ハルキゲニア
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ハルキゲニア | ||||||||||||||||||
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![]() 三種のハルキゲニア:H. sparsa、H. hongmeia と H. fortis の復元図
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保全状況評価 | ||||||||||||||||||
絶滅(化石) | ||||||||||||||||||
地質時代 | ||||||||||||||||||
約5億2,500万- 約5億0,500万年前 (古生代カンブリア紀前期中盤[カエルファイ世アトダバニアン末期]- 中期後半[セントデイヴィッズ世メネヴィアン中期]) | ||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||
Hallucigenia Conway Morris, 1977 | ||||||||||||||||||
タイプ種 | ||||||||||||||||||
Hallucigenia sparsa Conway Morris, 1977 | ||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||
Walcott, 1911 | ||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||
ハルキゲニア | ||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||
Hallucigenia | ||||||||||||||||||
下位分類群(種) | ||||||||||||||||||
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ハルキゲニア(学名:Hallucigenia)は、古生代カンブリア紀の海に生息していた葉足動物の1属。バージェス動物群に属するHallucigenia sparsa によって知られ、澄江動物群からにも同属と思われる種類が発見される。アイシュアイアと同様に、葉足動物の中で最初に記載されたものとして代表的な1属である。
呼称[編集]
属名 Hallucigenia はラテン語: hallucinatio 「夢みごこち、夢想」からの造語で、その後半を省略した上で、「〜を生むもの」といった意味の接尾辞(英語: -gen; フランス語: -gène)をおそらく添えたもの。夢に出てきそうな不思議な姿を指したものか。多くの文献では「幻覚のような (like a hallucination) 」といった意味であるとする[1]。また、中国語では「怪誕蟲」(guàidànchóng; グアイダンチョン)と呼ぶ。
特徴[編集]
全長約0.5- 3.0cm。円柱状の胴体には、7対ないし8対の細長い脚が備えており、その先端には、構造が現生する有爪動物によく似た1対の爪がある[3]。脚および体節に対応し、背側には数対の棘が並んでいる。この棘の表面は、鱗のような構造に覆われる。管状ないし楕円形の頭部からには、1対の単眼と口の内側にある環状の歯が確認された。また、"首"に相当する部分には触手様の付属肢が2-3対備えており、口まで伸ばすことができるほど細長い[4]。
よくカイメンや有機堆積物と共に発見される化石標本の状況から、カイメンを捕食し、または屍肉をあさる腐肉食の動物であったと考えられている[1]。
発見と復元の経緯[編集]
本種は、カナダ・ブリティッシュコロンビア州のバージェス頁岩(カンブリア紀中期後半、約5億500万年前に属す)にて、1911年、アメリカ合衆国の古生物学者チャールズ・ウォルコット(Charles Walcott)によって発見された。彼はこれを環形動物・多毛類のカナディアに属するものと判断し、Canadia sparsa と命名した。
1977年、イギリスの古生物学者サイモン・コンウェイ・モーリス(Simon Conway Morris)によって、該当種は Hallucigenia sparsa として再記載された。このとき、彼はこの動物を、細長い体の腹面に長い棘(とげ)が歩脚のように2列で並び、背面に「触手」が縦一列に並ぶという形で復元した。腹面にある棘状の脚で海底を移動し、背面にある細長い一例の「触手」を自在に伸ばしては、その先端部にあるはずの口で餌を吸い取るようにして食べていたのではないかと想像したのである。
また一方で、現存するいかなる動物からも掛け離れたそのような復元像をあり得ないものと考え、アノマロカリスの触手のように、他の生物の付属肢が脱落したものではないかとも言われていた。
ところが1992年、H. sparsa の化石から反対側の「触手」が発見された[5]。従って、「触手」とされた部位は対なす脚であり、記載当時からの復元像は上下を逆さまにしたものであったことが判明した(後に前後も逆であったことが判明する・後述)。 以来今日では、棒状の細長い胴体の腹面に7対の細長い脚を、背面には防御用であろう2列の鋭い棘を持つ、極めて特徴的なトゲトゲした外見の生物として復元される。触手と思われていたものは、節の無い柔らかな歩脚であるとしている。H. sparsaによく似ており、同属と判断した H. fortis と H. hongmeia がそれぞれ1995年と2012年において中国雲南省の澄江動物群(カンブリア紀前期中盤、約5億2,500万- 約5億2,000万年前に属す)から発見され始める[2]。
さらに2015年、ケンブリッジ大学のマーティン・スミスらの調査によりハルキゲニアの化石から、従来尾部とされた細長い部位の先端に一対の目と小さな環状の歯が発見された。同時に従来頭部とされてきた球状の物体は、泥に押しつぶされた際に肛門から押し出された内容物であったことが示唆され、従来の復元図は前後逆であったと結論された[4][6]。
系統関係[編集]
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ハルキゲニアを含んだ有爪動物のステムグループの系統仮説[3]。 |
多くの葉足動物と同様に、ハルキゲニアの汎節足動物における系統的位置は議論的である。その中でも、一部の葉足動物と共に、有爪動物のステムグループ(初期脇道系統)に位置し、基盤的な有爪動物であると見なす説[1][3][4]が一般に知られている。特にハルキゲニアの爪からには、現生有爪動物であるカギムシと同じく、内側から一層ずつ積み重ねている構造が確認されており、有爪動物との類縁関係が示唆される[3]。一方で、これを両者の類縁関係を反映していない汎節足動物の共有原始形質とし、ハルキゲニアを一部の葉足動物と共に、有爪動物から独立した別系統であると見なす分岐学的知見もある[7][8]。
スケール比較[編集]
![]() バージェス動物群のスケール比較 ■ Anomalocaris canadensis (アノマロカリス・カナデンシス) ■ Laggania cambria (ラガニア・カンブリア) ■ Opabinia regalis (オパビニア・レガリス) ■ Wiwaxia corrugata (ウィワクシア・コルガタ) ■ Pikaia gracilens (ピカイア・グラキレンス) ■ Hallucigenia sparsa (ハルキゲニア・スパルサ) |
![]() ヒト(■)とバージェス動物群のスケール比較 ■ Anomalocaris canadensis (アノマロカリス・カナデンシス) ■ Laggania cambria (ラガニア・カンブリア) ■ Opabinia regalis (オパビニア・レガリス) ■ Wiwaxia corrugata (ウィワクシア・コルガタ) ■ Pikaia gracilens (ピカイア・グラキレンス) ■ Hallucigenia sparsa (ハルキゲニア・スパルサ) |
脚注[編集]
- ^ a b c d Hallucigenia sparsa | burgess-shale.rom
- ^ a b Steiner, M.; Hu, S.; Liu, J.; Keupp, H. (2012). “A new species of Hallucigenia from the Cambrian Stage 4 Wulongqing Formation of Yunnan (South China) and the structure of sclerites in lobopodians”. Bulletin of Geosciences 87: 107–124. doi:10.3140/bull.geosci.1280.
- ^ a b c d Smith, Martin R.; Ortega-Hernández, Javier (2014). “Hallucigenia's onychophoran-like claws and the case for Tactopoda”. Nature 514 (7522): 363–366. Bibcode: 2014Natur.514..363S. doi:10.1038/nature13576. PMID 25132546 .
- ^ a b c Smith, Martin R.; Caron, Jean-Bernard (2015). “Hallucigenia's head and the pharyngeal armature of early ecdysozoans”. Nature 523 (7558): 75–8. Bibcode: 2015Natur.523...75S. doi:10.1038/nature14573. PMID 26106857 .
- ^ Ramsköld, Lars (April 1992). “The second leg row of Hallucigenia discovered”. Lethaia 25 (2): 221–4. doi:10.1111/j.1502-3931.1992.tb01389.x.
- ^ カンブリア紀の珍生物「ハルキゲニア」、また復元図が書き換えられる 実は前後も逆だった、ITメディア、2015年6月26日、同年6月27日閲覧
- ^ Caron, Jean-Bernard; Aria, Cédric (2017-01-31). “Cambrian suspension-feeding lobopodians and the early radiation of panarthropods” (英語). BMC Evolutionary Biology 17 (1). doi:10.1186/s12862-016-0858-y. ISSN 1471-2148. PMC: PMC5282736. PMID 28137244 .
- ^ Siveter, Derek J.; Briggs, Derek E. G.; Siveter, David J.; Sutton, Mark D.; Legg, David (2018-08-01). “A three-dimensionally preserved lobopodian from the Herefordshire (Silurian) Lagerstätte, UK” (英語). Royal Society Open Science 5 (8): 172101. doi:10.1098/rsos.172101. ISSN 2054-5703 .
参考文献[編集]
- X.ホウ他著、鈴木寿志、伊勢戸徹訳、大野照文監訳、『澄江生物群化石図譜 -カンブリア紀の爆発的進化-』、(2008)、朝倉書店
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
日本語による[編集]
- ハルキゲニア - 古世界の住人 :画像参照(想像図)
外国語による[編集]
- Hallucigenia sparsa - Paleobiology - Smithsonian National Museum of Natural History
- http://www.nmnh.si.edu/paleo/shale/phallu.htm - (Internet Archive)
- Tus Posibles Pasados (スペイン語)
- Hallucigenia - Early Fauna :画像参照(ハルキゲニアもあり)
- UnderstandingEvolution.com
- Hallucigenia animation :動画参照(ハルキゲニアの生態を再現したアニメーション)
- Is Hallucigenia an arthropod?
- Hallucigenia: A mysterious onychophoran? :ハルキゲニアの分類