ノビル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ノビル
Allium macrostemon
Allium macrostemon
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 LC.svg
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 単子葉類 monocots
: キジカクシ目 Asparagales
: ヒガンバナ科 Amaryllidaceae
亜科 : ネギ亜科 Allioideae
: Allieae
: ネギ属 Allium
: ノビル A. macrostemon
学名
Allium macrostemon
Bunge (1833)[2][3]
シノニム

ノビル(野蒜、学名: Allium macrostemon)は、ヒガンバナ科ネギ亜科ネギ属多年草。中国植物名は、小根蒜(しょうこんさん)[4]日本の一部地域における地方名として「ねんびろ」「ねんぶり」「ののひろ」「のびろ」「ねびる」とも呼称され、食用になる。

特徴[編集]

昔から食用野草として知られ、和名であるノビルは、ネギニンニクなど、においのあるネギ属の野菜を意味する古名であるヒル(蒜)に対する、野生しているヒルという意味である[5][6]。蒜という呼び名は、食べるときに辛くて舌がヒリヒリすることにちなむといわれている[6]

全体にニラのにおいがあり[7] 内外で、地下に鱗茎を持ち、地上に細いを伸ばす[5]

葉は線形で20 - 30 cmのものを数本出す。葉は柔らかく中空の筒状で、表面に白い粉をふいているような白みを帯び、中部以上は内側が凹んだ浅い溝状となって、断面が三日月形をしている[7]

花期は5 - 6月ころで、まっすぐ立ち上がり60 cmに達する花茎を1本だけ伸ばし、先端に花序(散形花序)をつけ、白または淡紅紫色を帯びる[7]ネギ坊主を細く小さくしたような小花が集まった花で、花は長さ数ミリメートル (mm) の楕円形の花被片が6枚、実際にはユリと同様に花弁は3枚、残り3枚は額が変化したものである[8]花柄はやや長く、ニララッキョウとよく似た花形をしている[8]。開花した後、6月ころになると花茎頂に、花になるはずの細胞が変化して、小さな球根のような球芽(むかご)ができ、それを散布体とする[8][5]。しばしば、開花前から花を咲かせずにむかごだけが着生するものや、花を咲かせている個体でも、一部がむかごに変化して、むかごと花が混じったりするものがある[6][7]。むかごは紫褐色で固く密生し[5]、たくさん集まると表面に突起の出たボールのようになる。田んぼや畑の周囲に、花を咲かせずむかごだけの個体が多く見られる理由は、人の手によって頻繁に雑草の草刈りが行われるために、花を咲かせて種子をつけるよりも、効率良く子孫を残すことができるためだと考えられている[6]

掘り上げると、ラッキョウのような形をした白くて小さな球根鱗茎)があり、下部にひげ根がついている[5][7]。むかごの散布以外にも分球でも繁殖する。

姿が似ている植物に、同じネギ属で、葉の断面が丸いアサツキ、葉が平らなニラがある[7]

分布と生育環境[編集]

河川敷に自生するノビル

東アジアに広く分布する。日本では北海道から沖縄までの山野、土手畦道堤防上など、丈の低い草が生えているところによく自生する[4]。日当たりの良い草地や、道ばたなどに群生していることが多い[5]。一説によれば、古い時代に作物と共に日本へ入ってきた、いわゆる史前帰化植物ではないかとも言われるが、はっきりしたことはわからない。北海道ではノビルの群生が簡単には見られないことから、分布に関して再調査が必要である。

生育場所の特徴として人間の手の加わっている場所に繁殖する傾向にあり、気が付くと繁殖している場合がある。 これは一つの繁殖方法としてノビルは水に浮きやすいため、川に流されてきたり農業用水やその用土とともに、下草の刈られた生育条件の整った土地に根付くからである。 逆にその土地に人間の手が加わらなくなると自然に消滅してしまう。

利用[編集]

採取したノビル

滋養強壮に役立つとされている[5]。地下の鱗茎も含めた全草には、ニンニクに似た含硫化合体が含まれているといわれており、ニンニクに似た含硫化合物であっても、その強さは弱いと考えられている[5]。日本食品標準成分表によれば、水分87.5%、脂質0.1%、繊維1.2%、灰分1.0%となっている[5]

野生のノビルを採取する際には、有毒植物タマスダレヒガンバナ科)の葉に似ているため、間違えないように注意を要する[4]。ノビルの鱗茎は白い色をしているが、タマスダレの鱗茎は茶褐色をしているので見分けることができる[4]

食用[編集]

葉とともに、地下にできる鱗茎が食用となる。鱗茎は地下5 - 10 cmにできるため、スコップなどで掘り起こさなければならない。積極的に栽培されることは少ないが、野草として食用にされ、タマネギに似た香りと辛味があり、アサツキ等よりも鮮烈な香味を持つ。収穫後、時間が経つと辛味が強くなり、香りも悪くなる。休耕地など土壌養分が十分な場所で育つと、鱗茎がピンポン玉程の大きさになることがある。

葉は万能ネギニラに準じて用いられ、鱗茎は酒の肴として生やゆがいて酢味噌等の味付けで食されるほか、軽く湯通ししてぬたにしたり、味噌汁の具や薬味としても用いる[5][6]。一年中採取して食べることができるが一般的に春がであるとされる。

日本では従来「食べられる野草」扱いで、農業の対象として栽培されることはほとんどなく、学術的な研究も乏しい。佐賀大学は、地域によって育つ大きさなど個体差が大きいことに注目。食用に有望な系統を選抜して大学の農場で育てているほか、機能性成分を研究して、野菜としてのブランド化を目指している[9]

薬用[編集]

鱗茎を夏に掘りとって天日乾燥したものが生薬となり、薤白(がいはく)とよんでいて[4]、また同類の中国の植物名を当てて山蒜(さんきん)とも呼んでいる[7]狭心症の痛みの予防や、食べ過ぎによる食欲不振など、ラッキョウ同様に効果があるといわれ、薬草名もラッキョウと同じ薤白である[4]。薤白1日量3 - 5グラムを、約600 ccの水で半量になるまでとろ火で煮詰めて煎じた汁を、3回に分けて服用する利用法が知られている[4]

民間療法として、強壮、鎮咳扁桃炎咽頭炎にも効果があるともいわれていて、鱗茎の乾燥黒焼き末を砂糖湯で服用する方法が知られている[7]。外用薬として、銭たむし、はたけしらくも腫れ虫刺されなどに対して含硫化合体の制菌作用によって治りが早まるといわれていて、生の全草をすりつぶしたものを患部につける利用方法が知られている[5][7]

栽培[編集]

手近に育てることができ、6月ころ、花が咲いた後にできる球芽(むかご)を採取して、庭や鉢に蒔いて、隠れる程度に土を被せると、10 - 11月ころに発芽する[5]。特に鉢植えの場合は、土が乾かないように水やりをすることが大事になる[5]。夏に分球した小鱗茎から育成する方法もある[7]

文化[編集]

古くは『古事記』(712年)にその名が見える。応神天皇の歌として、

いざ子ども 野蒜摘みに 蒜摘みに …

— 応神天皇、『古事記』

また、『万葉集』の長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)の歌に、

醤酢(ひしほす)に
蒜(ひる)搗(つ)き合(か)てて
鯛(たひ)願ふ 我にな見えそ
水葱(なぎ)の羹(あつもの)

— 長忌寸意吉麻呂、『万葉集』(巻16・3829)

がある。「酢味噌和えのノビルと、を食べたいと思っている私に、ナギ(ミズアオイ)の汁など見せないでほしい」と謳っている和歌である[10]

記紀の東征神話においては、白鹿に化けた地の神をヤマトタケルが蒜で打ち殺すエピソードがあるが、これもノビルである可能性が高い。

近縁種[編集]

近縁種 Allium vineale(英名: Wild Garlic(野生のニンニク)または Field Garlic(野原のニンニク))がヨーロッパ北アフリカ中近東に分布する。北アメリカ大陸オーストラリア大陸では野生化しており、どこにでも成育し駆除が困難なため、芝生牧草地の厄介な雑草として扱われる。これもまた食用が可能である。

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ Rhodes, L. & Maxted, N. (2016). Allium macrostemon. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T201505A47600689. doi:10.2305/IUCN.UK.2016-3.RLTS.T201505A47600689.en Downloaded on 05 January 2019.
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Allium macrostemon Bunge”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2017年11月14日閲覧。
  3. ^ "'Allium macrostemon Bunge". Tropicos. Missouri Botanical Garden. 18403387. Retrieved 2012-07-09.
  4. ^ a b c d e f g 貝津好孝 1995, p. 136.
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m 田中孝治 1995, p. 101.
  6. ^ a b c d e 稲垣栄洋 2010, p. 66.
  7. ^ a b c d e f g h i j 馬場篤 1996, p. 89.
  8. ^ a b c 稲垣栄洋 2010, p. 69.
  9. ^ 「河原に自生するノビル 野草から野菜に/佐賀大准教授 旗振り/有望系統を選別 防除、機能性調査」『日本農業新聞』2019年5月23日(14面)。
  10. ^ 稲垣栄洋 2010, p. 68.

参考文献[編集]

  • 稲垣栄洋『残しておきたいふるさとの野草』地人書館、2010年4月10日、66 - 69頁。ISBN 978-4-8052-0822-9。
  • 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、136頁。ISBN 4-09-208016-6。
  • 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、101頁。ISBN 4-06-195372-9。
  • 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光舎、1996年9月27日、89頁。ISBN 4-416-49618-4。
  • 平野隆久写真『野に咲く花 : 写真検索』林弥栄監修、門田裕一改訂版監修、山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑〉、2013年、増補改訂新版、76頁。ISBN 978-4-635-07019-5。

関連項目[編集]