重症熱性血小板減少症候群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
検索に移動

重症熱性血小板減少症候群(じゅうしょうねっせいけっしょうばんげんしょうしょうこうぐん、: Severe fever with thrombocytopenia syndrome; SFTS[1])は、重症熱性血小板減少症候群ウイルスによる感染症である。マダニが媒介し、日本では2013年に最初の患者が報告された[2]。その後も感染の報告が相次いで発表されたため、同年3月4日に「重症熱性血小板減少症候群(病原体がフレボウイルス属SFTSウイルスであるものに限る)」を感染症法に基づく四類感染症に指定して届出の対象としている[1]クリミア・コンゴ出血熱と並ぶ、ダニが媒介するウイルス性出血熱の一つ。治療は対症療法のみで、有効な治療薬やワクチンはない。

病原体[編集]

主として重症熱性血小板減少症候群ウイルス(: Severe fever with thrombocytopenia syndrome virus; SFTSV) を保有するマダニがヒトを刺咬することによって感染する[1][注 1][注 2]潜伏期間は6-14日とみられている[1]。初めての症例が報告された中国では、フタトゲチマダニ (Haemaphysalis longicornis)、オウシマダニ (Rhipicephalus microplus) からウイルスが分離されており、人間だけでなくダニに咬まれることの多い哺乳動物の感染が確認されている。

2017年10月には日本の徳島県飼い犬から人間に感染する事例が確認され、世界で初めてのペットから人への感染例として報告された[4]

症状[編集]

主な症状は発熱消化器症状(吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、下血など)[1]、神経症状(頭痛、筋肉痛、意識障害、失語)、リンパ節腫脹、皮下出血など[5]。致死率は10 - 30%程度とされる[1]が、軽症患者が診断されていない可能性があり、中国の死亡率と同等とするならば、日本国内での患者数は年間100名程度と推定されている[5]

機序[編集]

2020年1月、日本の国立感染症研究所は、SFTS患者体内でSFTSVが標的とする細胞を同定した[6][7][2]。SFTSVはリンパ節、脾臓骨髄などで、主に「抗体産生細胞である形質芽球に分化しつつあるB細胞」に感染し、血管に入り全身臓器に拡散する[6][7]。さらに、ヒト形質芽球と似た特徴を持つ培養細胞株のPBL-1細胞を用いて、体内で起こるウイルス感染を試験管内で再現が可能なSFTSV感染の実験系の開発にも成功した[6][7]

確定診断[編集]

血中の SFTS ウイルス遺伝子の検出や抗体の上昇[5]

疫学[編集]

流行が確認されている国は、日本、中国、韓国である[8]

日本国内の報告[編集]

2016年4月27日までにSFTSの届け出があった府県[9]

2016年2月24日時点で170名以上の感染例が報告されているが、当初に作成された疑い患者要件を満たしていない軽症例が見逃されている可能性が指摘されている[10]

2013年1月に報告された最初の患者は2012年秋に発症した50代の女性で、原因不明のまま死亡した。後に保存検体の検査により SFTSV のゲノムとウイルス抗原が確認され重症熱性血小板減少症候群と確定した[11]。この事例を元に厚生労働省は「疑い患者要件」を公表して全国に情報提供を求めた。

(当初)疑い患者要件[12]
  1. 38度以上の発熱
  2. 消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血のいずれか)
  3. 血小板減少(10万/mm3未満)
  4. 白血球減少(4000/mm3未満)
  5. 血清酵素(AST、ALT、LDHのいずれもの上昇)
  6. 他の感染症によること又は他の病因が明らかな場合は除く
  7. 集中治療を要する、若しくは要した、又は死亡した者。

情報提供により、山口県における海外渡航歴のない成人男性[13]と、2012年秋の宮崎県における海外渡航歴と近年の国内旅行歴のない成人男性で、いずれも報告時点では死亡している[13]。さらに、その後の調査では確認可能な最も古い患者は2005年である事と[11]、死亡した患者の血液から発見されたSFTSウイルスの塩基配列は中国で発見されたものとはわずかに異なっていることが明らかとなり、中国での確認以前から日本国内に存在していた事が証明された[11]

また、厚生労働省は、死亡例が相次いだのは感染源が特定されたためであり、急に流行しているわけではないとしている[14]。その後もウイルス感染の報告が相次ぎ、2013年の春から秋にかけて高齢者を中心に西日本の13県53人の感染を確認、うち21人の死亡が報告されている。現時点では前述の通り西日本において感染者が出ているが、2014年2月に公表された厚生労働省研究班の調査結果によると、北海道東北関東に生息するマダニからもSFTSウイルスが検出されており、病原体は全国的に分布していることが明らかとなった[15][16][17]

日本国外の報告[編集]

2006年11月以降、最初に確認された中国安徽省以外にも中国の11行政区で数百人以上の感染者が報告されている。2013年2月には、韓国の保健福祉部疾病管理本部がダニを調査した結果、同国内全域に生息しているフタトゲチマダニからSFTSウイルスが確認されたことを明らかにしており[18]、同年5月以降、同国の済州道慶尚北道で感染による死亡者が出ている[19]。また、米国ミズーリ州でもSFTSウイルスに似たウイルスによる重症熱性血小板減少症候群様の患者が報告されている。

中国での流行[編集]

中国国内においてSFTSウイルスが患者から分離された省(赤)[3]

2006年11月に安徽省で発見され、2007年頃から拡大して中国河南省南部信陽市(しんよう、シンヤン)商城県を中心に流行。「発熱を伴う血小板減少」という特別な病状を示しておりこれはアナプラズマ症例の特徴であるが、「ヒト顆粒球アナプラズマ症」 (HGA) の証拠が見つけられない場合もあった。

発見後の2008年始め頃には治療と診断のガイドラインも出て広範囲で疫学調査が開始されたが、原因不明ということで流行は公表されなかった。しかし、2010年9月8日には新聞のスクープがきっかけとなり公表されるに至った。同年8月に行われた調査結果によれば河南省で557人が感染し18人が死亡、山東省で182人が感染し13人が死亡、江蘇省の省都南京市で4人が死亡(6人死亡という報道有り)し、合計35人以上が死亡するなど31の1級行政区(省など)中12の地域に広がっているとされる。

山東省ではHGAへの監視を2008年5月に開始しており、一方のブニヤウイルスに対する監視は河南省と湖北省が2009年5月に開始している。また、河南省が信陽市に専門家を派遣したのは2010年4月初旬のことで、中国衛生部が河南省に専門家を派遣したのは同年9月12日のことである。

中国では一連の症例に対して、「発熱を伴う血小板減少症候群: 发热伴血小板减少综合征: fever- thrombocytopenia syndrome または thrombocytopenia with fever)」という仮の名称を付けている(症例定義で「発熱」が必須とされている)。

  • 安徽省、河南省、山東省、江蘇省、湖北省、黒龍江省内モンゴル自治区新疆ウイグル自治区天津市海南省四川省雲南省の12の1級行政区に広がっている。
  • 感染者は河南省信陽市商城県溮河区光山県平橋区に集中している。特に河南省信陽市商城県はダニの汚染地区で、全県で数百人が咬まれ、多数の死亡例がある。また、感染者は都市部では極めて少なくほとんどが農民であり、丘陵地帯で多発している(最初の発見も安徽省の大別山脈英語版拼音: Dàbié ターピエ)だった)。
  • 女性と老人(40歳以上)に危険が高い(感受性の問題か社会的な問題かは不明)。
  • 症例は5月、6月に集中して発生している。
  • 中国においては治療にリバビリンの投与が行われているが、有効性は不明である[20]

関連法規[編集]

参考資料[編集]

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

  1. ^ サイエンス』誌2010年10月1日号には、最初アナプラズマ症と診断されたが、テキサス大学のチームがブニヤウイルスとし、その成果を中国チームが利用したいきさつが掲載されている。米中2つのチームが別々に『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』(NEJM)[3]と『ランセット』に報告した。米国チームはDabie mountain virus、中国チームはsevere febrile and thrombocytopenic syndrome (SFTS) virusと名づけた。米国チームは抗生物質が全く効かないなどの理由からアナプラズマ症の可能性を完全否定している。
  2. ^ 2006年の安徽省での9例の中国による調査報告(中国初のHGA感染例とした)ではダニの咬んだ跡はないと明記されており、また患者相互に密接な接触があったとしている。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f 感染症法に基づく医師の届出のお願い 厚生労働省 2013年5月7日閲覧
  2. ^ a b 「マダニ感染症、標的は免疫細胞」『日経産業新聞』2020年1月16日(先端技術面)
  3. ^ a b Yu XJ et al. (2011). “Fever with thrombocytopenia associated with a novel bunyavirus in China”. N Engl J Med. 364 (16): 1523-32. doi:10.1056/NEJMoa1010095. PMID 21410387. 
  4. ^ マダニ感染症、ペットから人に感染 世界で初確認”. 朝日新聞. 2014年10月11日閲覧。[リンク切れ]
  5. ^ a b c 森川茂「重症熱性血小板減少症候群」『獣医疫学雑誌』2013年 17巻 2号 p.142-143, doi:10.2743/jve.17.142
  6. ^ a b c 重症熱性血小板減少症候群のヒト致死症例においてSFTSウイルスはB細胞を標的とする”. 国立感染症研究所 (2020年1月10日). 2020年1月31日閲覧。
  7. ^ a b c “Severe fever with thrombocytopenia syndrome virus targets B cells in lethal human infections” (PDF). The Journal of Clinical Investigation. (January 6, 2020). doi:10.1172/JCI129171. PMID 31904586. https://www.jci.org/articles/view/129171/pdf. 
  8. ^ [ https://doi.org/10.2169/naika.103.2581 西條政幸「日本における重症熱性血小板減少症候群と今後の課題」]『日本内科学会雑誌』2014年 103巻 10号 p.2581-2586, doi:10.2169/naika.103.2581
  9. ^ 感染症発生動向調査で届出られたSFTS症例の概要”. 国立感染症研究所. 2016年5月10日閲覧。
  10. ^ 高橋徹「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)とSFTSウイルス」『ウイルス』2015年 65巻 1号 p.7-16, doi:10.2222/jsv.65.7
  11. ^ a b c 下島昌幸、福士秀悦、谷英樹ほか「日本における重症熱性血小板減少症候群」『ウイルス』2013年 63巻 1号 p.7-12 , doi:10.2222/jsv.63.7
  12. ^ 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の国内での発生について(情報提供及び協力依頼) 厚生労働省 健感発0130第1号平成25年1月30日 (PDF)
  13. ^ a b <速報>国内で初めて確認された重症熱性血小板減少症候群(SFTS)患者に続いて後方視的に確認された2例 国立感染症研究所
  14. ^ “クローズアップ2013:4人の死亡確認、SFTSウイルス マダニで感染、謎多く”. 毎日jp (毎日新聞社). (2013年2月21日). オリジナルの2013年2月24日時点におけるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20130224040849/http://mainichi.jp/opinion/news/20130221ddm003040084000c.html 
  15. ^ マダニで感染…ウイルス新たに7道府県で発見”. 『読売新聞』. 2014年2月26日閲覧。/読売新聞の「ヨミドクター」における同記事
  16. ^ マダニ感染症、全国に分布 草木の多い場所は注意を”. 共同通信. 2014年2月26日閲覧。
  17. ^ “<速報>重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスの国内分布調査結果(第二報)”, IASR, (2014), http://www.nih.go.jp/niid/ja/2014-02-19-09-27-24/2242-disease-based/sa/sfts/idsc/iasr-news/4428-pr4094.html 
  18. ^ ダニ媒介性感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」について 在大韓民国日本国大使館 安全情報 2013年7月閲覧
  19. ^ 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A(問2) 厚生労働省 2013年7月閲覧
  20. ^ Zhong-Tao Gai et al. Clinical Progress and Risk Factors for Death in Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome Patients. J Infect Dis. (2012) 206 (7): 1095-1102, doi:10.1093/infdis/jis472.

関連項目[編集]