郵便ポスト
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郵便ポスト(ゆうびんポスト、単にポストとも)は郵便物(主にはがきや封筒)を投函するための箱。
概説[編集]
イギリスでは郵便箱・ポストのことをイギリス英語: post box ポストボックスあるいはイギリス英語: letter boxレターボックスと呼ぶ。また、アメリカ合衆国ではアメリカ英語: mailboxメールボックスと呼ぶ(間にスペースを置かず、一語として書く)。
英語のpostは日本語でいうポストではなく郵便制度を意味する。これはイタリア語のpostaがフランス語を経由して借用されたもので、ラテン語で「置く」という意味の動詞ponoの受動完了分詞女性形positaに由来する。柱を意味するpostとは語源が異なる[1]。
ポストの色は国ごとに様々である。アメリカやロシアなどは青色、ドイツ・フランスなどヨーロッパ大陸では黄色が主流。中華人民共和国やアイルランドは深緑色、オランダやチェコなどではオレンジ色である。かつての宗主国のポストの色を引き継いでいる例も多く、オーストラリア、インド、南アフリカ共和国、などでポストの色が赤なのは、かつての宗主国がイギリスだからである。アジアではインド・インドネシア・タイ・韓国・台湾・日本 など、赤が主流である。イギリス領であったりイギリスから郵便制度を導入した国が多く、それらの国に影響下にあった国も赤を採用しているからである。その結果として、世界的に見ても赤を採用している国は多い(イギリス、イタリア・ポルトガル・ポーランド など)。
日本の郵便ポスト[編集]
歴史[編集]

ポストの設置数は郵便制度が始まった1871年(明治4年)には62カ所[2]、1875年(明治8年)6月末時点の約500本から戦後の一時期を除き年々増加傾向であり、2005年度(平成17年度)では約191,400本となっている[3]。
色調と形状[編集]
色調[編集]
日本もイギリスより郵便制度を導入したため基本的に赤色だが、速達用としては青色、大型の集配所では国際郵便用の黄色のポストもある。また、一部都市ではコンクリートグレーのなかで赤色が浮いてしまうため、「景観を崩さないように」との目的で、グレー(東京都の一部)やネイビーブルー(横浜市の一部)となっている例がある。珍しい例では国鉄時代に活躍した郵便車(クモユニ74)を模したオレンジと緑のポストが品川駅構内に設置されている。私設ポストでは銀色や灰色のものも多く、法的には別にポストが赤でなくても問題ない。
日本で郵便制度が始まった初期のポストの色は赤色ではなく黒色だった。しかし、当時公衆便所が普及し始めた頃でもあったことから、黒い郵便箱の「便」を見た通行人が郵便箱を垂便箱(たれべんばこ・トイレのこと)と勘違いしたり、当時はまだ街灯などが十分に整備されていなかったため、夜間は見えづらくなるなどの問題が起こり、1901年(明治34年)に鉄製のポストを試験導入[4]した際に「目立つ色」として赤色に変えられた。
- 愛知県西尾市には、抹茶の産地であることから、2008年(平成20年)から市内の井桁屋公園に抹茶色(緑色)のポストが設置されている。
- 宮城県大崎市は2005年(平成17年)から映画『幸福の黄色いハンカチ』にちなんで、四季彩通り商店街に黄色のポストを設置している(千葉県習志野市にもある)。
- 千葉県銚子市は犬吠埼の灯台にちなんで、白のポストを設置している。
- 福岡県福岡市城南区も2008年(平成20年)11月8日、『幸福の黄色いハンカチ』にちなんで、花みずき通りふれあい広場に黄色のポストを設置した。
- 島根県松江市の興雲閣には幸運のピンクのポストが設置されている(2010年12月現在、カラコロ工房ガーデン・テラス内に一時的に移されている。なお、規格は郵便差出箱1号の丸形ポストであるが、郵便ポストとして実際に投かんが可能)。
形状[編集]
日本ではギャラリー画像のような金属製の箱型(角型)をしたものがほとんどとなっている。1970年代までは円筒状のもの(通称「丸ポスト」「丸型ポスト」)が多く使われていた。多くは箱型のものに交換されたが、一部地域では古い円筒形の差出箱も現役として残っている。
都市部に設置されたものでは例えば、「はがき/手紙とその他の郵便物」「通常郵便と速達」というように、複数の投函口を持つものも広く使われている(1980年代ごろまでは「設置されている都道府県内」と「他都道府県」の2つに分けられていた)。年賀状を投函する時期になると、年賀状用の投函口が設けられる。その場合、通常の「通常郵便とその他の郵便物」などから「年賀郵便/その他の郵便物」に投函口が変わる。期間中は年賀状用の投函口に「年賀郵便」と書かれた黄色のシールが貼り付けられる。
郵便ポストの設置[編集]
差出箱は、街頭のみならず、工場などの私有地内を含めいろいろな場所にあり、特殊なケースでは自衛隊の基地内、自動車道やロープウェイなどの通じていない高山の山頂近くや海底にあるもの(和歌山県すさみ町などにある海底ポスト)も存在する。海底であろうと収集時間になれば収集し、配達先へ投函される。
1980年代までの鉄道による郵便物の輸送が行われていた時代には、主な鉄道駅の構内にも差出箱があり、あて先によっては駅に発着する郵便車に積み込まれ、郵便車の消印が押されることもあった。輸送が自動車中心になってからは、京都駅のホームに残るのみとなっていたが、2005年10月に品川駅の改良竣工およびエキュート品川の開店を記念し、同駅構内に設置された(郵便ポスト#ギャラリー 日本の記念郵便ポスト)。
2007年(平成19年)10月以降の郵政民営化によって事業ごとに分社化していた時期においては、郵便事業株式会社が管理・運営を行っていた。収集された郵便物の消印は郵便事業株式会社の支店名(まれに、集配センター名)になっていた。2012年(平成24年)10月以降は郵便事業株式会社と郵便局株式会社が統合され日本郵便株式会社となった事で、現在は民営化以前と同様に郵便局の管理・運営となっている。
郵便局が管理・運営を行っている郵便ポストの実際の収集作業は、委託を受けた貨物自動車運送事業者が行っていることが多い。郵便物をポストから回収する時刻はポスト及び地区(管轄集配局)ごとに決まっており、投函口や回収口には郵便物を集めるおおよその時刻が表記されている。
コンビニ店内ポスト[編集]
日本における郵便事業の主体が郵政事業庁から日本郵政公社に変更になって以降、窓口の拡大を狙いコンビニエンスストア各社と提携、ローソン(2003年1月1日より)[6]、サークルKサンクス(2003年12月15日より)[7]、am/pm、ミニストップ(2006年1月16日より)[8]、デイリーヤマザキ(2005年6月1日より)[9]店内に郵便ポストが設置された。ただしコンビニ店内に設置のポストは一般のものより小さいため、定形外郵便物のうちA4サイズ角2以上の物は入らない。また、近くに既に郵便ポストが設置されている場合は、店内にポストが設置されない場合もある。
一般の郵便ポストと異なる取集ルートで取集を行っていることが多く、特に住宅地のコンビニ店内ポストでは周辺の通常の郵便ポストよりも遅い時刻に取集があることも多い。その後提携解消により、サークルKサンクス(2012年6月27日まで[10])とデイリーヤマザキからはごく一部の店を除きポストが撤去され、am/pmはファミリーマートへの転換により、ポストが撤去された。代わりにローソンストア100に設置されるようになったため、現在はローソン・ローソンストア100・ミニストップにコンビニ店内ポストがある。
それ以前にも、コンビニで切手や官製はがきを販売していたことから、前述以外のコンビニを含め、店先に郵便ポストが設置されている場合も多い。ただ、このような場合でもローソンに関しては店内ポストが設置されていることも多く、両ポストの取集時刻が異なっていることが多いため、より有利な取集時刻のポストを選択できるケースがある。
キーレス式コインロッカー[編集]
2004年(平成16年)よりエックスキューブ社やポストキューブシステム社(2005年設立)が設置した新型コインロッカーで、鍵の代わりにコインロッカーのサーバー宛に電話を発信した携帯電話の番号(ナンバーディスプレイ)やプリントアウトされた暗証番号を用いた機種が、東京都内(JR東日本・東京地下鉄・京王・小田急・京急など)と京阪神の主要駅にそれぞれ設置された。ポストキューブシステムが設置したものは「POST CUBE」、エックスキューブ社が設置したものは「クロスキューブ」である。
このうちポストキューブには操作盤付近に郵便ポストが併設されている。また、2005年(平成17年)より郵政公社とエックスキューブ社の提携によって、ゆうパックの受け取りを私書箱扱いにしたポストキューブとクロスキューブのロッカーで可能にするサービスが開始されたが、2007年(平成19年)3月頃にエックスキューブ社の事業が停止。順次「クロスキューブ」については撤去された。その後同社は2008年(平成20年)に倒産したことが報じられている。
ポストキューブシステムでは、ゆうパックの受け取りサービスに代わり、郵便事業の指定場所配達制度を利用した、郵便物・小包をポストキューブへ転送するサービス「ポスてん」を横浜市や千葉市などごく一部の地域限定で開始している。
速達ポスト[編集]
日本には速達専用のポストも存在する。1956年の登場時から青色に塗装され一般のポストとは違うことを強調しているが、これは前身の航空郵便用ポストが空をイメージさせる青色であったことに倣ったものである[11]。通常、郵便差出箱 4号および郵便差出箱 特4号が速達専用ポストに使用される。現在では大都市のごく一部の地域に残るのみであり、2015年2月時点で、日本全国で35本(うち、東京に6本[12]、名古屋に1本[13]、大阪に26本[14]、神戸に2本[15])[16]が現存しているが、その数は減少傾向にある。一般の大型角形ポストは正面から見て左側に取集用の扉があるが、速達用ポストは右側に取集用の扉があるものがほとんどである[17]。これは、一般のポストと並べて設置されることが多いからである。もちろん速達専用ポストだけが設置されている箇所もある。かつては一般のポストよりも取集回数が多い速達ポストが多数であったが、特に民営化後は取集回数が近隣の一般ポストよりも多い速達専用ポストは少数派となり、取集回数が一般ポストよりも多い場合も、近隣の一般ポストとの取集回数の差は1日当たり1回程度である。
私設ポスト[編集]
郵便物の取集に支障がない場所である程度の投函郵便物が見込める場合で近くに郵便ポストがない場合などに、私設ポストを設置することができる。私設ポストは設置時の工事費や、ポストの筐体の購入費用はすべて設置者負担となり、かつ郵便物の回収料を日本郵便株式会社に支払うことが必要となる。私設ポストの設置場所はオフィスビルの中や前などにビル所有者がテナントサービスのために設置する場合や、ホテルや病院のロビーや玄関前などに宿泊者・入院患者のサービスのために設置する場合、多くの郵便物を投函する事業主(官公庁・新聞社・放送局・金融機関・工場・大学・百貨店・商社など)が、敷地内に設置する場合などがある。ただし、条件さえ合致すれば会社等だけでなく個人や自治会・マンションの管理組合などで設置することも可能である。山小屋など、自動車道の通じていない場所への設置は難しい。私設ポストの利用は、工場の敷地内や関係者専用のオフィス内、マンションの住民専用エリアなど部外者の立ち入りが制限された場所に設置されたものは、設置者やその関係者以外の利用はできない。公道に面した場所や公共スペース等、一般人の通行が可能な場所に設置されたものなら誰でも利用できる。ただし、公共スペースに面した私設ポストのごく一部には、関係者以外の投函を禁ずる旨の表示があることもある。郵便物の回収料は設置地域や取集回数によって異なり、8万円から24万円までの間で定められているが、東京都区内では関係者専用のものは年額24万円、誰でも利用できるものなら年額16万円となっている。
根拠法令[編集]
郵便法第三十八条(郵便差出箱の設置)
郵便差出箱は会社が設置する。ただし、会社の承認を受けて会社以外の者が設置することを妨げない。
○2 会社以外の者による郵便差出箱の設置に関する条件は、郵便約款で定める。
製造者[編集]
ポストを製作するメーカーは多数ある。
日本のポストの場合、多くは中小メーカーによるものである。パナソニックのような大会社の製品もある。郵政弘済会(現・郵政福祉)による納入品もあるが、郵政弘済会が製造しているわけではなく、別のメーカーの製造品である。 近年は山崎産業のものが採用されるケース多い。
通常、ポストには製造メーカーか納入者である郵政弘済会の銘板がついているが、最新の一部のポストには銘板のないものもあったり、あっても上から塗装され読み取れない場合もある。いわゆる「丸ポスト」には銘板がない代わりにメーカー名の陽刻があるが、古いポストであるため摩滅して読めないことも多い。
ギャラリー[編集]
- 日本の標準的な郵便ポスト
郵便差出箱 5号(松本市立博物館・展示)
- 日本の記念郵便ポスト
万国郵便連合加入75年記念ポスト(東京中央郵便局前・1952年2月19日設置)
万国郵便連合加盟100年記念ポスト(大阪中央郵便局前・1977年設置)
世界コミュニケーション年記念ポスト(東京中央郵便局・1983年設置)
沖縄復帰20周年記念ポスト・昼間(日本郵政公社沖縄支社前・1992年設置)
品川駅改良・ecute品川誕生記念ポスト(JR品川駅改札内・2005年10月1日設置)
大宮駅開業120周年記念ポスト(JR大宮駅構内・2005年設置)
- その他、特異な郵便ポスト
ヨーロッパの郵便ポスト[編集]
フランス[編集]
一般には投函口が二つあり、左側が市内・近郊向け、右側がその他の地域・海外向けに分かれている[19]。
ポルトガル[編集]
ポルトガルの郵便ポストは通常は一般用の赤色ポストと速達用の青色ポストが併設されている[20]。
ギャラリー[編集]
脚注[編集]
- ^ “post3”. Chambers Dictionary of Etymology. Chambers. (1988). p. 822. ISBN 0550142304
- ^ 郵便ポストの移り変わり 〜日本最初のポストから現在のポストまで〜 逓信総合博物館ていぱーく
- ^ 日本の郵便のユニバーサルサービス (PDF) 総務省情報流通行政局郵政行政部
- ^ 鷲巣力『自動販売機の文化史』p80集英社新書、2003年
- ^ 高田京子、滝澤謙一『ニッポン最古巡礼』新潮社
- ^ チャレンジするローソン - 新しいサービス - ローソン
- ^ 日本郵政公社と株式会社シーアンドエスの提携について
- ^ イオン、日本郵政公社/包括的提携合意
- ^ デイリーヤマザキ店舗における ゆうパックの取扱いについて
- ^ サークルKサンクス、宅配便をヤマトに切り替え
- ^ “速達専用 青い郵便ポスト、なぜ大阪に集中”. 日本経済新聞. (2013年11月4日) 2021年1月16日閲覧。
- ^ 日本橋および浅草橋の周辺地域
- ^ 中村区内
- ^ 北区、中央区、西区とその隣接地域
- ^ 兵庫区内
- ^ “えっ、青色ポスト全国35本のうち…大阪に26本が集中”. 朝日新聞 夕刊 (大阪): pp. 1. (2015年2月18日)
- ^ 少数ではあるが、本来は一般ポストである郵便差出箱 3号を青く塗装し速達ポストとして使用している場合があり、これについては左側に取集用の扉がある。
- ^ このポストは、もともと米国で郵便事業を行っているUSPSの郵便ポストである。
- ^ a b 中村江里子『セゾン・ド・エリコ Vol.4』扶桑社、2016年、5頁。
- ^ 『るるぶポルトガル』JTB、2015年、90頁。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- 郵便ポストの移り変わり 〜日本最初のポストから現在のポストまで〜(逓信総合博物館ていぱーく)
- 世界の郵便ポスト
- とび丸の週刊丸ポスト - ウェイバックマシン(2004年6月5日アーカイブ分)
- 丸ポスト写真館
- ポストマップ(日本のポストの9割以上をマッピングしてある)
- 青い郵便ポスト
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