酸化鉄(II,III)

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酸化鉄(II,III)
識別情報
CAS登録番号 1317-61-9
特性
化学式 Fe3O4
モル質量 231.533 g/mol
外観 黒色粉末
密度 5.17 g/cm3
特記なき場合、データは常温(25 °C)・常圧(100 kPa)におけるものである。

酸化鉄(II,III)(さんかてつ に さん、Iron(II,III) oxide)は組成式Fe3O4で表される化学物質であり、自然界では鉱物磁鉄鉱(マグネタイト)として見出される。いわゆる「黒錆」のこと。

Fe2+イオンとFe3+イオンとを含む為、時としてFeO.Fe2O3と表現される[1]。実験室では酸化鉄(II,III)は黒色粉末の形状で提供されていて、常磁性フェリ磁性を示す[2]。時として誤ってフェロ磁性と表される場合がある。

また、製法により粒子のサイズや形状が異なるため、鉱石由来より合成によって製造された黒色顔料が非常に広く利用される[3]

目次

製法

良質のFe3O4色素は、産業廃棄物やスクラップ鉄あるいは鉄塩を含む溶液(例えば、鋼鉄をPicklingした際の副産物)から製造される。

C6H5NO2 + 9Fe + 2H2O → C6H5NH2 + Fe3O4

  • Fe+2化合物の酸化では

水酸化鉄(II)のような鉄(II)塩は注意深くpHを制御しながら曝気処理をすることで目的の酸化物を得られる[3]

  • Fe2O3の水素による還元[4][5]では

3Fe2O3 + H2 → 2Fe3O4 +H2O

  • Fe2O3のCOによる還元[6]では

3Fe2O3 + CO → 2Fe3O4 + CO2

赤くなるまで熱した水蒸気を作用させると生ずる。

Fe3O4ナノ粒子は化学実験的に生成される。例えばFe+2塩とFe+3塩との混合物をアルカリ性にするとコロイド状Fe3O4が沈殿する。実験条件は微妙であり、条件の差異で粒子サイズが決定づけられる[7]

反応

磁鉄鉱は溶鉱炉内で一酸化炭素により還元され、鉄となり鋼の生産の一部に利用される[2]

Fe3O4 + 4CO → 3Fe + 4CO2

Fe3O4の酸化を調節することで、褐色顔料のγ-Fe2O3(磁赤鉄鉱)を生成することができる[8]

2Fe3O4 + ½ O2 → 3(γ-Fe2O3)

他の焼成法(空気中での加熱)では、良質の赤色顔料であるα-Fe2O3赤鉄鉱)を与える[8]

2Fe3O4 + ½ O2 → 3(α-Fe2O3)

構造

Fe3O4は逆スピネル格子の立方晶で立方格子の頂点に酸素が配置して、酸素を中心とする8面体頂点の半分に Fe2+イオンが、残りの8面体頂点の半分と4面体頂点にFe3+イオンが配置している。

FeOγ-Fe2O3も酸素の配置は同じく立方格子をとる。酸化反応あるいは還元反応により容易にこれらの3種の化合物は相互に変化するが、その際の最終的な構造の違いは小さい[2]

試料によってはFe3O4不定比化合物の場合もある[2]

Fe3O4フェリ磁性は8面体頂点にあるFe(II)イオンとFe(III)イオンの電子スピンが強磁性的に結合すると共に、4面体上のFe(III)イオンのスピンがそれらに対して反強磁性的に結合していることに起因している。この両者の磁気的な寄与がつりあっていないことから永久磁石の性質を示す[2]

特性

Fe3O4フェリ磁性キュリー温度は858 Kである、そして120Kにおいてフェルベイ転移 (Verwey transition) と呼ばれる相転移を生じ、構造、電気伝導性、磁性が不連続的に変化する[9]。この現象は研究対象として注目を集め、様々な理論的説明が提唱された。しかし完全には解明されていない[10]。 Fe3O4Fe2O3に比べて、非常に大きい(X 106)電気伝導性を示す。これはFe+2 and Fe+3との間で原子価間電荷移動する為である[2]

鉄釘や鉄鍋などの表面に形成された「黒錆」は非常に緻密な皮膜となって内部を保護する[11]

用途

ダッチオーブン中華鍋などでは意図的に空焚きして鍋の表面に黒錆を発生させ、内部の腐食を防いでいる。

Fe3O4C.I pigment black 11' (C.I. No.77499) という名称で知られている黒色色素に利用される[8]

Fe3O4ハーバー・ボッシュ法アンモニア製造の触媒や水性ガスシフト反応[12]触媒としても利用される。特に後者は酸化クロムによって安定化された HTS (high temperature shift catalyst) の酸化鉄触媒は広く利用され[12] 、そのフェリクロム触媒はプロセス起動時に α-Fe2O3からFe3O4、Cr2O3からCrO3を生成させる[12]

Fe3O4 のナノ粒子は核磁気共鳴画像法のコントラスト造影剤としても利用される[13]

生物学的見地

マグネタイトは走磁性細菌中にナノ結晶 (42-45 μm) として見出される[3]。また伝書鳩のくちばしの組織中にも見出されている[14]

脚注

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  1. ^ 酸化鉄(I,II)は錯体や混合物ではなく一定の結晶構造を持つ純物質(混合原子価化合物)である。
  2. ^ a b c d e f Greenwood, N. N.; Earnshaw, A. (1997). Chemistry of the Elements, 2nd Edition, Oxford:Butterworth-Heinemann. ISBN 0-7506-3365-4. 
  3. ^ a b c d Rochelle M. Cornell, Udo Schwertmann 2007 The Iron Oxides: Structure, Properties, Reactions, Occurrences and Uses Wiley-VCH ISBN 3527606440
  4. ^ US patent 2596954, 1947, Process for reduction of iron ore to magnetiteHeath T.D.
  5. ^ Kinetics of reduction of iron oxides by H2 Part I: Low temperature reduction of hematite, A. Pineau, N. Kanari, I. Gaballah, Thermochimica Acta, 447, 1, 1 (2006), 89-100 doi:10.1016/j.tca.2005.10.004
  6. ^ The effects of nucleation and growth on the reduction of Fe2O3 to Fe3O4 Hayes P. C., Grieveson P Metallurgical and Materials Transactions B (1981), 12, 2, 319-326,doi: 10.1007/BF02654465
  7. ^ Arthur T. Hubbard (2002) Encyclopedia of Surface and Colloid Science CRC Press, ISBN 0824707966
  8. ^ a b c Gunter Buxbaum, Gerhard Pfaff (2005) Industrial Inorganic Pigments 3d edition Wiley-VCH ISBN 3527303634
  9. ^ Electronic Conduction of Magnetite (Fe3O4) and its Transition Point at Low Temperatures, Verwey E. J. W., nature 144, 327-328 (1939) doi:10.1038/144327b0
  10. ^ The Verwey transition - a topical review Walz F. J. Phys.:Condens. Matter (2002) 14, 285-340 doi:10.1088/0953-8984/14/12/203
  11. ^ “さび”の文化と錆の科学
  12. ^ a b c Sunggyu Lee (2006) Encyclopedia of Chemical Processing CRC Press ISBN 0824755634
  13. ^ Synthesis of Iron Oxide Nanoparticles Used as MRI Contrast Agents: A Parametric Study, Babes L, Denizot B, Tanguy G, Le Jeune J.J., Jallet P. Journal of Colloid and Interface Science, 212,2, (1999), 474-482, doi:10.1006/jcis.1998.6053
  14. ^ Superparamagnetic Magnetite in the Upper Beak Tissue of Homing Pigeons Hanzlik M., Heunemann C., Holtkamp-Rötzler E., Winklhofer M., Petersen N., Fleissner G. BioMetals, (2000), 13, 4, 325-331 doi:10.1023/A:1009214526685

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