不斉炭素原子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

不斉炭素原子(ふせいたんそげんし、asymmetric carbon atom)とは、分子中の1つの炭素原子が異なる4つの原子および原子集団(置換基)に共有結合しているとき、その炭素原子を不斉炭素原子と呼ぶ。通常は原子を省略して不斉炭素とだけいうことが多い。炭素原子に限定しない場合は不斉原子(asymmetric atom)または不斉中心(asymmetric center /asymmetric centre)という。分子がキラルとなるひとつの要因であり、その意味からキラル中心(chiral center /chiral centre)とも呼ばれる[1]当用漢字時代には不整という字が当てられたことがあり[2]、不整という表記が残っている辞書[3]もある。常用漢字には斉の字が追加されたので、再び不斉が使われることになった。

目次

不斉中心とキラリティー

炭素原子には最大4個の原子が共有結合でき、このとき、4本の結合は全て単結合であり、4個の原子は炭素原子を中心とする正四面体の頂点にほぼ位置する。このとき4個の置換基が全て鏡映対称であれば、この分子の鏡像同士はどう移動させても重ね合わせられない(図1A)。すなわちこの分子はキラルであり、その鏡像同士は互いにエナンチオマーである。

不斉炭素原子は分子がキラルとなるひとつの要因だが、必要条件でも十分条件でもない。例えば図1Bのように、4個の置換基のうち2個は鏡映対称で2個は一対の鏡像であれば、この分子の鏡像同士は重ね合わせることができてキラルではない。不斉原子を2つ持つメソ体もキラルではない。また図2A,2Bのアレン誘導体のように、不斉炭素原子を持たないがキラルな分子もある。

炭素以外の不斉原子

炭素原子以外でも、4本の単結合で正四面体の頂点にほぼ位置する原子と結合する原子なら同様なことが成り立つ。例えば、炭素と同じく周期表第14族元素の、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、(Pb)は不斉原子になりうる。またアンモニウムイオン(N+)も同様に不斉原子になりうる。

周期表第15族元素窒素リンは通常三本の共有結合しか持たないが、4本目の結合の代わりに孤立電子対を持ち、3個の単結合原子と1個の孤立電子対が正四面体の頂点にほぼ位置するので、不斉原子となりうる。しかしこれらの原子は、3個の単結合原子が同一平面となる遷移状態を経て、傘が裏返るようなピラミッド型分子の立体反転(Pyramidal Inversion)を起こし、エナンチオマー間の交換が起きる。通常のアミンの窒素原子では、このような立体反転の障壁が低く交換速度が速いため不斉原子とはならないが、ホスフィンのリン原子では立体反転の障壁が高くエナンチオマーが単離できる。

錯体には中心金属原子周りの配位子の配置による立体異性体が存在するものがあり、エナンチオマーが存在する錯体では中心金属原子が不斉中心となる。

不斉原子とジアステレオマー

n個の不斉原子を持つ分子中には、重なりを無視すれば2n個の立体異性体が考えられる。これらの立体異性体の中で互いに鏡像となる対は、互いにエナンチオマーであり、互いに鏡像ではない対は互いにジアステレオマーである。しかしジアステレオマーの定義はエナンチオマー以外の立体異性体であり、複数の不斉原子を持たないジアステレオマーもありうる。

参考文献

  1. ^ IUPAC Recommendations 1996 ;Basic Terminology of Stereochemistry(外部リンク参照)
  2. ^ 日本化学会(編)「標準-化学用語辞典-第2版」丸善(2005/03,初版1991/03)
  3. ^ 化学大辞典編集委員会(編)「化学大辞典-第3版」共立(2001/09,初版1960/09)

IUPAC ;Basic Terminology of Stereochemistry

今日は何の日(1月23日

もっと見る

「不斉炭素原子」のQ&A