寝取られ
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寝取られとは、国語辞典的な定義では動詞「寝取る」の受動形の名詞化された単語。性用語としては基本的に、自分の好きな人が他の者と性的関係になる状況に性的興奮を覚える嗜好の人に向けたフィクションなどの創造物のジャンル名を指す。NTRとも表記される[1]。
用語の歴史[編集]
マゾヒズムの一種としての、“自分の恋人や妻が他の男と性的関係になることを悦ぶ性的嗜好”は、谷崎潤一郎の『鍵』やマゾッホの『毛皮を着たヴィーナス』などで描かれて知られていたが、そのような性的嗜好を表す用語は最近までほとんど存在しなかった(天野哲夫が紹介した三者関係、トリオリズムという近しい言葉は存在した[2][要ページ番号])。現在では、インターネットをはじめとし、アダルトゲームやアダルトビデオのジャンル名としてこの語が頻繁に使われるようになり[3][4]、一般的な話題や報道・ニュースなどの表記の中にもこの言葉が用いられることが多くなっている[5][6]。それらに伴い近年では知名度とともに国や性別を問わずその人気は高くなっており[7]、特に同人作品ジャンルで圧倒的なシェアを見せている[8][9]。また、夫婦間でのセックスレスなどの解消法の1つとして専門家に紹介されることもある[7][10]。
日本語に外来語として定着している「寝取られ男」を表す語に、フランス語の「コキュ」 (cocue) がある。フランスはコキュ文化の国とされ、寝取られ男を描いた文学や演劇などが多く存在する[11]。 コキュ文化について、フランスの哲学者シャルル・フーリエは著書『四運動の理論』の中で、以下の3種を紹介している[12][注 1]。
- コキュ - 浮気されていることを知らない。
- コルナール - 浮気されて、激怒している。
- コルネット - 浮気されていることを知っていても、泰然自若としている。
ただし、フランス文学におけるコキュとは、寝取られ男がそれを笑うか嘆き悲しむという滑稽さをメインとしており、昨今の(特に日本での)シチュエーションに興奮するフェチシズムやエロスである“寝取られ”とは若干異なる[11][14]。
英語では“cuckold”が寝取られ男を表す語であり、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『ハムレット』や『オセロー』にも登場するなど古くから定着している[15]。寝取られマゾ的傾向そのものやそういう嗜好のポルノグラフィを表す場合もある。また、妻の不貞を容認している男を“wittol”と呼ぶ。[要出典]
鹿島の新書『SとM』によると、カンダウリズム的な嗜好の3P愛好者にとっては、寝取る側の男を「ギリシャ人(グリーク)」と呼ぶ。マゾッホの『毛皮のヴィーナス』で、ギリシャ人が妻ワンダを寝取るから、である[要ページ番号]。
「マゾ」の語源で有名な小説家のレーオポルト・フォン・ザッハー=マゾッホは、自分の妻に故意に姦通を行わせて性的快楽と興奮を得ていた[要出典]。
概念・要素の歴史[編集]
ギリシア神話や北欧神話、エジプト神話など、世界各国の神話が作られた時代にはすでに寝取られ要素を含む物語は存在している[9][注 2]。
文学においても、その概念の歴史は古く、12世紀にはフランスでまとめられたケルトの説話『トリスタンとイズー』にその傾向が見て取れる[14]。14世紀のジョヴァンニ・ボッカッチョによるイタリア文学『デカメロン』[16]、16世紀のフランソワ・ラブレー作『第三の書』[17]、17世紀にはイギリスでシェイクスピアが登場する。特にフランスでの寝取られ(コキュ)を題材とした作品は多く、フーリエはコキュの分類について上記した3種を含む計64種あるとし[18]、フランス文学者の鹿島茂は河盛好蔵の言葉を引用し「フランス文学はコキュ文学」と評している[11]。
なお日本では、11世紀に紫式部によって書かれた、世界最古の長編小説『源氏物語』に登場する“女三の宮”のエピソードで、寝取られ要素がある[注 3][19]。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ 本橋信宏 2011.
- ^ 天野哲夫 1998.
- ^ “岩井志麻子、ふかわりょうは“寝取られ系”AVのM男「けっこうハマるんじゃないか」”. SANSPO.COM(サンスポ) (2019年4月25日). 2019年5月22日閲覧。
- ^ “『俺は彼女を信じてる』 リアルすぎるNTRに背徳感やべぇ!キャラデザも大人っぽくてグッド!! - おたぽる ※18歳未満閲覧禁止”. ユニベルシテ株式会社 (2019年4月27日). 2019年5月22日閲覧。
- ^ “全国ご当地キャバ嬢が集結! 整形から客との関係まで生々しい裏事情を暴露”. テレ東プラス (2019年4月26日). 2019年5月22日閲覧。
- ^ “「南国少年パプワくん」作者のホームパーティーがヤバイ?柴田亜美先生が“ぶっ飛んでる”と話題「アウト×デラックス」”. COCONUTS JAPAN (2019年4月26日). 2019年5月22日閲覧。
- ^ a b “寝取られ願望は夫婦仲にプラス。「いい夫婦の日」を前にCNNが報道”. ギズモード・ジャパン (2018年1月30日). 2019年5月22日閲覧。
- ^ “「寝取り・寝取られ」が男女ともにぶっちぎりの人気! 「FANZA REPORT 2018 同人編」でわかるユーザーの性癖 - おたぽる ※18歳未満閲覧禁止”. ユニベルシテ株式会社 (2018年12月27日). 2019年5月22日閲覧。
- ^ a b “小島慶子の今週の気になるコト。『NTR』=『寝取られ』ジャンルがAVで人気な理由を考察してみた”. ニフティニュース (2018年12月5日). 2019年5月22日閲覧。
- ^ “セックスレス改善のフックは “NTR” 妄想にあり! 【すずね所長のオトナ夫婦の寝室事情#24】”. ウーマンエキサイト (2018年12月20日). 2019年5月22日閲覧。
- ^ a b c “『エプタメロン―ナヴァール王妃の七日物語』(筑摩書房) - 翻訳:平野 威馬雄 - 鹿島 茂による解説 - 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS”. 晶文社 (2017年4月23日). 2019年5月22日閲覧。
- ^ シャルル・フーリエ 2002, pp. 213-214.
- ^ 空気げんこつ - 鹿島 茂 - Google ブックス
- ^ a b 清水まさ志 2013, p. 12.
- ^ “すれ違い、悲劇的な結末を迎えた二つの愛。シェイクスピアの演劇的仕掛けまでも訳出した『新訳 オセロー』 - カドブン”. 株式会社KADOKAWA (2018年8月23日). 2019年5月23日閲覧。
- ^ “デカメロン 上 - ボッカッチョ, 平川祐弘 - Google ブックス”. 河出書房新社. 2019年5月23日閲覧。
- ^ フランソワ・ラブレー 2007, p. 336.
- ^ シャルル・フーリエ 2002, p. 218.
- ^ “58 女三の宮と柏木との関係を知った光源氏はどう対処したか? - 『源氏物語の謎』増淵勝一 著”. 国研ウェブ文庫 - 国研出版 (2014年9月21日). 2019年5月22日閲覧。
参考文献[編集]
- 天野哲夫 『三者関係の罠 ある異端者の随想録II』 電子本ピコ第三書館販売、1998年4月15日。ISBN 480749807X。
- 鹿島茂 『空気げんこつ』 角川書店〈角川文庫〉、2001年10月。ISBN 4043616015。
- シャルル・フーリエ、巌谷国士訳 『四運動の理論〈上〉』(新版) 現代思潮新社、2002年5月1日。ISBN 4329004194。
- 鹿島茂 『オール・アバウト・セックス』 文藝春秋〈文春文庫〉、2005年3月10日。ISBN 4167590042。
- フランソワ・ラブレー、宮下志朗訳 『第三の書―ガルガンチュアとパンタグリュエル〈3〉』 筑摩書房、2007年9月10日。ISBN 4480420576。
- 叶恭子 『トリオリズム』 小学館〈小学館文庫〉、2008年1月7日。ISBN 4094082409。
- 鹿島茂 『SとM』 幻冬舎〈幻冬舎新書〉、2008年3月1日。ISBN 4344980735。
- 亀山早苗 『男と女 - セックスをめぐる五つの心理』 中央公論新社〈中公文庫〉、2011年5月21日。ISBN 4122054788。
- 本橋信宏 『なぜ人妻はそそるのか? 「よろめき」の現代史』 中央公論新社〈メディアファクトリー新書〉、2011年6月29日。ISBN 484013958X。
- 清水まさ志「愛を語るフランス文学 : もう一度読みたい文学の世界遺産」『富山大学地域連携推進機構生涯学習部門年報』第15巻、富山大学地域連携推進機構生涯学習部門、2013年3月、 NAID 120005257194。
- 小野俊太郎 『本当はエロいシェイクスピア』 彩流社〈フィギュール彩〉、2013年12月18日。ISBN 4779170087。
- 荒玉みちお 『寝取られたい男たち』 鹿砦社〈鹿砦社ライブラリー〉、2018年1月26日。ISBN 4846312194。