ハマナス

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ハマナス
Rosa rugosa Tokyo.JPG
ハマナスの花
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
: バラ目 Rosales
: バラ科 Rosaceae
: バラ属 Rosa
亜属 : Eurosa
: Cinnamomeae[1]
: ハマナス R. rugosa
学名
Rosa rugosa Thunb.[2]
英名
Ramanas rose
Rugosa rose
Japanese rose

ハマナス(浜茄子、浜梨、玫瑰、学名:Rosa rugosa)は、バラ科バラ属の落葉低木。夏に赤い花(まれに白花)を咲かせる。根は染料などに、花はお茶などに、果実はローズヒップとして食用になる。晩夏季語

皇后雅子お印である[3]

名称[編集]

別名、ハマナシとも呼ばれている[4][5][6]。和名ハマナスの語源は、浜(海岸の砂地)に生え、熟した果実が甘酸っぱいので、ナシに例えて「ハマナシ(浜梨)」という名が付けられ、それが転訛したとする牧野富太郎が唱えた説が通説になっている[4][7]。しかし、江戸時代の俳諧歳時記『滑稽雑談(こっけいぞうだん)』(1713年)には「初生の茄子の如し、また食に耐えたり、故にハマナスと云ふ」とあり、また幕末本草学者である小野蘭山の講義録『大和本草批正(やまとほんぞうひぜい)』には、「実は巾七、八分小茄子の如し、故にハマナスと云ふ」とあり、いずれも果実を初生もしくは小型のナスに見立ててハマナスと名付けたとしている[8][注釈 1]。しかし、漢字で「茄子」の字が使われているが、ハマナスはナスとはどこも似ていないという指摘もなされている[10]

中国植物名(漢名)は、玫瑰(まいかい)[4]アイヌ語では果実をマウ(maw)、木の部分をマウニ(mawni)と呼ぶ。

ハマナスの花言葉は、「旅の楽しさ」[11]である。

分布・生育地[編集]

東アジアから東北アジア温帯から冷帯にかけて分布する[1][11]サハリン千島列島のほか[10]日本では北海道に多く、本州の太平洋側は茨城県、日本海側は島根県を南限として浜辺に分布する[12]。石狩海岸、オホーツクの原生花園、野付半島に大群落が見られる[11]。主に海岸の砂地に自生する[13]。本州の日本海岸よりも太平洋岸の分布域が狭いのは、主に砂浜・砂丘植物であるから、太平洋側に生える場所が少ないことがその理由とされる[10]

公園街路にも植えられ[14]、観賞用に栽培もされている[13]。現在では浜に自生する野生のものは少なくなり、園芸用に品種改良されたものが育てられている。

特徴[編集]

1 - 1.5メートル (m) に成長する落葉低木[5][13]地下茎を延ばして群生する[12]。海岸ではやや匍匐性で高さは1 mほどの低灌木であるが、内陸では高さ2 mになる[10]

幹は叢生しては枝分かれして立ち上がり、樹皮は灰黒色から次第に灰色になり、短い軟毛とまっすぐな大小の刺が密生する[13][15]奇数羽状複葉互生[11]小葉は楕円形で長さ2 - 4 cm[12]、通常3対、5枚から9枚つき、葉柄には半ば合着した大きな托葉がある[1][13]葉脈に沿って網状に凹みがつき、裏面に凸出しており、葉縁に鋸歯がある[13]。葉身は厚く、針がついている[10]。全体に細かい毛や棘が多い理由は、潮風による塩分の付着を防いで生きていくための進化だと考えられている[16]

花期は初夏から夏(6 - 8月頃)で[15]、枝先に1 - 3個ほど紅紫色の5弁花を咲かせ、甘い芳香がある[5][13]。花は径5 - 8 cmあり、花びらの先端に少し凹みがあり、中心は雄しべは多数つき、野生のバラとしては大輪で、2 - 3日で枯れる[12][10][11]。果期は8 - 10月に結実し[11]果実偽果)は、径は2 - 3センチメートル (cm) の偏球形で赤色、通常は無毛でまれに小さな刺があり、弱い甘みと酸味がある[13]。果実の中には、種子が多く含まれている[17]

冬芽は互生し、茎の棘の間について赤く目立ち、頂芽は円錐型で大きく、側芽は卵形で、5 - 7枚の芽鱗に覆われている[15]。落葉後の葉痕は、上を向いた浅いU字形で、維管束痕が3個みえる[15]

品種[編集]

バラの一種であり、園芸バラの品種改良に用いられる[12]ヨーロッパに渡ったハマナスから、多くの園芸品種が作出されている[6]北米では観賞用に栽培される他、ニューイングランド地方沿岸に帰化している。イザヨイと呼ばれる園芸品種は八重化(雄蕊、雌蕊ともに花弁化)したものである。変種で、中国産の八重咲で茎の刺がやや少ないのがマイカイ(玫瑰)で、栽培されている[5][13]

ノイバラとの自然交雑種にコハマナスがある。

このほかシロバナハマナス[17]ヤエハマナスシロバナヤエハマナスなどの品種がある。

バラ品種改良に使用された原種の一つで、ハマナスを交配の親に使用した品種群を「ルゴザ系」と謂う。

利用[編集]

繁殖は株分けによって行われ、秋に前年茎の地下根茎部を分割する[13]。日本では庭に使われることはほとんどないが、ヨーロッパでは生け垣に使われている庭園がいくつも見られる[17]

花は香りが強く、香水の原料にする[6]。花には精油を含み、主な成分はゲラニオールで、その他シトロネロールノニルアルデヒドシトラールリナロールフェニルエチルアルコールなどである[5]。これらの精油は、延髄中枢を刺激して、血流を促し、血管拡張などの作用があるといわれている[5]。かつてハマナスの花から香油が採取され、北海道では八重咲きのハマナスを栽培して採取効率を高めることも行われてきたが、ブルガリア産の輸入が増えて、日本のハマナス香油の採取は廃れた[17]

果実(偽果)はビタミンCを豊富に含み、色素のもとになっているカロテンピロガロールタンニンを含み、カロテンは体内でビタミンAに変化するため、果実の生食は滋養強壮にも役立つ[5]。また生食のほか、薬用酒ジャムにもするほか[11]お茶にする[6]のど飴など菓子に配合されることも多いが、どういう理由によるものかその場合、緑色の色付けがされることが多い。中国茶には、花のつぼみを乾燥させてお茶として飲む玫瑰茶もある。

薬効[編集]

咲いた花を摘み取り、風通しのよいところで陰干ししたものは生薬になり、玫瑰(まいかい)と称される[13]漢方では6 - 8月に採取して天日乾燥した花蕾は玫瑰花(まいかいか・メイグイファ)と呼ばれ[5][4]、八重咲きの種の花蕾も通常のハマナスと成分が同じで、同様に取り扱われている[5]。玫瑰花には、イライラを鎮めたり気の流れや血の流れを良くする作用があると言われる。ストレスによる胃痛や下痢月経不順に良く使われ、通常は熱湯を注いでお茶として飲まれる[5][4]民間療法では、矯味、矯臭、抗炎症薬として月経不順、リウマチ打撲にお茶にして飲まれたり[13]、完熟前の橙黄色の果実を使って35度の焼酎に3か月漬けて果実酒にして、暑気あたり低血圧不眠症、滋養保険、疲労回復、冷え症などに、就寝前に盃1杯程度を飲用に用いられる[5][13]アイヌの間では腎臓の薬として知られ、むくみの解消に根や実を煎じたものを飲んでいた[18]

また、ビタミンCの豊富さから、美容面での効果も期待される。

ハマナス油[編集]

ハマナスの花を石油エーテルで抽出し、アルコール処理して得られる精油フェネチルアルコール、ゲラニオール、シトロネロール、リナロール、ベンジルアルコール、シトラールなどを含み、芳香を持つ[19]。ハマナス油はダマスクローズオイルの代用品として化粧品などに用いられるが、ハマナス自体から感じる芳香は、葉から生じるセスキテルペンアルコールも寄与する[20]

名所[編集]

日本においては、ハマナスは北海道襟裳岬東北地方の海岸部、天橋立などが名所として知られる。

鳥取県鳥取市[21]西伯郡大山町[22])には「ハマナス自生南限地帯」がある。

茨城県に、潮騒はまなす公園がある。

自治体の花[編集]

都道府県の花に指定[編集]

北海道の花に指定されている[14]。北海道の海岸線はすべてハマナスで飾られており、分布の中心域であることが道花指定の理由だといわれている[10]

市町村の花に指定[編集]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 深津は、現代流通しているナスの多くは長卵形を想像しがちだが、『本草綱目啓蒙』の解説をみると、昔は偏平な丸形のものを好んで栽培していたようであるので、常識ではおかしいという「浜茄子」説も、江戸時代当時としては至極当然な発想だったと解説している[9]

出典[編集]

  1. ^ a b c Bruun, Hans Henrik (2005). “Rosa rugosa Thunb. ex Murray”. Journal of Ecology 93 (2): 441-470. doi:10.1111/j.1365-2745.2005.01002.x. 
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Rosa rugosa Thunb.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2020年6月7日閲覧。
  3. ^ 皇太子同妃両殿下宮内庁、2016年3月11日閲覧。
  4. ^ a b c d e 貝津好孝 1995, p. 167.
  5. ^ a b c d e f g h i j k 田中孝治 1995, p. 156.
  6. ^ a b c d 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 209.
  7. ^ 深津正 2000, pp. 292–294.
  8. ^ 深津正 2000, p. 293.
  9. ^ 深津正 2000, pp. 293–294.
  10. ^ a b c d e f g 辻井達一 2006, p. 83.
  11. ^ a b c d e f g 田中潔 2011, p. 68.
  12. ^ a b c d e 西田尚道監修 学習研究社編 2000, p. 181.
  13. ^ a b c d e f g h i j k l m 馬場篤 1996, p. 93.
  14. ^ a b 林将之 2011, p. 177.
  15. ^ a b c d 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 156.
  16. ^ 辻井達一 2011, p. 83.
  17. ^ a b c d 辻井達一 2006, p. 85.
  18. ^ 『アイヌと自然シリーズ■第4集 アイヌと植物<薬用編>』財団法人アイヌ民族博物館、2004年、27頁。
  19. ^ 鳥居鎮夫『アロマテラピーの科学 普及版』朝倉書店、2011年、215頁。ISBN 978-4-254-30109-0。
  20. ^ 新規なセスキテルペンアルコール及びそれを主成分とする香料 特開平6-184182(j-tokkyo)
  21. ^ ハマナス自生南限地帯 - 鳥取市 (PDF)”. 鳥取市役所. 2018年4月5日閲覧。
  22. ^ 全国観るなび 鳥取県大山町 ハマナス自生南限地帯”. 日本観光振興協会. 2018年4月5日閲覧。

参考文献[編集]

  • 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、167頁。ISBN 4-09-208016-6。
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、156頁。ISBN 978-4-416-61438-9。
  • 田中潔『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、68頁。ISBN 978-4-07-278497-6。
  • 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、156頁。ISBN 4-06-195372-9。
  • 辻井達一『続・日本の樹木』中央公論新社〈中公新書〉、2006年2月25日、82 - 85頁。ISBN 4-12-101834-6。
  • 西田尚道監修 学習研究社編『日本の樹木』学習研究社〈増補改訂ベストフィールド図鑑 5〉、2000年4月7日、181頁。ISBN 978-4-05-403844-8。
  • 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、93頁。ISBN 4-416-49618-4。
  • 林将之『葉っぱで気になる木がわかる:Q&Aで見わける350種 樹木鑑定』廣済堂あかつき、2011年6月1日、177頁。ISBN 978-4-331-51543-3。
  • 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、209頁。ISBN 4-522-21557-6。
  • 深津正『植物和名の語源探究』八坂書房、2000年4月25日、292 - 294頁。ISBN 4-89694-452-6。

関連項目[編集]