唐揚げ
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から揚げ(からあげ)とは、揚げ油を使用した調理方法、またその調理された料理を指す。食材に下味をつけ小麦粉や片栗粉などを薄くまぶして油で揚げたものである。天麩羅とは、衣が異なる。表記は「空揚げ」が元であり「唐」は当て字[1]であり、日本新聞協会では「唐揚げ」を使わず「空揚げ」で統一すると明示している。国語学者笹原宏之によれば、ある中国からの大学院生は日本に来てはじめて「鶏のから揚げ」を目にしたといい、彼女の言によれば魚や豚などのから揚げは見ても「鶏のから揚げ」は肯得基でしか目にしなかった、という[2]。
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概要
唐揚げは、日本でメジャーな料理の一つであり、弁当や食事のおかずから酒の肴、定食屋メニューなど、幅広い場で食べられる。
各種唐揚げ


竜田揚げ
唐揚げの一種に、竜田揚げ(たつたあげ)という料理がある。唐揚げという名称は食材・粉・下味の種類を問わず使われるのに対し、竜田揚げは肉などを醤油とみりんから作ったタレに漬け込んで下味をつけて片栗粉のみで揚げるものを指す。
「竜田揚げ」の名前は、百人一首のひとつであり、落語「千早振る」でも有名な在原業平の歌から付けられている。
千早振る 神代もきかず 龍田川 からくれなゐに 水くくるとは
—在原業平, 百人一首
材料に染み込んだ醤油の色が、揚げることで紅葉のような色合いになるために、紅葉の名所である竜田川に紅葉が流れる姿が連想されるからである。
また旧日本海軍の軽巡洋艦「龍田」の司厨長が、唐揚げを作る際に小麦粉が無かった為代用に片栗粉を用いて揚げた事を由来とする説もある。この説から「竜田揚げ」と表記せずに「龍田揚げ」と表記する店もある。
1937年(昭和12年)発行の軍隊調理法にも記載のあるところから、すでに昭和初期には一般的な料理であったと思われる。
鯨肉を用いた竜田揚げは、昭和時代安価で提供できたために学校給食のメニューにしばしば上った。
軟骨の唐揚げ
軟骨唐揚げは、鶏の手羽、または脚の軟骨部分を切り分けて、唐揚げもしくは竜田揚げの手法で調理したもの。居酒屋メニューとして、ビールのつまみなどにされている。
小海老の唐揚げ
小海老の唐揚げは、殻ごと食べられる程度の小振りのエビを唐揚げの手法で揚げた料理。日本や中国で作られる。淡水産のテナガエビやスジエビ、浅海産のシバエビやトラエビ、深海産のサクラエビ、シラエビ、ジンケンエビなどが用いられる。
各地域の唐揚げ
半羽揚げ
新潟市で見られる鶏肉の唐揚げ。 縦半分に捌いた鶏肉を下味を付けずに骨付きのまま極薄い粉衣を付けて揚げた物。 そのままで提供される店と一口大に切ってから提供される店がある。 塩味と薄くカレー粉がまぶされていることが多い。好みでガーリックパウダーを振って食する。
鶏の半身揚げ
新潟市の半羽揚げとは若干製法が異なる北海道で見られる半身の唐揚げ。 主に小型の地鶏・若鶏(または、雛鶏)を用い、縦半分に捌いた鶏肉を特製の塩ダレに漬け込み後、そのまま油で揚げた物。 衣を漬けずに素揚げにする為、皮はパリパリ、中はジューシーに製造される。 近年、テイクアウト専門の店舗が多く建ち並ぶ。店舗によっては、国産若鶏・雛鶏使用や冷凍品不使用・生肉使用などアピールが成される。
大分県中津市の唐揚げ
大分県中津市は、鶏肉の唐揚げを好む人が非常に多く、日本唐揚協会では、唐揚げの聖地とされる[3]。市内や近郊の宇佐市、福岡県豊前市・築上郡には非常に多くの唐揚げ専門店が存在し、その味を競っている。 全国的には分からないが、大分県北部地域の唐揚げの発祥は、宇佐市のトキハインダストリー前にある「来々軒」である。戦後間もない頃に中国系の主人が、養鶏場で規格外の鶏を処分していたのを安く譲ってもらい、「多くの人に安くお腹いっぱいになって欲しい。」と、唐揚げにして売り出したのが始まり。その後、同じ宇佐市四日市の「庄助」に唐揚げの作り方を教える。しかし、中津市に広がる唐揚げは「庄助」が教えたものも多く存在する。現在、宇佐市では市職員によって「唐揚げ探検隊」が組織され、市内の唐揚げ店を食べ歩いている。しかし、あくまで個人の主観にもとづく評価であると同時に、歴史についての理解は浅い。
「中津市#唐揚げ」も参照
グルクンの唐揚げ・沖縄のバター焼き
海水魚の一種タカサゴは、沖縄方言でグルクンと呼ばれる。南西諸島でよく食べられるが、刺身と並んで唐揚げも多く食べられる。沖縄県では居酒屋のメニューに載ることがある。グルクンを丸ごと揚げることについては、鮮度が落ちやすく、また、淡泊な味であるグルクンを、油で揚げることで日持ちさせ、さらにうまみをつけるという狙いがあると言われている。こうした調理法は沖縄のみならず台湾やタイなど南方の国々では一般的である。 また、沖縄にはバター焼きと称する魚料理があるが、これは日本本土で一般的なムニエルのような切身のバターソテーではなく、マーガリンとにんにくで風味を付けた魚の丸揚げのことである。
ハワイ
モチコチキンは下味をつけた鶏肉にもち米の粉(白玉粉)をまぶして揚げたハワイの料理。プレートランチ屋のメニューに出ることがある。
地方名
- 日本国内には唐揚げのことをざんきまたはざんぎに類する言葉で呼ぶ地域が存在する。
愛媛県東予地方
せんざんき、ざんき
せんざんきは愛媛県今治市に伝わる江戸時代より300年の歴史がある郷土料理で、元来は同地に多かったキジの肉を使った揚げ物であったが、現在では下味をつけた鶏のから揚げのことを指し、料理店によっては骨付きで提供される場合もある。現在の形となったのは1930年代で、鶏料理の際に残った骨付き肉にタレを付けて揚げたものであったという[4]。語源については諸説あるが、中国語で骨付鶏の唐揚げを意味する軟炸鶏(ruanzhaji、エンザーチ)、または骨なし鶏の唐揚げを意味する清炸鶏(qingzhaji、チンザーチ)に由来するとする説が有力である。今治市は鶏料理が盛んな地域で、焼き鳥は一般の串焼きとは異なり、鉄板の上で焼くといった独自の文化があり、また焼き鳥店の数が人口当たり日本一であることから、同市は焼き鳥日本一宣言を行っている。愛媛県新居浜市ではせんざんきのことをざんきと呼ぶ。
山形県庄内地方
ざんき、ざんぎ
かつて山形県酒田市や同鶴岡市では、鶏のから揚げのことをざんきまたはざんぎと呼ぶことがあった。同地は北前船の拠点であったため、北前船との関連性が指摘されることもある。
北海道地方
北海道には、唐揚げとザンギの両方が存在しており、しばしば混同される。
唐揚げ
唐揚げは、食材に片栗粉をまぶし、高温の油で揚げる方法を「唐揚げ」とされる(下味を付ける場合もある)。一般的な鶏肉の唐揚げも存在し、コンビニ・弁当販売店では「から揚げ」として売られているほか、日清製粉の「から揚げ粉」も古くから売られている。
ザンギ
ザンギは、北海道で広く用いられる呼称であるが、鶏肉を醤油とニンニクなどの調味料で味付けし片栗粉及び小麦粉で揚げたものである。また、ザンギの名称は、鶏以外の食材(獣肉:豚・羊・鹿、魚介類:タコ・イカ・鮭など)の唐揚げに対しても用いられ、料理法として一般名詞化している。鶏肉以外で作る場合、材料名を足して「蛸(タコ)ザンギ」などと呼ぶことが多い。
- ザンギ(肉)
- 鶏肉(ムネ、モモ、軟骨、手羽)、羊肉(味付けジンギスカン風の味付け)、エゾシカ(味付けジンギスカン風の味付け)など
- 釧路地方は、独自のタレを付けて食べる文化(釧路式ザンギ)もある。醤油系の味のザンギ、塩味系のザンギなど、店舗独自の製法があり、多種多様である。コンビニチェーンの北海道地域の店舗では、鶏肉の唐揚げ商品にザンギの名称を用いて販売したり、札幌市で創業した居酒屋チェーン「つぼ八」でも、鶏肉の唐揚げ商品にザンギの名称を用いている。
- ザンギ(魚介)
- タコ(主にミズダコ)(頭、足)、イカゲソなど
- 現在各地の居酒屋の定番メニューでもあるが、元は、沿岸部地域・漁師の、漁師料理として振舞われたもので、ザンギ(鶏肉)と同じ製法で作られるため、ザンギと呼称される。
語源
語源には、諸説ある。中国語の「鸡」で鶏の唐揚げを意味する「炸鶏(ザーチ)」との説が有力である他、「千斬切(せんざんき)」とする説もある[5]。
ザンギの調理方法
下味付けの際に醤油やショウガ、ニンニクなどで味付け(下味を付ける場合には前日から漬け置く場合もある)、その食材に粉(小麦粉・片栗粉又は、両方)・卵などを合わせ高温の油で揚げ、施したものが「ザンギ」とされる[6]。しかし、明確な区別がない場合も多いようである [7]。
発祥地
ザンギ(鶏肉)の発祥地については、釧路市の焼き鳥店「鳥松(とりまつ)」と函館市の高級中華料理店「陶陶亭(とうとうてい)」が発祥の地とされる。
という説である。しかし、陶陶亭は、廃業後火事により店舗が消失しているため、詳しい事情については不明であるため、発祥地に関しては、釧路説と函館説で二分されている[8]。現在、陶陶亭を独立した元料理長が、函館市若松町の中華料理店「王さん」で営業しており。そこで、函館発祥のザンギを味わうことは可能である。
唐揚げを利用した料理
南蛮漬け
南蛮漬け(なんばんづけ)は、唐揚げに「南蛮酢」というネギ・唐辛子(南蛮)の刻みを混ぜた甘酢を掛けた(あるいは漬けた)料理。掛けるなら西洋料理でいう「エスカベージュ」に、長く漬ければマリネに相当する。鶏肉、ワカサギやアジ、イワシなどの魚類でも作られる。
中国
中国には、唐揚げに餡やタレをかける料理が多い。
油淋鶏
油淋鶏(ユーリンチー)は、鶏の唐揚げに、刻んだ長ネギをたっぷり入れた酢と醤油のタレをかけた中華料理の一つ。鶏の唐揚げネギソースがけなどと呼ぶ店もある。粉をつけず油をかけながら皮を焼いたり、粉をまぶして揚げたものもある。日本の中国料理店では、一般的には骨のない部位を用いるが、本来の油淋鶏は骨付きのままブツ切りにすると言われている。
檸檬鶏
檸檬鶏(レンモンカイ)は、鶏の唐揚げに、レモンの絞り汁、砂糖、醤油などで作ったタレをかけた広東料理のひとつ。鶏の唐揚げレモンソースがけなどと呼ぶ店もある。類似のものにオレンジソースがけもある。
辣子鶏
辣子鶏(ラーズージー)は、若鶏の唐揚げとともに、赤唐辛子を素揚げにして、刻んで塩と共に振りかけた辛い四川料理のひとつ。
注意点
- カラアゲは、一つ一つが大きいために加熱不足になりやすく、加熱が足りない場合は食中毒の原因になる可能性もあるので、十分加熱するよう注意することが必要である。
脚注
- ^ goo辞書「から-あげ」[1]
- ^ 三省堂ワールドワイズ・ウェブ「漢字の現在:から揚げ」[2]
- ^ 爽快情報バラエティー スッキリ!!(日本テレビ)2010年4月23日放送
- ^ 愛媛の味紀行 ふるさと料理決定版。1989年。愛媛新聞社編集
- ^ 北海道雑学百科ぷっちがいど
- ^ 小柳健次郎 (2008年11月1日). “ザンギと唐揚げはどれだけ違うのか”. デイリーポータルZ 土曜ワイド工場. ニフティ. 2010年5月14日閲覧。
- ^ 小柳健次郎 (2008年11月1日). “ザンギと唐揚げはどれだけ違うのか”. デイリーポータルZ 土曜ワイド工場. ニフティ. 2010年9月7日閲覧。
- ^ 『なんだ?コレ大事典』~北海道の鶏のからあげ、ザンギの謎~[リンク切れ]