全国人民代表大会常務委員会

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
中華人民共和国

中華人民共和国の政治


関連項目: 香港の政治マカオの政治

他国の政治 · 地図
政治ポータル

全国人民代表大会常務委員会(ぜんこくじんみんだいひょうたいかいじょうむいいんかい)とは、中華人民共和国の最高国家権力機関である全国人民代表大会(全人代)の常設機関(憲法57条)。全人代とともに立法権を行使する(憲法58条)。全人代閉会中に最高の国家権力を行使し、立法機能を代行する[1]

常務委員会の構成員[編集]

委員長(1名)、副委員長(若干名)、秘書長(1名)、委員(約200名)によって構成される。毎期の全人代第1回会議における大会主席団が全人代議員から立候補者を指名し、大会の全体会議において選挙を行って選出される。任期は5年。構成員の連続当選の制限はない。ただし、委員長と副委員長の職に連続して2期を超えて就くことはできない。なお、常務委員会の構成員は国家行政機関・監察機関[2]・裁判機関・検察機関の職務の兼任を禁止されている[1]

常務委員会の権限[編集]

全国人民代表大会代表(議員)選挙を主宰し(憲法59条)、全人代を召集し(憲法61条)、憲法改正の提議を行い(憲法64条)、全人代閉会中に各専門委員会の指導を行い(憲法70条)、必要な場合は調査委員会を組織して国家機関等に対し調査を行う(憲法71条)ほか、以下の権限を有する(憲法62条)[3]

  1. 憲法を解釈し、憲法の施行を監督する。
  2. 全国人民代表大会が制定した基本的な法律[注 1]以外のその他の法律の制定および改正。
  3. 全人代閉会中、全人代が制定した法律に対して部分的な補充および改正を行う。ただし、当該法律の基本原則と抵触してはならない。
  4. 法律の解釈。
  5. 全人代閉会中、国民経済および社会発展計画、国家予算の執行過程において作成の必要が生じた部分的調整案を審査し、承認する。
  6. 国務院中央軍事委員会国家監察委員会[注 2]最高人民法院最高人民検察院の任務遂行の監督。
  7. 憲法・法律に抵触する、国務院が制定した行政法規・決定・命令を取り消す。
  8. 憲法・法律・行政法規に抵触する、省・自治区・直轄市の国家権力機関が制定した地方性法規および決議を取り消す。
  9. 全人代閉会中、国務院総理の指名に基づいて、部長(大臣)・委員会主任(大臣級)・監査長(会計検査長)・秘書長を選出する。
  10. 全人代閉会中、中央軍事委員会主席の指名に基づいて、同委員会の構成員を選出する。
  11. 国家監察委員会主任の指名に基づき、国家監察委員会副主任、同委員会委員を任免する[注 2]
  12. 最高人民法院院長の指名に基づき、最高人民法院副院長・裁判員(裁判官)・裁判委員会委員および軍事法院院長を任免する。
  13. 最高人民検察院検察長の指名に基づいて、最高人民検察院副検察長・検察員(検察官)・検察委員会委員および軍事検察院検察長を任免し、かつ省・自治区・直轄市の人民検察院検察長の任免を承認する。
  14. 駐外全権代表の任免。
  15. 外国と締結する条約や重要な協定の批准および廃棄の決定。
  16. 軍人・外交要員の官等制度およびその他の専門職の官等制度の制定。
  17. 国家の勲章・栄誉称号を制定し、また授与を決定する。
  18. 特赦の決定。
  19. 全人代閉会中、国家が武力侵犯を受けたとき、あるいは国際的に共同して侵略を防止する条約を履行しなくてはならない状況にある場合、戦争状態を宣布する。
  20. 全国総動員または局部動員を決定する。
  21. 全国あるいは個別の省・自治区・直轄市に対する戒厳令を決定する。
  22. 全人代が常務委員会に付与するその他の職権。

常務委員会構成員の権限[編集]

常務委員会構成員は、法律の定める手続きにしたがい、常務委員会の権限に属する議案を提出する権利を有する(憲法72条)。また常務委員会開会中、法律の定める手続きにしたがい、国務院または国務院各部、各委員会に対し、質問書を提出する権利を有する。質問を受けた機関は責任をもって回答しなければならない(憲法73条)。

立法手続[編集]

全人代と全人代常務委員会は国家の立法権を行使することが定められている(憲法58条)。全人代は基本的法律について制定、改正を行い、全人代常務委員会はその他の法律について制定、改正を行う。また全人代閉会中において、全人代常務委員会は全人代が制定した法律の部分的な補充、改正を行う(立法法7条)。全人代と全人代常務委員会のそれぞれの立法手続において全人代常務委員会は重要な役割を持つ。

全人代の立法手続[編集]

全人代常務委員会、国務院、中央軍事委員会、最高人民法院、最高人民検察院、全人代の各専門委員会は全人代に対し法律案を提出することができ[注 3]、主席団が大会会議の議事日程に入れることを決定する(立法法14条2項)。

全人代に提出する法律案に対し、全人代閉会期間において、先に全人代常務委員会に提出することができ、常務委員会会議は立法法第2章第3節に規定する関連手続に基づく審議の後、全人代に審議を要請する決定し、常務委員会が大会全体会議に対して説明を行うか、又は提案者が大会全体会議に対して説明を行う(立法法16条)。

全人代常務委員会は前項規定に基づき法律案を審議し、様々な形式によって、全人代代表の意見を徴求し、かつ関連状況を報告しなければならない。専門委員会及び常務委員会工作機構が立法調査研究を行うに際しては、関連する全人代代表を参加させることができる(立法法16条2項)。

常務委員会の立法手続[編集]

常務委員会の立法手続は、法律案の提案主体により異なる過程を経る。

委員長会議は常務委員会に法律案を提出することができ、常務委員会会議において審議を行う(立法法26条)。

国務院、中央軍事委員会、最高人民法院、最高人民検察院、全人代の各専門委員会は常務委員会に法律案を提出することができ、委員長会議は常務委員会会議の議事日程に入れることを決定でき、又は先行して関連する専門委員会の審議に付託し報告を提出させた上で常務委員会会議の議事日程に再び入れることを決定できる。委員長会議が法律案に重大な問題があり更なる検討が必要であると認める場合、提案者に対して修正して完全なものとした上で常務委員会に提出するよう建議することができる(立法法26条2項)。

常務委員会構成員は10名以上の連名により常務委員会に法律案を提出することができ、委員長会議は常務委員会の議事日程に入れるか否かを決定し、又は先に関連する専門委員会の審議に付託し常任委員会会議の議事日程に入れるか否かの意見を提出させた上で、常務委員会会議の議事日程に入れるか否かを決定する。常務委員会会議の議事日程に入れない場合、常務委員会会議に対して報告し、又は提案者に対して説明を行わなければならない(立法法27条)。

常務委員会会議の議事日程に入れられた法律案は、通常は常務委員会会議における3回の審議を経た後に、表決に付さなければならない(立法法29条)。但し、各方面の意見が比較的一致している場合、2度の審議で可決することもできる。また調整事項が比較的単一的か又は一部改正の法律案については、常務委員会会議による1度の審議を経て表決に進むことができる(立法法30条)。

法律草案修正稿は、常務委員会会議による審議を経た後、法律委員会が常務委員会構成員の審議意見に基づき修正を行った上法律草案表決稿を提出し、委員長会議が常務委員会全体会議に提出して表決を求め、常務委員会全体会議の構成員の過半数をもって可決される(立法法41条)。

常務委員会委員長[編集]

委員長は常務委員会の活動を主宰し、常務委員会会議を招集する。また委員長会議を招集、主宰する(憲法68条)。

国家主席制が廃止されていた1975年から1982年まで、全人代常務委員会が集団で国家元首の権能を行使し、ソビエト連邦最高会議幹部会議長と同じように全人代常務委員長が対外的に国家元首の職責を果たした。

歴代委員長[編集]

組織機構[編集]

常務委員会会議[編集]

常務委員会会議は常務委員会の委員長が招集し、通常2か月に1回挙行される(全人代組織法29条)。

委員長会議[編集]

常務委員会の委員長、副委員長、秘書長によって構成され、常務委員会の重要な日常事務の処理に責任を負う(憲法68条2項・全人代組織法25条)。

委員長会議は必要に応じて不定期に招集される。

委員長会議の職権は以下となる(全人代組織法25条)。

  1. 毎期の常務委員会会議の期間を決定し、常務委員会会議の議事日程の案を定める。
  2. 常務委員会に提出された議案および質疑案に対して、関連する専門委員会の審議に付託するか或いは常務委員会全体会議の審議に提出するかを決める。
  3. 専門委員会の日常活動を指導および調整する。
  4. 常務委員会のその他の日常活動を処理する。

常務委員会代表資格審査委員会[編集]

代表資格審査委員会は全人代の代表資格の審議に責任を負う常設機構である。その職責は補選された今期全人代代表の資格および新たに選出された次期全人代代表の資格を審査することである(全人代組織法3条)。

代表資格審査委員会の主任委員、副主任委員、委員の人選は、常務委員会構成員の中から委員長会議が指名を行い、常務委員会会議で任命される(全人代組織法26条)。

常務委員会弁公庁[編集]

常務委員会は弁公庁を設置し、常務委員会の秘書長の指導の下で活動を行う。副秘書長は秘書長の活動を支援する。常務委員会は数名の副秘書長を設けており、常務委員会の委員長の提案により常務委員会が任命し、罷免する(全人代組織法27条)。

工作委員会[編集]

常務委員会は必要に応じて工作委員会を設立することができる。工作委員会の主任、副主任、委員は常務委員会委員長の提案により常務委員会が任命し、罷免する(全人代組織法28条)。

  • 法制工作委員会
  • 予算工作委員会
  • 香港特別行政区基本法委員会
  • マカオ特別行政区基本法委員会

常務委員会のなかの共産党組織[編集]

常務委員会に中国共産党の意思を伝達するために、全人代常務委員会党組が設けられている。党組の全ての構成員は全人代常務委員会委員である。同時に全人代常務委員会委員長会議の構成員でもある。そして党組トップである全人代常務委員会党組書記は全人代常務委員会委員長である[6]

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

  1. ^ 憲法第62条に全人代の権限として「刑事、民事、国家機構およびその他の基本的法律を制定および改正する」と規定されている。この基本的法律(基本法)として民法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法、国務院組織法、地方各級人民代表大会および地方各級人民政府組織法、人民法院組織法、人民検察院組織法、選挙法、民族区域自治法、特別行政区の設立および特別行政区の管理制度に関する法律などが挙げられる[4][5]
  2. ^ a b 2018年の憲法改正により国家監察委員会の事項が追加された[4]
  3. ^ この他に全人代主席団、各代表団が全人代に法律案を提出でき、全人代代表も30名以上の連名により全人代に法律案を提出できる(立法法14条・15条)。

出典[編集]

  1. ^ a b 韓 2002, p. 69.
  2. ^ 高見澤 et al. 2019, p. 92.
  3. ^ 高橋 2012, pp. 552-554.
  4. ^ a b 高見澤 et al. 2019, p. 81.
  5. ^ 韓 2002, p. 68.
  6. ^ 加茂 2012, p. 15.

参考文献[編集]

  • 韓, 大元「3章 中央と地方の国家機関」『中国の政治 開かれた社会主義への道程』曽憲義・小口彦太 編、早稲田大学出版部、2002年。ISBN 4657023071。
  • 高橋, 和之『新版 世界憲法集』岩波書店、2012年、第二版。ISBN 9784003400210。
  • 土屋, 英雄『現代中国の憲法集』尚学社、2005年。ISBN 4860310292。
  • 加茂, 具樹「第1章 中国共産党の憲政 活動の法制度化と領導の法制度化」『党国体制の現在 変容する社会と中国共産党の適応』加茂具樹・小嶋華津子・星野昌裕・武内宏樹 編著、慶應義塾大学出版会、2012年。ISBN 978-4766419108。
  • 高見澤, 磨、鈴木, 賢、宇田川, 幸則、坂口, 一成『現代中国法入門』有斐閣、2019年、第8版。ISBN 978-4641048256。