ナイト

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ナイト(Knight)は、主にヨーロッパキリスト教国家において勲章の授与に伴い王室または教皇から授与される、中世の騎士階級に由来した栄誉称号である[1]

特にイギリス(連合王国)の叙勲制度において王室より叙任されるものが有名。日本語では勲功爵勲爵士騎士爵士爵などの訳が見られるほか、ナイト爵と片仮名で表記されることも多い。英国においてナイトは貴族の身分ではなく、世襲権を持たない準貴族である[2]。また、称号としてのナイトを騎士号とも称する。本項では「ナイト」に統一し、「爵」ではなく「称号」と記述するが、伝統的な日本語訳である「勲爵士」を一部の括弧内に併記する。 

制度の概要[編集]

第2次世界大戦中のイタリア戦線でオリヴァー・リース英語版将軍を騎士叙任する国王ジョージ6世(1944年)

現代国際法は、貴族称号またはナイトを授与する主体(羅: fons honorum)は主権を有する必要があると定めており、ナイトの授与を行えるのは主権国家ローマ教皇君主、そして一部の王位請求者に限られる[3]

イギリスにおいては、今日でも特定の勲章の授与時に王室から臣民にナイトが授与されることがあるが、これは英国君主としての「血の権利(iure sanguinis)による叙任権(Ius Collationis)」の行使の例である。さらに、既に国を持たない王家(王位請求者)であっても、国王の座にあった時に教皇から明示的に叙任権を認められていた王家に限り、引き続きナイトの叙任を行うことが教皇により認められている[4]。こうして認められた叙任権の例としては旧イタリア王家サヴォイア家聖マウリッツィオ・ラザロ騎士団がある[5]。またマルタ騎士団は現在、独立国家として引き続きナイトの叙任を行っており、これも国際法で認められた主権による叙任である。

ローマ教皇は、教皇庁とバチカン市国の君主としての主権を以て、聖シルベストロ教皇騎士団等の勲章の受勲者に対しナイトの授与を行っている。これらのナイトは総称してPapal Knightsと呼ばれる[6]

さらに、君主制の国家ではないものの、政府として騎士号を授与する国もある。この場合、騎士の叙任の方法や叙任された騎士の地位は教会法ではなく、各国の国家法で定められる。従ってその効力が及ぶ範囲は、その国家に限定される[4]。この例としては、共和国法第646号においてリサール騎士団の創設と騎士叙任を認めたフィリピン共和国の例がある[7]

さらに現代では、名誉称号としてナイトを授与する民間団体も増えているが、こうした事例は国際法上のナイトへの叙任には当たらない事に留意する必要がある。(鑑評騎士名誉騎士など)

イギリスにおける制度[編集]

イギリスにおいて授与される勲章にはOrder、Decoration、Cross、Medalの4種類が存在する[8]。このうちOrderは、中世の騎士団制度に由来する栄典で、王室により設立された騎士団(勲爵士団)へ入団すること自体を栄誉とするものであり、勲章はその団員証である。すなわち、Orderを受勲するということは勲爵士団への入団を意味する[9]。 イギリスには多くのOrderが存在するが、最も叙勲対象が広いものは大英帝国勲章である。大英帝国勲章は主に文化・学術・芸能・スポーツ面で著しい功績があった者に対し、首相の助言によって(外国籍の者に対しては外相が推薦する)君主(国王または女王、現在は女王である)が授与する栄典である[10]。大英帝国勲章叙勲者は年に2度、新年と女王の誕生日に発表され、そのうち上位2等級の受勲者にナイトが授与される。

イギリスに存在する主な勲章と、ナイトが授与される等級を以下に示す。このうち黄色で示される等級が、受勲者がナイトに叙任される階級である。また、下表に示す以外にも騎士団への入団を伴わないナイトの叙任も行われており、こうしたナイトはKnight Bachelorと呼ばれる。

勲章の等級比較
等級 ガーター勲章 バス勲章 ロイヤル・ヴィクトリア勲章 大英帝国勲章
一等 ナイト (Knight) / デイム (Dame) ナイト・グランドクロス (Knight Grand Cross) / デイム・グランドクロス (Dame Grand Cross) ナイト・グランドクロス (Knight Grand Cross) / デイム・グランドクロス (Dame Grand Cross) ナイト・グランドクロス (Knight Grand Cross) / デイム・グランドクロス (Dame Grand Cross)
二等 ナイト・コマンダー (Knight Commander) / デイム・コマンダー (Dame Commander) ナイト・コマンダー (Knight Commander) / デイム・コマンダー (Dame Commander) ナイト・コマンダー (Knight Commander) / デイム・コマンダー (Dame Commander)
三等 コンパニオン (Companion) コマンダー (Commander) コマンダー (Commander)
四等 ルテナント (Liutenant) オフィサー (Officer)
五等 メンバー (Member) メンバー (Member)

ナイトの授与に際しては、中世の騎士の叙任に対して主君が行っていたのと同じように、女王または王族の代理が自分の前に跪いた叙勲者の両肩を儀礼用の剣の平で触れる騎士叙任の儀式が行われる。ナイトの称号は1代限りで、世襲することは許されない。

ナイトの上の栄典としては、世襲が認められる準男爵(Baronet)や、世襲を行わないが世襲貴族と並んで貴族院議員となる一代貴族がある。

ナイトとその配偶者の敬称[編集]

イギリス臣民でナイトに叙任された男性は Sirサー)、その夫人は Ladyレディ)の敬称をつけて呼ばれる。また、女性でナイトに相当する叙勲を受けた者は Dameデイム)の敬称をつけて呼ばれる。ただし、「サー」や「デイム」はサーネーム(苗字)ではなく、であるファーストネーム、またはフルネームの前につける敬称である。例えば、エドモンド・ヒラリーは「サー・エドモンド」または「サー・エドモンド・ヒラリー」とするのが正しく、「サー・ヒラリー」とするのは誤り。姓のみ呼ぶ場合は「ミスター・ヒラリー」。

男性ナイトの夫人はレディのあとにサーネームだけをつけられる。たとえばアン・スミスはレディ・スミスとなる。女性ナイトの夫には敬称はつかない。

ナイトの称号は英国国民以外では、イギリス連邦加盟国や旧イギリス領だった国の国民に与えられることが多く、先述のエドモンド・ヒラリーもニュージーランド人である。

(イギリス国王が君主である国々以外の)外国人で名誉ナイト号を受けた者が「サー」の敬称を用いることはない。「サー」の敬称をつけて呼ばれるのは騎士叙任の儀式を受けた者だけであり、彼らはこの儀式を受けないためである。また、イギリス人であっても聖職者も同様に騎士叙任の儀式を受けないため、「サー」の敬称をつけて呼ばれることはない[11][12]

なお、日本語では Sir の称号を冠する人物を表す際、姓に「」をつけて表記したものがしばしば見られる(「ヒラリー卿」、「コンラン卿」など)。しかし、姓に Sir の訳語としての「卿」をつけるのは本来の用法とは異なる。それに加え、「卿」はイギリスにおいて侯・伯・子・男の各爵位の保持者等に付される称号である Lord の訳語として定着しているので、 Sir に対して「卿」を用いるのは適切ではない[13]

ナイトの剥奪[編集]

ルーマニアニコラエ・チャウシェスクジンバブエロバート・ムガベがナイトを剥奪された。

廃止した国家[編集]

オーストラリアは自国の勲章制度からナイトをはじめデイムなどの称号を「時代遅れ」との理由から廃止している[14]

主なナイト叙任者(存命者、姓五十音順)[編集]

イギリス連邦および旧イギリス領[編集]

男性(サー)[編集]

女性(デイム)[編集]

イギリス連邦以外(名誉叙任)[編集]

アイルランド[編集]

  • ボノ(ミュージシャン)

アメリカ[編集]

日本[編集]

ブラジル[編集]

作品[編集]

ナイトが登場する作品ならびにナイトをモチーフにしたキャラクターやそのキャラクターが登場する作品一覧を記す。

キャラクター[編集]

小説[編集]

ゲーム[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Jesus D. Rodriguez-Velasco (2010). Order and Chivalry, Knighthood and Citizenship in Late Medieval Castille. University of Pennsylvania Press. 
  2. ^ Rajah Sir Sourindro Mohun Tagore (1884). The Orders of Knighthood, British and Foreign with a Brief Review of the Titles of Rank and Merit. Stanhope Press. 
  3. ^ Noel Cox (2009年). “The principles of international law governing the Sovereign authority for the creation and administration of Orders of Chivalry”. Chapter in Rory Stanley (ed.), Féil-Scríbhinn Liam Mhic Alasdair – Essays Presented to Liam Mac Alasdair, FGSI: 15-25. 
  4. ^ a b Peter Bander van Duren (1995). Orders of Knighthood and of Merit. Colin Smythe Limited. 
  5. ^ グレゴリウス13世 (1572年11月13日). 大勅書 Pro Commissa Nobis. 教皇庁. 
  6. ^ Peter Bander van Duren (1995). Orders of Knighthood and of Merit, The Pontifical, Religious and Secularised Catholic-founded Orders and their relationship to the Apostolic See. Colin Smythe. 
  7. ^ Republic Act No. 646”. 2018年7月19日閲覧。
  8. ^ THE BRITISH HONOURS SYSTEM.”. The Churchill Society London.. 2018年7月22日閲覧。
  9. ^ 小川賢治 (2009年3月). 勲章の社会学. 晃洋書房. 
  10. ^ Types of honours and awards”. イギリス政府. 2018年7月22日閲覧。
  11. ^ The Monarchy Today > Queen and public > Honours > Knighthoods”. 2008年6月8日閲覧。 英王室公式ウェブサイトのナイトについての解説ページ(英語)
  12. ^ “BRITISH DECORATIONS.; What They Mean When Conferred Upon American Leaders”. The New York Times. (1918年8月15日). http://query.nytimes.com/mem/archive-free/pdf?_r=2&res=940CE0D81739E13ABC4D52DFBE668383609EDE&oref=slogin&oref=slogin 2008年6月8日閲覧。  『ニューヨークタイムズ』紙の、アメリカ人がイギリス国王から叙勲された場合に「サー」の敬称をつけて呼ばれないことを解説した記事(英語、PDF)
  13. ^ Sir が「卿」と誤訳されるに至った経緯などは、植松靖夫「LordとSirの訳語をめぐって」『英語青年』2003年5月及び植松靖夫「『卿』とは何か——LordとSirの訳語をめぐって——」『東北学院大学論集』第92号 に詳しい。
  14. ^ ナイトの称号、「時代遅れ」で廃止に オーストラリア CNN.co.jp
  15. ^ “ダニエル・デイ=ルイス ウィリアム王子からナイト爵を授けられる”. シネマトゥデイ. (2014年11月17日). http://www.cinematoday.jp/page/N0068228 2014年11月18日閲覧。 
  16. ^ “The Queen Awards Honorary Knighthood to Seattle Resident”. British Consulate-General, San Francisco. (2007年9月28日). http://www.britainusa.com/sf/articles_show_nt1.asp?i=41003&L1=36000&L2=36014&a=47067 2007年11月11日閲覧。  タダタカ・ヤマダのKBE叙任を伝える在サンフランシスコ英国領事館のプレスリリース(英語)

関連項目[編集]