ヤマカガシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
検索に移動
ヤマカガシ
ヤマカガシ
ヤマカガシ Rhabdophis tigrinus
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
: 有鱗目 Squamata
: ナミヘビ科 Colubridae
亜科 : ユウダ亜科 Natricinae
: ヤマカガシ属 Rhabdophis
: ヤマカガシ R. tigrinus
学名
Rhabdophis tigrinus (Boie, 1826)[1]
シノニム[1]

Tropidonotus tigrinus Boie, 1826
Amphiesma tigrinum
Duméril & Bibron, 1854
Natrix tigrina Stejneger, 1907

和名
ヤマカガシ[2]
英名
Tiger keelback[1]

ヤマカガシ (Rhabdophis tigrinus) は、爬虫綱有鱗目ナミヘビ科ヤマカガシ属に分類されるヘビ。

分布[編集]

日本本州四国九州佐渡島隠岐島壱岐島五島列島屋久島種子島に分布し、南西諸島小笠原諸島および北海道には分布しない[3][4]固有種

模式標本の産地(基準産地・タイプ産地・模式産地)は、長崎[1]

形態[編集]

頭部

全長60 - 120センチメートル[2]。体色は地域変異があり、関東地方の個体群は体側面に赤色と黒色の斑紋が交互に入る[2]。関西地方の個体群は体側面の斑紋が不明瞭[2]。近畿地方西部から中国地方の個体群では青色型もみられる[5]

頸部背面には黄色の帯があり、幼体でより鮮やかで、成長するにつれてくすんでくる。この黄色の帯も個体によっては表れない。 鱗には強いキールがある。

[編集]

1932年に咬傷時に出血傾向が見られるなどの数例の咬傷時の報告例はあったが、以前は無毒種であると考えられていた[6]。咬傷時の症状がブームスラングと一致すること・後述する死亡例などから、1974年に有毒種と報告された[7]

毒牙は上顎の奥歯にあり、0.2センチメートル以下と短い[8]。毒腺(デュベルノワ腺)を圧迫する筋肉が無いため、一瞬噛まれただけでは毒が注入されないこともある[8]

毒性は強い血液凝固作用で、血管内で微小な血栓形成を引き起こす[8]。咬傷直後には局所的な激しい痛みや腫れはあまり起こらない[8]。毒が患部から血液に入ると、血液凝固作用によりフィブリノーゲンが大量に消費される[8]。フィブリノーゲン、続けて血小板が血栓の形成に伴い減少することで全身の血液が止血作用を失う[8]。並行して血栓を溶かす作用(線溶血性)が亢進し、毛細血管が多い鼻粘膜・歯茎・消化器官・肺からの出血、全身の皮下出血を引き起こす[8]。出血あるいは血栓が原因と考えられている一過性の頭痛が起こることがあり、頭痛が発生した場合は毒量が多いと考えられ重症化する例が多い[8]赤血球が血栓で狭窄した血管を通る際に損傷し、赤血球内のヘモグロビンが血中あるいは尿に溶出するため褐色尿も見られる[8]。重症例では脳出血・急性腎不全DICなどを引き起こす[8]。20グラムのマウスに対する半数致死量(LD50/20g mouse)は静脈注射で5.3マイクログラム、(日本産の他種ではセグロウミヘビ1.7 - 2.2マイクログラム、ニホンマムシ19.5 - 23.7マイクログラム、ハブ沖縄島個体34.8マイクログラム・奄美大島個体47.8マイクログラムなど)[8]

頸部皮下にも毒腺(頸腺)があり[8]、頸部を圧迫すると毒が飛び散る[2]。目に入った場合の症例として刺激痛や結膜炎・充血・角膜混濁・デスメ膜の線状混濁・角膜知覚麻痺・瞳孔反応の遅鈍・縮瞳・散瞳・虹彩炎などがある[9]2007年に本種が獲物であるヒキガエル類から得た毒物(ブフォトキシン)を蓄積し、頸腺の毒として用いているという説が提唱された[10]。この報告例では岡山県・京都府産のメス4個体にモリアオガエルとヤマアカガエル・キンギョのみを与えた後にアメリカ合衆国に送り、これらの個体から得られた幼蛇の頸腺に毒物が含まれているか検査するという方法が用いられた[10]。このうち1個体を除いてこの実験では母親となった3個体では頸腺から毒物は検出されないかほとんど検出されておらず、捕獲以前からヒキガエル類を長期間捕食していなかったことが示唆されている[10]。これらの幼蛇からは毒物が検出されなかったが、アメリカ合衆国に分布するヒキガエル類Anaxyrus quercicus(2007年の時点ではBufo quercicus)の幼体を餌として与えると頸腺から毒物が検出されるという結果が得られた[10]。ヒキガエル類が分布しない金華山産の個体はヒキガエル類を食べていないと仮定し、金華山産の個体でも同様の実験が行われこちらの実験では幼蛇の一部に餌としてニホンヒキガエルが与えられた[10]。餌を与えなかった幼蛇やニホンヒキガエルを食べなかった幼蛇では頸腺に毒物は検出されなかったものの、ニホンヒキガエルを餌とした幼蛇の頸腺からは毒物が検出されるという結果が得られている[10]

分類[編集]

朝鮮半島中華人民共和国沿海地方の個体群を亜種R. t. lateralis(基亜種<狭義の本種>のシノニムとされることもあった)、台湾の個体群を亜種R. t. formosanusとする説もあった[11]2012年に発表された220頭(日本202頭)のミトコンドリアDNAシトクロムbの一部の塩基配列を決定し最大節約法最尤法ベイズ推定を用いた分子系統推定では、亜種間の遺伝的距離が同属他種と同程度に大きいという解析結果が得られた[11]。そのため亜種を分割して、独立種とする説もある[11]

この系統推定では日本国内では中国地方西部を除く本州・四国(clade I)と、中国地方西部・九州(clade II)の2系統に分かれるという解析結果も得られた[11]。clade Iは主に近畿地方を境目に分かれる2つの系統(能登半島・佐渡島を除く本州中部・東部subclade I-A、本州西部・四国・能登半島・佐渡島subclade I-B)と、広域分布しこれら双方の系統とも同所的に分布する系統(subclade I-C)の計3系統に分かれるという解析結果が得られた[11]

生態[編集]

ヤマカガシは水辺を好む
ヒキガエルを捕らえた様子

カガシとは日本の古語で「蛇」を意味し、ヤマカガシは、「山の蛇」となる。

性質は一般に大人しいとされているが、中には非常に攻撃的な個体もいるため、注意が必要である。

主にカエルを食べるが、有尾類ニホンカナヘビ、ドジョウ類なども食べる[12]。飼育下の幼蛇の観察例では魚類は死んでから食べることもあり頭から飲み込むことが多いが、カエルは生きたまま捕食し最初に噛みついた場所から飲み込むことが多かったという報告例もある[13]

水田の土中に頭を入れて、土に潜ったトノサマガエルなども捕食する。飼育下では、ドジョウ金魚捕食例もある。

捕食者はシマヘビイヌワシクマタカサシバノスリモズなどが挙げられる[14]。幼蛇の死骸がガムシの幼虫・タガメに食べられた報告例もあり、このうちタガメの例ではタガメの摂食跡の他に目立った外傷もなかったこと・タガメは主に獲物を待ち伏せ捕食すること・タガメ科の別属他種ではヘビ類も襲う報告例があることから捕食された可能性もあると考えられている[15]

繁殖様式は卵生。秋期に交尾を行う[2]。7月に1回に2 - 43個の卵を産む[2]

人間との関係[編集]

本種はアオダイショウシマヘビとともに、日本本土でよく見かけるヘビの一種である。同じ毒蛇であるニホンマムシと比べても生息数は多く、水田などを活動の場とすることで人との関わりも深い。ヤマカガシはカエルを主な食料とするため、日本の農業、特に水田の発達と共にヒキガエルや他のカエルの繁殖地が増加していき、それに伴って発展していったものと考えられている。

近年は水田の減少、そしてそれに伴うカエルの減少と共に、個体数は減少しているようである。特に都市部では、本種を見かけることは極めてまれである。

咬傷は主に捕獲時や取扱い時に発生する[8]。2002年の時点で、本種の咬傷により1972年に肺水腫(咬傷被害は1971年)・1982年1984年脳出血による3例の死亡例が報告されている[8]。頸腺による被害は、本種の頸部を棒で叩いた場合などにより発生する[8]。1989年時点で、14例の症例が報告されている[9]

本種の血清は1984年の死亡例から試作品が作られ、2001年までに11例の重症例で使用された[8]。2001年に厚生省の研究班によって製造された試作品が、2002年の時点では財団法人日本蛇族学術研究所国立感染症研究所杏林大学で保管されている[8]

日本では2021年の時点でラブドフィス属(ヤマカガシ属)単位で特定動物に指定されており、2019年6月には愛玩目的での飼育が禁止された(2020年6月に施行)[16]

出典[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ a b c d Rhabdophis tigrinus. Uetz, P. & Jirí Hošek (eds.) (2020), The Reptile Database, http://www.reptile-database.org, accessed 8 Feb 2021.
  2. ^ a b c d e f g 鳥羽通久 「ヤマカガシ」『爬虫類・両生類800図鑑 第3版』、ピーシーズ、2002年、324 - 325頁。
  3. ^ 富田京一、山渓ハンディ図鑑10 日本のカメ・トカゲ・ヘビ、山と渓谷社、2007年7月15日初版、pp. 190 - 195、ISBN 978-4-635-07010-2[出典無効]
  4. ^ 疋田努 『爬虫類の進化』 東京大学出版会 2002 ISBN 4-13-060179-2 p215
  5. ^ 鳥羽通久 「ヤマカガシの青色型について」『爬虫両棲類学会報』第2002巻 2号、日本爬虫両棲類学会、2002年、68 - 69頁。
  6. ^ 小川弘俊, 大村豊, 大橋大造, 入谷勇夫, 加藤政隆, 待木 雄一, 「ヤマカガシ咬傷にて死亡した1例および本邦報告例の検討 」『日本臨床外科医学会雑誌』第47巻 2号、日本臨床外科学会、1986年、250 - 253頁。
  7. ^ リチャード C. ゴリス 「ヤマカガシの毒性について」『爬虫両棲類学雑誌』第5巻 3号、日本爬虫両棲類学会、1974年、63頁。
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 堺淳、森口一、鳥羽通久「フィールドワーカーのための毒蛇咬症ガイド」『爬虫両棲類学会報』第2002巻 2号、日本爬虫両棲類学会、2002年、11 - 17頁。
  9. ^ a b 川本文彦, 熊田信夫 「自ら経験したヤマカガシ頸腺毒による眼障害」『衞生動物』第40巻 第3号、日本衛生動物学会、1989年、211-212頁
  10. ^ a b c d e f Deborah A. Hutchinson, Akira Mori, Alan H. Savitzky, Gordon M. Burghardt, Xiaogang Wu, Jerrold Meinwald, Frank C. Schroeder, "Dietary sequestration of defensive steroids in nuchal glands of the Asian snake Rhabdophis tigrinus," PNAS, Volume 104, Number 4, 2007, Pages 2265 - 2270
  11. ^ a b c d e Hirohiko Takeuchi, Hidetoshi Ota, Hong-Shik Oh, Tsutomu Hikida, "Extensive genetic divergence in the East Asian natricine snake, Rhabdophis tigrinus (Serpentes: Colubridae), with special reference to prominent geographical differentiation of the mitochondrial cytochrome b gene in Japanese populations," Biological Journal of the Linnean Society, Volume 105, Issue 2, The Linnean Society of London, 2012, Pages 395–408.
  12. ^ 吉川夏彦「ヤマカガシ幼体によるハコネサンショウウオ幼体の捕食例」『爬虫両棲類学会報』第2008巻 1号、日本爬虫両棲類学会、2008年、8 - 10頁。
  13. ^ 森哲 「ヤマカガシ(ヘビ亜目:ナミヘビ科)孵化幼体におけるカエルおよびサカナに対する捕食行動の比較」『爬虫両棲類学雑誌』第17巻 2号、日本爬虫両棲類学会、1997年、39 - 45頁
  14. ^ 田中幸治、森哲 「日本産ヘビ類の捕食者に関する文献調査」『爬虫両棲類学会報』第2000巻 2号、日本爬虫両棲類学会、2000年、88 - 98頁。
  15. ^ 森哲・大庭伸也 「野外におけるタガメによるヘビ類の摂食例」『爬虫両棲類学会報』第2004巻 2号、日本爬虫両棲類学会、2004年、78 - 81頁。
  16. ^ 特定動物リスト (動物の愛護と適切な管理)環境省・2021年2月8日に利用)

関連項目[編集]

  • ヤマカガシ咬傷で, 蛇毒による出血傾向発現後, 下顎骨骨体部に著明な骨添加を認めた1例 東北大学歯学雑誌 1984-08-15, hdl:10097/31137
  • 秋澤俊史、安原義、加納六郎、三島章義、中嶋暉躬「113 ヤマカガシ頸腺毒中のブファジエノリドについて」『衞生動物』第35巻第2号、日本衛生動物学会、1984年6月15日、 NAID 110003819977
  • (財)日本蛇族学術研究所公式ホームページ(咬傷の診断)