チップス先生さようなら

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チップス先生さようなら』(チップスせんせいさようなら、Goodbye, Mr. Chips)は、ジェームズ・ヒルトン1934年に発表したイギリスの小説。これまでに何度も舞台化による上演や映像化がなされた名作文学の1つである[1]

19世紀の末から20世紀の初頭にかけて、全寮制男子校のパブリックスクールで教育に携わった1人の男性教師の半生を描いた作品。チップスは退職後も学生たちとの交流を続けている。かつては理想に燃えていたが、必ずしも学生には好かれなかったようだ。チップスが変ったのは娘ほどの年が離れたキャサリンと結婚してからだったが、二人の幸せは長くは続かなかった。それでもチップスはウィットに富む教師となった。昔を思い出しながら、亡くなる。

歴史[編集]

この物語はもともと、1933年、福音派の新聞である「ブリティッシュ・ウィークリー」の付録として世に出た。それが「アトランティック誌」(英語版)の1934年4月号の特別読み物として再掲載されて、有名になった。 アトランティック・マンスリーに掲載されたことでの成功は、著者と米国の出版社リトルブラウン・アンド・カンパニーとの間での出版交渉を後押しした。 大恐慌により、ほとんどの出版社の経営は危機に瀕し、リトルブラウンとても例外ではなかった。そこで彼らは慎重に極僅かな部数でスタートさせたが、市場の反応は高く、リトルブラウンは同月のうちに、直ちに増刷に踏み切った。 市場の需要は引き続き高く、リトル・ブラウンは数ヶ月もの間、慎重な部数で本を再版し続け、毎月に少なくとも2回再版を重ねることになった。

最初の英国版は1934年10月に出版された。出版社は、米国での本の成功を見守っていたホッダー&ストートン(英語版)で、こちらはかなりの大部数を刊行した。出版即日に15,000部を売り上げ[2]、読者の本に対する需要が飽くなきものであると分かって、彼らはすぐに再版を決定した。この本の大成功により、ジェームズ・ヒルトンはベストセラー作家になった[3]

あらすじ[編集]

この物語は、イングランド東部(Fenlands、en:Fensを参照)のブルックフィールドという架空の村にある、これも架空のさして目立たない英国の男の子の寄宿学校であるブルックフィールドスクールのチップス先生という、愛すべき学校の先生の物語である。 少年たちがいうところのチップス先生は、その信念においては因習的で、教室では規律を重んじている。湖水地方での休暇中に若い女性、キャサリンと知り合う。彼女と結婚してからは、彼の見識は広がり、彼の教育的態度は柔らかくなった。キャサリンはブルックフィールドの教師や校長先生を魅了し、ブルックフィールドの生徒たちの人気ものになる。しかし、彼らの結婚は長続きしない。彼女は出産で亡くなり、その後、彼は再婚も、別の女性に関心を持つということもなかった。

この本の痛烈でほろ苦いテーマの1つは、チッピングが他のすべての仲間よりも長持ちするため、彼の短い結婚は神話になってしまい、頑なで孤独な独身者としてしか彼をしっているものがいなくなっているということである。 チッピングの平凡な資格と古典的なギリシャ語とラテン語の彼の見解にもかかわらず(彼の担当科目)は死語であり、彼は学生や学校の管理者から高く評価されるようになる有能な教師であり、使い古された学校の一部になっている。 晩年、彼は誰もが喜ぶようなユーモアのセンスを発揮させる。しかし、彼はアナクロニズムに陥り、古めかしい言い回しで(おそらく古典言語の教師だからなおさらのこと)、孤立してに哀れを誘う。彼の死の床で、彼は男の子たちの教師として感じた充実感について語る。多くの点で、この物語は、静かに生きた、壮観でない人生の意味についての瞑想として読むことができる。この本は恥ずかしげもなく感傷的なものであるが、チップスが生涯を通じて経験する抜本的な社会の変化を描いている。彼は普仏戦争が勃発する1870年9月に、22歳でブルックフィールドで在職を開始しする。彼は1933年11月に85歳で亡くなりました。現代の読者にとって、これはアドルフ・ヒトラーが権力を奪取した直後という事実は、物語を大きく構成しているが、それは痛ましさを増すだけのものである。物語の初期の版では著者も読者も、ヒトラーがその後の数年でヨーロッパにどのような荒廃をもたらすかに気づいていなかったのである。

映画[編集]

映像化作品で有名なのは2度作られた映画作品で、1939年ロバート・ドーナット主演作『チップス先生さようなら』と1969年ピーター・オトゥール主演作『チップス先生さようなら』である。

ドーナットは1939年の映画でアカデミー賞主演男優賞を受賞した(同年は『風と共に去りぬ』のクラーク・ゲーブルらが有力視されていた年である)。1969年作品はペトゥラ・クラークがキャサリンを演じたミュージカル映画として脚色され、オトゥールも同賞の同部門で候補になった。1984年BBCでミニ・シリーズを、2002年にもTV映画としても製作された。

続編[編集]

この作品には、『チップス先生乾杯』(To You, Mr Chips) 1938年という続編がある。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 井上美雪 (2019-03). Goodbye, Mr. Chips(1933)におけるミドルブラウと教育. 56. 東洋大学社会学部紀要. p. 137-146. http://id.nii.ac.jp/1060/00010430/ 2020年11月20日閲覧。. 
  2. ^ "Among The Fiction – Outstanding Sales". Reviews. The Times (英語) (46928). London. 4 December 1934. p. 20.
  3. ^ “Education”. The Atlantic. https://www.theatlantic.com/ideastour/education/hilton-excerpt.html 2011年4月11日閲覧。. .