耳嚢

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耳嚢(みみぶくろ)は、江戸時代中期から後期にかけての旗本南町奉行根岸鎮衛が、天明から文化にかけて30余年間に書きついだ随筆。同僚や古老から聞き取った珍談、奇談などが記録され、全10巻1000編[1]に及ぶ。耳袋と表記もされる。

概要[編集]

話者には姓名または姓を記した者が約120名おり、高級旗本、同僚、下僚、医師、剣術者の名が見られる。その他に、ある人の話としたものや、又聞きの話も収められている。話の内容には、将軍の賛美、奉行の逸話、怪異譚、信心や仏縁にまつわる話、治療法や治療薬の紹介、実際の事件を脚色したものなどがあり、飾らない文体で綴られている(他、近世当時の和歌や漢詩も多数収録されている)。

内容[編集]

書かれた主な人物、事物[編集]

備考[編集]

  • 嫌いの人間に対し、秘密裏に座布団の下に鼠の死体を置き、呼び寄せ、座らせたところ、把握していないにも関わらず、たちまち気分を害したという怪異譚があり、ネズミアレルギーと捉えられる内容の話がある。
  • 貧しい武家の親子が武士の象徴たる刀まで売るも、このままでは士分としての誇りを保てなくなるとして、川へ身投げ心中した話(貧しくても士分の誇りを守る語り)やみすぼらしい格好の武士が明珍家甲冑を新調してもらうも、支払いを疑われ、そのことで(疑ったお詫びとして)、値段を「まけさせてもらう」「ひかせてもらう」と聞いて、激怒して甲冑を買わずに帰ってしまう話など、近世期の武士の社会的気質が分かる内容の話がみられる。
  • 外国人に関する記述も見られ、一例として、母国から逃れ、日本へ来るも行くあてがなく、身寄りのない自分の心情を漢詩として書き、それを知った柳生家が士分の身分を与え、柳生家の家臣として帰化する話がある(他、南蛮文化に対する当時の考え方などもある)。

刊行本[編集]

  • 『耳袋』、鈴木棠三編注(各・全2巻)、平凡社東洋文庫、初版1972年、ワイド版2006年/平凡社ライブラリー、2000年(1巻 ISBN 978-4582763409、2巻 ISBN 978-4582763461)
  • 『耳嚢』、長谷川強校注、岩波文庫(上中下)、初版1991年(上巻 ISBN 978-4003026113、中巻 ISBN 978-4003026120、下巻 ISBN 978-4003026137)
    原本は「旧三井文庫 10巻本」に基づく(カリフォルニア大学バークレー校所蔵)。
  • 『耳袋』岩波旧版は柳田國男・尾崎恒雄が校註担当、復刻版(一穗社、全1巻)がある。
    柳田の解説は『退読書歴』に収録。新版は『柳田國男集 幽冥談』(ちくま文庫、2007年、ISBN 978-4480423597)。
  • 現代語抄訳 『耳袋の怪』(志村有弘訳、角川ソフィア文庫、2002年、ISBN 978-4043490035)
『耳袋』(長谷川政春訳、教育社歴史新書、1980年)

出典[編集]

  • 長谷川強による「耳嚢」文庫版解説
  • 他に図版本で『裏江戸東京散歩 根岸鎮衛「耳嚢」で訪ねる江戸東京の怪・奇・妖』
(古地図ライブラリー別冊・人文社、2006年)がある。

脚注[編集]

  1. ^ カリフォルニア大学バークレー校付属東アジア図書館の「旧三井文庫本」に、直筆原本に最も近い「10巻本」が所蔵されている。

関連項目[編集]

  • 新耳袋 - 現代怪談集
  • 風野真知雄 - 耳嚢を題材とした時代小説『耳袋秘帖』シリーズを執筆。
  • 現代語訳のサイト