後巷説百物語

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後巷説百物語
著者 京極夏彦
発行日 2003年12月3日
発行元 角川書店
ジャンル 妖怪時代小説
日本の旗 日本
言語 日本語
形態 四六判
ページ数 784
前作 続巷説百物語
次作 前巷説百物語
コード ISBN 4-04-873501-2
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巷説百物語シリーズ > 後巷説百物語

後巷説百物語』(のちのこうせつひゃくものがたり)は、角川書店から刊行されている京極夏彦の妖怪時代小説集。「巷説百物語シリーズ」の第3作。妖怪マガジン『』のvol.0011からvol.0015まで連載された。第130回直木賞受賞作。

概要[編集]

江戸時代を舞台とした前作『続巷説百物語』とは趣を変え、明治時代に時代が移り、老人になった山岡百介の回想という形で数十年前に又市たちが実行した仕掛けが語られる。また、百介が自分から事件に関わるのではなく、4人の青年から怪事件の相談を持ちかけられるという形式に変わっている。

あらすじ[編集]

舞台は『続巷説百物語』から更に時代が流れた明治10年東京警視庁一等巡査・矢作剣之進が持ち込む奇妙な話や事件を笹村与次郎達友人は協力し解決を試みる過程で、毎度のように薬研堀の一白翁のもとを訪れ智慧を借りる。彼らは老人がかつて体験した奇妙な体験談を聞くうちに現在追っている事件の謎を見つけ出していく。

主な登場人物[編集]

主要登場人物は巷説百物語シリーズを参照。

一白翁(いつぱくおう)
薬研堀界隈に九十九庵という閑居を構え、遠縁であるという娘、山岡小夜と暮らす老人。歳の頃は八十幾つか、鶴の如くに痩せ細った色白の老爺で笹村達には「薬研堀のご隠居」と呼ばれている。
巷説百物語』、『続巷説百物語』に登場する山岡百介その人の晩年の姿であり、一白翁はである。
旧幕時代、笹村与次郎が仕えていた北林藩を救った恩人として恩賞金を月々届けられており、二人はそれで知り合っている。その後、明治に入ってから数年の没交渉を経た後、笹村の訪問により私的な交流が復活している。
非常に博識な上、若いころに経験したという不思議な体験談を豊富に持っており、与次郎達四人はその話を楽しみに訪問しており、その中で矢作巡査の持ちこむ不思議な事件の相談を持ちかけるようになる。詳しくは巷説百物語シリーズを参照。
山岡 小夜(やまおか さよ)
薬研堀・九十九庵で、一白翁こと山岡百介の面倒を見ながら一緒に暮らしている娘。与次郎達四人が密かに憧れている存在でもある。
百介の兄・軍八郎の息子の庶子とされているが、実は又市の仲間おぎんの孫であり、サンカであった母・りんは武士に殺されている。容姿はおぎんに瓜二つである。
百介にとって彼女の存在は、何十年も前に不意に姿を消した又市達が確かに存在し自分と繋がっていたという証明でもあり宝である。
笹村 与次郎(ささむら よじろう)
貿易会社・加納商事職員で、元北林藩の江戸詰め藩士。旧幕府時代、一白翁に藩からの恩賞金を毎月届ける役だった。次第に1人で九十九庵を訪れることが多くなる。若いころの百介と感性が似ているため気に入られている。
矢作 剣之進(やはぎ けんのしん)
東京警視庁一等巡査で、元南町奉行所の見習い同心。珍談奇談が好きで、古典等をよく読む。童顔のたぐいだが、口ひげをはやしているのが不釣り合いに見える。笹村たち友人や一白翁の知恵を借りて怪奇な事件を何度も解決した事から、巷から不思議巡査とあだ名される様になる。
およそ10年後を描く「書楼弔堂シリーズ」にも登場。警察は退官しており、井上円了の門下となっている。
倉田 正馬(くらた しょうま)
父親が徳川方の重臣で旗本の二男。与次郎と同じ貿易会社に勤めていた同僚だが、働くのを嫌い3日で辞めて現在は無職。洋行帰りでもあり、知識をひけらかすきらいがある。顔に不釣り合いな洋装を好む。
渋谷 惣兵衛(しぶや そうべえ)
山岡鉄舟に剣の手ほどきを受けた強者で、猿楽町で剣術の道場を開いているが閑古鳥のため、警察の剣術指南もしている。与二郎と同じ北林藩の出身だが、幼いころに養子に出された。髭だらけで強面の山賊のような風貌だが、意外と合理主義者でもある。普段は倉田と言い争いばかりしているが不思議な出来事に関するスタンスは一致する事が多く、笹村を論破しようとする時だけ倉田と一致団結する。

赤えいの魚[編集]

「島が一夜にして海に沈むのか」という話をしていた与次郎たちは、薬研堀の一白翁のもとを訪ねる。そこで、老人は四十年ほど前に自らが男鹿半島の向こうにあったという戎島(えびすじま)で体験した事件のことを話し出す。品川宿の旅籠の庭に聳える大柳に纏わる奇ッ怪な騒動が一段落し、江戸に戻る途中のことであった。(『怪』vol.0011 掲載)

登場人物[編集]

三左(仁王の三左)
元茶枳尼組。兄貴分。戎島に臨む海岸の祠に隠れており、百介を人質に島への逃亡を図った。
弐吉(小走りの弐吉)
元茶枳尼組。弟分。
与太 (山猫の与太)
元茶枳尼組。弟分。
戎 甲兵衛
戎島・島親戎家7代目当主。50過ぎの禿頭の色の浅黒い男。。
吟蔵
お世話衆。客である百介の世話をすることになる。
戎 亥兵衛
戎島・島親戎家8代目当主。甲兵衛の息子。
寿美
亥兵衛の産み親で、現在は吟蔵の妻。

天火[編集]

両国で起こった小火騒ぎが発展し、油商いの根本屋が全焼した。犯人は根本屋の後妻だとみられたが、彼女は5年前に死んだ前妻の顔をした火の玉が火をつけたと証言する。頭を抱える剣之進は、与次郎たちと共に一白翁のもとを訪れると、老人はかつて摂津で起こった怪火にまつわる事件のことを語る。京の帷子辻で起きた奇妙な事件の後、大塩平八郎の乱の翌年か翌々年のことであった。(『怪』vol.0012 掲載)

登場人物[編集]

一文字屋仁蔵(一文字狸)
大阪の版元。百介の戯作を買い上げた。京都から来た又市や百介一行をしばらく滞在させる。上方で裏の渡世の元締めをしていた。
天行坊
摂津国のとある村にふらりと現れ、村外れに住み着いた霊験あらたかな六部。村を悩ましている怪火退治を快く引き受ける。
茂助
村の総代。天行坊とともに怪火退治に向かった4人のうちの1人。
権左衛門
土井藩領十五箇村の代表を務める庄屋。陣屋の代官からお呼びがかかり大忙しらしい。
権兵衛
先代の庄屋。隠居し、珍しい話が三度の飯より好きという。百介をしばらく逗留させる。
鴻巣 玄馬
陣屋代官。人格高潔だといわれるが、妻・雪乃は淫蕩の病にかかっていると噂されている。

手負蛇[編集]

池袋村の旧家で起こった蛇塚の祠に入っていた毒蛇による死亡事故。「蛇はどれほど生きるのか」という話題を与次郎たちが一白翁のもとへ持ち込むと、老人は三十数年前にその祠ができたとき自分もそこにいたとして、その時のことを話し始めるのだった。(『怪』vol.0013 掲載)

登場人物[編集]

塚守 伊佐治
塚守家家長。三十数年前、天保のころに死亡している。
塚守 伊三郎
伊佐治の父。元々流れ者で、蛇憑き筋ではないかといわれていた。七十年ほど前、蛇塚で蛇にかまれて死亡する。
塚守 粂七
伊佐治の弟。伊三郎の死後、塚守家に養子に入った善吉の息子。兄の死後、家を切り盛りしていた。明治10年現在で60歳を超えているが、勤勉で無欲で実直なので評判。兄の伊佐治と兄嫁の死後、又市と百介の勧めで蛇塚に祠を立てた。
塚守 正五郎
粂七の息子。親譲りの生真面目ぶりで、世の中の乱れに負けず家を発展させて来た。
塚守 伊之助
伊佐治の遺児。何かにつけて主筋は自分だといい粂七親子に食ってかかるうえ、全く働かなかった。明治になって悪い仲間と蛇塚の祠を壊したところ、中に入っていた毒蛇にかまれ死亡した。

山男[編集]

野方村で山男に攫われた娘が、子供を連れて帰ってくる。「山男」とは実在するものなのか、という議論に行き詰った4人組は一白翁のもとを訪れると、老人はかつて遠州秋葉山で自らが体験した山男の話を始めるのだった。(『怪』vol.0014 掲載)

登場人物[編集]

蒲生 いね
武蔵野は野方村の大百姓・蒲生茂助の長女。明治6年の冬に失踪、当時18であったが3年後に子供を連れて帰ってきた。
蒲生 茂助
武蔵国野方村の大百姓。あらゆる身分の者を平等に扱っていた。
平左
茂助の元で働いていた、サンカと思われる青年。いねに懸想していたが、それがもとでけんかを起こし、解雇され山へ帰っていった。
山野 金六
村の総代の息子。暴動の際に茂助に抗議した。いねを探す山狩りの最中、高尾山麓で鋭い刃物で刺殺される。
俣蔵
白鞍村出身。かつて谷底に落ち、足を骨折したところを、身の丈八尺か九尺はある山男に助けられたという。
伍作
俣蔵の従兄弟。若き日の百介と又市を白鞍村ませ道案内をする途中で行方知れずになっていたお千代を発見する。
義助
遠州織物の老舗問屋・檜屋の大番頭。隠居した大旦那・和三郎の腹違いの弟。
和三郎
檜屋の大旦那。すでに隠居しており元番頭の婿養子である若旦那に店を任せていた。
お千代
和三郎の一人娘。婿養子の若旦那とともに、義母の見舞いに向かう途中で行方不明になり、その後ぼろぼろの衣服を着ておびえているのが目撃される。

五位の光[編集]

由良公房卿に「青鷺は光り、人に変ずるのか」と尋ねられた剣之進は、与次郎に質問するが明確な答えは得られず、一白翁のもとへ向かうこととなる。老人は又市と関わりを持った最後の仕掛けを話し出す。それは北林の大事件から4年ばかり後のことであった。(『怪』voi.0015 掲載)

登場人物[編集]

由良 公房
伯爵尊王攘夷運動に邁進し、御一新後は参与から幾つかの要職を歴任した後、現在は政界からは引いている。天保の頃、五十年近く前に信州の山中で幼いころに体験したことと、その20年後の安政のころに同様の不思議な体験をしたことから、今回剣之進に青鷺について質問した。かつては旅を善くしていた。兄弟が5人いるが、ほかの者とは母親が違う。
由良 公篤
公房卿の息子。一昨年、22歳で孝悌塾という私塾を開いた秀才儒学者。門人には外国の者も多い。
由良 胤房
公房卿の父。胤房が幼い公房を抱いた光り輝く女に土下座していたという記憶が公房に残っている。御一新前から病の床に臥せり、明治2年に死の間際で「宝を手に入れた」と言い残し亡くなっている。
南方衆
建御名方神を崇める一族。頭骨を御神体として崇める者どもらしい。八咫鴉のお告げにより日本中の御神体を探すことになる。

風の神[編集]

百物語をやり終えると本当に怪異が起こるのか」と公篤卿は弟子たちに尋ねられる。その話を公房卿から持ちかけられた剣之進は、それを検証するために百物語の怪談会の幹事をすることとなる。一白翁は、その会にある寺の住職を呼んでほしいと頼むのだった。(書き下ろし)

登場人物[編集]

和田 智弁
鎌倉臨済宗寺院の貫首。書画作庭の大家でもあり、庭石などを求めて山野を訪ねることも多い。山科辺りを散策していた際に、山中で死にかけていた小夜を救った命の恩人。
和田 智稔
智弁禅師の甥。智弁とともに九十九庵の百介の元を訪ねる。
三遊亭圓朝
惣兵衛の師・山岡鉄舟のつてで、百物語に参加するよう頼まれ、本名の出淵次郎吉としてお忍びで参加することを快諾した。幽霊の絵を集めている。
国枝 慧嶽
千住にある真言系寺院の住職。元の名は国枝喜左衛門。元薩摩の密偵で、小夜の母・りんを殺した張本人。女に見境がなく、他にも何人か殺している。新政府に登用されることを固辞し、出家した。加持祈祷に霊験あらたかとして有名になっている。百介の頼みで、百物語会に呼ばれる。
由良 公篤
孝悌塾塾長。門弟とともに百物語会に参加する。由良公房の息子。
由良 公房
伯爵。剣之進に百物語の件を持ちかけ、百物語会に参加する。
鬼原 俣吾
『かなよみ』の記者。怪談好きで、百物語会に参加する。
印南 市郎兵衛
『東京繪入新聞』の記者。怪談好きで、百物語会に参加する。

書誌情報[編集]

関連項目[編集]