哪吒
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哪吒(なた)は、道教で崇められている少年神、もしくは中国仏教もしくはヒンドゥー教[1]の民話・説話の登場人物である。
托塔天王(毘沙門天)の三男である事から
蓮の花や葉の形の衣服を身に着け、乾坤圏(円環状の投擲武器)や混天綾(魔力を秘めた布)、火尖鎗(火を放つ槍)などの武器を持ち、風火二輪(二個の車輪の形をした乗り物。火と風を放ちながら空を飛ぶ)に乗って戦う姿は『封神演義』『西遊記』などの民間説話や小説などでなじみ深く、道教寺院でもこのような姿で表される。
名前[編集]
表記と発音は中国語: 哪吒; 拼音: Nézhā; 粤拼: naa4 zaa1; 白話字: Lô-chhiaとなり仏教説話では那吒とするものも見られる。
いずれも「ナタ」と読み、ウィキペディア日本語版や『ナタちゃんの竜たいじ』[3](上海美術電影アニメを本にしたもの)ではこの発音を採用する。なお、ピン音の日本語表記はナァーヂャが近く、上海美術電影作品のアニメーション映画『ナーザの大暴れ』[4]、『読む中国語世界 2008年 10月号』[5]では『ナーザの大暴れ』とナーザという表記もみられる。
安能務の『封神演義』では読み仮名を「ナタク」としているがこれは安能版だけの事である。ただし安能版および、その派生作品である藤崎竜の漫画版『封神演義』の認知度が高いため、これに準じ「ナタク」と読まれるケースも珍しくない。
- 主要な文献とその漢字表記
文献 | 表記 |
---|---|
封神演義 | 哪吒 |
西遊記 | 哪吒 |
西遊記雑劇 | 那吒 |
毘沙門儀軌[6] | 那吒 |
尊容鈔 | 那吒 |
三教源流捜神大全 | 那吒 |
なお「吒」(口へんに託の右側:U+5412)の文字はJIS X 0208およびJIS X 0212(JIS 補助漢字)に含まれていないが、JIS X 0213には含まれており1-14-85の符号位置が与えられている。
由来[編集]
インド神話の下級神ナラクーバラを前身とする。彼は財宝神クベーラの息子である。クベーラが毘沙門天として仏教に取り入れられると、息子(三男とされる)のナラクーバラもその陪神として取り入れられ、那吒三太子の名で信仰の対象となった。
中国に於ける毘沙門天信仰が高まると、毘沙門天は唐代初期の武将李靖と同一視され、道教でも托塔李天王の名で崇められる様になった。それに伴い那吒太子も道教に取り入れられた。
後に毘沙門天信仰が衰退すると、仏教では那吒は忘れ去られてしまった。しかし、道教では民間説話に取り入れられて人気があったために忘れられず、次第にインドの神である事は忘れられ道教の神の一柱に収まった。
父母、兄弟などは説話により異なっており、説話の発展を示している。
主な物語における哪吒[編集]
西遊記[編集]
小説『西遊記』では、托塔李天王の第三太子で、天帝が魔王鎮圧のために李天王が李靖として俗界に遣わされた時の妻・素知夫人[7]の胎内に宿らせた子である。前世は天帝側近の大羅仙[8]であった。三面六臂の術を使い、
兄弟は、長兄が釈迦如来の弟子の前部護法(俗名:金吒)、次兄が観音菩薩の弟子の恵岸行者(俗名:木叉)、妹が貞英。また、命をつけてもらった地湧夫人(義妹・妖怪)は托塔李天王を父、哪吒を兄としてあがめていた。
地湧夫人の回(第83回)には、左手に哪、右手に吒の字が浮かんだ姿で生まれ、それを名前としたと、誕生の詳細が説明される。哪吒は、生後三日目に湯浴みの途中で、裸のまま海中に飛び込んで竜王の水晶宮に行き、蛟龍の背筋を引きぬき、
生まれ変わった哪吒は、神力・法力で九十六洞の妖魔を退治するという武勲を立てるが、かつて骨をえぐられた恨みを忘れず、父に復讐しようとしたので、李天王は如来に助けを求め、如来のとりなしでひとまず和解した。李天王は如来より如意黄金宝塔なる舎利塔を預かっていて、この法力で哪吒の復讐心を抑えている。李天王を「托塔[10]李天王」と言うのはこのことを指すと物語では説明される。
後に孫悟空が弼馬温の役職に不満を持って天界で暴れた時には、父やその部下の巨霊神とともに討伐に出るが敗退し、顕聖二郎真君を召喚することになる。悟空が三蔵法師に従うようになってからは、天帝の部下として天から取経の旅を見守り、何度かその困難を救うこととなる。特に
封神演義[編集]
明代の神怪小説『封神演義』では、陳塘関の李靖将軍(後の托塔天王)の第三子。長兄は金吒、次兄は木吒。太乙真人の霊珠を入れられた李靖夫人が三年六ヶ月で出産した「肉毬」を李靖が切り裂いたところ現れた。名づけ親は太乙真人。
7歳(身長6尺)のとき、東海龍王敖光の巡海夜叉の李良と龍王の三太子敖丙を殺し敖丙の背筋を抜いたことにより父の怒りをうけ、罪をあがなうために自らの肉と骨を切り自害。死後母親の夢に現れ、己の行宮を建てるよう頼んだ。神像が3年間受香すれば再生できるはずだったが、事の次第が李靖に発覚し行宮を焼き払われたため、太乙真人は蓮の花に金丹を入れて肉体とし哪吒を復活させた。父とは燃灯道人がとりなし和解した。
闡教の道士として父や兄と共に周陣営に参加し、以後商の仙人と闘う。後に三面八臂の姿を得た。
水滸伝[編集]
本人は『水滸伝』に登場しないが、地飛星項充のあだ名が八臂哪吒(はっぴなた)である。項充は梁山泊で、108人中64番目の人物。
脚注[編集]
- ^ 下記にある「ナラクーバラ」を参照
- ^ 三太子は「三番目の太子」の意
- ^ 李 洪恩、段 孝萱(訳)、1980、『ナタちゃんの竜たいじ』、中国外文出版社 ISBN 978-4924432086 ASIN 4924432083
- ^ 盛特偉, 厳定憲, 徐景達, 周克勤 (2002年3月22日). 上海美術電影作品集 Vol.1 language = 中国語. パイオニアLDC.ASIN B000060NEM
- ^ 、2008、「中国なつかしの名作「水墨アニメ」—子どもたちの一番人気『ナーザの大暴れ』」、『読む中国語世界』(2008年 10月号)、日中通信社ASIN B001F0914K
- ^ 毘沙門儀軌 (PDF)
- ^ 人間である素知夫人は哪吒太子の母で、彼女にとっての第三子になる。李天王は厳密には養父で、よって当初より不仲である。
- ^ この大羅仙は、身長は6丈、三頭八臂、九眼を持ち、口からは青雲をはき、足は磐石を踏まえ、ひとたび大呼すれば雲降り雨従い、天地も震撼したという神獣である。
- ^ 帯紐のこと
- ^ 塔(つまり前述の舎利塔)を託されたの意味
- ^ 正体は太上老君のもとの飼牛
- ^ 平凡社版完訳四大奇書「西遊記(上巻・下巻)」 太田辰夫・鳥居久靖訳、第4回および第83回
関連項目[編集]
参考文献[編集]
外部リンク[編集]
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