板歩きの刑

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板歩きの刑(いたあるきのけい)は、海賊や船舶における反乱、及びならず者の船員が行ったとされている刑罰拷問。執行者の娯楽(あるいは心理的拷問)のために、対象者を泳げないように 縛るなどした上で、船の外に突き出した板材や梁の上を無理やり歩かせるというものである。

海賊が捕虜に板歩きを強要することは、19世紀から20世紀の大衆文化での海賊英語版作品ではよく見られる題材であったが、実例はほとんど記録されておらず、この慣習が実在したかについては怪しい[1][2]

表現の初出記録[編集]

この語句の初出は、イギリスの辞書学者フランシス・グローズ英語版による『Dictionary of the Vulgar Tongue』で、1788年に出版された(ロンドンの初版は1785年)[3]。グロースの記述は次の通り:

Walking the plank. A mode of destroying devoted persons or officers in a mutiny on ship-board, by blind-folding them, and obliging them to walk on a plank laid over the ship's side; by this means, as the mutineers suppose, avoiding the penalty of murder.[3]

「板歩きの刑(Walking the plank)。船上での反乱に際して、職務に忠実な人物や士官を抹殺するために、目隠しさせて船の側面に置かれた板の上を歩くように強要すること。この方法は、反逆者たちにとって殺人刑を免れることができると信じていた」

板歩きの刑の歴史的事例[編集]

1769年に、反乱者英語版ジョージ・ウッドはニューゲート監獄の教戒師に、彼と仲間の反乱者が士官を板歩きの刑に処したことを告白した[4]。作家ダグラス・ボッティングは、この事件に言及し、「疑惑の告白だ」「あいまいな話…本当かも嘘かもしれず、いずれにしても海賊とは何の関連もない」と結論づけた。[5]

1788年にガーランドに向かった軍医助手クラクストン氏は、奴隷商人による板歩きの刑について庶民院の委員に証言した[6]

The food, notwithstanding the mortality, was so little, that if ten more days at sea, they should, as the captain and others said, have made the slaves walk the plank, that is, throw themselves overboard, or have eaten those slaves that died.

「死に瀕していたにも関わらず食糧はわずかで、船長や他が言ったように、海上で10日以上になると奴隷を食べさせなければ、奴隷に板歩きで身を投げさせて死なせなければならなかった。」

1700年代後半にバルト海で活動した海賊John Derdrakeは、犠牲者をすべて板歩きの刑で溺死させたと述べた[7]

1822年に、イギリスのスループBlessingの船長ウィリアム・スミスは、西インド諸島スクーナーEmanuelのスペイン人海賊乗組員により板歩きの刑を受けた[8]

1829年2月14日にロンドンの『タイムズ』は、定期船英語版Redpole(船長Bullock)が海賊スクーナーPresidentに襲われ沈んだことを報じた。船長は撃たれ、乗組員は板歩きの刑を受けた。[9]

1829年に、オランダブリッグVhan Frederickaヴァージン諸島のリーワード海峡 (en(セント・トーマス島とハンズ・ロリク島の間)で海賊に捕まり、乗組員のほとんどは砲弾を足に繋げられて板歩きの刑で殺害された[10][11]

忠実な船員に対して板歩きの刑を行うことは、加害者により「殺人の刑罰を避ける」ためと言われたが[12]、この法律論が役に立つことはなかった。法律規範で他人に死を強制するものを起訴することに疑いないばかりでなく、海賊行為および反乱はまた死刑に値する犯罪である。この処刑を承知していた状況を鑑みると、不要な捕虜を殺害する通常の手段よりも、残虐な娯楽の手が込んで異常な形態である傾向があると思われる[独自研究?][要出典]

文学[編集]

板歩きの刑のイラスト(ハワード・パイル1887年「Harper's Magazine」の挿絵)

歴史上の実際の慣習はほとんどにないにもかかわらず、板歩きの刑は大衆文学の描写により人気の故事伝説となった。

キャプテン・チャールズ・ジョンソン英語版の1724年の著作『悪名高き海賊たちの強奪と殺人の歴史』では、古典古代地中海で類似した慣習(板材のかわりに梯子を用いる)が記述されている - ローマ人捕虜は、梯子を使って泳ぐ意思があるなら、それを渡されて解放された[1]

扇情主義者Charles Ellmsの1837年の作品「The Pirates Own Book」のわずかなページに、明らかにチャールズ・ジョンソンの記述から着想して「A Piratical Scene – 'Walking the Death Plank'」と題する挿絵が加えられた[1][13]

ロバート・ルイス・スティーヴンソンの1884年の古典『宝島』には板歩きの刑について3回以上言及し、冒頭ではビリー・ボーンズ英語版がこの慣習の背筋が凍る話をジム・ホーキンズに語っている。(『宝島』は他にも、オウム、義足、埋蔵された財宝など現在一般的な海賊の主要素を広めた。)

この概念はジェームス・マシュー・バリーの『ピーター・パンとウェンディ英語版』にもまた現れ、フック船長が海賊の原型を定義することを助けた [14]

現代での使用[編集]

この言葉の英語(walking the plank)は現在、論争最中のまたは公衆、株主などに要求された公的人物の辞任の表現として使われる[要出典]

フック』、『イン・ザ・ネイビー』、『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』といった、いくつかの現代映画でこの慣習が使われている。

脚注[編集]

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  1. ^ a b c Evan Andrews (2013年10月2日). “Did pirates really make people walk the plank?”. History.com. 2017年3月20日閲覧。
  2. ^ Karen Abbott (2011年8月9日). “If There's a Man Among Ye: The Tale of Pirate Queens Anne Bonny and Mary Read”. Smithsonian.com. 2017年3月20日閲覧。 “The notion of 'walking the plank' is a myth...”
  3. ^ a b Grose, Francis (1788). Dictionary of the Vulgar Tongue. p. 258. https://www.google.com/books?id=4HoSAAAAIAAJ&pg=PT258 2017年3月20日閲覧。. 
  4. ^ Botting, Douglas (1978). The Pirates. Time–Life Books. p. 58. ISBN 978-0809426508. 
  5. ^ Botting, Douglas (1978). The Pirates. Time–Life Books. ISBN 978-0809426508.  Cited at Gary Martin. “Walk The Plank”. The Phrase Finder. 2017年3月20日閲覧。
  6. ^ Abridgement of the minutes of the evidence, taken before a Committee of the Whole House, to whom it was referred to consider of the slave-trade, [1789-1791]. (1790). https://archive.org/details/abridgementofmin34grea.  [要ページ番号]
  7. ^ Gosse, Philip (1924). The Pirates' Who's Who by Philip Gosse. New York: Burt Franklin. http://www.gutenberg.org/files/19564/19564-h/19564-h.htm 2017年6月23日閲覧。. 
  8. ^ Earle, Peter (2006). The Pirate Wars. St. Martin's Griffin. p. 222. ISBN 978-0312335809. 
  9. ^ "[title unknown]". The Times. London. February 14, 1829. p. 3.
  10. ^ “Atrocious Piracy”. Carmarthen Journal and South Wales Weekly Advertiser (Carmarthen, Wales). (1829年7月24日). http://newspapers.library.wales/view/3794833/3794837/22/piracy 2017年3月20日閲覧。 
  11. ^ Cordingly, David (1995). Under the Black Flag: The Romance and Reality of Life Among the Pirates. Random House. pp. 130-31. ISBN 978-0316911481. 
  12. ^ Grose, Francis (1788). A Classical Dictionary of the Vulgar Tongue. S. Hooper. https://archive.org/details/aclassicaldicti00grosgoog 2017年3月20日閲覧。.  [要ページ番号] Cited at Gary Martin. “Walk The Plank”. The Phrase Finder. 2017年3月20日閲覧。
  13. ^ Illustration: Charles Ellms (2004年). “The Project Gutenberg eBook, The Pirates Own Book, by Charles Ellms”. Project Gutenberg. 2017年3月20日閲覧。 Illustration title: Charles Ellms (2004年4月29日). “The Project Gutenberg eBook, The Pirates Own Book, by Charles Ellms”. Project Gutenberg. 2017年3月20日閲覧。
  14. ^ Bonanos, Christopher. “Did pirates really say "arrrr"? – By Christopher Bonanos – Slate Magazine”. Slate.com. 2017年7月23日閲覧。

参考文献[編集]

  • Don Carlos Seitz, Under The Black Flag, Dail Press, 1925 (republished by Dover Publications in 2002, 0-486-42131-7)
  • Samuel Pyeatt Menefee, "Pirates: 2. Walking the Plank" [Answer], The Mariner's Mirror, vol. 80 (May,1994), p. 204

関連項目[編集]