広東住血線虫症

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広東住血線虫症(カントンじゅうけつせんちゅうしょう、英:angiostrongyliasis)とは、広東住血線虫(Angiostrongylus cantonensis)の幼虫寄生したために発生する人獣共通感染症である。

広東住血線虫[編集]

メス成虫の拡大画像

広東住血線虫は1933年にネズミの血管の中から見い出された事により「住血」と命名され、1945年に台湾でヒトでの症例が報告された[1]。広東住血線虫の終宿主ネズミであり、ネズミから排出された第1期幼虫が中間宿主であるナメクジ類に摂取されると、その体内で第3期幼虫まで発育する。このナメクジ類がネズミに摂取されると第3期幼虫は中枢神経に移動し、第5期幼虫まで発育する。第5期幼虫は肺動脈へと移動して成虫となる。中間宿主が待機宿主に摂取された場合は、第3期幼虫のまま寄生する。

疫学[編集]

広東住血線虫は、広東と付くものの、実際は、太平洋諸島、極東、東南アジア諸国、オーストラリア、アフリカ、インド、インド洋の島々、カリブ海の島々、北米など地球上に広く分布する[2]

日本では、2000年に沖縄県で広東住血線虫症による死者が出ただけでなく、沖縄県で広東住血線虫に汚染されたサラダの摂食による感染例まで報告された[3]。また、オーストラリアでは、当時19歳だった男子学生が、友人達との悪ふざけでナメクジを食べたため広東住血線虫症にかかり、8年間の闘病の末に2018年11月2日に死亡した事例がある[4]。さらに、アメリカ合衆国ハワイ州では、2018年に10例、2019年5月までに5例と患者数は増大傾向にある[5]。広東住血線虫症は、広東住血線虫に汚染された、生野菜、手指、飲料水などを摂取した事によっても発生し得るため[3]、注意が必要である。

なお、広東住血線虫はナメクジだけでなく、様々な動物に感染し得て、ヒラコウラベッコウガイからは勝手に広東住血線虫が体外へ出て行く事も確認された[3]アフリカマイマイに起因すると考えられる発症例の報告もある[2]

臨床像[編集]

ヒトでは中間宿主や待機宿主によって汚染され、広東住血線虫の幼虫が混じった食品や水の摂取により寄生が成立する。感染から発症までは 12日から28日程度とされ[1]、ヒトの体内に侵入した第3期幼虫の多くは中枢神経系へと移動し、出血、肉芽腫形成、好酸球性脳脊髄膜炎などを引き起こす[2]。なお、第3期幼虫が中枢神経系へ移動する理由としては、免疫システムからの回避、成長に必要な脳由来酵素の獲得、槍型吸虫やロイコクロリディウムのような宿主のコントロールといった仮説が挙げられる。

治療[編集]

まずは、広東住血線虫の虫体の抗原を用いて、ELISA法や免疫電気泳動法を利用して、血清や髄液中から抗体検出を行う事で、確定診断をする。その後、治療に入る。

鑑別疾患[編集]

広東住血線虫症の診断の際に重要な鑑別疾患は、有棘顎口虫症、嚢虫症肺吸虫症住血吸虫症などである[2]

薬物治療[編集]

広東住血線虫症に対する特効薬は無い。好酸球性脳脊髄膜炎に対する対症療法が行われる[2]。すなわち、ステロイドホルモン薬のプレドニゾロンなどを投与する事によって、好酸球性脳脊髄膜炎の炎症を抑える方法が取られる。

ただし、広東住血線虫の駆虫を目的として、メベンダゾールの投与が併行して行われる場合がある[2]。メベンダゾールの投与を行うと、寄生虫が宿主からグルコースを奪う事を阻害する作用があるとされ、要するに、寄生虫を宿主の体内で餓死させる事を狙う薬である。投与によって、広東住血線虫症患者に看過できない有害作用が起きた場合は、適宜処置を行う。なお、メベンダゾールは回虫がいると問題を起こす場合があるため、もし回虫も感染している場合は、先にサントニンなどを用いて回虫の駆虫を行う必要がある。

出典[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ a b 日本における広東住血線虫ならびにその感染者の発生状況 国立感染症研究所 病原微生物検出情報 Vol.14 (1993/10[164])
  2. ^ a b c d e f 広東住血線虫症とは』 国立感染症研究所 IDWR 2004年第25号
  3. ^ a b c 安里 龍二、平良 勝也、中村 正治、久高 潤、糸数 清正 『感染要因が変化してきた沖縄県の広東住血線虫症』 沖縄県衛生環境研究所
  4. ^ ナメクジ食べて体が麻痺、8年闘病の男性が死亡。人間の脳に感染する「広東住血線虫症」とは?”. HUFFPOST NEWS (2018年11月6日). 2019年6月10日閲覧。
  5. ^ 観光客など3人が寄生虫に感染、ハワイ島で今年5人目”. CNN (2019年5月28日). 2019年6月10日閲覧。

参考文献[編集]

関連項目[編集]

  1. ^ 広東住血線虫症とは』 国立感染症研究所 IDWR 2004年第25号
  2. ^ 安里 龍二、平良 勝也、中村 正治、久高 潤、糸数 清正 『感染要因が変化してきた沖縄県の広東住血線虫症』 沖縄県衛生環境研究所