キック・アンド・ラッシュ

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サッカーの試合においてロングボール: long ball)は、受け取る選手の足へパスすることを意図せずに、クロスによって前線までボールを長距離届ける試みを解説する用語である。欧州大陸では、このスタイルはしばしばキック・アンド・ラッシュ(kick and rush)と呼ばれる[1]

ロングボールは、速い、あるいは長身のストライカーを有するチームにとって特に効果的な戦術である。ロングボール戦術では、ディフェンスラインの裏に遠くからスルーパスを送り、ストライカーとディフェンダーとで競争をさせることもある[2]。このスタイルはしばしば退屈あるいは原始的であるとばかにされるものの[3]、選手あるいは天候がこのスタイルに適している場合は効果を発揮する。ロングボールは特に、ディフェンダーが不意をつかれる効果的なカウンターアタックのスタイルである。

統計的基礎[編集]

「ロングボール理論」は、退役したイギリス空軍司令官であったチャールズ・リープ英語版によって1950年代にイングランドで初めて論じられた。リープはアマチュア統計学者であり、ゴールに繋がったパスの数だけでなく、パスを送った選手のフィールドにおける位置についても分析した。リープは彼の発見についてマッチデープログラムを含む様々な媒体で記している[4]

リープは効果的なロングボール戦術を説明する数多くの概念を開発した。「Gulleys」はペナルティーボックス内への最終パスを送るための、コーナーフラッグと6ヤードボックスとの間の最適な位置を意味する。「3-pass optimization rule(3-パス最適化則)」は、比較的高い割合のゴールが、シュート前のわずか3本のパスによって生まれるという事実から出てきた。「9 shots per goal」格言は、平均すると9本のシュートから1ゴールが生まれることを述べている。「tweleve point three yard(20.3ヤード)」ポジションは、全ての得点のゴールからの平均距離である。ロングボール戦術はCharles Hughesによる「The Winning Formula: The Football Association Soccer Skills and Tactics」といった本でも支持されているおり、この本では大半のゴールがパス5本以内に生まれることを統計的に証明している[5]

Jonathan Wilsonはリープの統計解析に重大な欠陥があるとして批判した。例えば、「3-pass optimization rule」は特に批判の対象とされた。Wilsonは、リープの統計は比較的高い割合のゴールが3本のパスを含む攻撃によって生まれることを示しているものの、比較的高い割合のシュートが3本のパスを含む攻撃からなることも示している、と述べている[6]。むしろ、3本以下のパスから生まれるシュートの割合は、それから生まれるゴールの割合よりも高く、より多くのパスを含む攻撃の方が成功確率が高いことを示唆している。さらにリープによる統計は、より高いレベルサッカーではこの傾向がより強くなることが示されており、より高いクオリティーのチーム間ではより多くのパスを含む攻撃がより効果的となることが示されている。リープはまた、ロングボールから生まれる3本のパスと、相手陣内でのフリーキックタックルによるボール奪取といったその他の手段から生まれたパスとを統計的に区別できていない。

有効性[編集]

ロングボール戦術は、イングランド代表の成功を妨げる戦術としてしばしば批判されてきた。Hughesは1990年代にFAのコーチング部門のトップとなり、この地位を彼のロングボール理論を推進するために用いた。Hughesとこの戦術を擁護する人々は、ダイレクトプレーを用いるチームがより成功を収めていると、何度も何度も主張した[7]。例えば、1994 FIFAワールドカップにおいて、優勝したブラジルチームは、3本以下のパスから最も多くのゴールを挙げているが、最も多くのパスを含む攻撃から得点したチーム、アイルランドは二次ラウンドで敗退した[7]

ブラジルが1970 FIFAワールドカップ決勝でのイタリア戦や、アルゼンチン2006 FIFAワールドカップでのセルビア・モンテネグロ戦で見せたような多数のパスを含む攻撃は、サッカーの素晴らしい実例として広く賞賛されているものの[8]、こういった長い攻撃が成功するのは稀であり、繰り返し試みる戦術としては役に立たない[要出典]

ロングボール戦術は試合終了前に捨て身の攻撃を仕掛けるチームによって使われるが、これは有効性が認められているゆっくりとしたビルドアップを行うのに十分な時間がないためであると考えられる[9]。低いレベルの試合では、選手がフィールド上で正確にパスを繋いでチームとして機能する技術を欠いているため、ロングボール戦術が有効である。ロングボールは素早いカウンター攻撃でも使われる。

著名な支持者[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Fifield, Dominic (2010年6月15日). “World Cup 2010: Franz Beckenbauer attacks England's 'kick and rush'”. London: The Guardian. http://www.guardian.co.uk/football/2010/jun/15/world-cup-franz-beckenbauer-england 2012年6月27日閲覧。 
  2. ^ Soccer Fans Info”. 2012年8月29日閲覧。
  3. ^ Guide”. TalkFootball. 2012年8月27日閲覧。
  4. ^ “Grim Reep”. When Saturday Comes. http://www.wsc.co.uk/content/view/2502/29/ 2010年9月15日閲覧。 
  5. ^ Charles Hughes, The Winning Formula: The Football Association Soccer Skills and Tactics, HarperCollins: 1990. (ISBN 0001853546 , ISBN 0001911600)
  6. ^ Wilson, Jonathan. 2008. Inverting the Pyramid: The History of Football Tactics. Orion, ISBN 0-7528-8995-8. p. [要ページ番号]
  7. ^ a b Football: Learning to live with football's bogeyman: Dave Hadfield lived next door to Charles Hughes - and survived Hadfield, David. The Independent. 13-08-94, Accessed 08-06-10
  8. ^ Design. Architecture. Football City of Sound Blog. 20-06-06. Accessed 08-10-06
  9. ^ Holden, Jim (2007年9月21日). “Why England Need Coaching Genius”. 2013年7月30日閲覧。
  10. ^ Henson, Michael. “Bolton Wanderers”. 2013年7月30日閲覧。
  11. ^ Matthew Nowosilskyj, Football in Australia: A Modern History, 29/4/09
  12. ^ Ashton, Neil (2007年1月22日). “Hockaday feels Hornets' sting”. Daily Mail (London). http://www.dailymail.co.uk/pages/live/articles/sport/football.html?in_article_id=428256&in_page_id=1779&in_page_id=1779&expand=true 
  13. ^ Glanville, Brian (2002-09-21). “The Charltons”. Sportstar 25 (28). http://www.hinduonnet.com/tss/tss2538/25380770.htm. 
  14. ^ Glanville, Brian (2002-12-14). “The Irish question”. Sportstar 25 (50). http://www.hinduonnet.com/tss/tss2550/25500770.htm. 
  15. ^ McNulty, Phil (2006年10月4日). “Butcher relishes Sydney challenge”. BBC News. http://news.bbc.co.uk/sport1/low/football/5403182.stm 2010年5月11日閲覧。 
  16. ^ “Norway's style won't change without Olsen”. CNN. (1998年6月28日). http://sportsillustrated.cnn.com/soccer/world/events/1998/worldcup/news/1998/06/28/norway_reaction/ 2008年2月16日閲覧。 
  17. ^ Shaw, Phil (2008年2月26日). “Stoke on fire as Tony Pulis wins over sceptics”. The Daily Telegraph (London). http://www.telegraph.co.uk/sport/main.jhtml?xml=/sport/2008/02/26/sfnsto126.xml 2010年5月11日閲覧。 
  18. ^ Maddock, David (2010年9月20日). “Agger will defy Hodgson's long ball orders even if it costs him his place”. The Mirror (London). http://www.mirrorfootball.co.uk/news/Daniel-Agger-will-defy-Roy-Hodgson-s-long-ball-orders-even-if-it-costs-him-his-place-in-the-Liverpool-team-article585233.html 2011年9月9日閲覧。 
  19. ^ Brownstein, Brian (2011年3月6日). “King Kenny's first mission: to dent Fergie's title chase”. The Sydney Morning Herald (Sydney). http://www.smh.com.au/sport/football/king-kennys-first-mission-to-dent-fergies-title-chase-20110305-1biof.html 2011年9月9日閲覧。 
  20. ^ Bruce: I'm Not A Long-Ball Merchant - Yahoo! Eurosport UK
  21. ^ Updated, Last (2007年5月21日). “Its a turnip for the books”. The Sun (London). http://www.thesun.co.uk/sol/homepage/sport/article119569.ece 
  22. ^ Lutz, Tom (2006年12月8日). “Football League Spy No6: Grimsby Town”. The Guardian (London). http://www.guardian.co.uk/football/2006/dec/08/grimsby 
  23. ^ The Reebok revolution: How Coyle brought sexy back? | Sport Features”. Sport.co.uk (2011年1月11日). 2012年8月27日閲覧。
  24. ^ When Saturday Comes - Cambridge United 1991”. Wsc.co.uk (2012年7月9日). 2012年8月27日閲覧。
  25. ^ “Stevenage 1-0 Torquay United”. BBC News. http://news.bbc.co.uk/sport1/hi/football/13482198.stm 
  26. ^ http://www.goal.com/en-gb/news/2896/premier-league/2012/04/19/3046460/hleb-slams-mcleish-long-ball-birmingham-tactics
  27. ^ http://www.guardian.co.uk/football/blog/2012/aug/24/stoke-city-arsenal-tactics
  28. ^ http://blog.emiratesstadium.info/archives/78

関連項目[編集]