チチャ

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チチャ

チチャまたはチーチャ (西: chicha) とは、南米アンデス地方でよく飲まれているの種類である。特にペルーボリビア[注釈 1][7]のチチャは有名である。

ボリビア国内ではコチャバンバがチチャの名産地である。

製法[編集]

主にトウモロコシ発酵させて作られる。トウモロコシを噛んで唾液酵素で発酵させるのが、もともとの作り方であったと言われている[8]

ワチョ英語版でのチチャ作り(1980年)
チャカス英語版のチチャ売り

特徴[編集]

酸味があるブドウジュースといった味である。作り方や飲むタイミングによってアルコールの強さは変わる。

原則として発酵を止める作業をしないので、賞味期間はきわめて短い。飲み頃になってから1週間もするとを刺すくらい酸っぱくなってしまう。

本の挿画「リマのチチャとつまみの屋台」
パンチョ・フィエロ英語版作「リマのチチャとつまみの屋台」、19世紀半ば[9]

チチャモラーダ[編集]

現在、ペルーやボリビアのレストランで提供される紫トウモロコシ英語版で作られたチチャはチチャモラーダ英語版(スペイン語: chicha morada)というが、これはアルコール分が無く、上記のチチャとは全く別物である。ポリフェノール(アントシアニン)の含有量が約73%とされ[10][11] ワインよりも多いため、血栓を防ぐ効果があると言われている。

チチャとアンデス文明[編集]

チチャは、アンデス文明の形成に深く関わる[12]。これには、アンデス文明というコンテクストにおけるチチャの原料、トウモロコシについて理解が必要になる[13][14][15] [16]

先コロンブス期

トウモロコシの原産地域であるメソアメリカ以上に、アンデス地域はトウモロコシの種類が多い[要出典]先コロンブス期において、トウモロコシは非常に付加価値の高い作物であり、の原料として重宝されていた。トウモロコシの利用に関しては、形成期の後期に増えたのではないかという可能性が、ペルー北部の遺跡から出土した人骨の窒素・炭素同位体比分析から示唆されている[要出典]

酒は、トウモロコシのほかマニオクキヌアなどからも作られ、現在のペルーのトルヒーリョ周辺に栄えたモチェ文化には、神と思われる人物が片手にトウモロコシ、片手にマニオクを持った図像を描いた土器がある[要出典]。この土器鐙型注口土器と呼ばれる形態をもち、主に酒などを入れた儀礼用の土器と推定される。このように、古い時期からマニオク酒とともに、トウモロコシから作る酒も利用されていた[要検証]

ワリ文化(西暦700年頃から900年頃)

ワリ期あるいは中期ホライズンと呼ばれる時代に、トウモロコシ生産は拡大されたと考えられ、現在のペルーに栄えたワリ政体によって、各地にトウモロコシ栽培用のテラスが建造される[要出典]。ワリ文化の土器に見られる図像には、トウモロコシの他、様々な植物が描かれているが、巨大な土器はおそらくトウモロコシ酒であるチチャを入れ、それを饗宴の後に壊すといった儀礼も多く執り行われたと言われている[要出典]

ボリビア[編集]

同じ頃、現在のボリビアにあったティワナク社会でも、このトウモロコシから作るチチャが儀礼用に利用されていた。ティワナク文化を代表する土器であるケーロと呼ばれるコップ型の土器は、主にチチャを入れて利用された[要出典]

ティワナク政体は、標高の低い場所、例えば、ペルーのモケグワ周辺やボリビアのコチャバンバ周辺に飛び地を持っていたとされ、このような標高の低い場所ではおもにトウモロコシやコカが栽培されていた[要出典]チチャの原料のトウモロコシを栽培するため飛び地を設けるほど、当時は重要視されていた[要検証]

インカ帝国[編集]

インカ帝国においてもチチャは非常に重要な飲み物で、チチャの利用はアンデス中に最大限広がっていった[要出典]。インカ帝国では、政府によって労働賦役が課せられていたが、その見返りとしてインカ主催の饗宴が執り行われていたとスペイン人の記録文書に記されている[要出典]。その饗宴では、織物などの他、チチャが与えられ、重宝されていた。国家による酒販売の独占形態であるが、これには以下のように様々な意味が込められている。

チチャの利用は、饗宴などを通して集団間の摩擦を和らげる働きがあった[要出典]。また、儀礼用としても非常に価値があり、現在でもペルー南部やボリビア北部の山間部では、先住民によるチチャを用いた様々な儀礼が執り行われる[要検証]

このように、チチャあるいはその原料となるトウモロコシは、アンデス文明の形成過程において、けっして欠かすことのできない重要なものであった[12][19]それゆえ、品種改良で膨大な種類のトウモロコシが生み出された[要検証]

音楽[編集]

チチャ音楽のポスター

1980年代にコロンビアのクンビアとペルーのフォルクローレであるワイニョと、アメリカのサイケデリック・ロックが融合してできた「チチャ音楽スペイン語版」という新しいジャンルの音楽が生まれ、山岳部からリマに移民した人々のあいだで流行した[20]エレキギターで演奏されるのが特徴である。 主なアーティストにチャカロンスペイン語版ロス・シャピスロス・デステージョススペイン語版ロス・ミルロススペイン語版がいる。また、音楽の宣伝等に使われるポスターをチチャポスタースペイン語版と呼ぶ。


また、チチャのジャンルにペルー・クンビア英語版があり、録音資料に次のものがある。

  • ホァネーコ・イ・ス・コンボスペイン語版『マスターズ・オヴ・チーチャ』第1集、2008年、CD[21]
  • 「(18) Number 17 (チチャ・リブレスペイン語版)」『ザ・ラフ・ガイド・トゥ ラテン・サイケデリア』Pablo Yglesias(監修)、ディスク1、2013年、CD[22]
  • 『サイケデリック・クンビア』Pablo E Yglesias(監修)、2015年、CD[23]
    • 「(10) Yo No Soy Turku (Money Chicha)」
    • 「(12) Alone Again Or (チチャ・リブレスペイン語版)」
  • 『ザ・ルーツ・オヴ・チーチャ』2019年、CD [24]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 国立民族学博物館にボリビア各地でアイマラ Aymaraケチュアの人々が使ったと推定されるチチャ用の陶器がまとまって収蔵され、杯[1][2][3]や回し飲みに使われたと考えられる大ぶりで凹みが複数ある例[4]ほか現代の製造や販売を伝える土人形[6]など、まとまった収蔵品がある。

出典[編集]

  1. ^ 「チチャ用酒杯」、ケチュアQuechua(推定)、1985年。国立民族学博物館、標本番号 H0133004。寸法(cm)は幅19 ×奥行15×高さ5.6、重さ365g
  2. ^ 「チチャ用酒杯」アイマラ、ケチュア(推定)、ボリビア共和国の高地地方、国立民族学博物館、標本番号  H0132907。寸法は幅:8.9×奥行:9.3×高さ:3.4、重さは73g。1985年収蔵。
  3. ^ 「チチャ用酒杯」、アイマラ、ケチュア(推定)、ボリビア共和国のアンデス山地地方、国立民族学博物館、標本番号 H0132906。1985年収蔵。寸法(cm)は幅6.9×奥行7.7×高さ3.2、重さは27g。
  4. ^ 「チチャ用酒杯(回し飲み用)」ケチュア、ボリビア共和国、国立民族学博物館、標本番号 H0133244。寸法(cm)は幅23×奥行18×高さ5.6、重さは670g。1985年収蔵。
  5. ^ 吉田 2017, p. 33やきもの(チチャ売り)
  6. ^ 『地域展示・通文化展示 ; アメリカ ; 創る』より標本番号 H0205415「やきもの(チチャ売り)」[5] 図版番号:8。
  7. ^ 「チチャ」と「国立民族学博物館」で絞り込み検索”. jpsearch.go.jp. 横断検索. デジタルアーカイブジャパン推進委員会・実務者検討委員会(jpsearch). 2021年6月4日閲覧。
  8. ^ グループ現代(製作)『トウモロコシの醗酵酒チチャづくり』、1979年、国立民族学博物館(ビデオ監修)、ビデオテーク番組番号(旧):10409。動画資料、Uマチックビデオ・カラー、13分24秒、規格コード:UC。ナレーション台本付属。
  9. ^ Cisneros Sánchez, Fierro 1975.
  10. ^ Cuevas Montilla, E; Hillebrand, S; Antezana, A; Winterhalter, P (2011). “Soluble and bound phenolic compounds in different Bolivian purple corn ( Zea mays L.) cultivars”. Journal of Agricultural and Food Chemistry 59 (13): 7068–74. doi:10.1021/jf201061x. PMID 21639140. 
  11. ^ Li, C. Y.; Kim, H. W.; Won, S. R. et al. (2008). “Corn husk as a potential source of anthocyanins”. Journal of Agricultural and Food Chemistry 56 (23): 11413–6. doi:10.1021/jf802201c. PMID 19007127. 
  12. ^ a b 関 2017, p. 1-16.
  13. ^ 古代オリエント博物館 1995, §政治的な作物としてのトウモロコシ—アンデス形成期の食糧基盤を探る.
  14. ^ 印東 2007, §2 生態資源と権力—ジャガイモとトウモロコシ—古代アンデス文明における生態資源の利用と権力の発生.
  15. ^ 高野 2015, 0新大陸が生んだ食物 : トウモロコシ・ジャガイモ・トウガラシ : カラー版.
  16. ^ 山本 2017, §第1章 コロンブスが持ち帰った穀類—トウモロコシ.
  17. ^ 齋藤晃. “時代を記録するやきもの(特集 文化交渉のダイナミズム : あたらしくなったアメリカ展示)”. htq2.minpaku.ac.jp. 標本資料記事索引データベース. 国立民族学博物館. 2021年6月4日閲覧。
  18. ^ 齋藤 2011, p. 8.
  19. ^ 国立民族学博物館のアメリカ展示 [17][18]
  20. ^ 石橋純 編『中南米の音楽:歌・踊り・祝宴を生きる人々』東京堂出版、2010年。ISBN 978-4-490-20667-8。160-171頁
  21. ^ ホァネーコ・イ・ス・コンボ『マスターズ・オヴ・チーチャ』第1集、さいたま : ライス・レコード、さいたま : オフィス・サンビーニャ(頒布)、2008年、CD。 BBR-377。別題『Masters of chicha』<YMC11-M28208>
  22. ^ Pablo Yglesias(監修)「(18) Number 17 (チチャ・リブレスペイン語版)」『ザ・ラフ・ガイド・トゥ ラテン・サイケデリア』ディスク1、さいたま : ライス・レコード〈ラフ・ガイド〉、さいたま : オフィス・サンビーニャ(頒布)、2013年、録音資料。CD 2枚 ; 12 cm、全国書誌番号:23496409、発売番号 WNSI-936。別題『Latin psychedelia (Music rough guides)』<YMC11-M28826>
  23. ^ Pablo E Yglesias(監修)『サイケデリック・クンビア』さいたま : サンビーニャ・インポート〈Music rough guides〉、さいたま : オフィス・サンビーニャ(頒布)、2015年、録音資料。CD 1枚 ; 12 cm、全国書誌番号:23505916、発売番号 WNSI-185。別題『Psychedelic cumbia (Music rough guides)』<YMC11-M29765>
  24. ^ 別題『The roots of chicha : ペルーのサイケデリック・クンビア』。さいたま : ライス・レコード、さいたま : オフィス・サンビーニャ(頒布)、2019年、録音資料。CD 各1枚 ; 12 cm。

参考文献[編集]

本文の典拠。主な執筆者名もしくは編集者名の順。

洋書
和書
  • 印東道子(編集)「§2 生態資源と権力(ジャガイモとトウモロコシ—古代アンデス文明における生態資源の利用と権力の発生)」『生態資源と象徴化』弘文堂〈資源人類学 / 内堀基光(総合編集)〉、2007年。NCID BA8401387X
  • 古代オリエント博物館「政治的な作物としてのトウモロコシ—アンデス形成期の食糧基盤を探る」『文明学原論 : 江上波夫先生米寿記念論集』山川出版社、1995年。NCID BN12463839
  • 齋藤晃「時代を記録するやきもの(特集 文化交渉のダイナミズム : あたらしくなったアメリカ展示)」 (pdf) 『月刊みんぱく』第404巻第5号、国立民族学博物館(編)、吹田、2011年、 8頁、2020年6月14日閲覧。
  • 関雄二「古代アンデスにおける酒の利用」『酒史研究』第32号、酒史学会(編)、2017年2月、 1-16頁、 ISSN 0911-1441OCLC 7009637606
  • 高野潤『新大陸が生んだ食物 : トウモロコシ・ジャガイモ・トウガラシ : カラー版』中央公論新社〈中公新書〉、2015年。NCID BB1848982X
  • 山本紀夫「第1章 コロンブスが持ち帰った穀類—トウモロコシ」『コロンブスの不平等交換 : 作物・奴隷・疫病の世界史』KADOKAWA〈角川選書〉、2017年。NCID BB22944500
  • 吉田憲司(監修)、千里文化財団(編集協力)「地域の文化 アメリカ」『国立民族学博物館 展示案内』国立民族学博物館(編)、2017年、2017年版、33頁。

関連項目[編集]

関連資料[編集]

本文の出典以外の資料。発行年順

  • 安田正昭、山田剛史、石原昌信、当山清善「泡盛麹菌の生産するα-アミラーゼおよびグルコアミラーゼの酵素化学的性質(生物資源科学科)」『琉球大学農学部学術報告』第39号、琉球大学農学部、1992年12月。ISSN 0370-4246。
  • 『論集酒と飲酒の文化』石毛直道(監修)、平凡社、1998年、ISBN 4582829201、NCID BA38150473。
    • 石毛直道「酒造と飲酒の文化」
    • 吉田集而「口噛み酒の恍惚剤起源説」
    • 山本紀夫「チチャ酒の系譜」
  • 柳谷杞一郎「アンデネスとチチャ酒」『マチュピチュ』〈写真でわかる謎への旅〉雷鳥社、2000年。ISBN 9784844133094、NCID  BA46629511。
  • 森本哲郎「インカの夢を伝える奇怪な酒壷」『ぼくのおみやげ図鑑 : 森本哲郎・旅のエッセイ』シティ出版、ダイヤモンド社(発売)、2005年。ISBN 4478942145、NCID BA8296303X
  • 『食品大百科事典』食品総合研究所(編)、朝倉書店、2001年。
  • 「9 素材編」『地域資源活用食品加工総覧』農山漁村文化協会、2001年。
  • 針塚藤重「発酵食品を科学する(3)口かみ酒、チチャ酒は美人酒」『茶』第58巻第4号、静岡県茶業会議所、2005年4月、p.68-73。ISSN 0288-6456、NAID 40006687523。
  • 小松義夫「世界の暮らし-地球の人びと(2)太陽とチーチャの街」『こどもの本』第31巻第7号(通号362)、2005年7月、p.8-9。ISSN 0385-0463、OCLC 5171117319。
  • 『世界自然環境大百科』第7巻、Ramon Folch(編)、大澤雅彦(総監訳)、朝倉書店、2010年。
  • 高野潤『インカの食卓 : 古代から続く大地の恵み』平凡社、2011年。ISBN 9784582835458、NCID BB06962534。
    • 「第1章 アンデスで体験した食生活」
    • 「第3章 インカ時代の食生活」
    • 「第4章 遺跡から知る食の世界」
    • 「第5章 古典種系作物の探索」
  • 『中南米に向けた本格焼酎・泡盛輸出ガイドブック:ブラジル・メキシコ編』東京 : 日本酒造組合中央会、2014年。OCLC 1128245639。
  • 鵜飼保雄『トウモロコシの世界史 : 神となった作物の9000年』悠書館、2015年。
  • グループ現代(製作)『トウモロコシの醗酵酒チチャづくり ; ペルー南部高地』動画資料、国立民族学博物館(ビデオ監修)。資料番号 S01539、1インチビデオ・カラー、規格コード MC、13分14秒、ビデオテーク番組番号: 1352。ナレーション台本、カット表付属。