ヴィクラント (空母・2代)
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ヴィクラント (空母・2代) | |
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![]() 2015年6月、コーチン造船所から出たヴィクラント | |
基本情報 | |
建造所 | コーチン造船所 |
艦種 | 航空母艦 |
級名 | ヴィクラント級航空母艦 |
前級 | ヴィクラマーディティヤ |
モットー |
जयेम सं युधि स्पृध (Jayema Sam Yudhi Sprdhah、 我に仇なす者を完膚なきまで打ちのめす)[1] |
艦歴 | |
起工 | 2009年2月28日 |
進水 | 2013年8月12日[2] |
就役 | 2020年(予定)[2] |
現況 | 建造中 |
要目([2]) | |
満載排水量 | 40,862 t |
全長 | 262.5 m |
最大幅 | 60.84 m(飛行甲板) |
水線幅 | 32.5 m |
吃水 | 7.5-12 m |
機関 | COGAG方式 |
主機 | LM2500ガスタービンエンジン×4基[3] |
推進 | スクリュープロペラ×2軸 |
出力 | 120,000hp |
速力 | 最大28ノット |
航続距離 | 8,000海里[1] |
乗員 | 1,656名(うち士官196名)[1] |
兵装 | |
搭載機 |
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レーダー |
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ヴィクラント (Vikrant) はインド海軍の航空母艦。現在インド海軍が推進しているADS(Air Defence Ship,防空艦)計画の1番艦でインド初の国産空母である。STOBAR空母であり、同級2隻を含めた計3隻の建造が予定されている。
艦名の「Vikrant」とは先代と同じくヒンディー語で「勇敢な」「強い」の意味である。艦のモットーも、先代から継承している[1]。
建造の経緯[編集]
元々「先代ヴィクラント」の後継艦として推進されていたが、1990年ごろに予算不足で立ち消えになった国産空母建造計画がベースである。建造計画が白紙になった後、先代「ヴィクラント」が退役しインドの保有空母が「ヴィラート」1隻のみとなった事による洋上航空兵力の低下を受け、建造計画を見直した上でADS(Air Defence Ship, 防空艦)計画として復活し、IAC-1(Indigenous Aircraft Carrier 1、国産空母1号)の計画名で建造されることとなった[3]。
当初は満載排水量17,000トン程度の軽空母を建造する計画だったが、度重なる計画見直しにより最終的には満載排水量37,500トン(40,000トン説有り)の、通常動力型としては比較的大型の空母に拡大した。また当初、艦載機にはハリアー IIを想定していたが、後にMiG-29Kを搭載するSTOBAR方式の空母に設計が変更された。これはインド海軍のSTOVL機運用経験や「ヴィクラマーディティヤ」の導入経緯が影響していると言われている。
2005年4月11日からコーチの造船所で材料の切り出しが始まった。2008年に竜骨を据え付けて正式に起工する予定であったが、この時点で遅れ始め、2009年2月28日に起工式が開催された。起工後は、2010年進水、2012年就役を予定していたが、造船所のインフラが不十分な事や、ロシア製の鋼材の製作遅延による国産品への代替と生産ラインの用意、品質のばらつき[1]、さらに減速ギヤボックスをはじめとする各種搭載機器の不調[3]などにより、建造計画の大幅な遅延が発生している。2012年6月には、他の船の建造のためドックを空ける必要があり、建造途中でドックより引き出された。2013年8月12日に進水式が行われた[4]。 しかし、この時点では飛行甲板などの艦上構造物はおろか船体後部も未完成であったため、隣の整備用ドックに移されて建造が進められ、2015年6月10日に改めてドックアウトした。以降、艤装作業が進められているが、当初326億1,000万ルピーだった建造費が2015年半ばに6倍の1,934億1,000万ルピーにまで高騰している[3]。2014年には2019年の就役に延長され、2016年11月の会計検査院の見解では、完成に2023年まで延びる可能性が指摘されている[1]。
2019年12月に乾ドックで行われる作業が完了し、[5]2020年2月には、IAC-P71の主要な装備艤装などのマイルストーンを達成したとインド最大の造船会社であるCochin Shipyardが発表した。また同時に主要なシステム等の試験を進めており、2020年末に海上公試を行うと発表がなされた。[5]
設計[編集]
「ヴィクラント」の設計は、イタリアのフィンカンティエーリ社の協力のもと行われた。同社は、イタリア海軍の「カブール」やイギリス海軍のクイーン・エリザベス級航空母艦の設計も行っており、これらに似たデザインとなっている[2][3]。
機関[編集]
主機は、LM2500ガスタービンエンジンを4基搭載する。なお、LM2500はインドでライセンス生産されたものを搭載する[3]。
航空艤装[編集]

艦首に発艦用の傾斜角14度のスキージャンプ、船体後方から左前方へ伸びる着艦用のアングルド・デッキにアレスティング・ギア、右舷のアイランド前後にデッキサイド式エレベーターは1基ずつ装備している。なお、6カ所のヘリコプター発着スポットをロシア海軍と同様に塗装している。
2007年10月時点におけるの完成予想図によると船体左後方から右前方に向けて伸びる発艦レーンと、アングルド・デッキがX字型に交差しており、他国の空母とは異なる珍しいレイアウトを採用している。インド海軍とフィンカンティエーリがなぜこのような設計を採用したのか不明だが、このレイアウトはロシア製の「ヴィクラマーディティヤ」でも同じ配置を採用している[3]。発艦と着艦レーンが交差する場合、同時に発艦と着艦を行う事が困難になり、非常にタイトな航空管制が必要になるのではないかと懸念されるが、緊急時でもない限りは発艦と着艦を同時に行うことはない(一方のレーンで作業中は、もう一方のレーンを駐留場とすることで障害物をなくして事故を防ぐ)。
エレベーターは第4世代機のなかでは中型のMiG-29Kが主翼を折りたたんだ寸法に合わせてあるため、横幅が狭く搭載機の大型化に対応できない可能性が指摘されている[2]。ただ、デッキサイドであるため、大きさ以上の機体も輸送可能あり、インボート式の「ヴィクラマーディティヤ」に比べれば発展性はある。幅についてもMiG-29Kの格納時の全幅は7.8mと格納時のSu-33の7.4mより長いため、ある程度対応可能である。
艦載機[編集]
艦載機は、MiG-29K艦上戦闘機20機とKa-28級艦載ヘリコプター10機を搭載する[3]。
固定翼機は、MiG-29Kに加え国産のテジャスMk1の艦載型が予定されていたが、同機は開発遅延と重量過大で2016年末に不採用となったため[1][6]、MiG-29Kと複座型のMiG-29KUBのみが搭載されている。テジャスは2019年予算で8機(単座4機・複座4機)が発注されている(これらの詳細スペックは不明)。
インド海軍のMiG-29K/KUBは、電子機器に西側系の機器を搭載予定だったが、ロシアのクリミア侵攻に伴いロシアへの輸出禁止措置が取られたため、インドが部品と機体を輸入して、ロシア人技術者がインド国内で機器を設置するという折衷案が取られている[1]。この結果、機器が機能するかどうかが不透明となった上に、MiG-29Kの性能そのもの(特にエンジンとフライ・バイ・ワイヤ)にもインド海軍が不満を持っているという情報がある[1]。
ヘリコプターは、Ka-31早期警戒ヘリコプターやKa-28対潜哨戒ヘリコプター、Ka-28の後継として2014年に輸入されたS-70B対潜哨戒ヘリコプター、さらに旧式のMk.42シーキングを搭載する。なお、インド国産のドゥルーブも対潜哨戒型を開発中だが、ローター折畳機構の不備や作戦能力の低さからインド海軍は採用していない[1]。
電子装備[編集]
対空レーダーには、「カヴール」にも搭載されているRAN-40Lフェーズドアレイレーダーが予定されているほか、艦橋にイスラエル製のEL/M-2248 MF-STAR多機能レーダーの搭載が予定されている[2]。
兵装[編集]
搭載システム、搭載兵器に関しては2014年現在においてもあまり明らかにはなっていない。進水時に公表された完成予想CGでは、バラク短SAMのVLS(16セル×2基)に加え76mm単装砲を2基搭載しており、イタリア海軍と同様のダルド・システムをCIWSに用いると予想されている[2]。
比較表[編集]
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船体 | 基準排水量 | 不明 | 37,680 t | |
満載排水量 | 40,862 t | 45,500 t | 43,182 t | |
全長 | 262.5 m | 284 m | 261.5 m | |
水線幅 / 最大幅 | 32.5 m / 60.84 m | 不明 / 60 m | 31.5 m / 64.36 m | |
主機 | 機関 | ガスタービン | 蒸気タービン | 原子炉+蒸気タービン |
方式 | COGAG | ギアード・タービン | ||
出力 | 120,000 ps | 180,000 ps | 83,000 ps | |
速力 | 28 kt | 30 kt | 27 kt | |
兵装 | 砲熕 | 未定 | AK-630CIWS×4基 | 20mm単装機関砲×8基 |
ミサイル | バラク-8VLS | アスター15VLS×32セル | ||
SADRAL6連装発射機×2基 | ||||
航空運用機能 | 搭載機数 | 40機前後 | 30機前後 | 最大40機 |
形式 | STOBAR | CATOBAR | ||
飛行甲板 | スキージャンプ式+アングルド・デッキ | アングルド・デッキ | ||
カタパルト | - | 蒸気式×2基 | ||
JBD | 2基 | |||
制動索 | 3索 | |||
エレベーター | 2基 |
脚注[編集]
- ^ a b c d e f g h i j 小泉悠「インド新空母「ヴィクラント」のメカニズム」『世界の艦船』863集(2017年8月特大号)海人社
- ^ a b c d e f g 「インド初の国産空母「ヴィクラント」進水!」『世界の艦船』787集(2013年11月特大号) 海人社
- ^ a b c d e f g h 井上孝司「世界の新型軍艦総覧②空母」『世界の艦船』867集(2017年10月特大号)海人社
- ^ Kiran, Manjunath (2013年8月12日). “インド初の国産空母、「節目」の進水式 中国けん制”. AFPBB News (AFP通信) 2015年12月11日閲覧。
- ^ a b “India's first Indigenous Aircraft Carrier 'ready' for basin trials in September”. The New Indian Express. 2020年8月22日閲覧。
- ^ Navy rules out deploying ‘overweight’ Tejas on aircraft carriers
参考文献[編集]
- 柿谷哲也『世界の空母』ISBN 4-87149-770-4
- アンドレイ・V・ポルトフ 「脚光集めるインドの空母計画 ゴルシコフ改造艦と国産防空艦」『世界の艦船』658号、94-99頁、2006年。
- 写真特集「世界の軽空母ラインナップ」『世界の艦船』682号、2007年
外部リンク[編集]
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