複素数の偏角

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図1. この複素平面平面上に乗った複素数を表す.平面の各点に対して,arg は角度 φ を返す関数である.

数学において,arg は(複素平面において視覚化される)複素数上の関数である.それは正のから点と原点を結ぶ直線までの角度を与える.図1では φ で表されており,点の偏角(へんかく、: argument)と呼ばれる.

定義[編集]

図3. 偏角 φ の2つの選び方.

複素数 z = x + iy偏角は,arg(z) と書かれ,2つの同値な方法で定義される:

  1. 幾何学的には,複素平面において,正の実軸から z を表すベクトルまでの角度 φ である.数値はラジアンでの角度で与えられ,反時計回りに測ったときに正である.
  2. 代数的には,ある正の実数 r に対して
となるような任意の実数 φ である(オイラーの公式を参照).量 rz絶対値であり,|z| と書かれる:

絶対値を大きさと呼んだり偏角を位相[1](あるいは振幅[2])と呼んだりすることもある.

いずれの定義においても,任意の(非零)複素数の偏角の取り得る値はたくさんあることが分かる:まず,幾何学的な角度として,一周回転させても点が変わらないことは明らかであり,したがって 2π ラジアン(完全な円)の整数倍の差がある角度は同じである.同様に,sincos周期性から,第二の定義でもこの性質を持つ.

主値[編集]

図4. 1 + i にある青い点の主値 Argπ/4 である.ここの赤い線は分岐切断である

0 の周りをちょうど一回転させても複素数は変わらないから,φ の取り方は,任意の回数原点の周りを周ることによって,たくさんある.これは図3に示されている.多価(集合値)関数を表していて,垂直線と曲面との交点の高さが,その点の角度の可能な選択すべてを表している.

well-defined な関数が要求されるときは,主値と呼ばれる通常の取り方は,開閉区間 (−π, π], つまり π から π ラジアンまでで π を除く値(同じことだが −180 度は除いて −180 度から +180 度まで)である.これは正の実軸から両方向に完全な円の半分までの角度を表す.

著者によっては主値の範囲を閉開区間 [0, 2π) と定義する.

表記[編集]

主値は,特に偏角の一般バージョンも考えているときには,Arg z のように最初の文字を大文字にすることがある.表記には揺れがあり,argArg が文献によって逆になったりすることに注意.

偏角のすべての可能な値の集合は Arg を用いて次のように書ける:

同様に

計算[編集]

x + iy として与えられた複素数の主値 Arg は,関数 atan2英語版 あるいは言語による変種を用いて多くのプログラミング言語の数学ライブラリで通常利用可能である.atan2(y, x) の値は範囲 (−π, π] における主値である.

y/x は傾きで,arctan は傾きを角度に変えるから,多くのテキストでは値は arctan(y/x) で与えられるとなっている.これは x > 0 のときのみ,したがって商が定義され角度が π/2π/2 の間にあるときにのみ,正しいが,この定義を x が正でない場合に拡張することは比較的難しい.具体的には,偏角の主値を2つの半平面 x > 0x < 0(負の x 軸に分枝切断がほしいときは2つの四分平面にわける),y > 0y < 0 にばらばらに定義してから貼り合わせる.

4つの重なる半平面でのコンパクトな表示は

Arg が区間 [0, 2π) にあると定義される変種では,値は負のときに値に 2π を足すことで得られる.

あるいは,主値は正接の半角公式英語版を用いて一様な方法で計算できる:

これは有理関数による円周(負の x 軸を除く)のパラメトライゼーションに基づいている.Arg のこのバージョンは浮動小数点の計算で十分安定でない(領域 x < 0, y = 0 の近くでオーバーフローするかもしれない)が,記号的な計算では使える.

オーバーフローを避ける最後の公式の変種は高精度計算でときどき使われる:

恒等式[編集]

主値 Arg を定義する主な動機づけの1つは,複素数を絶対値・偏角形式で書くことができることである.したがって任意の複素数 z に対して,

これは実際に有効なのは z が零でないときだけだが,z = 0 に対しても Arg(0) を未定義ではなく不定形英語版と考えることで有効であると考えられる.

いくつかの恒等式が従う.z1z2 が2つの 0 でない複素数であるとき,

z ≠ 0n が任意の整数のとき,

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参考文献[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Dictionary of Mathematics (2002). phase.
  2. ^ Knopp, Konrad; Bagemihl, Frederick (1996). Theory of Functions Parts I and II. Dover Publications. p. 3. ISBN 0-486-69219-1. 

文献[編集]

  • Ahlfors, Lars (1979). Complex Analysis: An Introduction to the Theory of Analytic Functions of One Complex Variable (3rd ed.). New York;London: McGraw-Hill. ISBN 0-07-000657-1. 
  • Ponnuswamy, S. (2005). Foundations of Complex Analysis (2nd ed.). New Delhi;Mumbai: Narosa. ISBN 978-81-7319-629-4. 
  • Beardon, Alan (1979). Complex Analysis: The Argument Principle in Analysis and Topology. Chichester: Wiley. ISBN 0-471-99671-8. 
  • Borowski, Ephraim; Borwein, Jonathan (2002) [1st ed. 1989 as Dictionary of Mathematics]. Mathematics. Collins Dictionary (2nd ed.). Glasgow: HarperCollins. ISBN 0-00-710295-X.