伊東潤

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伊東 潤(いとう じゅん、1960年6月24日- )は、日本歴史小説作家、ノンフィクション作家。神奈川県横浜市生まれ。日本推理作家協会会員。

略歴[編集]

浅野中学校・高等学校を経て早稲田大学社会科学部を卒業。日本アイ・ビー・エム(株)をはじめとした外資系企業に勤務後、2006年初頭に(株)クエーサー・マネジメントというコンサルティング会社を設立。一時はコンサルタント6名を使い、手広く事業展開していたが、2008年9月のリーマンショック後、事業が不振になったため清算し、2010年初頭から専業作家となった。

企業経営のかたわら2002年頃から小説の執筆を開始し、2007年に角川書店(現KADOKAWA)から『武田家滅亡』で持ち込みデビューを果たした。

子供の頃から読書を趣味とし、2015年の「新刊展望」に書いたエッセイ「ぼくは”ゴン”が好きな子供だった」では、「母によると、私は三、四歳の頃、「何か一つ買ってあげる」と言われると、デパートのおもちゃ売り場を、さんざん回った末、結局、本屋さんに入り、「ゴン」と言って絵本を買ってもらう子供だった」と書いている。

子供の頃から無類の小説好きで、夏目漱石森鴎外三島由紀夫といった文豪作品はもとより、司馬遼太郎吉川英治吉村昭海音寺潮五郎井上靖新田次郎津本陽といった作家たちの歴史小説を乱読。さらに江戸川乱歩松本清張横溝正史高木彬光森村誠一といったミステリー系の作家から、小松左京筒井康隆といったSF系の作家までジャンルにこだわらず読んでいた。

2002年頃までは小説家になりたいと思ったことはなかったが、家族旅行で静岡県三島市の山中城に行った折、「自分の作った作品の中で死ねるのは築城家だけ」というフレーズが突然浮かび、「小説を書こう」というインスピレーションを受けたという。だが最初に取り組もうとしたのは全国のお城のホームページの作成で、後に親友となる本間朋樹氏の「埋もれた古城」のようなホームページを作ろうとした。しかし文章が小説になってしまうので断念し、43歳にして小説家を志すことになる。その時に書いた作品が『悲雲山中城 戦国関東血風録』(絶版)になる。

その後、『戦国関東血風録 北条氏照修羅往道』(後に『北条氏照 秀吉に挑んだ義将』としてPHP研究所から文庫化)と『虚けの舞 織田信雄と北条氏規』(後に『虚けの舞』として講談社から文庫化)を書き、叢文社や彩流社から半ば自費出版のような形で刊行する。

2005年頃に勤めていたコンサルティング会社(日本ビジネスクリエイト株式会社)の社長(長谷昭)に献本したところ、「面白い」となり、長谷が電通出身で出版業界にコネクションがあったため、人を介して、当時角川書店で文芸編集長を務めていた新名新を紹介された。一読した新名は伊東の才能を見抜き、徹底的にコーチングした末、2007年に『武田家滅亡』でメジャーデビューさせる。

作風[編集]

質実剛健で男っぽい作風を旨とする。自分の強みを常に意識していれば「ハズレなし」を実現できると主張し、歴史解釈力とストーリーテリング力を融合させた作風を持ち味とする。

デビュー当初は戦国関東を舞台にした歴史小説が少ないため、北条氏武田氏をメインに据えて書いていたが、次第に上杉氏徳川氏織田氏なども手掛け、さらに戦国以外の時代も取り上げ始めている。とくに幕末から明治維新期の作品は多く、大鳥圭介村田新八川路利良らを取り上げた。

また歴史ノンフィクション作品も手がけ、本人は「海音寺潮五郎氏や南條範夫氏の築いた史伝の伝統を、次世代に伝えていきたい」とインタビューで語っている。

『横浜1963』『ライトマイファイア』『真実の航跡』といった近現代物を手掛けている。

対外関係[編集]

いち早く出版エージェントの存在に注目し、2015年から佐渡島庸平率いる(株)コルクと契約している。その後、コルクとは密接な関係を保って今に至っている。

佐渡島庸平の提唱するコミュニティ活動にも熱心で、二カ月に一度の頻度で行われる「伊東潤の読書会」、読者と一緒に城跡や名所旧跡をめぐる「伊東潤のオフ会」を開催している。 

またメールマガジンの発行にも熱心で、一月に二度の頻度で発行している。内容は歴史から文学にわたる。

エピソード[編集]

文壇[編集]

浅田次郎との初対面の折、「たいていの作家は見た目と作品のギャップが著しいが、君はまったくずれていない」と言われ、褒められたと思って喜んだという逸話がある。

ある文壇のパーティで、面識のない東野圭吾がにこにこ笑いながら近づいてきたので、自作を褒めてくれると思い込み、先んじて「ありがとうございます」と言って頭を下げたが、東野は伊東の背後にいる友人に近づいてきたと分かり、その場に居づらくなって帰ったという。

城めぐり[編集]

2003年頃から「お城めぐりファン」というメーリングリストに加入し、城めぐりのオフ会に参加し始める。日本全国津々浦々の古城をめぐり、2019年時点で550城前後の城をめぐっている。

こうした趣味が高じて、『城を攻める 城を守る』『歴史作家の城めぐり』というお城ガイド的作品も出している。またNHK第一放送の「まいあさラジオ」内の「城めぐりのススメ」のコーナーは、2015年から月二回の頻度でレギュラー放送している。2019年4月からは月一度になったが、5年目を迎えている。2017年から始まった「お城EXPO」にも毎年出演し、講演を行っている。

合戦祭り[編集]

2003年頃から合戦祭りに参加し始め、2011年に引退するまで50前後の祭りに参加した。とくに「山中城まつり」と「川中島合戦絵巻」には毎年のように出演していた。自前甲冑も所持しており、小説家になった頃は、自宅内で甲冑に着替えてから書いていた。本人によると、「誰かに背中を押されるように筆が進んだ」とのこと。

ロック系アーティストとの交友[編集]

好きな音楽のジャンルはプログレッシヴロックで、イタリアンロックをとくに好み、来日アーティストのライヴにはほとんど行っている。

音楽好きが高じ、日本を代表するプログレバンドの一つである金属恵比須とコラボレーションをし、2018年に金属恵比須が『武田家滅亡』というアルバムを出した際、二曲に歌詞を提供している。また2019年に同バンドが、伊東の短編小説からインスピレーションを受けた『ルシファーストーン』という曲を作ったが、こちらでも歌詞を提供している。

日本を代表するデスメタルバンド「兀突骨」の高畑治央は伊東作品の大ファンで、それが縁で伊東が「兀突骨」の5thアルバム「背水之陣 ~The Final Stand~」の帯の言葉を書き、同バンドのライヴにも行っている。

テレビ出演[編集]

2013年の『日本史探求スペシャル ライバルたちの光芒 ~宿命の対決が歴史を動かした』以来、歴史番組には多数出演している。数多く出演した番組は『英雄たちの選択』『高島礼子・日本の古都 ~その絶景に歴史あり』『尾上松也の謎解き歴史ミステリー』『諸説あり』。

文学賞受賞・候補歴[編集]

文学賞受賞[編集]

  • 2011年 (平成23年)- 『黒南風の海』で本屋が選ぶ時代小説大賞2011受賞。
  • 2013年 (平成22年)- 『国を蹴った男』で第34回吉川英治文学新人賞受賞。『義烈千秋 天狗党西へ』で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、受賞。『巨鯨の海』で第4回山田風太郎賞受賞。
  • 2014年 (平成24年)- 『峠越え』で第20回中山義秀文学賞受賞。『巨鯨の海』で第1回高校生直木賞受賞。

候補歴[編集]

  • 2011年 (平成23年)- 『戦国鬼譚 惨』で第32回吉川英治文学新人賞候補。『城を噛ませた男』で第146回直木三十五賞候補。
  • 2012年 (平成24年)- 『黒南風の海』で第18回中山義秀文学賞候補。
  • 2013年 (平成25年)- 『巨鯨の海』で第149回直木三十五賞候補。『国を蹴った男』で第148回直木賞(2013年)
  • 2014年 (平成26年)- 『王になろうとした男』で第150回直木三十五賞候補。
  • 2016年 (平成28年)- 『天下人の茶』で第155回直木三十五賞候補。

作品[編集]

小説[編集]

  • 武田家滅亡 - 2007年、KADOKAWA
  • 山河果てるとも - 2008年、KADOKAWA
    • 山河果てるとも 天正伊賀悲雲録 - 文庫版改題
  • 疾き雲のごとく 早雲と戦国黎明の男たち - 2008年、宮帯出版社
    • 文庫化に際し『疾き雲のごとく』に改題し、講談社から出版
  • 戦国奇譚 首 - 2009年、講談社
    • 戦国無常 首獲り - 文庫版改題
  • 北条氏照 秀吉に挑んだ義将 - 2009年、PHP研究所
  • 戦国鬼譚 惨 - 2010年、講談社
  • 幻海 The legend of Ocean - 2010年 、光文社
  • 戦国鎌倉悲譚 剋 - 2011年、講談社
  • 北天蒼星 上杉三郎景虎血戦録 - 2011年、角川書店
  • 黒南風の海 加藤清正「文禄・慶長の役」異聞 - 2011年、PHP研究所
    • 黒南風の海 文禄・慶長の役異聞 - 文庫版改題
  • 城を嚙ませた男 - 2011年、光文社
  • 義烈千秋 天狗党西へ - 2012年、新潮社
  • 叛鬼 - 2012年、講談社
  • 国を蹴った男 - 2012年、講談社
  • 巨鯨の海 - 2013年、光文社
  • 王になろうとした男 - 2013年、文藝春秋
  • 黎明に起つ - 2013年、NHK出版
  • 峠越え - 2014年、講談社
  • 天地雷動 - 2014年、KADOKAWA
  • 野望の憑依者 - 2014年、徳間書店
  • 池田屋乱刃 - 2014年、講談社
  • 死んでたまるか - 2015年、新潮社
    • 維新と戦った男 大鳥圭介 - 文庫版改題
  • 武士の碑 - 2015年、PHP研究所
  • 鯨分限 - 2015年、光文社
  • 天下人の茶 - 2015年、文藝春秋
  • 吹けよ風 呼べよ嵐 - 2016年、祥伝社
  • 横浜1963 - 2016年、文藝春秋
  • 江戸を造った男 - 2016年、朝日新聞
  • 走狗 - 2016年、中央公論
  • 城をひとつ - 2017年、新潮社
  • 悪左府の女 - 2017年、文藝春秋
  • 西郷の首 - 2017年、角川書店
  • 修羅の都 - 2018年、文藝春秋
  • ライトマイファイア - 2018年、毎日新聞
  • 男たちの船出 - 2018年、光文社
  • 真実の航跡 - 2019年、集英社
  • 家康謀殺 - 2019年、KADOKAWA

実用書[編集]

  • 天下人の失敗学 - 2009年、講談社
  • 敗者烈伝 - 2016年、実業之日本社

歴史ノンフィクション[編集]

  • 関東戦国史と御館の乱 - 2011年、洋泉社、乃至政彦:共著
  • 武士の王・平清盛 - 2011年、洋泉社
  • 城を攻める 城を守る - 2014年、講談社
  • 実録戦国北条記 戦史ドキュメント - 2014年、H&I
    • 戦国北条記 - 文庫版改題
  • 北条氏康 関東に王道楽土を築いた男 - 2017年 PHP研究書、板嶋恒明:共著
  • 幕末雄藩列伝 - 2017年、KADOKAWA
  • 歴史作家の城めぐり - 2018年、プレジデント社

脚注[編集]