脂肪酸

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自社製品の脂肪酸を、鉄道私有コンテナで長距離輸送するために、リース会社の「日本石油輸送」から「ミヨシ油脂」の名義で借受していた、12ft級の総重量6.7t、タンクコンテナ。
兵庫県/旧、神戸(タ)にて、2003年12月21日撮影。

脂肪酸(しぼうさん、Fatty acid)とは、長鎖炭化水素の1価のカルボン酸である[1]。一般的に、炭素数2-4個のものを短鎖脂肪酸(低級脂肪酸)、5-12個のものを中鎖脂肪酸、13個以上のものを長鎖脂肪酸(高級脂肪酸)と呼ぶ[2][信頼性要検証]。炭素数の区切りは諸説がある[3][4][信頼性要検証]。脂肪酸は、一般式 CnHmCOOH で表せる。脂肪酸はグリセリンエステル化して油脂を構成する。脂質の構成成分として利用される。

広義には油脂脂質などの構成成分である有機酸を指すが、狭義には単に鎖状のモノカルボン酸を示す場合が多い。炭素数や二重結合数によって様々な呼称があり、鎖状のみならず分枝鎖を含む脂肪酸も見つかっている。また、 環状構造を持つ脂肪酸も見つかってきている。


脂肪酸はグリセリンとのエステル体(トリグリセリド)という形で摂取されることが多い。例えば医学用語で「脂肪」や「中性脂肪」と言えば、通常「脂肪酸トリグリセリド」のことを指す。長鎖脂肪酸グリセリド(LCT)と中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)とは摂取後全く異なる吸収形態を取る[5]。LCT及びMCTも小腸において、エステラーゼ加水分解され、脂肪酸グリセリンになることまでは共通である。しかしLCTは小腸上皮から摂取後、リンパ管に入って全身循環し、胸管を通じて徐々に血液に入る[6]。これに対してMCTは直接血液循環に入る。従ってMCTはすみやかに代謝されるのに対して、LCTはかなりの時間(少なくとも数時間)必要である[7]。俗説ではMCTはすみやかにケトン体に変わりケトン体濃度の増加(生理的ケトーシス)を誘導するが、LCTは中性脂肪になり体内に蓄積するという。MCTはケトン体に変わりやすいのは確かだが、インスリンがMCTがケトン体に変わることを阻害しているため、糖質を摂取する通常の食事ではMCTはケトン体を増加させることはない[8]。すなわちMCTは糖質制限食またはケトン食とともに食べないと、MCTはケトン体を増加させることはない。最近ではケトン食にMCTが取り入れられている。

分類[編集]

脂肪酸 (fatty acid) は主に炭素数および不飽和結合の有無によって分類される。

炭素数による分類[編集]

脂肪酸の炭素数が6以下のものを短鎖脂肪酸(SCFA、Short-chain fatty acid)、8–10のものを中鎖脂肪酸(MCFA、Medium-chain fatty acid)、12以上のものを長鎖脂肪酸(LCFA、Long-chain fatty acid)という。なお10以上のものを高級脂肪酸とするものもある。

不飽和度による分類[編集]

不飽和度による分類はさまざまであるが、基本的には以下の分類に従う。

  • 飽和脂肪酸 (saturated fatty acid, SFA) — 炭素鎖に単結合のみ有する(飽和である)
  • 不飽和脂肪酸 (unsaturated fatty acid, UFA) — 炭素鎖に二重結合、三重結合を有する

また不飽和脂肪酸は二重結合の数が1つであるか、複数であるかによって以下の分類がなされる。

  • モノエン脂肪酸(一価不飽和脂肪酸、monounsaturated fatty acid, MUFA) — 二重結合の数が1つである
  • ポリエン脂肪酸(多価不飽和脂肪酸、polyunsaturated fatty acid, PUFA)— 二重結合の数が2つ以上である。二重結合の数が4つ以上のものを高度不飽和脂肪酸と呼ぶ場合もある。

また、二重結合の有無および炭素数の差異によって名称が異なる。脂肪酸#命名法にて述べる。

幾何異性体による分類[編集]

不飽和脂肪酸は、幾何異性体にcis型とtrans型があり、近年trans型のものをトランス脂肪酸として区別することがある。

その他の分類[編集]

その他の分類には以下のようなものがある。

  • 分枝脂肪酸 — 分枝鎖を有する脂肪酸
  • 環状脂肪酸 — 環状構造を有する
  • ヒドロキシル脂肪酸 — ヒドロキシ基を含む
  • 奇数炭素脂肪酸 — 偶数炭素脂肪酸と比較して酸化効率が低い
  • 偶数炭素脂肪酸 — 奇数炭素脂肪酸と比較して酸化効率が高い

命名法[編集]

脂肪酸の命名法はIUPAC生化学命名法[9]に定義されている。(尚、この項の符号Rule Lip-…は同命名法の節番号を示す)

脂肪酸は天然の脂肪加水分解して得られる脂肪族モノカルボン酸である。広く使用されている遊離脂肪酸(free fatty acids)や非エステル化脂肪酸(nonesterified fatty acids)という語が使用されているが、遊離や非エステル化という修飾語は徐々に廃止すべきである(Rule[9] Lip-1.1)。また、これらのアクロニムであるFFANEFAなどは使用すべきではない(Rule[9] Lip-1.14)。言い換えると、厳密には炭素数が3以下など天然の脂肪に含まれないものは脂肪族モノカルボン酸と呼ぶべきであるが総称として脂肪酸と呼ばれる。

尚、脂肪酸基をアシル(基)という語で示す場合があるが、アシル(acyl)はIUPAC有機化合物命名法によるものである。アシルは任意の長さの直鎖構造を持つがIUPAC生化学命名法の脂肪酸は炭素数が4以上のものを指す。そして、炭素数が10を超える(>C10)脂肪酸は高級脂肪酸(higher fatty acids)と呼ばれている。(Rule[9] Lip-1.2)

脂肪酸とそのアシル基の命名はIUPAC有機化合物命名法(Rule C-4)に従うまた許容慣用名や略号については下の表に示す。いままでは2つ以上の二重結合を有する不飽和脂肪酸でギリシャ文字を使用して異性体を示していた(例α-ないしはγ-リノレン酸)、これは二重結合の位置番号を列挙する方法(例 (9,12,15)-リノレン酸ないしは(6,9,12)-リノレン酸)に変えるべきである。しかし、二重結合の位置を示すさいに接頭辞としてギリシャ文字を使う方法は位置を列挙する方法の省略形として使用しても良い(Rule[9] Lip-1.6)。あるいは二重結合の位置はIUPAC有機化合物命名法の省略形であるΔを使用してもよい(例 Δ91215-リノレン酸)。

また脂肪酸を炭素数と二重結合の数の組み合わせ(例 16:0 = パルミチン酸, 18:1 = オレイン酸 )で示しても良い。アシル基の場合は(stearyl-の代わりに)(18:0)acyl-と表しても良い (Rule[9] Lip-1.15)。

脂肪酸末端(カルボキシ基から最も離れた位置)から同じ位置に二重結合を持つことを示す場合は(例、末端から9番目に二重結合を持つ脂肪酸グループの場合)はn-9と示す(nは具体的には当該脂肪酸の炭素数を意味する)。あるいはω9とも示す(ωは二重結合の位置を示すギリシャ文字省略形)。すなわちオレイン酸の二重結合18-9とネルボン酸の24-9とはω9[10]と総称する (Rule[9] Lip-1.16)。

脂肪酸の命名例 (Rule[9] Lip. Appendix A, Appendix B)
数値表現
(Numerical symbol)
示性式
CH3-(R)-CO2H
組織名 慣用名 略号 融点(℃)[11]
4:0 -(CH2)2- ブタン酸 酪酸(ブチル酸) Bu  
5:0 -(CH2)3- ペンタン酸 吉草酸(バレリアン酸) Pe  
6:0 -(CH2)4- ヘキサン酸 カプロン酸 Hx  
7:0 -(CH2)5- ヘプタン酸 エナント酸(ヘプチル酸) Hp  
8:0 -(CH2)6- オクタン酸 カプリル酸 Oc  
9:0 -(CH2)7- ノナン酸 ペラルゴン酸 Nn  
10:0 -(CH2)8- デカン酸 カプリン酸 Dec  
12:0 -(CH2)10- ドデカン酸 ラウリン酸 Lau 44.2
14:0 -(CH2)12- テトラデカン酸 ミリスチン酸 Myr 53.9
15:0 -(CH2)13- ペンタデカン酸 ペンタデシル酸    
16:0 -(CH2)14- ヘキサデカン酸 パルミチン酸 Pam 63.1
16:1(n-7) 16:1(Δ9) -(CH2)5CH=CH(CH2)7- 9-ヘキサデセン酸 パルミトレイン酸 ΔPam 0.5
17:0 -(CH2)15- ヘプタデカン酸 マルガリン酸    
18:0 -(CH2)16- オクタデカン酸 ステアリン酸 Ste 69.6
18:1(n-9) 18:1(Δ9) -(CH2)7CH=CH(CH2)7- cis-9-オクタデセン酸 オレイン酸 Ole 14.0
18:1(n-7) 18:1(Δ11) -(CH2)5CH=CH(CH2)9- 11-オクタデセン酸 バクセン酸 Vac  
18:2(n-6) 18:2(Δ9,12) -(CH2)3(CH2CH=CH)2(CH2)7- cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸 リノール酸 Lin -5.0
18:3(n-3) 18:3(Δ9,12,15) -(CH2CH=CH)3(CH2)7- 9,12,15-オクタデカントリエン酸 (9,12,15)-リノレン酸 αLnn -11.3
18:3(n-6) 18:3(Δ6,9,12) -(CH2)3(CH2CH=CH)3(CH2)4- 6,9,12-オクタデカトリエン酸 (6,9,12)-リノレン酸 γLnn  
18:3(n-5) 18:3(Δ9,11,13) -(CH2)3(CH=CH)3(CH2)7- 9,11,13-オクタデカトリエン酸 エレオステアリン酸 eSte  
20:0 -(CH2)18- エイコサン酸 アラキジン酸 Ach 75.6
20:2(n-9) 20:2(Δ8,11) -(CH2)6(CH2CH=CH)2(CH2)6- 8,11-エイコサジエン酸   Δ2Arc  
20:3(n-9) 20:3(Δ5,8,11) -(CH2)6(CH2CH=CH)3(CH2)3- 5,8,11-エイコサトリエン酸 ミード酸 Δ3Arc  
20:4(n-6) 20:4(Δ5,8,11,14) -(CH2)3(CH2CH=CH)4(CH2)3- 5,8,11-エイコサテトラエン酸 アラキドン酸 Δ4Arc -49.5
22:0 -(CH2)20- ドコサン酸 ベヘン酸 Beh 81.5
24:0 -(CH2)22- テトラコサン酸 リグノセリン酸 Lig 86.0
24:1 -(CH2)7CH2CH=CH(CH2)13- cis-15-テトラコサン酸 ネルボン酸 Ner  
26:0 -(CH2)24- ヘキサコサン酸 セロチン酸 Crt  
28:0 -(CH2)26- オクタコサン酸 モンタン酸 Mon  
30:0 -(CH2)28- トリアコンタン酸 メリシン酸    


不飽和脂肪酸は、ω3 系列か、ω6 系列かをはっきりさせるため、20:5 ω3あるいは20:5(n-3)と表記することもある。

化学的性質[編集]

炭素数10以上の飽和脂肪酸の融点は鎖長の順に高くなり炭素数30の トリアコンタン酸の融点は 93.6 ℃だが、炭素数9以下の飽和脂肪酸では解離、水素結合によるクラスター形成等様々な原因で、炭素鎖の長さの順になる訳ではない。炭素数2の酢酸では 16.7 ℃なのに炭素数5のペンタン酸が最も低く −34.5 ℃である。

生化学[編集]

脂肪酸は生合成を受ける際に炭素数が2個ずつ増加していくため、基本的には炭素数が偶数個の脂肪酸が大半を占めるが、α酸化を受けることによって炭素数が奇数個の脂肪酸が合成されることもある。

ヒトを含む多くの生体内ではエネルギー源として好気的に代謝される(β酸化)。カルニチンは体内においてはほとんどが筋肉細胞に存在しており、筋肉細胞内において脂肪酸をミトコンドリア内部に運搬する役割を担う。ミトコンドリア内膜はアシルCoAを直接透過しないため、カルニチンが脂肪酸アシル運搬体の役割を果たす(動植物共通)。脂肪酸アシルCoAはカルニチンと一時的に結合し、脂肪酸アシルカルニチンを生成する。この反応はミトコンドリア外膜に埋め込まれたカルニチンアシルトランスフェラーゼI (carnitine acyltransferase I) により触媒される。その後、脂肪酸はミトコンドリア内でβ酸化を受け酢酸にまで分解されながら、生成したアセチルCoAクエン酸回路を通じてエネルギーに転換される。

マウスを対象とした動物実験において、ある種の脂肪酸には腫瘍細胞の脂肪代謝を阻害することにより抗がん効果がある事例が複数報告されている[12][13][14][15]。 奇数炭素脂肪酸は、偶数炭素脂肪酸と比較して酸化効率が低いため、白血病患者の骨髄に含まれるがん細胞のエネルギー源である脂肪酸の代謝を阻害する効果がある事が判明しており、がん阻害剤としての効果が期待される[16][17]

飽和脂肪酸[編集]

飽和脂肪酸は同じ炭素数の不飽和脂肪酸に比べて、高い融点を示す。飽和脂肪酸は、食物から摂取され、また、体内でアセチルCoAから生合成される。

飽和脂肪酸生合成系[編集]

複脂肪酸生合成系
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脂肪酸生合成アセチルCoA(炭素数2)を出発物質として、ここにマロニルCoA(炭素数3)が脱炭酸的に結合していく経路である。すなわち、炭素数2個ずつ反応サイクルごとに増加し、任意の炭素鎖を持った脂肪酸が作成されることとなる。

また、脂肪酸生合成反応が起きるには補酵素Aは用いられず、アシルキャリアータンパク質 (ACP) にアセチル基が結合したアセチルACPおよびマロニルACPが実際の反応をになうこととなる。以下に反応系を示す。

  1. アセチルCoA(C2) + CO2 + ATP → マロニルCoA(C3) + ADP + Pi
  2. アセチルCoA + ACP → アセチルACP + SH-CoA
  3. マロニルCoA + ACP → マロニルACP + SH-CoA
  4. アセチルACP + マロニルACP → アセトアセチルACP(C4) + CO2 + ACP
  5. アセトアセチルACP + NADPH → βヒドロキシブチリルACP(C4) + NADP+
  6. βヒドロキシブチリルACP → 2E-ブテノイルACP(C4) + H2O
  7. 2E-ブテノイル + NADPH → ブチリルACP(C4) + NADP+
  8. ブチリルACP + マロニルACP → カプリルACP(C6) + ACP + CO2

8.の反応は4.の反応と同じである。このように炭素数2個ずつの脂肪酸炭素鎖の伸長が行なわれる。これはC16アシル化合物ができあがるまで続けられ、最終的にチオエステラーゼによってパルミチン酸とACPに加水分解される。

なお、上記の反応を触媒する酵素は以下の通りである。

  1. アセチルCoAカルボキシラーゼ
  2. アセチルトランスフェラーゼ
  3. マロニルトランスフェラーゼ
  4. 3-ケトアシルシンターゼ
  5. 3-ケトアシルレダクターゼ
  6. 3-ヒドロキシアシルデヒドラターゼ
  7. エノイルレダクターゼ
  8. 3-ケトアシルシンターゼ

飽和脂肪酸を取り過ぎると、カロリー不足でない限り血清総コレステロール濃度を上昇させ、虚血性心疾患を起こしやすくすると言われている。

飽和脂肪酸は、WHO/FAOが肥満問題に対する戦略のひとつとして摂取制限を挙げている[18]

不飽和脂肪酸[編集]

飽和脂肪酸はエネルギー代謝に重要な役割を果たすが、不飽和脂肪酸の役割はそれとは異なる。1930年代の動物実験により不飽和脂肪酸を欠くことで、皮膚障害、不妊などが引き起こされることからG.O.BurrあるいはH.M.Evansによりリノール酸α-リノレン酸などが摂取することが必須の栄養素である必須脂肪酸(ビタミンF)であることが示された。畜産動物の肉に割合多く含まれる飽和脂肪酸は、必須栄養素ではなく、食生活指針などでも病気との関連が示され、多くの摂取は推奨されていない。その後高度不飽和脂肪酸プロスタグランジン類の原料や新生児・乳児の中枢神経系の発育の為に必須であることが示された。[19][11]

一価不飽和脂肪酸[編集]

単価不飽和脂肪酸。16:0のパルミチン酸は、長鎖脂肪酸伸長酵素により、18:0のステアリン酸に伸張される。ステアリン酸は、体内でステアロイルCoA 9-デサチュラーゼ(Δ9-脂肪酸デサチュラーゼ)によりステアリン酸のw9位に二重結合が生成されてω-9脂肪酸の一価不飽和脂肪酸である18:1のオレイン酸が生成される[要出典]

多価不飽和脂肪酸[編集]

植物及び微生物中では、ω6位に二重結合を作るΔ12-脂肪酸デサチュラーゼ によりオレイン酸の二重結合を一個増やしてリノール酸を生成することができる。さらに植物及び微生物中では、ω3位に二重結合を作るΔ15-脂肪酸デサチュラーゼ によりリノール酸の二重結合を一個増やしてα-リノレン酸を生成することができる[20][信頼性要検証]。 ヒトを含む動物は、ステアリン酸からオレイン酸を生成するΔ9-脂肪酸デサチュラーゼを有してはいるものの、Δ12-脂肪酸デサチュラーゼもΔ15-脂肪酸デサチュラーゼもどちらも有していないので、リノール酸もα-リノレン酸もどちらも自ら合成することができない。このためω-3脂肪酸ω-6脂肪酸はともに必須脂肪酸となっている。

ω-6脂肪酸[編集]

ヒトを含めた動物の体内では、代表的なω-6脂肪酸であるリノール酸から出発してリノレオイルCoAデサチュラーゼ(Δ6-脂肪酸デサチュラーゼ)によりγ-リノレン酸が生成され、さらにアラキドン酸へ変換される。さらに、このアラキドン酸(20:4(n-6))から変換されて生成される炎症・アレルギー反応と関連した強い生理活性物質であるω-6プロスタグランジン、n-6ロイコトリエン等のオータコイド類は、アテローム性動脈硬化症喘息関節炎血管の病気、血栓症、免疫炎症の過程、腫瘍増殖における過度のω-6作用を抑制する調合薬開発の標的となっている[20]。n-3とn-6エイコサノイド前駆体の生成について代謝酵素が共通しているため、n-6脂肪酸とn-3脂肪酸とが競争的な相互作用をする。

ω-3脂肪酸[編集]

ヒトを含めた動物の体内ではΔ6-脂肪酸デサチュラーゼにより18:3(n-3)のα-リノレン酸(ALA)のΔ6の位置に不飽和結合を作り炭素2個伸張して20:4(n-3)のエイコサテトラエン酸を生成し、Δ5-脂肪酸デサチュラーゼにより不飽和結合を増やして20:5(n-3)のエイコサペンタエン酸(EPA)を生成し、このエイコサペンタエン酸から22:5(n-3)のドコサペンタエン酸(DPA)を経るかSprecher's shuntと呼ばれる経路いずれかを経て22:6(n-3)のドコサヘキサエン酸(DHA)が生成される(詳細はデサチュラーゼを参照のこと。)[20]。このようにヒトを含めた多くの動物は体内でα-リノレン酸を原料としてEPAやDHAを生産することができる。

細胞膜は流動性を持ち、脂質や膜タンパクは動いている。この流動性は膜の構成物質で決まる。たとえば、リン脂質を構成する脂肪酸の不飽和度(二重結合の数)に影響され、二重結合を持つ炭化水素が多いほど(二重結合があるとその部分で炭化水素が折れ曲がるので)リン脂質の相互作用が低くなり流動性は増すことになる。例えばDHAは不飽和度が極めて高く細胞膜の流動性の保持に寄与している。

神経細胞は、軸索や樹状突起などの凹凸の多い入り組んだ構造を有しているため、膜成分が極端に多くなっている[21]

DHAは精液網膜リン脂質に含まれる脂肪酸の主要な成分である。

トランス脂肪酸[編集]

トランス脂肪酸(上)とシス脂肪酸(下)

トランス脂肪酸は、構造中にトランス型二重結合を持つ。トランス脂肪酸は、天然の植物油にはほとんど含まれず、水素を付加して硬化した部分硬化油を製造する過程で発生するため、それを原料とするマーガリンファットスプレッドショートニングなどに含まれる。多量に摂取するとLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増加させ心臓疾患リスクを高めるといわれ、2003年以降、トランス脂肪酸を含む製品の使用を規制する国が増えている。

植物油魚油などから得られる天然の不飽和脂肪酸の場合、ほとんどすべての二重結合はシス型をとり、折れ曲がった構造をもつ。一方、酸化による劣化が起こりやすいという面で扱いにくい不飽和脂肪酸から、酸化による劣化が起こりにくく扱いやすい飽和脂肪酸を製造するために水素を添加(水添)し水素化させると、飽和脂肪酸にならなかった一部の不飽和脂肪酸のシス型結合がトランス型に変化し(エライジン化し)、直線状の構造を持つようになる。このような不飽和脂肪酸をトランス脂肪酸という。

遊離脂肪酸[編集]

脂肪酸の生合成は、主にアセチルCoAの縮合による。この酵素は、2つの炭素原子グループを付加するので、ほとんどすべての天然の脂肪酸は偶数の炭素原子数を有することになる。

生物における他の化合物と結合していない脂肪酸あるいは遊離脂肪酸は、中性脂肪の分解に由来する。遊離脂肪酸は水に不溶であるため、これらの脂肪酸は血漿蛋白アルブミンに結合して、可溶化、循環輸送されている。血中の遊離脂肪酸の濃度は、アルブミン結合部位の有無の状況によって制限される。

遊離脂肪酸は、リポ蛋白質リパーゼ(LPL)によってリポ蛋白質から「放出され」て、脂肪細胞に入る。そこで、それは、グリセロールとともにエステル化されることによって、トリグリセリドへと再構成される。脂肪細胞には、トリグリセリド維持における重要な生理的役割とインスリン耐性と遊離脂肪酸水準を決定する役割がある。

脚注[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ IUPAC Gold Book - fatty acids
  2. ^ 脂質 授業資料2006年06月07日に追加
  3. ^ くらしの化学 6月9日 2003年講義資料
  4. ^ E-生化学(保険学科版Ver1.07) [1] 教材 更新日2008年11月13日
  5. ^ Wanten GJ, Naber AH. Cellular and physiological effects of medium-chain triglycerides. Mini Rev Med Chem. 2004 Oct;4(8):847-57. doi: 10.2174/1389557043403503. PMID 15544546
  6. ^ Croteau E, Castellano CA, Richard MA, Fortier M, Nugent S, Lepage M, Duchesne S, Whittingstall K, Turcotte ÉE, Bocti C, Fülöp T, Cunnane SC. Ketogenic Medium Chain Triglycerides Increase Brain Energy Metabolism in Alzheimer's Disease. J Alzheimers Dis. 2018;64(2):551-561. doi: 10.3233/JAD-180202. PMID 29914035.
  7. ^ Ari C, Murdun C, Koutnik AP, Goldhagen CR, Rogers C, Park C, Bharwani S, Diamond DM, Kindy MS, D'Agostino DP, Kovács Z. Exogenous Ketones Lower Blood Glucose Level in Rested and Exercised Rodent Models. Nutrients. 2019 Oct 1;11(10):2330. doi: 10.3390/nu11102330. PMID 31581549; PMCID: PMC6835632.
  8. ^ Fukao T, Lopaschuk GD, Mitchell GA. Pathways and control of ketone body metabolism: on the fringe of lipid biochemistry. Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. 2004 Mar;70(3):243-51. doi: 10.1016/j.plefa.2003.11.001. PMID 14769483.
  9. ^ a b c d e f g h IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclature (CBN) Nomenclature of Lipids(Recommendations, 1976)
  10. ^ 日本油脂化学協会(同協会編、『油脂化学便覧』、丸善、1998年)ではω9式ではなくω-9式の表記が示されている。
  11. ^ a b 板倉弘重、『脂質の科学』、朝倉書店、1999年 ISBN 4-254-43514-2
  12. ^ 磯田好弘, 西沢幸雄, 山口茂彦 ほか、「脂質の抗がん効果 マウスの移植がんに関する局所投与遊離脂肪酸の抗がん活性」 『油化学』 1993年 42巻 11号 p.923-928, 日本油化学会
  13. ^ 五十嵐美樹, 宮澤陽夫「脂質がガンを抑える 共役脂肪酸の有効性」 『化学と生物』 2000年 38巻 8号 p.529-531, doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.38.529, 日本農芸化学会
  14. ^ 北浦靖之、「異なる脂肪酸を組み合わせることで強力にがん細胞を死滅させる
  15. ^ 白血病細胞は脂肪代謝によって細胞死を避ける/M.D.アンダーソンがんセンター
  16. ^ アボカド由来の成分が抗がん剤の効果を高めることを発見
  17. ^ Tabe, Yoko, et al. "Inhibition of FAO in AML co-cultured with BM adipocytes: Mechanisms of survival and chemosensitization to cytarabine." Scientific reports 8.1 (2018): 16837.
  18. ^ 5.2 Recommendations for preventing excess weight gain and obesity, DIET,NUTRITION AND THE PREVENTION OF CHRONIC DISEASES, pp.61-71, Joint WHO/FAO Expert Consultation, 2003.
  19. ^ 『世界大百科事典』、必須脂肪酸、平凡社、1998年
  20. ^ a b c I章 最新の脂質栄養を理解するための基礎 ― ω(オメガ)バランスとは?脂質栄養学の新方向とトピックス
  21. ^ 浜崎智仁「13:00 ~13:40脂質と精神」金城学院大学/日本脂質栄養学会共催シンポジウムの抄録 6章p10『 脂質栄養学の新方向とトピックス

関連項目[編集]