専修大学本源氏物語系図

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専修大学本源氏物語系図(せんしゅうだいがくほんげんじものがたりけいず)とは、古系図に分類される源氏物語系図の一つ。現在専修大学図書館に所蔵されているためにこの名称で呼ばれる。

概要[編集]

阿波国徳島藩蜂須賀家旧蔵。現専修大学図書館所蔵。この古系図は、勅撰集新古今和歌集』の撰者の一人であり当時の歌壇で広く活躍した歌人である藤原家隆の筆と伝えられてきたために、「伝藤原家隆筆古系図」と呼ばれることもある。鎌倉時代の書写とみられる比較的書写時期の古い古系図である。『源氏系図』との外題を持つ巻子本一軸の形態を持ち、二重の桐箱入で蓋には「源氏系図 藤原家隆筆」と記されている。料紙・装幀などは美術的な価値も高いものであるとされる。

本系図は、前付や後付が無いため巻名目録源氏物語のおこりのようなものは含まれておらず、奥書も無く、系譜部分と系譜の不明な人物について列挙した「不入系譜」と呼ばれている部分のみからなる。

類似する伝本[編集]

本系図で使用している人物呼称について、欠落のある九条家本を除いて諸本と比較すると、正嘉本古系図が最も近く、以下東京大学蔵本、日本大学蔵本、巨細実秋本後光厳院本学習院大学蔵本、為氏本天文本為定本秋香台本安養尼本の順で近い。それ以外にも系譜部分に収録されている人物の数は213人であることや、巣守三位を始めとする巣守に関する記述を持つこと等は、現在内容を知られている多くの古系図の中では正嘉本と最も近いものであることを示すと考えられるものの、正嘉本と比較すると細かな違いも多く存在するため、単純にどちらかがどちらかを書写したものというような近い関係ではないと考えられている。

なお、藤原家隆筆とされる源氏物語系図はまとまったものは現時点では本写本しか明らかになっていないものの、

  • 前田善子のコレクション「紅梅文庫」から弘文莊反町茂雄が買い取った貴重書に含まれていた源氏物語古系図断簡[1][2][注釈 1]
    3枚の紙を継いだ巻本1巻。巻末部分と見られる不入系譜の後半部分の僧20人・女50余人・尼4人を内容としている。
  • 徳川将軍家に所蔵された名物茶道具を集めた記録である『柳営御物集』(1933年(昭和8年)5月、好日書院、高木文校訂)に「源氏系図 家隆筆 御奥ヨリ出ル」とされる断簡

の存在が指摘されており、これらとの関連の調査の必要性が指摘されている[3]

特徴のある記述[編集]

本古系図では、以下のように記述に「不審」(疑義がある)あるいは「僻事」(誤りである)等と述べたりしている場所が全部で9箇所あり、その多くが正嘉本と共通している。その主なものは以下のとおりである。

  • 今上帝の子について、現行の源氏物語の本文による限り同一人物である四宮と常陸宮を別々の人物として列挙する[注釈 2]系図があることに触れ、「異本では四宮と常陸宮を別人として扱うが誤りではないか」と批判している。
  • 冷泉帝桐壺帝の子として何番目に記述されているかということについて、公式には橋姫巻において冷泉帝が桐壺帝の第十皇子であるとされている[注釈 3]ことなどから、多くの古系図では桐壺帝の子としては朱雀帝光源氏蛍兵部卿宮宇治八の宮[注釈 4]といった人物よりも後の桐壺帝の子としては最後尾に置かれているが、「即位した人物なのだからもっと前の場所に記述するべきではないか」といった主張を注記している。
  • 「源三位」とその三人の子供「頭中将・巣守三位・中君」という計四人の巣守関連の人物記述について、冒頭の源三位の人物注記において「以下四人流布本無し」と記している。

記載されている人物の数[編集]

本古系図の系譜部分に収録されている人物の数は213人である。この系譜部分に収録されている人物の数を様々な古系図について調べ、人数順に並べてみると以下のようになる。

名称 区分 収録されている人数 備考
くじょうけほん九条家本古系図 九条家本系統 117人 但し欠損部分を近い系統の古系図で補うと133人から134人であると考えられる
しゅうこうだいほん秋香台本古系図 九条家本系統 133人
てづかやまほん帝塚山短期大学蔵本古系図 九条家本系統 133人
きっかわほん吉川本古系図 137人
ためさだほん為定本古系図 九条家本系統 141人
こくぶんけんほん国文研本古系図 巣守の記述を含む 163人
にほんだいはくほん日本大学蔵本古系図 174人
ためうじほん為氏本古系図 177人
とうきょうだいがくほん東京大学蔵本古系図 178人
さねあきほん実秋本古系図 巣守の記述を含む 179人
てんぶんほん天文本古系図 187人
あんようにほん安養尼本古系図 189人
げんじものがたりきょさい源氏物語巨細 巣守の記述を含む 189人
つるみだいがくほん鶴見大学本古系図 巣守の記述を含む 189人
じんぐうぶんこほん神宮文庫蔵本古系図 191人
しょうかほん正嘉本古系図 巣守の記述を含む 210人から214人 但し東海大学蔵本の現存部分のみだと202人
せんしゅうだいがくほん専修大学本古系図 巣守の記述を含む 213人
がくしゅういんだいがくほん学習院大学蔵本古系図 215人
ごこうごんいんほん後光厳院本古系図 235人

この人数を常磐井和子が唱えた「系図に収録されている系譜部分の人数が少ないほど古く原型に近いものである」とする法則[4]に当てはめると、この専修大学本古系図は、増補本系統の代表的な伝本である為氏本古系図の177人よりもはるかに多く、さらには混成本系統の代表的な伝本とされる正嘉本の210人から214人とほぼ同じである。

また系譜の後に列挙される一般には「不入系譜」などと称される系譜の不明な人物の数についても、本系図のこの部分に収録されている人物の数は261人であり、これをいくつかの古系図について比べると以下のようになっており、「不入系譜」部分に掲載された人物のみの人数でも、、系譜部分に記された人物の数と「不入系譜」の人数を併せた全体の人物の数についてもこの専修大学本が古系図諸本の中でも最大級のものである。

名称 不入系譜の人数 内訳
しゅうこうだいほん秋香台本古系図 05555人 女2人・男14人・僧4人・女35人
ためうじほん為氏本古系図 09797人 男57人・僧3人・女37人
ためさだほん為定本古系図 104人 男61人・僧4人・女39人
じんぐうぶんこほん神宮文庫蔵本古系図 109人 男・僧・女・尼
さねあきほん実秋本古系図 117人 男43人・女66人・僧8人
てんりとしょかんほん天理図書館 125本 男・女・尼・僧
てんぶんほん天文本古系図 125本 男・僧・女
ごこうごんいんほん後光厳院本古系図 220人 男88人・僧16人・女114人・尼2人
しょうかほん正嘉本古系図 252本 男100本・僧23人・女129人
せんしゅうだいがくほん専修大学本古系図 261人

巣守巻関係の記述[編集]

本古系図は、巣守巻関係の記述を含むが、同様の巣守巻関係の記述を含む古系図との内容の大きな異同を表にすると以下のようになる。これによると巣守巻関係の記述を含む古系図の中では正嘉本と最も近いものであることを示すと考えられる[5]

名称 系譜部分に収録されている範囲 源三位と侍従の関係 源三位への「以下四人流布本無」の注記
こくぶんけんほん国文研本古系図 巣守三位の母の系譜などを含む 同一人物 無し
せんしゅうだいがくほん専修大学本古系図 巣守三位とその兄弟姉妹のみ 兄弟(侍従が兄) 有り
しょうかほん正嘉本古系図 巣守三位とその兄弟姉妹のみ 兄弟(侍従が兄) 有り
げんじものがたりきょさい源氏物語巨細 巣守三位とその兄弟姉妹のみ 同一人物 無し
つるみだいがくほん鶴見大学本古系図 巣守三位の母の系譜などを含む 兄弟(源三位が兄) 無し
さねあきほん実秋本古系図 巣守三位のみ 同一人物 無し
げんじけいづこかがみ系図小鏡 巣守三位とその兄弟姉妹のみ 同一人物 無し

この他に伝藤原為家筆大島雅太郎旧蔵本[注釈 5]早稲田大学図書館九曜文庫蔵本(江戸時代初期書写・折本1帖)にも巣守関連の記述があるとされているが詳細は不明である。

この他系譜部分には巣守に関連する記述は含まれていないものの、系譜以外の部分で巣守に触れている以下のような古系図が存在する。

  • 系図末尾の雑載部分の歌の作者を男女別に挙げた部分で「「桜人」、「狭筵」、「巣守」については歌を入れない」との注記を持つ『源氏古系図』(宮内庁書陵部蔵)
  • 巻末に「およそ源氏の物語は天台の六十巻をへうして作るゆへに六十てうなりしを、いかなるにかすもりの巻なといふをのけられたり。それより今の世には五十四てうなり。」との記述を持つ『源氏系図』(岩瀬文庫蔵)
  • 「ともにおこなひ給へり、すもりの三位これなれや、みめいつくしくひわたえにひき給へる人とかや」との記述を持つ『源氏抄』(中村俊定教授旧蔵、現早稲田大学図書館蔵)
  • 後付けに含まれる巻名目録夢浮橋の後に「のりのし」、「すもり」、「さくら人」、「ひわりこ」といった巻名をあげ、「これらはつねになし」と付記している。(「為氏本」)

翻刻・影印[編集]

  • 中田武司「(資料編)専修大学図書館蔵伝藤原家隆筆源氏物語系図」紫式部学会編『古代文学論叢 第5輯 源氏物語と女流日記 研究と資料』武蔵野書院、1976年(昭和51年)11月、pp. 295-332。 ISBN 978-4-8386-0064-9
  • 中田武司「藤原家隆筆源氏系図 解題」専修大学図書館蔵古典籍影印叢刊刊行会編集『専修大学図書館蔵古典籍影印叢刊 第1期 4 藤原家隆筆源氏系図』専修大学出版局、1980年(昭和55年)5月。 ISBN 4-88125-013-2

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 紅梅文庫の源氏物語関係の貴重書は池田亀鑑のコレクション桃園文庫旧蔵と見られるものが多いが、この断簡には池田亀鑑旧蔵であることを示す「桃園文庫」の蔵書印が無いため、池田亀鑑旧蔵ではないと見られる。
  2. ^ 現存本でいえば為氏本実秋本日本大学蔵本・学習院大学蔵本・神宮文庫蔵本や源氏物語巨細が該当する
  3. ^ 実際には光源氏の子である
  4. ^ 同人はこの名の示す通り桐壺帝の第八皇子である
  5. ^ 現在の所在は不明

出典[編集]

  1. ^ 反町茂雄「紅梅文庫の興亡と桃園文庫の機敏」『一古書肆の思い出 4 -激流に棹さして-』平凡社、1989年(平成元年)8月、pp. 404-433。 ISBN 978-4-5824-8634-6 のち平凡社ライブラリ、1998年(平成10年)11月。 ISBN 978-4-5827-6271-6
  2. ^ 永井和子「「紅梅文庫」覚え書き」森一郎・岩佐美代子・坂本共展編『源氏物語の展望 第3輯』三弥井書店、2008年(平成20年)3月、pp. 15-48。 ISBN 978-4-8382-3165-2
  3. ^ 高田信敬「「源氏物語」の諸本 断簡 -小さな窓から眺めた「源氏物語」-」鈴木一雄監修秋山虔・室伏信助編『国文学解釈と鑑賞 別冊 源氏物語の鑑賞と基礎知識 29 花散里』至文堂、2003年(平成15年)7月8日、pp. 223-232。
  4. ^ 常磐井和子『源氏物語古系図の研究』笠間書院、1973年(昭和48年)3月、p. 163。
  5. ^ 加藤昌嘉「源氏物語古系図の中の「巣守」」陣野 英則 編『平安文学の古注釈と受容 第2集』武蔵野書院、2009年(平成21年)10月、pp. 17-34。 ISBN 978-4-8386-0237-7 のち加筆の上「源氏物語古系図の中の「巣守」関連記事一覧」として『揺れ動く『源氏物語』』勉誠出版、2011年(平成23年)9月、pp. 226-251。 ISBN 978-4-585-29020-9

参考文献[編集]

  • 中田武司「「源氏物語古系図」と「巣守物語」の周辺 (上)」中古文学会編『中古文学』第15号、中古文学会、1975年(昭和50年)5月30日、pp. 64-73。
  • 中田武司「「源氏物語古系図」と「巣守物語」の周辺 (下)」中古文学会編『中古文学』第16号、中古文学会、1975年(昭和50年)9月30日、pp. 53-61。
  • 中田武司「(資料編)専修大学図書館蔵伝藤原家隆筆源氏物語系図」紫式部学会編『古代文学論叢 第5輯 源氏物語と女流日記 研究と資料』武蔵野書院、1976年(昭和51年)11月、pp. 267-294。 ISBN 978-4-8386-0064-9