ペルセポネー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ペルセポネー
Περσεφόνη
冥界の女王
AMI - Isis-Persephone.jpg
イシス・ペルセポネー像
イラクリオンにある考古学博物館所蔵。
住処 冥界
シンボル 水仙, ザクロ, 蝙蝠, , 松明
配偶神 ハーデース
ゼウス, デーメーテール(あるいはステュクス
兄弟 アテーナー, アポローン, アルテミス, アレース, ヘーパイストス, ヘルメース, ディオニューソス, エイレイテュイア, ヘーベー
子供 ザグレウス
ローマ神話 プロセルピナ, リーベラ, リビティーナ

ペルセポネー古希: ΠΕΡΣΕΦΟΝΗ, Περσεφόνη, Persephonē)は、ギリシア神話に登場する生と死との間を廻る大地の女神[1]冥界の女王である。

ゼウスデーメーテールの娘(一説にはゼウスとステュクスの娘[2])で、ハーデースローマ神話プルートーに相当)の妻として傍らに座しているとされる。しばしばコレー(「乙女」の意)とも言及される(地上にいる間はコレーと呼ばれ、冥界に入るとペルセポネーと呼ばれることもある)。

ペルセフォネーとも[3]日本語では長母音を省略してペルセポネペルセフォネとも呼ぶ。ローマ神話ではプロセルピナと呼ばれ、春をもたらす農耕の女神となっている。

神話[編集]

ペルセポネーの略奪[編集]

レンブラント・ファン・レインの1631年頃の絵画『ペルセポネーの略奪』。絵画館所蔵。

神話によると、ペルセポネー(当時のコレー)は、ニューサ(山地であるが、どこであるのか諸説ある)の野原でニュムペー妖精)たちと供に花を摘んでいた[4]。するとそこにひときわ美しい水仙の花が咲いていたのである。ペルセポネーがその花を摘もうとニュムペーたちから離れた瞬間、急に大地が裂け、黒い馬に乗ったハーデースが現れ彼女は冥府に連れ去られてしまう。

デーメーテールの怒り[編集]

オリュムポスでは、母デーメーテールがペルセポネーが行方知れずになったことを不審に思い、太陽神ヘーリオスから、ハーデースがペルセポネーを冥府へと連れ去ったことを知る[4]。女神はゼウスの元へ抗議に行くが、ゼウスは取り合わず、「冥府の王であるハーデースであれば夫として不釣合いではない」と発言した。これを聞き、娘の略奪をゼウスらが認めていることにデーメーテールが激怒し、オリュンポスを去り大地に実りをもたらすのをやめ、地上に姿を隠す。

一方、冥府に連れ去られたペルセポネーは丁重に扱われるも、自分から進んで暗い冥府に来た訳ではないため、ハーデースのアプローチに対しても首を縦に振らなかった。

四季の始まり[編集]

フレデリック・レイトンの1891年の絵画『ペルセポネーの帰還』。リーズ美術館英語版所蔵。

その後ゼウスがヘルメースを遣わし、ハーデースにペルセポネーを解放するように伝え、ハーデースもこれに応じる形でペルセポネーを解放した。その際、ハーデースがザクロの実を差し出す。それまで拒み続けていたペルセポネーであったが、ハーデースから丁重に扱われていたことと、何より空腹に耐えかねて、そのザクロの実の中にあった12粒のうちの4粒(または6粒)を食べてしまった。

そして母であるデーメーテールの元に帰還したペルセポネーであったが、冥府のザクロを食べてしまったことを母に告げる。冥界の食べ物を食べた者は、冥界に属するという神々の取り決めがあったため、ペルセポネーは冥界に属さなければならない。デーメーテールはザクロは無理やり食べさせられたと主張してペルセポネーが再び冥府で暮らすことに反対するも、デーメーテールは神々の取り決めを覆せなかった。そして、食べてしまったザクロの数だけ冥府で暮らす(1年のうちの1/3(または1/2)を冥府で過ごす)こととなり、彼女は冥府の王妃ペルセポネーとしてハーデースの元に嫁いで行ったのである[5]。そしてデーメーテールは、娘が冥界に居る時期だけは、地上に実りをもたらすのを止めるようになった。これが冬(もしくは夏)という季節の始まりだという。

また、ペルセポネーが地上に戻る時期は、母である豊穣の女神デーメーテールの喜びが地上に満ち溢れるとされる。これが春という季節である。そのため、ペルセポネーは春の女神(もしくはそれに相当する芽吹きの季節の女神)とされる。ペルセポネーの冥界行きと帰還を中軸とするエレウシース秘儀は死後の復活や死後の世界における幸福、救済を保証するものだったと考えられている[6]

デーメーテールがポセイドーンとの間に産んだ娘、デスポイナと同一視されることもあり、ギリシア神話が確立される以前はポセイドーンとデーメーテールの間に産まれた子だった。そもそもペルセポネー自体が本来デーメーテールと同じ神であり、同一神格の別の面が強調されただけではないかともいわれる[7]

なおペルセポネーへの言及は『オデュッセイア』、オルペウス説話などにも見られる。

物語[編集]

このように、ペルセポネーは強制的にハーデースの妻にされてしまったが、ハーデースの妻であることを受け入れ、ギリシャ神話では夫のそばにいる場面が多い。またハーデースの恋人メンテーを厳罰に処すなど、強い嫉妬心を見せるようになった。しかしペルセポネー自身も美しい人間の男・アドーニスを深く愛し、ゼウス公認で1年の1/3の間、彼を恋人として堂々とそばにおいている。

このほかにオルペウス教の物語では、ゼウスは大蛇の姿となってペルセポネーと交わり、ザグレウスを生んだ[8]

メンテー(ミント)[編集]

コキュートス川のニュムペー、メンテーはペルセポネー以前にハーデースが愛した女性[9]

ハーデースは最初にメンテーを愛したが、後に地上からペルセポネーをさらって冥府に連れてきた。メンテーは嫉妬に狂ってペルセポネーに怒りや不満の言葉を浴びせた。自分の方がペルセポネーよりも美しいのだから、ハーデースもいずれ自分とよりを戻し、館からペルセポネーを追い出すだろう、と。しかしこの言葉が母デーメーテールの怒りを買った。メンテーはデーメーテールに足で踏みつぶされて死に、どこにでもある草ミントになった[10]。別の話によると、メンテーを踏みつけて草に変えたのはペルセポネーで、ピュロス市の東にはメンテーの名に由来する山があった[11][注釈 1]

アドーニス(アネモネ)[編集]

アッシリア王キニュラースの娘ミュラー(スミュルナ)が父王を愛し、その結果生まれたアドーニス。

この不幸な出生のアドーニスの養育を、愛の女神アプロディーテーは密かにペルセポネーに頼んだ。しかしアドーニスの美しさにペルセポネーもアドーニスを愛するようになった。そこでゼウスは1年の1/3をそれぞれアプロディーテー、ペルセポネーと暮らし、残る1/3をアドーニスが好きなように使うよう決めたのだが、アドーニスは自分の時間を全てアプロディーテーに与えた[12]。これを知ったアレースは獰猛な猪に変身し、アドーニスを殺した。この時アドーニスが流した血からアネモネが生まれ、死を悲しみアプロディーテーが流した紅涙が白薔薇を赤く染めた。

その他[編集]

  • セイレーンは、元はペルセポネーに仕えていたニュムペーで、ペルセポネーがハーデースに誘拐されると、毎日悲しんでばかりで、「恋愛もせず、泣いてばかりで許せない」、とアプロディーテーの怒りを買い、怪鳥の姿に変えられてしまったとの説もある[13]
  • プシューケーがアプロディーテーの試練により冥府に来た際、美の箱を渡したり、冥府に連れて来られたシーシュポスの3日間だけ生き返らせてくれという頼みを叶えたりするなど、冥府の女王としての描写も多数ある。
  • また、ディオニューソスギンバイカの木と引き替えに母親のセメレーを冥府から帰している。
  • 後代には手に炬火を持ちその髪には蛇を纏わらせ、暗い不機嫌な相貌を持つ姿で描かれた[14]
  • 「ペルセポネー」という名前の意味については諸説がある。
    • 「光を破壊する女」あるいは「目も眩むような光」[15]
    • 「破壊する者」[16]
  • その象徴は水仙、ザクロ[17]蝙蝠である[18]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ オウィディウスもペルセポネーがメンテーを香しいミントに変えたと述べている(『変身物語』10巻728行-731行)。

脚注[編集]

  1. ^ 呉茂一『ギリシア神話(上)』新潮文庫、304頁。
  2. ^ アポロードロス、第1巻1・13。
  3. ^ 石見衣久子「ノンノス『ディオニューソス譚』第七課 : 翻訳と解題」『現代社会文化研究』第43巻、新潟大学大学院現代社会文化研究科、2008年、 193-205頁、2018年1月28日閲覧。
  4. ^ a b 『ギリシア・ローマ神話辞典』p.165。
  5. ^ ギリシア神話』(アポロードロス)第1巻5.3
  6. ^ 地獄』p.143。
  7. ^ 早わかりギリシア神話』p.82。
  8. ^ 『ギリシア・ローマ神話辞典』p.252。
  9. ^ オッピアヌス『漁夫訓』3巻487行。
  10. ^ オッピアヌス『漁夫訓』3巻488行-497行。
  11. ^ ストラボン、8巻3・14。
  12. ^ アポロードロス、第3巻14・4。
  13. ^ 『オデュッセイア』エウスタティウス注より。
  14. ^ 呉茂一『ギリシア神話』新潮社、1994年、338頁。
  15. ^ フェリックス・ギラン『ギリシア神話』邦訳、p.252。
  16. ^ 神話・伝承事典』p.624。
  17. ^ 「聖書」と「神話」の象徴図鑑』 p.66f。
  18. ^ フェリックス・ギラン『ギリシア神話』邦訳、p.253。

参考文献[編集]

原典資料[編集]

  • 『ギリシア神話』(アポロードロス
    • アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波書店岩波文庫 4831-4833〉、1953年4月。全国書誌番号:53005125NCID BN05599568
  • オウィディウス『変身物語(下)』中村善也訳、岩波文庫(1984年)
  • 『オデュッセイア』(エウスタティウス注)
  • アラトス/ニカンドロス/オッピアノス『ギリシア訓叙事詩集』伊藤照夫訳、京都大学学術出版会(2007年) ISBN 4876981701
  • ストラボン『ギリシア・ローマ世界地誌』飯尾都人訳、龍渓書舎(1994年)

二次資料[編集]

  • バーバラ・ウォーカー『神話・伝承事典 - 失われた女神たちの復権』大修館書店、1988年。ISBN 978-4-469-01220-0。
  • 『「聖書」と「神話」の象徴図鑑』岡田温司監修、ナツメ社、2011年。
  • 木村点『早わかりギリシア神話 - 文化が見える・歴史が読める』日本実業出版社、2003年5月。ISBN 978-4-534-03580-6。
  • フェリックス・ギラン『ギリシア神話』青土社、1991年、新装版。
  • 草野巧『地獄』新紀元社Truth In Fantasy 21〉、1995年12月。ISBN 978-4-88317-264-1。
  • 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店、1960年。

関連項目[編集]