解析力学

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古典力学

運動の第2法則
歴史英語版

解析力学(かいせきりきがく、: analytical mechanics)とは、一般座標系に対して成り立つ運動方程式を導出して展開される力学体系を言う。その運動方程式はラグランジアンやハミルトニアンと呼ばれる座標変換に対して不変な式(座標変換不変量)に変分法最小作用の原理等を適用することで導出される[1]

解析力学で用いられる座標変換不変量はふつう相対運動に対しては不変ではないため、座標変換することで運動エネルギーの測定量が変化してしまうような問題は基本的に扱うことができない。

概要[編集]

力学の理論は大別して静力学(statics)と動力学(dynamics)からなる。古代より研究されてきた静力学は力の釣り合いの理論であり、力の釣り合いとは、ある力が及ぼす作用に対して別の力が存在し、それらが相殺した結果として生じるものである。静力学の目的は、それら相殺が発生する諸法則を一般的な諸原理に基づいて確立することにあり、それら原理は結局のところ梃子の原理(principle of leverage)、力の合成の原理(principle of composition of forces)、仮想仕事の原理(principle of virtual work)の三つの原理に帰着させることができる[2]。 ここで、仮想仕事の原理は現代的には次のように表される[3]

一方で動力学は、ガリレオ・ガリレイが最初の基礎を据えた人であり[4]、その運動法則を導き出す諸定理はアイザック・ニュートンの『自然哲学の数学的諸原理』(Philosophia Naturalis Principia Mathematica)によって一応の解明がなされた。このとき、ニュートン及びライプニッツは微分積分法を同時に開発したため、物体の運動の法則というものを解析的な方程式に帰着させることができるようになった。そのため、ニュートン以後に力学を扱った数学者たちは、ニュートンの諸定理を一般化した上でそれらを微分的表現に翻訳するようになった[5]。特に、レオンハルト・オイラーは、運動方程式に初めて解析的な表現を与え、さらに定義と論証の連結によって次々に命題を導出する合理的科学として力学体系を提示しようとした[6]

このような中で、ジャン・ル・ロン・ダランベールは、1743年に出版した『動力学概論』(Traité de Dynamique)において、動力学の問題を解くか少なくとも方程式に表すため、物体の運動の法則を釣り合いの法則に帰着させる方法を提案した[7]。これは、つまり動力学を静力学に還元する試みだった(ダランベールの原理)。ここで、ダランベールの原理は現代的には次のように表される[8]

数学者、天文学者であったジョゼフ=ルイ・ラグランジュは、1788年に出版した『解析力学』(Mécanique Analytique)において、それまでの静力学及び動力学の歴史を総括した上で、静力学全体がただ一つの基本公式に帰着させることができたのと同様に、動力学全体も一つの一般公式に帰着させることが可能であるとして、『諸物体の運動に関わる諸問題を論ずるための、簡単でもあり、一般的でもある、一つの方法』を導入した[9]が、これが解析力学の始まりである。ラグランジュの言わんとしたことは、上記ダランベールの原理の表式は作用 L というものを導入することで次のように書き換えることができるというものであった。

これはつまり、作用 L から一元的に運動方程式を導出する方法で、一部の力学の問題について計算を簡単にする方法だった[10]

幾何光学における変分原理であるフェルマーの原理からの類推で、古典力学において最小作用の原理(モーペルテューイの原理)が発見された。これにより、力学系の問題は、作用積分とよばれる量を最小にするような軌道をもとめる数学の問題になった。

座標一般化座標に拡張し、ラグランジュ方程式が導き出された[11]。 さらに、ラグランジアンから一般化運動量を定め、座標と運動量ルジャンドル変換によって、ハミルトン力学が導かれた[12][13]

脚注[編集]

  1. ^ 解析力学の体系は基本的にはラグランジュ力学ハミルトン力学により構成される。大貫義郎 「まえがき」『解析力学』 岩波書店、1987年
  2. ^ 発展史(1972) 付録 p.112
  3. ^ ここで、空間に固定したデカルト座標系で静止する n 個の質点の内 i 番目の座標を 、その質点にかかる力の合力を としている。参考 山内(1959) p.149
  4. ^ 発展史(1972) 付録 p.134
  5. ^ 発展史(1972)付録 p.137
  6. ^ 物理学史I(1968) p.109
  7. ^ 発展史(1972)付録 p.149
  8. ^ 仮想仕事の原理のときと同様に、空間に固定したデカルト座標系で運動する n 個の質点の内 i 番目の座標を 、その質点にかかる力の合力を とする。さらに i 番目の質点の質量を とする。なお、釣り合いのために加えられる力 を慣性抵抗(force of inertia)と呼ぶ。 参考 山内(1959) p.158, Lanczos(1970) p.88
  9. ^ 発展史(1972) 付録 p.150,154-156
  10. ^ マッハも次のように述べている。
    "ここに引用された簡単な諸例は、困難な点をもたず、解析力学の操作の意味を説明するのに十分である。解析力学から力学現象の本性についての新しい原理的解明を期待してはならない。むしろ原理的認識は、本質的には、解析力学の構築が考えられうる以前に完結していなければならない。解析力学は問題のもっとも簡単な実用的な克服だけを目的としている。この関係を見誤る人には、この場合にも本質的には経済的意味をもつラグランジュの偉大な業績は理解されずに終わるであろう。"
    マッハ(1933) 下巻 p.260から。
  11. ^ ラグランジュ形式は微分幾何学とも相性がよく、相対性理論の分野では必須である。
  12. ^ ハミルトン形式はその後の量子力学とくに行列力学へと続く。
  13. ^ ラグランジュ方程式は微分方程式を与えるのに対して、ハミルトンの正準方程式積分を与える。さらにこれから、ハミルトン・ヤコビの偏微分方程式が得られる。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • Cornelius Lanczos (1970). The variational principles of mechanics (4th ed.). Dover publications, inc.. 
  • M.フィールツ 『力学の発展史』 喜多 秀次,田村 松平(訳)、みすず書房、1977年(付録にラグランジュ(1788)『解析力学』の静力学の部・動力学の部の各部の第1章の訳出がある)
  • エルンスト マッハ 『マッハ力学史 ー古典力学の発展と批判ー』上・下、岩野秀明(訳)、筑摩書房、2006年、原書第九版。
  • 広重 徹 『物理学史I』5、培風館〈新物理学シリーズ〉、1968年
  • 山内 恭彦 『一般力学』 岩波書店、1959年、増補第三版。
  • 並木 美喜雄 『解析力学』 丸善出版〈パリティ物理学コース〉、1991年
  • エリ・デ・ランダウ,イェ・エム・リフシッツ 『力学』 東京図書〈ランダウ=リフシッツ理論物理学教程〉、1977年、増訂第3版。