複素指数函数

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

複素解析における複素指数函数(ふくそしすうかんすう、: complex exponential function)は、ネイピア数 e を底とする複素変数 z に関する自然指数函数 ez = exp(z) を言う。それは実変数 x自然指数函数 ex の複素変数 z への解析接続であり、解析函数としての唯一の拡張である[1]

解析接続の一般論から(あるいは直接的な計算により)、実指数函数について成り立つ性質のいくつかは複素指数函数に対してもそのまま成り立ち、またそれにより複素函数 exp: CC* は複素数の加法群 C から非零複素数の乗法群 C* への位相群の準同型(連続指標)のうちで微分可能かつ exp′(1) = 1 なるものとして特徴づけられる[2]

x が実数であるとき、i虚数単位として純虚指数函数 exp(ix) は、オイラーの公式 exp(ix) = cos(x) + isin(x) を満たす。右辺は "cos + i sin" の省略形として cis(x) とも書かれる。函数 cis: RU は実数の加法群 R から絶対値 1 の複素数の乗法群 U への全射な連続指標であり、そのようなものの中で cis(2π) = 1(つまり周期 あるいは ker(cis) = 2πZ)のものとして特徴づけられる[2]

複素指数函数のグラフ:
  • 明度は函数の絶対値を表す: 虚軸方向の変化に対して一定であり、実軸方向では右へ行く(引数の実部が大きい)ほど明るくなっているのがわかる。
  • 色相は函数の偏角を表す: 実軸方向の変化に対して一定であり、虚軸方向では引数の虚部に対する周期性が色相の繰り返しパターンから読み取れる。

任意の複素数 z は、適当な二つの実数 x, y を用いて z = x + iy と表わされるから、複素指数函数は実二変数の函数として exp(z) = exp(x)⋅cis(y) と書くこともできる。これは既知の実函数としての exp, cos, sin のみからなり、これを複素函数 exp の定義として採用することもある。

ガウス平面内の帯 B := {x + yi : −π < y < π} への制限 exp: BF (F := C R≤0 (⊂ C*)) は一価の函数として全単射となり、F 上でこの函数の一価な逆函数として対数の主値 Log: FB が定まる。この Log は正の実半軸 R>0 上の実函数としての自然対数函数 logeF への解析的延長であり、特に zF に対して Log(z) = 1z/ζ を満たす[3]複素対数函数Log の更なる延長として

で与えられるが、これは大域的には一価でなく、特異点 z = 0 を囲む閉曲線に沿った積分の寄与によって無限多価性を示す。それでも非零複素数 z に対して等式 exp(log(z)) = z は常に成り立つ(その意味では log はまだ exp の「逆函数」である)。

定義[編集]

exp(x + iy) の実部
exp(x + iy) の虚部

複素指数函数の定義の仕方は大まかに二通り存在する。

級数による定義[4]
任意の複素数 z に対して
によって定まる整函数をいう。
実函数を用いた定義[5][6]
複素指数函数は実二変数 x, y の函数として
と定義とされる。

これら二つの定義の同値性を確かめることは、任意の実数 y に対するオイラーの公式 exp(iy) = cos(y) + i sin(y) を証明することに他ならない。

複素変数への拡張は他にも方法があり、マクローリン展開を用いずに微分の自己再帰性と初期条件だけを与えた正則函数を考えても同じ結論を得ることができる。

基本的な性質[編集]

exp(x + iy) の絶対値
exp(x + iy) の偏角

x, y は実数として、z = x + yi = |z|earg z と書く。以下の性質は定義から直ちに確認できる:[5][7]

  • y = 0 のとき明らかに exp(z) = exp(x) = ex は実指数函数であり、したがって複素指数函数は実指数函数の複素変数への拡張である。また特に exp(0) = e0 = 1 が成り立つ。
  • 周期性: 任意の複素数 z に対して exp(z + 2πi) = exp(z) が成り立つ。すなわち、複素指数函数は周期(実は基本周期)2πi を持つ周期函数である。一般に任意の整数 n に対して exp(z + 2nπi) = exp(z) が成り立つ。この周期性のために、逆函数となるべき対数函数の複素数への拡張は無限多価となる。
  • 絶対値に関して、|exp(z)| = |ex| および |exp(iy)| = 1 が成り立つ。すなわち、複素指数函数の絶対値は引数の実部のみによって決まり、引数の虚部の影響を受けない。また特に任意の z に対して exp(z) ≠ 0 が言える。
  • 複素共軛に関して、exp(z) = exp(z) が成り立つ。

さらに以下の性質は重要である:[5][7]

これらは三角函数の性質から導くこともできるし、級数による定義に対してコーシー積を直接計算しても示せる。あるいは実指数函数の対応する性質に解析接続の一般論を適用しても示せる。

出典[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ 高木 1983, p. 230.
  2. ^ a b ブルバキ 1968b, p. 97.
  3. ^ ブルバキ 1968, pp. 98–99, 第3章 §1.7 複素対数関数.
  4. ^ 高木 1983, p. 193.
  5. ^ a b c 木村 & 高野 1991, p. 25.
  6. ^ ブルバキ 1968, p. 96, 第3章 §1.5. 複素指数関数.
  7. ^ a b ブルバキ 1968, p. 97, 第3章 §1.6. 関数 ez の性質.

参考文献[編集]

  • 高木, 貞治解析概論岩波書店、1983年9月27日、改訂第三版。全国書誌番号:84009231ISBN 978-4000051712。NCID BN01222138ASIN 4000051717
  • 木村, 俊房、高野, 恭一 『関数論』 朝倉書店〈新数学講座〉、1991年7月1日。全国書誌番号:91062499ISBN 978-4254114379。NCID BN06514414OCLC 674317449ASIN 4254114370
  • ブルバキ, ニコラ 『実一変数関数(基礎理論)1』 小島順、村田全、加地紀臣男訳、東京図書〈数学原論〉、1968年。NCID BN00929009
  • ブルバキ, ニコラ 『位相3』 笠原皓司、清水達雄訳、東京図書〈数学原論〉、1968年。

関連項目[編集]