マツモ科

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マツモ科
Ceratophyllum submersum.jpg
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
: マツモ目 Ceratophyllales
: マツモ科 Ceratophyllaceae
学名
Ceratophyllales Link1829

Ceratophyllaceae Gray, 1822[1]

英名
hornwort[2][注 1]
下位分類

マツモ科 (マツモか、学名: Ceratophyllaceae) は被子植物の1つであり、沈水性の水草であるマツモ属 (学名: Ceratophyllum) のみを含む。マツモ属にはマツモなど6種ほどが知られ、世界中に広く分布している。またマツモ科のみでマツモ目 (学名: Ceratophyllales) を構成する。

マツモ属はを欠き、水中を漂うか特殊化した枝で水底に固着している。には1〜数回二叉分岐し葉縁に鋸歯をもつが輪生しており、節には小さな単性がつく。果実痩果であり、ふつうトゲをもつ。いくつかのアクアリウムでの観賞用に栽培されることがある[3]

化石記録が豊富であり、最古のものは白亜紀前期にさかのぼる。被子植物の初期分岐群の1つであり、最初期の分子系統学的研究からは、現生被子植物の中で最初に他と分かれたグループであることが示唆されていた。2020年現在では、真正双子葉類姉妹群であるとする仮説が広く受け入れられている。

特徴[編集]

沈水性水生植物であるがを欠き、水中を浮遊しているが、特殊化したで水底に固着していることもある[5][6][7][8][9]維管束は茎の中央に1本あり、退化的で道管仮道管を欠く[5][6]。維管束の周囲には通気組織があり、またデンプンを含む細胞からなる組織に囲まれる[5][6][9] (下図1b)。葉は托葉を欠き、1回から数回二叉分岐し、葉縁にトゲ状の鋸歯がある[5][6][7][8][9] (下図1c)。葉は気孔クチクラ層を欠く[6]。節には3–10枚の葉が輪生しているが (下図1c)、節にはふつう1個 (または2個) のしか形成されない[5][7]。植物体は気孔を欠く[5][7]タンニンデルフィニジンを含み、アルカロイドを欠く[5][6]。植物体の分断による栄養繁殖がふつうに見られる[6]

1b. Ceratophyllum submersumの茎横断面: 中央の維管束は空気間隙およびデンプン粒 (黒い粒) を含む細胞に囲まれている.
1c. マツモ: 10枚のが輪生しており、各葉は2回二叉分岐、葉縁にトゲ状鋸歯がある
2. マツモ: 2. 雄花、3. 雄しべ、4. 雌花、5. 果実
3. マツモの雄花

は単性であり、雌雄同株[5][6][7][10] (雄花雌花が同一個体につく)。花はふつう節に1個 (最大4個) つくが腋生ではなく、と互生してつく[5] (左図2, 3)。花は多数 (9–12枚) の苞葉で囲まれ、苞葉どうしはときに基部で合着している[5][6][11] (左図2)。ただしこの「苞葉」は、花被片と解釈されることもある[8][10]雄花は3個から多数の雄しべをもつ[5][6][7][8][9] (左図2, 3)。ただしこの「雄花」は、1個の雄しべのみからなる雄花が複数集まった花序であるとする考えもある[5]。雄しべのは外向、花糸はあまり分化しておらず、葯隔の先端は2カ所突出する[5][6][8] (左図2)。ときに中央に仮雄しべがある[5]。タペート組織はアメーバ型[5]花粉は無孔粒、エキシンを欠き、花粉管は分枝する[5][6][7]雌花雌しべを1個もち、子房上位[5][6][7] (左図2)。心皮は1個 (2個とする説もある)、嚢状[5][6][7]花柱は細長く突出している[5][8] (左図2)。頂生胎座に1個の直生胚珠がつき、珠皮は1枚、厚層珠心[5][6][7][8][9]。胚嚢発生はタデ型[7]種子は無胚乳[6][7][8]花粉は水中を浮遊し、雌花に達する (水中媒)[5][7]

果実痩果、宿存生の花柱に由来するトゲに加えて数本から多数のトゲをもつものが多い[5][6][8][9] (左図2)。ときに外種皮を欠く[6]はよく分化しているが、幼根を欠く[7]子葉は2枚、地上性[7]。基本染色体数はおそらく X = 12[5][7]。果実の散布は水流による他に、水鳥などによる長距離散布が想定されている[6]

分布・生態[編集]

4. 水中に生育するマツモ (セルビア)

南北アメリカアフリカユーラシア東南アジアオーストラリアなど世界中に分布し、湖沼や流れの緩い水路、河川など淡水域の水中に生育する[1][2][6][8] (右図4)。繁茂して水路を塞ぐこともある[6]

マツモ類は水中で群落を形成し、稚魚などに重要な生育環境を提供している[6]。またマツモ類の果実は、水鳥の食料となることがある[6]

系統と分類[編集]

系統[編集]

マツモ属は特異なをもち、古くから独立のマツモ科に分類されていた[12]水生植物であることや形態的特徴 (多数の雄しべなど) から、スイレン科に近縁であると考えられ、ともにキンポウゲ目 (新エングラー体系) やスイレン目 (クロンキスト体系) に分類されていた[8][12][13]。しかし最も初期に行われた被子植物分子系統学的研究 (Chase et al. 1993) からは、現生被子植物の中でマツモ類が最も初期に分岐したことが示唆された[6][14]。ただしこのような系統的位置が高い信頼度で示されたわけではなく、その後の分子系統学的研究からは、単子葉類姉妹群センリョウ科の姉妹群、ANA (アンボレラ目+スイレン目+アウストロバイレヤ目) を除く被子植物の姉妹群、などのさまざまな結果が示されている[6][10]。2020年現在では、マツモ類が真正双子葉類の姉妹群であるとする仮説が最も広く受け入れられているが[5][15][16] (右上系統樹)、必ずしも確定的なわけではない[10]

化石記録[編集]

化石記録が比較的豊富であり (特に果実)、マツモ科に関連すると思われる最古のものは白亜紀アプト期 (1億2500万年前〜1億1300万年前) にさかのぼる[5]。マツモ目には現生種として1属6種ほどしか知られていないが、かつては現在よりはるかに多様性が高かったことが示唆されている[5]。またポルトガルの1億2500万年前の地層から報告されている Montsechia vidalii はマツモ属に似るが、2個の心皮、基底胎座などの違いがあり、モントセキア科 (Montsechiaceae) に分類されている[5]

分類[編集]

Clade D

マツモ Ceratophyllum demersum

Ceratophyllum echinatum

Clade SMAT

Ceratophyllum submersum

マンシュウマツモ Ceratophyllum muricatum

Ceratophyllum australe

Ceratophyllum tanaiticum

マツモ属の系統仮説 (無根系統樹)[4]

マツモ属の種は互いによく似ているとともに環境条件などによる形態的変異が大きいため、その分類は難しい[6]。そのため大きく異なる分類体系がいくつか提唱されている。Wilmot-Dear (1985) はマツモ属をマツモ (Ceratophyllum demersum) と C. submersum の2種に分けることを提唱した[4][17] (下表)。一方、Les (1989) は Wilmot-Dear (1985) がまとめたマツモを2種 (狭義のマツモと C. platyacanthum)、C. submersum を4種 (狭義の C. submersum, C. muricatum, C. tanaiticum, C. echinatum) に分けることを提唱した[4][18] (下表)。Szalontai et al. (2018) による分子系統学的研究からは、後者がおおよそ支持されている[4] (右系統樹、下表)。下には、Szalontai et al. (2018) による分類体系を示す。

マツモ属の分類[4]
Wilmot-Dear (1985) Les (1989) Szalontai et al. (2018) 分布
Ceratophyllum demersum Ceratophyllum demersum Ceratophyllum demersum 世界中
Ceratophyllum platyacanthum ヨーロッパ東アジア
Ceratophyllum submersum Ceratophyllum echinatum Ceratophyllum echinatum 北アメリカ東部、西部
Ceratophyllum submersum Ceratophyllum submersum ヨーロッパ中央アジアアフリカ北部から中部
Ceratophyllum muricatum Ceratophyllum muricatum 中央アジアから東アジア東南アジア南アジアアフリカ
Ceratophyllum australe 北アメリカ南東部、中央アメリカ南アメリカ
Ceratophyllum tanaiticum Ceratophyllum tanaiticum 北東ヨーロッパ

マツモ目の分類体系の一例 (主に Szalontai et al. 2018 に基づく)[1][2][4]

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

  1. ^ 英名の hornwort はツノゴケ類を意味することもある。
  2. ^ この学名に"セイロンマツモ"や"ペルーマツモ"という通称を与えていることがあるが[3]、2020年現在 Ceratophyllum submersum とされる種はセイロン島南米には分布していない[1][4]

出典[編集]

  1. ^ a b c d Ceratophyllaceae”. Plant of the World online. Kew Botanical Garden. 2021年7月13日閲覧。
  2. ^ a b c GBIF Secretariat (2021年). “Ceratophyllum”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年7月20日閲覧。
  3. ^ a b c 吉野敏 (2005). 世界の水草728種図鑑. エムピージェー. pp. 138, 139. ISBN 978-4895125345 
  4. ^ a b c d e f g h Szalontai, B., Stranczinger, S., Mesterhazy, A., Scribailo, R. W., Les, D. H., Efremov, A. N., ... & Csiky, J. (2018). “Molecular phylogenetic analysis of Ceratophyllum L. taxa: a new perspective”. Botanical Journal of the Linnean Society 188 (2): 161-172. doi:10.1093/botlinnean/boy057. 
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa Stevens, P. F.. “Ceratophyllales”. Angiosperm Phylogeny Website. Version 14, July 2017. 2021年7月19日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z Judd, W.S., Campbell, C.S., Kellogg, E.A., Stevens, P.F. & Donoghue, M.J. (2015). “Ceratophyllales”. Plant Systematics: A Phylogenetic Approach. Academic Press. pp. 262–263. ISBN 978-1605353890 
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Watson, L. & Dallwitz, M. J. (1992 onwards). “Ceratophyllaceae”. The families of flowering plants: descriptions, illustrations, identification, and information retrieval.. 2021年7月19日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g h i j k 伊藤元巳 (2016). “マツモ属”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 2. 平凡社. p. 101. ISBN 978-4582535327 
  9. ^ a b c d e f Kabeya, Y. & Hasebe, M.. “マツモ目”. 陸上植物の進化. 基礎生物学研究所. 2021年7月18日閲覧。
  10. ^ a b c d 岩元明敏 (2017). “マツモ (Ceratophyllunm demersum) の花発生: 物理的圧力が花の数性に及ぼす影響”. PLANT MORPHOLOGY 29 (1): 75-80. doi:10.5685/plmorphol.29.75. 
  11. ^ Csiky, J., Mesterházy, A., Szalontai, B. & Pótóné Oláh, E. (2010). “A morphological study of Ceratophyllum tanaiticum, a species new to the flora of Hungary”. Preslia 82 (2): 247-259. http://www.preslia.cz/P102Csiky.pdf. 
  12. ^ a b 井上浩, 岩槻邦男, 柏谷博之, 田村道夫, 堀田満, 三浦宏一郎 & 山岸高旺 (1983). “マツモ科”. 植物系統分類の基礎. 北隆館. p. 224 
  13. ^ 加藤雅啓 (1997). “分類表”. バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統. 裳華房. p. 270. ISBN 978-4-7853-5825-9 
  14. ^ 加藤雅啓 (1997). “マツモ 最も隔絶された現生被子植物?”. バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統. 裳華房. pp. 152–153. ISBN 978-4-7853-5825-9 
  15. ^ APG III (2009). “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG III”. Botanical Journal of the Linnean Society 161 (2): 105–121. doi:10.1111/j.1095-8339.2009.00996.x. 
  16. ^ Chase, M. W., Christenhusz, M. J. M., Fay, M. F., Byng, J. W., Judd, W. S., Soltis, D. E., ... & Stevens, P. F. (2016). “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG IV”. Botanical Journal of the Linnean Society 181 (1): 1-20. doi:10.1111/boj.12385. 
  17. ^ Wilmot-Dear, M. (1985). “Ceratophyllum revised: a study in fruit and leaf variation”. Kew Bulletin 40 (2): 243-271. doi:10.2307/4108260. 
  18. ^ Les, D. H. (1989). “The evolution of achene morphology in Ceratophyllum (Ceratophyllaceae), IV. Summary of proposed relationships and evolutionary trends”. Systematic Botany 14 (2): 254-262. doi:10.2307/2418911. 
  19. ^ Wunderlin, R. P., Hansen, B. F., Franck, A. R. & Essig, F. B. (2021年). “Print Ceratophyllum”. Atlas of Florida Plants. Institute for Systematic Botany, University of South Florida, Tampa. 2021年7月22日閲覧。
  20. ^ a b 米倉浩司・梶田忠. “植物和名ー学名インデックスYList”. 2021年7月21日閲覧。