童夢 (漫画)

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童夢』(どうむ)は、大友克洋作の漫画。「アクションデラックス」(双葉社)などに1980年から1981年にかけて4回に分けて発表された。1983年8月18日単行本発行。第4回日本SF大賞受賞。小説以外の作品での同賞初受賞作品。

舞台の団地のモデルは埼玉県川口市芝園団地[1]警察署は旧川口警察署の庁舎[要出典]。非常に緻密な描き込みが特徴。単行本化の際に大幅な加筆がなされている。

背景はアシスタントの高寺彰彦がほぼ一人で書き上げているという[2]

あらすじ[編集]

「堤団地」というマンモス団地では不審な死亡事件が連続していた。警察の捜査は山川部長が指揮していたが、なかなか進展しない。ある夜、団地を巡回していた巡査2名のうち1名が屋上から転落死し、拳銃が紛失した。常識では説明できない短い時間の出来事であった。

別の夜、山川は団地にいて、自分を嘲笑する誰かの声を聞いた。追いかけて屋上に至ると、団地に住む老人「チョウさん」が空中に浮遊した状態で出現した。チョウさんは山川に「そうだよ ボクだよ」と言う。山川もまた犠牲者となった。

悦子の一家が団地に引っ越してきたその日、チョウさんは幼児を転落死させようとする。悦子はそれを阻止しただけでなく、やったのがチョウさんであり、チョウさんが大人ではなく「いたずらっ子」であることに気づいていた。悦子もまた超能力者であり、チョウさんの足元に転がっていた空きビンを破壊するなどして能力を見せつけた。

悦子は隣人・吉川ひろし、「ヨッちゃん」と呼ばれる藤山良夫などと親しくなる。

警察では山川の後任として岡村部長が着任するが、あいかわらず捜査は進展しない。そんな中、浪人生・佐々木勉がチョウさんに操られカッターナイフで悦子に襲いかかる。佐々木は悦子の目の前で自分の首を切る。悦子はショックを受け団地の診療所に収容される。チョウさんは以前に巡査から奪った拳銃を吉川ひろしの父に与える。

捜査員である高山刑事は参考意見を求めにシャーマンの野々村を訪ねる。二人はただちに団地へ行くことにした。悦子はまだ診療所にいたが既に回復しており、一方チョウさんは屋外のベンチに座って汗まみれになっていた。団地に来た野々村は震え出し、逃げ帰る際高山に「子供に気をつけなさい」と言う。

夜、吉川ひろしの父が団地の子供を射殺し、続いて診療所に向かう。悦子はひろしの父を操っているチョウさんと対決すべく、その場から消える。ひろしの父は息子とヨッちゃんを撃ち、激昂したヨッちゃんに殺される。

チョウさんと悦子は宙に浮き、空を飛び、コンクリート片等を念動させて相手にぶつけ、戦い続ける。はじめのうち悦子は、チョウさんをしかりつけるような言い方をする。対してチョウさんは「今迄僕一人で遊んでたのに」と言う。

悦子は、チョウさんが誘発したガス爆発を阻止しきれず、また吉川ひろしとヨッちゃんの死を知り、ただただ号泣しながらチョウさんを追いかける。悦子の超能力は、ぶ厚い壁を陥没させるなど、建物を破壊するまでに至っていた。

チョウさんが「たすけて」を連呼しながら建物の外に出て、続いて悦子が泣きながら歩いてきたところ、母・悦子が互いに気づいて両者は抱き合う。

二週間後の警察の記者会見の日、ケガから復帰した高山刑事はチョウさんに面会して、以前にシャーマンの野々村が言った「子供」とは、実はチョウさんのことであったと気づき愕然とする

チョウさんは行き先の養老院が決まるまで、いったん団地に戻ることとなる。春のある平穏な日、団地に、京都の母親の実家にいるはずの悦子が出現する。高山刑事はチョウさんが座るベンチの近くにいて、チョウさんの杖が破裂するのを見たが、何が起きているのかはわからない。悦子は、チョウさん達がいるのとは別の園地でただブランコをこいでいる。

そしてチョウさんが絶命し、他方、ブランコのそばにいた子供が誰もいないブランコを指して「お姉ちゃんが消えちゃったよォ」と言う。

登場人物[編集]

悦子
通称エッちゃん。作中、姓は語られない。名前の由来は『さるとびエッちゃん』から(「大友克洋インタビュー 1993」、Pioneer LDC.)。両親とともに堤団地に引っ越して来た(ちなみに父親はこの引っ越しの場面にしか登場しない)。3号棟の吉川ひろしの隣であるが号数は不明。小学生らしいが年齢・学年は不明。明るく人見知りせず、周りの意見に流されない性格で、同級生から孤立していた吉川や、周囲から怖がられているヨッちゃんとはすぐに仲良くなった。超能力者であり、引っ越しの当日チョウさんと遭遇してその正体を見抜き、自分も超能力を用いてチョウさんを牽制する。結果、チョウさんに命を狙われるようになる。チョウさんが吉川ひろしの父を利用して攻撃してきたことでチョウさんとの対決に至る。使える超能力はチョウさんと同等かそれ以上であるらしい。チョウさんが引き起こしたガス爆発を止められず、また吉川ひろしとヨッちゃんが死亡したのもあって、号泣しながら団地を破壊しチョウさんを追って歩く。建物の外に出たところを母親が見つけ、泣きながら抱き合った。その後母親の実家がある京都に移住したが、ある春の日に団地に現れる。チョウさんの死亡後、団地から消えた。
内田 長二郎
通称チョウさん。堤団地3号棟608号で一人暮らしする65歳の男性。以前同居していた娘一家は内田姓で雄一・恵子・一郎。一連の連続変死事件の犯人で、超能力者。空中を自在に飛翔し、瞬間移動もできる。団地にガス爆発を引き起こす際は、念力で元栓を操作した。佐々木勉に対して行ったように、何らかの手段で他人を操ることができる。いわゆるボケ老人であるが、現代の認知症の概念というより、作中の「ガキと一緒だよ」という表現そのものの状態。悦子は「いたずらっ子」「なんて子なの」と言い、大人だとは思っていない。悦子との対峙の際には一連の事件のことを「僕一人で遊んでた」と言う。他人からみればガラクタのような玩具、模型等々を大量に集めていて、中でも一番のお気に入りは、作中冒頭で転落死する上野元司という10階(どの棟かは不詳)の住人の子・タケシの、羽の突いた帽子である。悦子との対決の以降には、殺人を再開したような描写はない。ある春の日、悦子が堤団地に姿を現してまもなく、絶命する。その間の二人は、チョウさんが「うう……」とうめく以外全く無言であり、少なくとも、チョウさんの近くにいた高山は何が起こっていたのかわからない。また子供4人がチョウさんの座るベンチに近寄ってくる描写もあるが、その中に悦子はおらず、4人がチョウさんに何かしたのか何もしてないのかも不明である。
吉川ひろし
堤団地3号棟411号に父と住む男の子。悦子一家の隣人。母親は既に家を出ていて不在。夕飯は菓子パンと牛乳を買って一人で食べる。酒乱の父親が原因で団地の子供たちからは距離を置かれている。1人でキャッチボールをしていたところに悦子とヨッちゃんが加わる。ある夜、子供が射殺された話を聞いて野次馬のつもりでヨッちゃんとともに歩き回り、診療所で悦子と自分の父に遭遇する。悦子が消えた後、父親により射殺される。
吉川ひろしの父
名前は不明。以前はトラック運転手で、交通事故により片脚を負傷してからアルコール依存症になった。酒に酔って妻と喧嘩し警察沙汰を起こしたことがあり、その後妻に逃げられた。団地内の子供たちは「しゅらん」と呼んでいる。佐々木勉の事件の後の夜、突然目の前に拳銃が現れる。さらに後の夜、拳銃を手にしてまず子供1人を射殺し、悦子がいる診療所に向かう。チョウさんに操られているようだが、佐々木勉が終始無言・無表情であったのに対し、にやにや笑いながら自分の言葉で喋っていると思われる。悦子を撃ち損ねてヨッちゃんを撃ち、悦子がその場から消えた後、息子を撃つ。逆上したヨッちゃんにより殺害される。
藤山 良夫
通称ヨッちゃん。堤団地2号棟の5階に母親と同居する。屈強な体躯の男性であるが、団地の管理人が「頭は子供」と言う知的障害者。年齢不詳。悦子、吉川ひろしは自分達と対等な子供であると思って遊んでいる。吉川ひろしの父が拳銃を持って診療所に現れた際に撃たれ、さらにひろしが父親に撃たれた事により激昂し、ひろしの父を壁に叩きつけて殺害する。悦子とチョウさんの対決により建物が崩壊する中、吉川ひろしを抱きしめながら落下していった。
高山
長髪の刑事。作中、警察官としての階級は言及されていない。山川部長からは「長髪の若造」と評されていたらしい。岡村部長との雑談で、火の玉を見たことはあるが幽霊は疑問である旨を言うが、佐々木勉の事件で団地に行った際、山川の幽霊と思われるものを見る。その影響か、金子教授を訪ね、シャーマンの野々村典子を紹介してもらう。チョウさんと悦子の対決の際、ガス爆発のため頭部にケガをして入院することになる。その後の職務復帰の日、取調室にいたチョウさんに面会しようとして、再び山川の姿を見てしまう(吉川ひろしの父の姿もあったが。作中ではそれらが幽霊なのか、チョウさんか誰かの作り出した幻影なのかは説明されない)。実際にチョウさんと面会して、以前野々村が言っていた「子供」の意味を理解し驚愕するのだが、悦子も含まれるとは気付いていない。春、悦子が団地に現われた日、高山には何が起きているのかわからない中でチョウさんが絶命する。
山川部長
作中前半で捜査を指揮する警察官。部長と通称されるが階級は言及されていない。早く犯人を捕まえないと捜査から降ろされる、リューマチが痛い、娘の帰りが遅い、など個人的な事情をからかう声が聞こえ、追いかけて団地の屋上にたどり着く。声の主・チョウさんにより殺害される。
岡村部長
山川部長の後任。山川とは同期だった。着任後に団地を訪ねた際、山川の幽霊のようなものを見て、「来るな」という警告の声を聞く。事件の不可解さには気づくが、超常的なものを信じるかどうかは明確にされていない。悦子とチョウさんの対決の2週間後の記者会見で公式には、拳銃を紛失した巡査は「自殺」、ガス爆発は地盤沈下による、吉川ひろしの父について捜査中、等発表する。部下には「振り出しに戻ったな」と言う。高山がチョウさんの身辺警護をしたいと申し出たのを許可する。
佐々木 勉
三浪の浪人生。堤団地の住人だが具体的な部屋番号等は不詳。近所から陰口を叩かれながらも、本人は真面目に勉強する気はあまりない。航空機のプラモデルが趣味。いわゆるオタク。チョウさんに操られて悦子を襲うが、結局、悦子の目の前で自分の首をカッターで切って死亡する。
手塚夫人
堤団地8号棟783号の住人。胞状奇胎による流産で子供をなくしたという噂があるノイローゼ気味の主婦。子供が乗っていない乳母車を押して辺りを徘徊している。銃で撃たれたひろしを乳母車に乗せて、マンションから落とした。崩壊するマンションの落下物に押し潰されて死亡した。
金子教授
大学教授。専攻は宗教人類学。趣味として、日本のシャーマンの研究もしている。高山刑事にシャーマンの野々村典子を紹介する。
野々村典子
高山刑事が金子教授の紹介で会うことになったシャーマン。高山とともに堤団地に行くが、とても自分の手には負えない状況であることを感知し、恐怖に震え上がる。高山には、まだまだ多くの人が死ぬ、子供に気をつけなさい、と警告する。

単行本[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 『週刊新潮』2010年3月18日号
  2. ^ 別冊美術手帖マンガテクニック (1998年8月号、高寺のプロフィール欄)