宇宙飛行士
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宇宙飛行士(うちゅうひこうし)とは、宇宙船による大気圏外の飛行を行なうよう選ばれた人のこと。
宇宙飛行士の定義など[編集]

ロシアで宇宙飛行士訓練をした宇宙飛行士をコスモノート(露: космонавт カスマナーフト kosmonavt)、アメリカ合衆国で訓練をした者をアストロノート(英: astronaut)、中国で訓練をした者をタイコノート(宇航員、太空人)という。そのため、アメリカ人であっても、アストロノートとコスモノートがいる。ちなみに、アメリカ人初のコスモノートは、ソユーズTM-11に搭乗したノーマン・サガード宇宙飛行士である。 日本人初のコスモノートは秋山豊寛、日本人初のアストロノートは毛利衛である。
ロシアやアメリカではそれぞれ、宇宙飛行士の資格を設けているが、宇宙飛行士であるかどうか世界に共通するような厳密な規定や定義はない。今の所(2011年において)は「1度でも宇宙に行った人」が宇宙飛行士であるとしている様であるが、何が宇宙飛行であるかの判断には幅がある。たとえばロシアは衛星ミサイル、衛星爆弾は軌道を一周しなければ宇宙法に抵触しないとの立場を採っているが、有人飛行については弾道飛行も宇宙飛行であるとしている。
日本人に関しての報道では、宇宙開発事業団(東京大学宇宙科学研究所・科学技術庁航空宇宙技術研究所と統合し、現・宇宙航空研究開発機構)所属の飛行士を「宇宙飛行士」と主に指す。またロシアのソユーズロケットに搭乗し日本人初の宇宙飛行を果たしたTBSテレビの記者秋山豊寛、また、その補欠であった菊地涼子の両飛行士は旧ソ連宇宙飛行士資格を取得しているため、現在もソユーズ宇宙船に乗る資格がある。
国際航空連盟ではカーマン・ラインと呼ばれる海抜高度100km以上、アメリカ軍では50海里(50ノーティカルマイル、92.6km)、アメリカ連邦航空局では80km以上の高空を宇宙空間と定義する。アメリカ軍では定義以上の高度を飛行した機体の全搭乗員(機長・操縦士に限らず航法士などでもよい、全ての当該機乗組員)に宇宙飛行士記章 (Astronaut Badge) を授与している。
初期の宇宙飛行では無事に帰ってくる事が最優先され、過酷な打ち上げに耐える体力と不測の事態への対処能力が重視された事から、主に軍の戦闘機パイロットやテストパイロットから選抜されていた。近年では科学研究が主体になり、研究者が訓練を受けて宇宙飛行士になるケースが多いが、船長や操縦士としてパイロットが選抜されている。またロボットアームの操作にはパイロットとしてのセンスが役に立つとされる[1]。
なお過去に何人かの宇宙飛行士が飛行任務中の事故で殉職しているが、多くは打ち上げ時か大気圏再突入時の事故によるもので、厳密に宇宙空間で死亡した人間はソユーズ11号の空気漏れ事故で窒息死した3人の搭乗員のみである。
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スペースシャトルでの下位区分[編集]
最近のスペースシャトルなどの運用にあたっては、下記の4つに業務が分かれている。
- 船長(Commander (CDR)、コマンダー)
- 操縦手(Pilot (PLT)、パイロット)(船長は操縦手より選出される)
- 搭乗運用技術者(Mission Specialist (MS)、ミッションスペシャリスト)
- 搭乗科学技術者(Payload Specialist (PS)、ペイロードスペシャリスト)
昨今、行われるようになった宇宙旅行などで運用に関係のない搭乗者にも呼称が与えられている。
- 宇宙飛行関係者(Spaceflight participant、商用の宇宙旅行者、教師など)
宇宙飛行士と精神衛生[編集]
精神医学を専門とするカリフォルニア大学サンフランシスコ校のニック・カナス教授は、ニューヨーク・タイムズ紙(2007年2月7日付)で、以下のようなことを指摘した[2]。
燃え尽き症候群の例としては、アポロ11号で人類として初めて月に到達したエドウィン・オルドリン[3]は地球帰還後に鬱病を患ったことが挙げられる[4]。
また、感情や人間関係の問題に必ずしも上手に対処できるわけではない例としては、リサ・ノワックの事例がある。
無重力の影響[編集]
宇宙飛行士は重力の影響を受けない環境に長期間さらされるため、任務を続ける間、身体にさまざまな変化が現われてくる。多くの場合、それは地上へ帰還した際に不都合を招くものとなる。
宇宙線の影響[編集]
宇宙空間では、宇宙線により健康上極めて重大な障害を受ける可能性がある。また、その観点から各種防護対策が必要である。
宇宙飛行士のスカウト・身分[編集]

アメリカやロシアの場合宇宙飛行士の初期において多くは空軍、海軍のテスト・パイロットから選抜された[4]。彼らは軍に籍を置いたまま出向の形でNASAに所属する。NASA職員も国家公務員であるため軍を退職する必要はなく、任務が終了したり適性を失ったりすると軍に復帰するか、操縦士であれば操縦訓練の教官やNASAが運用する航空機の操縦士として働くのが一般である。彼らは宇宙飛行士としては元の軍の階級で呼称される。
現代では自然科学系の大学を卒業し、一定期間の実務経験を有する技術者・科学者・医師から、チームワークやリーダーシップの実績、コミュニケーション能力など「ライトスタッフ」と呼ばれる要素を有する者を選抜している[5][6]。NASAでは応募者が増えすぎたことや結果的に選ばれているためとして、2020年から修士号が必須となった[6]。また応募する者の傾向としては、南極観測隊や自然環境での救助活動の経験者、自家用操縦士を有する者が多いという[6]。なお現在のNASAではT-38での訓練を実施している都合上、操縦士を欲している[6]。
日本では自衛官がJAXAの宇宙飛行士選抜試験を受けることは可能ではあるが[7]、合格した場合にはJAXAの職員となるため、自衛隊を退職しなければならない。JAXA職員は公務員でないため、自衛隊との兼業はできない。2015年までに油井亀美也と金井宣茂が宇宙飛行士に選ばれ退職している[8]。両名ともJAXAに在籍したままであるが、自衛隊に復帰できるのかは不明。
JAXAの職員や海上保安官も受験は可能で、2008年の試験ではJAXAの地上管制官と海上保安庁のパイロットが最終選考まで残った(ドキュメント宇宙飛行士選抜試験)。
NASAでは定年や異動による自然減に対応するため常時12名前後の現役として待機させており、これに合わせアメリカ政府職員の求人サイト(USAjob.gov)を通じて、求人を行っている[9]。また軍のパイロットからの選抜も別途行われている。2020年の募集では1万2040人の応募があった[6]。
脚注[編集]
- ^ 〈宇宙兄弟リアル〉金井宣茂/宇宙飛行士 〜宇宙飛行前夜 それは最初の一歩〜(前半) - 宇宙兄弟公式サイト
- ^ リサ・ノワックによる事件直後、その事件を視野に入れつつ、宇宙飛行士の精神衛生全般に関して解説。
- ^ ニール・アームストロングとともに到達。
- ^ a b 立花隆『宇宙からの帰還』中央公論社 1983 中公文庫、1985
- ^ 宇宙飛行士募集に関する資料集
- ^ a b c d e 宇宙飛行士になれるのはどんな人? NASAの選考責任者に聞く - ナショナルジオグラフィック
- ^ “宇宙飛行士候補に油井2空佐 全日空の大西氏と パイロットで初めて”. 朝雲新聞. (2009年3月5日). オリジナルの2009年3月12日時点におけるアーカイブ。
- ^ 呉インターネット写真ニュース / 金井医官きょう退職
- ^ USAJOBS - The Federal Government’s Official Jobs Site
関連項目[編集]
- 宇宙飛行士一覧
- 日本人の宇宙飛行
- 宇宙医学
- 宇宙に行った動物
- 宇宙名誉勲章
- 宇宙ロボット
- 宇宙酔い
- 宇宙空間での生殖行為 - 詳しい研究は行われていない。
- アストロバン - NASAで使用される宇宙飛行士を訓練施設や搭乗機まで輸送する乗り物
- TP-82(ТП-82、СОНАЗ) - ソビエト連邦の宇宙飛行士が装備した銃。帰還時に動物などから身を守り、猟で肉を手に入れ、救援に来た人たちに信号弾で連絡し、ストック部は鉈として草を払い道をつくり・木材を切り出し・薪やシェルターを作るための工具として多目的に使用できる。以前はマカロフ PMを装備していたがボスホート2号の救援時に十分な性能を発揮できなかったことから開発された。
- レスキューボール - 宇宙空間でスペースシャトルから緊急脱出するために考案された救命装置。実際には装備されなかった。
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