で教鞭を執った。1969年以降、テキサス大学オースティン校の物理学の教授、インド理科大学院の上級教授を務めていた。1980年代に断続的に5年間、チェンナイ数理科学研究所英語版(IMSc)の所長を務め、在任中に研究所をセンター・オブ・エクセレンス英語版(COE)へと変えた。

彼はまた、哲学者ジッドゥ・クリシュナムルティと会って多くの議論を行った。彼は2011年9月16日にIMScで80歳の誕生日を迎えた[13]

関心のある分野は、素粒子物理学量子光学量子情報量子場理論ゲージ理論古典力学、基礎物理学である。彼はまたヴェーダーンタ学派にも深く関心を持っており、頻繁に講演を行っている。

ノーベル賞を巡る論争[編集]

スダルシャンは1960年にロチェスター大学で量子光学の研究に取り組み始めた。2年後、ロイ・グラウバーは、古典電磁気学を用いて光学場英語版を説明することを批判した。スダルシャンは、この理論により正確な説明ができると信じていたので、グラウバーの批判に驚いた。スダルシャンは彼のアイデアを表現した論文を書いて、グラウバーにプレプリントを送った。グラウバーは同様の結果をスダルシャンに伝え、後の論文では認めたが、自身の論文ではスダルシャンを批判した[14]。「グラウバーはスダルシャンの表現を批判したが、彼自身の理論では典型的な量子光学現象を生成することができなかったので、スダルシャンの表現をP表現という別の名前で紹介した。最初グラウバーが批判したこの表現は、後にスダルシャン・グラウバーの表現英語版として知られるようになった」とある物理学者は書いている。

スダルシャンはノーベル物理学賞を何度も逃がした。2005年にグラウバーがノーベル物理学賞を受賞したとき、スダルシャンにも賞が授与されるべきだと、何人もの物理学者がスウェーデン王立科学アカデミーに抗議し、論争が起こった[15]。スダルシャンやその他の物理学者は、P表現は「グラウバー」よりも「スダルシャン」の方が寄与が大きいと主張する書簡をノーベル委員会に送った。書簡では、グラウバーは、スダルシャンの理論を批判した後、スダルシャンの理論を「P表現」に改名して自身の理論に組み込んだとしている。スダルシャンは未公開のニューヨーク・タイムズ宛ての書簡の中で、「スダルシャン・グラウバーの表現」は誤っていると言い、量子光学における文字通りの全ての理論的進展はスダルシャンの研究を活用たものであり、本質的に彼は突破口を開発したと主張している[16]

2007年、スダルシャンは『ヒンドゥスタン・タイムズ英語版』に「2005年のノーベル物理学賞が私の研究に授与されましたが、私はそれを得ることができませんでした」と述べた[17]。スダルシャンはまた、1979年のノーベル賞に選ばれなかったことについて、次のようにコメントした。「スティーヴン・ワインバーグシェルドン・グラショーアブドゥッサラームは、私が26歳の学生だったときの仕事に基づいて理論を構築しました。もしあなたが建築の賞を授与するとして、1階を建てた人よりも先に2階を建てた人に賞を与えますか?」[17]

受賞歴[編集]

  • Kerala Sastra Puraskaram for lifetime accomplishments in science(2013年)
  • ICTPのディラック賞(2010年)
  • パドマ・ビブーシャン英語版(インド政府から民間人に贈られる2番目に高位の勲章)(2007年)
  • マヨラナ賞(2006年)
  • TWAS賞(1985年)
  • ボーズ賞(1977年)
  • パドマ・ブーシャン英語版(インド政府から民間人に贈られる3番目に高位の勲章)(1976年)[18]
  • C.V.ラマン賞(1970年)

書籍[編集]

  • Doubt and Certaintyトニー・ロスマン英語版との共著)
  • Classical DynamicsNarasimhaiengar Mukundaとの共著)
  • Fundamentals of Quantum Opticsジョン・R・クラウダー英語版との共著)
  • Introduction to Elementary Particle Physicsロバート・マーシャクとの共著)
  • From Classical to Quantum Mechanics: An Introduction to the Formalism, Foundations and Applications(Giampiero Esposito・Giuseppe Marmoとの共著)
  • Pauli and the Spin-Statistics Theorem(Ian Duckとの共著)

脚注[編集]

  1. ^ a b “訃報 エンナカル・チャンディー・ジョージ・スダルシャン [Ennackal Chandy George Sudarshan September 16, 1931 - May 13, 2018”]. ベック葬儀社. (2018年5月15日). http://www.beckchapels.com/memsol.cgi?user_id=2104766 2018年5月17日閲覧。 
  2. ^ a b “著名な科学者ECG・スダルシャン、テキサスで死去 [Acclaimed scientist ECG Sudarshan passes away in Texas”]. en:Mathrubhumi. (2018年5月14日). http://english.mathrubhumi.com/news/kerala/acclaimed-scientist-ecg-sudarshan-passes-away-in-texas-physicist-1.2809679 2018年5月14日閲覧。 
  3. ^ W. Mark Richardson, ed (2002). “George Sudarshan”. Science and the Spiritual Quest: New Essays by Leading Scientists. Routledge. p. 243. ISBN 9780415257664. "I would now say I am a Vedantin, with these two religious and cultural streams mixed together." 
  4. ^ W. Mark Richardson, ed (2002). “George Sudarshan”. Science and the Spiritual Quest: New Essays by Leading Scientists. Routledge. p. 243. ISBN 9780415257664. "PC: "Did your training as a scientist contribute at all to your growing dissatisfaction with the church?" GS: "No. It was simply that I found that the people who professed to practice were really not practicing. In other words, there was a great deal of show and not that much genuine spiritual experience. Further, a God “out there” did not fully satisfy me."" 
  5. ^ W. Mark Richardson, ed (2002). “George Sudarshan”. Science and the Spiritual Quest: New Essays by Leading Scientists. Routledge. p. 250. ISBN 9780415257664. "God is not an isolated event, something separate from the universe. God is the universe." 
  6. ^ W. Mark Richardson, ed (2002). “George Sudarshan”. Science and the Spiritual Quest: New Essays by Leading Scientists. Routledge. p. 243. ISBN 9780415257664. "I was born in an Orthodox Christian family. I was very deeply immersed in it, and so by the age of seven I had read the entire Bible from Genesis to Revelation two or three times. I was not quite satisfied with Christianity, and gradually I got more and more involved with traditional Indian ideas." 
  7. ^ “A proud moment for CMS College: Prof. Sudarshan delights all at his alma mater”. The Hindu. (2008年7月5日). http://www.hindu.com/2008/07/05/stories/2008070556000300.htm 2010年4月5日閲覧。 
  8. ^ The beat of a different drum: The life and science of Richard Feynman by J. Mehra Clarendon Press Oxford (1994), p. 477, and references 29 and 40 therein
  9. ^ Time Machines: Time Travel in Physics, Metaphysics, and Science Fiction, p. 346, by Paul J. Nahin
  10. ^ Sudarshan, E. C. G.; Misra, B. (1977). “The Zeno’s paradox in quantum theory”. Journal of Mathematical Physics 18 (4): 756–763. Bibcode1977JMP....18..756M. doi:10.1063/1.523304 
  11. ^ R. Jagannathan, R. Simon, E. C. G. Sudarshan and N. Mukunda, Quantum theory of magnetic electron lenses based on the Dirac equation, Physics Letters A, 134, 457–464 (1989).
  12. ^ R. Jagannathan and S. A. Khan, Quantum theory of the optics of charged particles, Advances in Imaging and Electron Physics, Editors: Peter W. Hawkes, B. Kazan and T. Mulvey, (Academic Press, Logo, San Diego, 1996), Vol. 97, 257-358 (1996).
  13. ^ “Sudarshan Fest”. (2011年9月16日). http://www.imsc.res.in/~semadm/blurb/sudarshan-fest.pdf 
  14. ^ Physicist Sudarshan's omission questioned”. The Hindu (2005年12月2日). 2018年10月10日閲覧。
  15. ^ Zhou, Lulu (2005年12月6日). “Scientists Question Nobel”. The Harvard Crimson. 2008年2月22日閲覧。
  16. ^ http://seedmagazine.com/content/article/first_runner-up/
  17. ^ a b Mehta, Neha (2007年4月4日). “Physicist cries foul over Nobel miss”. Hindustan Times. 2008年3月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年2月22日閲覧。
  18. ^ Padma Awards”. Ministry of Home Affairs, Government of India (2015年). 2014年11月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年7月21日閲覧。

参考文献[編集]

  • Phys. Rev. Lett. 10, 277-279 (1963)