ロジャー・ペンローズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
検索に移動
Sir
ロジャー・ペンローズ
Roger Penrose
Roger Penrose at Festival della Scienza Oct 29 2011.jpg
ロジャー・ペンローズ(2011)
生誕 (1931-08-08) 1931年8月8日(89歳)
イギリスの旗 イギリス エセックス州コルチェスター
国籍 イギリスの旗 イギリス
研究分野 数理物理学平面充填
研究機関 プリンストン大学
シラキュース大学
キングス・カレッジ・ロンドン
バークベック・カレッジ
ポーランド科学アカデミー
出身校 ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン
論文 Tensor Methods in Algebraic Geometry (1958)
指導教員 ウィリアム・ホッジ
主な業績 ペンローズ図
ペンローズ過程
ペンローズ・タイル
ペンローズの階段
ペンローズのグラフ記法
ペンローズの三角形
主な受賞歴 ロイヤル・メダル(1985)
ウルフ賞物理学部門(1988)
コプリ・メダル(2008)
ノーベル物理学賞(2020)
プロジェクト:人物伝
テンプレートを表示
ノーベル賞受賞者ノーベル賞
受賞年:2020年
受賞部門:ノーベル物理学賞
受賞理由:ブラックホールの形成が一般相対性理論の強力な裏付けであることの発見

ロジャー・ペンローズ(Sir Roger Penrose OM FRS1931年8月8日 - )は、イギリス数理物理学者、数学者、科学哲学者である。2020年のノーベル物理学賞を受賞した[1]

ペンローズは、一般相対性理論宇宙論において数理物理学に貢献した。特異点定理によりスティーブン・ホーキングとともに1988年のウルフ賞物理学部門を受賞し[2]、「ブラックホールの形成が一般相対性理論の強力な裏付けであることの発見」により、ラインハルト・ゲンツェルアンドレア・ゲズともに2020年のノーベル物理学賞を受賞する[3][4]など、多くの賞を受賞している。

若年期と教育[編集]

ロジャー・ペンローズは、1931年8月8日エセックス州コルチェスターで、精神科医で遺伝学者の父ライオネル・ペンローズとその妻のマーガレット・リーズスの間に生まれた。父方の祖父はアイルランド生まれの芸術家J・ドイル・ペンローズ英語版であり、母方の祖父は生理学者のジョン・ベレスフォード・リーズス英語版である。母方の祖母のソニア・マリー・ナタンソン[5][6]は、1880年代後半にサンクトペテルブルクを離れたユダヤ系ロシア人である[7][8]。叔父に芸術家のローランド・ペンローズ英語版がおり、その妻は写真家のリー・ミラー、息子が同じく写真家のアントニー・ペンローズ英語版である[9][10]。兄に物理学者オリバー・ペンローズ、弟にチェスのグランドマスタージョナサン・ペンローズ英語版、妹に遺伝学者シャーリー・ホジソンがいる[11][12]

ペンローズはユニヴァーシティ・カレッジ・スクール英語版ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンに通い、1952年に数学の学位を取得した[13]。その後、ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ英語版で修士号、1957年にPh.D.を取得した、

経歴[編集]

ロンドン大学、ケンブリッジ大学、プリンストン大学シラキュース大学テキサス大学コーネル大学ライス大学などで教鞭をとる。

1964年、スティーヴン・ホーキングと共にブラックホールの特異点定理を証明。1972年、王立協会会員に選出される。1973年、オクスフォード大学ラウズ・ボール教授職に就任。1994年、ナイトを叙勲。

科学上の業績[編集]

その他の活動[編集]

量子脳理論[編集]

著書『皇帝の新しい心』にて、内の情報処理には量子力学が深く関わっているというアイデア・仮説を提示している。その仮説は「ペンローズの量子脳理論」と呼ばれている。放射性原子が崩壊時期を選ぶように、物質は重ね合わせから条件を選ぶことができるといい、意識は原子の振る舞いや時空の中に既に存在していると解釈する[16]

素粒子にはそれぞれ意識の元となる基本的で単純な未知の属性が付随しており[要出典]、脳内の神経細胞にある微小管で、波動関数が収縮すると、意識の元となる基本的で単純な未知の属性も同時に組み合わさり[要出典]、生物の高レベルな意識が生起するというのである(「意識」の項にその仮説の解説あり。参照のこと)。

一方、麻酔科医のスチュワート・ハメロフは、生物学上の様々な現象が量子論を応用することで説明可能な点から少しずつ立証されていて、20年前から唱えられてきたこの説を根本的に否定できた人はいないと主張している[17]

臨死体験の関連性について以下のように推測している。「脳で生まれる意識は宇宙世界で生まれる素粒子より小さい物質であり、重力・空間・時間にとらわれない性質を持つため、通常は脳に納まっている」が「体験者の心臓が止まると、意識は脳から出て拡散する。そこで体験者が蘇生した場合は意識は脳に戻り、体験者が蘇生しなければ意識情報は宇宙に在り続ける」あるいは「別の生命体と結び付いて生まれ変わるのかもしれない。」と述べている[18]

量子論上の観測問題[編集]

『皇帝の新しい心』以降の著書で、現在の量子力学の定式化では現実の世界を記述しきれていないという主張を展開している。(学術論文としても提出している)

量子論には波動関数のユニタリ発展(U)と、波束の収縮(R)の2つの過程が(暗に)含まれているが、現在の量子力学の方程式ではUのみを記述しており、それだけでは非線形なR過程は説明がつかない。すなわち、現在の量子力学の定式化はRが含まれていないため不完全であるとする。そして、Rに相当する未発見の物理現象が存在していると考え、量子重力理論の正しい定式化には、それが自ずと含まれているだろうと唱えた。

『皇帝の新しい心』の続編として出版された『心の影』では、上記の仮説をより進め、UとRを含む仮説理論として「OR理論(Objective-Reduction、客観的収縮)」を提唱した。量子レベルの世界から古典的なマクロ世界を作り出しているのは、重力であり、重力がRに相当する現象を引き起こすとする。量子的線形重ね合わせとは、時空の重ね合わせであり、重ね合わせ同士の重力的なエネルギー差が大きくなると宇宙は重ね合わせを保持できなくなって、ひとつの古典的状態に自発的に崩壊するというモデルである。

その後、著書『The Road to Reality』の中で、OR理論を検証するための実験(FELIX:Free-orbit Experiment with Laser-Interferometry X-rays)を提案している。

これらの主張は、量子論におけるいわゆる「観測問題」あるいは「解釈問題」と呼ばれる議論に関連している。

受賞歴[編集]

著作リスト[編集]

物理学関係[編集]

  • 『ホーキングとペンローズが語る時空の本質 ブラックホールから量子宇宙論へ』スティーヴン・ホーキング共著, 林一 訳. 早川書房, 1997 (The Nature of Space and Time 1996)
  • The Road to Reality : A Complete Guide to the Laws of the Universe (2004)

数学関係[編集]

  • ツイスターと一般相対論 (Twistors and General Relativity) - エルク・フラウエンディーナーと共著。『数学の最先端 21世紀への挑戦 第2巻』収録。
  • 20世紀および21世紀の数理物理学 (Mathematical Physics of the 20th and 21st Centuries) - 『数学の最先端 21世紀への挑戦 第4巻』収録。

その他[編集]

  • 『皇帝の新しい心 コンピュータ・心・物理法則』林一 訳. みすず書房, 1994 (The Emperor's New Mind: Concerning Computers, Minds, and The Laws of Physics 1989)
  • 『心の影 意識をめぐる未知の科学を探る』1-2 林一 訳. みすず書房, 2001-02 <心の影 意識をめぐる未知の科学を探る (Shadows of the Mind: A Search for the Missing Science of Consciousness 1994)
  • 『心は量子で語れるか』中村和幸 訳. 講談社, 1998 (The Large, the Small, and the Human Mind 1997) - アブナー・シモニー、ナンシー・カートライト、スティーヴン・ホーキング寄稿。
  • 『ペンローズの量子脳理論 21世紀を動かす心とコンピュータのサイエンス』竹内薫,茂木健一郎 訳・解説. 徳間書店, 1997 のちちくま学芸文庫 (Beyond the Doubting of a Shadow 1997) - 日本独自編集。
  • 『宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか』竹内薫 訳. 新潮社, 2014.1(Cycles of Time)
  • 『時間とは何か、空間とは何か 数学者・物理学者・哲学者が語る』A.コンヌ, S.マジッド, R.ペンローズ, J.ポーキングホーン, A.テイラー 伊藤雄二 監訳. 岩波書店, 2013
  • 『あなたの心を描きだすはじめてのアルテアデザイン 幾何学模様のカラーリングブック』エンソー・ホリデー, ロジャー・バローズ, ペンローズ, ジョン・マルティノー, ハイファ・ハワージャ 作, 渡辺滋人 訳. 創元社, 2017.2

脚注[編集]

  1. ^ Oxford Mathematician Roger Penrose jointly wins the Nobel Prize in Physics | University of Oxford” (英語). www.ox.ac.uk. 2020年10月7日閲覧。
  2. ^ Siegel, Matthew (2008-01-08). “Wolf Foundation Honors Hawking and Penrose for Work in Relativity” (英語). Physics Today 42 (1): 97. doi:10.1063/1.2810893. ISSN 0031-9228. https://physicstoday.scitation.org/doi/abs/10.1063/1.2810893. 
  3. ^ The Nobel Prize in Physics 2020” (英語). NobelPrize.org. 2020年10月6日閲覧。
  4. ^ Overbye, Dennis; Taylor, Derrick Bryson (2020年10月6日). “Nobel Prize in Physics Awarded to 3 Scientists for Work on Black Holes - The prize was awarded half to Roger Penrose for showing how black holes could form and half to Reinhard Genzel and Andrea Ghez for discovering a supermassive object at the Milky Way’s center.”. The New York Times. https://www.nytimes.com/2020/10/06/science/nobel-prize-physics.html 2020年10月6日閲覧。 
  5. ^ Brookfield, Tarah (2018-10-15) (英語). Our Voices Must Be Heard: Women and the Vote in Ontario. UBC Press. ISBN 978-0-7748-6022-2. https://books.google.com/books?id=LVlxDwAAQBAJ&pg=PA126 
  6. ^ Rudolph Peters (1958). “John Beresford Leathes. 1864–1956”. Biographical Memoirs of Fellows of the Royal Society 4: 185–191. doi:10.1098/rsbm.1958.0016. 
  7. ^ Roger Penrose. Cycles of Time: Is It Possible to Discern the Previous Universe Through the Big Bang? - YouTube
  8. ^ Brookfield, Tarah (2018-10-15) (英語). Our Voices Must Be Heard: Women and the Vote in Ontario. UBC Press. ISBN 978-0-7748-6022-2. https://books.google.com/books?id=LVlxDwAAQBAJ&pg=PA126 
  9. ^ Hall, Chris (2016年3月19日). “Lee Miller, the mother I never knew” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077. https://www.theguardian.com/lifeandstyle/2016/mar/19/lee-miller-the-mother-i-never-knew 2020年10月7日閲覧。 
  10. ^ Illustrated Mathematics” (英語). Farleys House and Gallery. 2020年10月7日閲覧。
  11. ^ Roger Penrose - Biography” (英語). Maths History. 2020年10月7日閲覧。
  12. ^ AP and TOI staff. “Scientist of Jewish heritage among trio to win Nobel prize for black hole finds” (英語). www.timesofisrael.com. 2020年10月7日閲覧。
  13. ^ Roger Penrose - Biography” (英語). Maths History. 2020年10月7日閲覧。
  14. ^ Penrose, Roger (15 January 1963). “Asymptotic properties of fields and space-times”. Physical Review Letters 10 (2). doi:10.1103/PhysRevLett.10.66. 
  15. ^ [対談]ロジャー・ペンローズ+佐藤文隆7/8”. 2015年10月25日閲覧。
  16. ^ ETV特集『科学は「意識」の謎を解けるか 第二回 意識を生むメカニズム』
  17. ^ モーガン・フリーマン 時空を超えて 第2回「死後の世界はあるのか?」
  18. ^ NHK ザ・プレミアム超常現象 さまよえる魂の行方