マツ科

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マツ科
Seebruecke Prerow 002.jpg
ヨーロッパアカマツ
分類
: 植物界 Plantae
: 裸子植物門 Pinophyta
: マツ綱 Pinopsida
: マツ目 Pinales
: マツ科 Pinaceae
学名
Pinaceae Lindley
和名
マツ科
  • 本文参照

マツ科学名:Pinaceae)は、裸子植物門球果植物門)の科である。北半球を代表する針葉樹のグループであり、針葉樹では現在最も繁栄しているとみられている一群である。ちなみに南半球ではマツ科ではなく、マキ科(Podocarpaceae)とナンヨウスギ科(Araucariaceae)の分化が著しく、ヒノキ科(Cupressaceae)は両半球の温帯地域に分布する。

形態[編集]

樹形はクリスマスツリーのような円錐形になるものが多い。枝は同じ高さから四方八方に伸ばすものが多い(輪生という)。枝には二種類あり、旺盛に伸長し我々が一般に「枝」と呼ぶものを「長枝」、葉の付け根にあるごく短いものを「短枝」と呼ぶ。長枝はすべての種が持つが、短枝は一部の属しか持たない。

葉は針状であり生える場所は、長枝からのみ生えるもの(モミ属など)、長枝と短枝の両方から生えるもの(カラマツ属、ヒマラヤスギ属など)、短枝からしか生えないもの(マツ属)に分けられる。長枝から生える葉は一本ずつであるが、短枝から生える葉は数本から数十本が束になって生える。落葉の時にも特徴があり、マツ科では葉が落ちるときは葉だけが落ちる構造になっている。これに対し、マツ科と並んで代表的な針葉樹のグループであるヒノキ科では枝の一部分も一緒に落ちる。

花は雌雄同株(雄花と雌花が同じ株につくこと)、雄花は単生もしくは多数が束生する。花粉は風媒され、一般に2つの気嚢を持つが、カラマツ属、ヒマラヤスギ属、トガサワラ属、ツガ属では気嚢は1つである。雌花および雌花が成長した球果は鱗片状の構造が多数集まったものである。マツ属のみ原則として受粉した翌年に熟すが、ほかの種類は受粉した年に成熟する。また、マツ属のみ球果の鱗片が肥大して成長し、突起状の構造物(英:umbo)というものができる。熟した球果はそのまま落下するもの(マツ属、カラマツ属、トウヒ属、ツガ属、ユサン属など)と樹上で鱗片が分解しするもの(モミ属、ヒマラヤスギ属、イヌカラマツ属など)がある。種子は一般に翼をもち、風で飛ばされやすい形となっているが、マツ属の一部には翼を持たないものがある。種子の翼は片側から伸ばす。ヒノキ科では種子の両側に翼がつく

生態[編集]

常緑樹が大半であるが、カラマツ属など落葉樹のグループもある。山火事が頻発するような地域に生えるマツ属の一部の種類には晩生球果(英:serotinous cone)と呼ばれる仕組みを持つものがあり、成熟しても球果の鱗片は開かないが、山火事の強熱を浴びたときに鱗片が開いて種子を飛ばす。山火事後の森林は上層木が焼かれて明るく、土壌中の病原菌や競合種の種子も壊滅しているので、光や栄養をめぐる生存競争に優位に立っていると考えられている。

人間との関わり[編集]

象徴[編集]

落葉広葉樹林が主体となるような地域(温帯など)においては、冬でも青々とした葉を付けるマツ科の常緑樹は生命力の象徴とされることがある。たとえば中国文化圏における歳寒三友(日本では主に松竹梅と呼ばれる)ではマツ属の樹木が崇められている。欧米ではモミ属やトウヒ属が魔除けに用いられることもあるという。クリスマスのシンボルであるクリスマスツリーになるのも円錐形の樹形を持つマツ科の常緑樹であることが多い。モミ属やトウヒ属が用いられることが多いが、これらは分布域が比較的狭いためより広い分布と温度適性を持つマツ属を使ったツリーもあるという。

木材[編集]

ヒノキ科などの他の針葉樹のグループと比べてより広い分布域を持つマツ科樹木は世界各地で木材としてよく利用される。マツ科の天然分布は北半球のみであるが、南半球の地域でも大規模に植栽されていることがしばしばある。たとえばニュージーランドではアメリカ原産のラジアータマツPinus radiata)に全面的に頼る林業を行っていることでよく知られている。

樹脂[編集]

マツ科樹木は細胞中に大きな樹脂道を持ち、樹脂の量が多く各地で利用されている。特にマツ属とモミ属でよく知られている。

食料[編集]

マツ属の一部の種の種子は松の実(英:pine nut)などと呼ばれ各地で食用にされる。

花粉症の原因として[編集]

症例は少ないとされるが、花粉症の原因植物となることがある[1]

分類[編集]

形態学的な分類で4亜科に分かれる分類方法で記述する。亜科単位の分類を形態や生態だけで分けるのは難しく、研究者によって諸説あったが、近年分子生物学的な手法の採用により分類が再編されつつある。

マツ亜科 Subfamily Pinoideae[編集]

以下の1属を含む単型(モノタイプ)

枝は長枝と短枝があり、葉は短枝からのみ延びる。長枝は鱗片葉と呼ばれる特殊な葉で覆われるが、カラマツ属と違い普通の葉はつけない。葉は気孔が集まった気孔帯(英:stomatal bands)は、葉の裏面、もしくは両面にできる。球果の鱗片には突起(英:umbo)を持ち、成熟には通常で受粉後2年、ごく一部に3年かかるものもある。球果は樹上で分解せず、そのまま落下する。種子はresin vesicle(和名不明)という構造を持たない[2]
マツ科の中では最も広い分布範囲を持ち、繁栄しているグループで、北極圏から赤道直下までの北半球全域、旧大陸と新大陸のいずれにも合計110種程度が分布。特に新大陸のアメリカ合衆国東南部と西部山岳地帯の2地域では今も旺盛な進化が続いているとみられているおり種類が多い。いずれも常緑樹。高木が多いが灌木状になる高山種など各地の状況に適応した形態を見せる。

トウヒ亜科 Subfaimily Piceoideae[編集]

以下の1属を含む単型。

球果の鱗片には突起を持たず、受粉後1年以内に成熟する。枝は長枝と短枝の区別はなく、葉は長枝につける。葉の付け根の枝に葉枕(ようちん、英:pulvinus)と呼ばれる構造が発達し、枝の凹凸が著しい。葉の気孔帯は裏面もしくは両面にできる。種子はresin vesicleを持たない。
長枝しか持たず常緑樹であることなどからモミ亜科に置く説もあった。

カラマツ亜科 Subfamily Laricoideae[編集]

以下の3属を含む。球果の鱗片には突起を持たず、受粉後1年以内に成熟する。葉の気孔帯は裏面にのみでき、位置は師部よりも下側である。

旧大陸、新大陸の北部や山岳地帯を中心とした冷涼な地域に10種程度が分布する。針葉樹では珍しく落葉しいずれも高木。一般には陽樹とされる。 長枝と短枝が発達する。葉は短枝の先にまとまってつくが、長枝であっても枝先端の若いものに限り葉をつける。球果は樹上で分解せず、そのまま落下する。
  • ギンサン属 (和名は仮称、学名Cathaya
 中国に一属一種Cathaya argyrophyllaのみが生息する単型。系統学的にはカラマツ属やトガサワラ属よりもマツ属やトウヒ属に近いとの説もある[3]
学名は偽のツガという意味。ツガは日本語の栂に由来しており、後述のTsuga属の学名にもなっている。ツガ属と異なり葉の付け根に葉枕はない。枝は長枝しか持たない。また、球果から苞鱗と呼ばれる髭のようなものが発達し飛び出すのが特徴。球果は樹上で分解せず、そのまま落下する。
長枝しか持たず常緑樹であることなどからモミ亜科に置く説もあった。

モミ亜科 Subfamily Abietoideae[編集]

以下の6属を含む。球果の鱗片には突起を持たず、受粉後1年以内に成熟する。葉の気孔帯は裏面にのみでき、師部よりも下側である。球果には突起を持たない。種子はresin vesicleを持つ。系統学的にはほかの亜科とは早く分化したものとみられることが多い、。

いずれも常緑の高木である。枝に長枝と短枝の区別はなく、葉は長枝から直接生え、雄花は枝に群生する。球果は枝から直立し樹上で分解しながら種子を散布する。
北半球の北部や山岳地帯を中心とした冷涼な地域に約40種が分布する。一般には陰樹であり、極相で出現するグループと考えられている。
常緑。枝はマツ属やカラマツ属と同じく枝は長枝と短枝を持ち、葉は短枝から生えるが若い長枝にも葉をつける。球果はモミ属と同じく枝から直立し樹上で分解しながら種子を散布する。
長枝と短枝を持つことからマツ亜科やカラマツ亜科に置く説もあった。いずれもユーラシア地域に分布し、地中海沿岸を中心に3種、1種だけヒマラヤ周辺に隔離分布する小グループ。
  • ユサン属 (学名:Keteleeria)
中国からベトナムにかけて3種が分布する。球果は樹上に直立するが、樹上では分解せず、そのまま落下する。
  • ノトツガ属(和名は仮称 学名:Nothotsuga
 中国に一属一種 Nothotsuga longibracteata(和名未定)のみが生息する単型。枝は長枝と短枝を持つ。ツガ属の中でもっとも原始的な形質を持つものとして、Tsuga longibracteataとされることもある[4]
  • イヌカラマツ属(学名:Pseudolarix
現存種はイヌカラマツ(Pseudolarix amabiris)のみの単型である。学名は偽のカラマツの意味。カラマツと同じく枝は長枝と短枝があり、葉は短枝に付くが、若い長枝にもつく。落葉樹である点もカラマツと共通している。球果はモミ属やヒマラヤスギ属と同じく樹上で分解しながら種子を散布する。
長枝と短枝の区別があり、落葉樹であることなどからカラマツ亜科に置く説もあった。
学名Tsugaは日本語の栂に由来する。枝は長枝のみを持つ。

脚注[編集]

  1. ^ 藤崎洋子・島瀬初美・五十嵐隆雄・山田康子・佐藤尚. 1976. 花粉症の研究 Ⅳマツ属花粉症. アレルギー25(9) pp668-677. doi:10.15036/arerugi.25.668
  2. ^ David Kolotelo. 2005. Cone and Seed Imprpvement BCMoF tree centre -Resin Vesicles in Conifer Seeds -
  3. ^ Ran, Jin-Hua; Shen, Ting-Ting; Wu, Hui; Gong, Xun; Wang, Xiao-Quan 2018. Phylogeny and evolutionary history of Pinaceae updated by transcriptomic analysis. Molecular Phylogenetics and Evolution. 129: 106–116.
  4. ^ 清水建美. 1990, 針葉樹の分類・地理、特に2、3の亜高山帯の属について その1. 植生史研究(6) 25-30.

関連項目[編集]

  • マツ目
マツ科 Pinaceae
ナンヨウスギ科 Araucariaceae
マキ科 Podocarpaceae
コウヤマキ科 Sciadopityaceae
ヒノキ科 Cupressaceae
イヌガヤ科 Cephalotaxaceae
イチイ科 Taxaceae