この記事は半保護されています。(半保護の方針による半保護)

野良猫

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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民家に出入りする野良猫。

野良猫(のらねこ)とは、人間の生活圏に生活するイエネコのうち、特定の飼い主が存在せず、屋外で生活する個体の総称である[1]。野良猫の多くは間接的に人間生活に依存している[2]

なお、屋外で生活していても管理者の存在するものは地域猫と呼ばれ、区別される。

また、人間の生活圏より離れて山野へ移り、野生動物となったものは、野猫と呼ばれ、区別される。ただし街の野良猫と野生化した野猫は共にイエネコで、両者は同じだと認識されることもある。

概要

野良猫は、単に「野良(ノラ)」とも「どら猫」とも呼ばれる。

ネコが日本に渡来した時期は不明だが、古代からネズミ除けとして農家などで飼われていた。また、珍しいネコが愛玩用として中国から輸入されることもあった。後者の場合は現代のイヌのように繋いで飼われるのが一般的であった[3]

しかし1602年慶長7年)、法令によってネコを繋いで飼育する行為を禁止した[4]。これ以後、それまではごく限られた富裕層によって、ペットとして飼われていたネコが、自由に出歩くようになった。その過程で、ネコの交雑・繁殖が進んだと思われる。

野良猫の生息数について、東京都による平成29年度の調査では、東京都内に約10万頭と推定されている[5]

野良猫にまつわる問題

屋外で生活するネコは、屋外に縄張りを持ち、縄張りを自由に行き来する。そのため、特に都市住宅地域では、野良猫がトラブルの原因となることがある。

東京都による平成29年度の調査では、回答者全体の63.5%が、今までネコに対して迷惑に感じたことがあると回答している[6]

とりわけ、地域の野良猫が増えすぎた場合、次に述べるような様々な問題が発生する。それは、繁殖期の騒音、糞尿による悪臭や汚損、病原体の媒介、ゴミ荒らし等の食害、皮屑や抜け毛が原因となるアレルギー喘息気管支炎の発症、爪とぎ等による自動車や家屋などへの物損、それら被害に対する行政の対応の不備、など多岐にわたる。ことに日常的に給餌をする人がいる場合は、そこから地域住民間の対立に発展することがある。

繁殖力にまつわる問題

ネコの繁殖効率はとても高く、計算上は1頭のネコが1年間で20頭以上に増えることが可能である[7]

野良猫の個体数が極端に増加した場合、近親交配や餌不足等に起因する劣悪な環境が生まれることがある。例えば愛媛県の青島では、猫島として猫の楽園と呼ばれることもあるが、その実態はそうでもない。目に異常がある等の健康上の問題を抱えた子猫の発生している[8]。さらに、過密な繁殖事情により生まれたばかりの子猫が、オスに噛み殺されるとといった状況も確認されている[8]

給餌にまつわる問題

野良猫を愛玩する人の中には、自己の私有地ではない公園や集合住宅の敷地内、路上、公共の場所などで給餌を行う人も存在する。

しかし給餌は繁殖の手助けする恐れがあり、そのため個体密度の増加を懸念し、みだりに給餌を行わないように地方自治体が呼びかけるケースがある。例えば東京都の荒川区では、給餌を規制する条例が2008年12月に制定されており、自分が所有も占有もしない動物に給餌を行い、鳴き声や糞尿等で周辺住民に迷惑を掛けることを禁止している。区民等の申し立てを受け、条例違反の疑いがあると認められる場合は、区が立ち入り調査をする。区の立ち入り調査を拒否すれば10万円以下の罰金、給餌の中止命令に違反すれば5万円以下の罰金が科せられる[9]

鳴き声・騒音にまつわる問題

メスのネコは年に何回か発情期をむかえる。この発情したメスの発する臭いを嗅ぐことでオス発情するが、メス独占に関するオス同士の争いは熾烈を極める。そのため、夜中でさえも威嚇行動の甲高い鳴き声や格闘に伴う騒音が続くことがある。

野良猫の個体数が少ない場合、発情に伴う騒音がそれほど頻繁に発生するわけではない。しかし極端に個体数が多い場合、連日連夜の鳴き声や騒音が発生し、近隣住民の中には不眠を訴える者が出ることすらある。そして、あまりに度を越してこれらが続く場合に、睡眠不足とあいまって、次第に苛立ちや憎悪が引き起こされることがある。

その結果、「水を浴びせる」等の追い払いが行われることがあるが、人によってはまれに動物虐待につながる行為が行われる場合もある。こうなると後述するように、虐待を受けた野良猫の状態などによって、周辺住民の治安に対する不安も発生する。

糞にまつわる問題

柔らかい土を掘り返して排泄し、終わった後は土をかけて隠すことを好むこの動物が、都市部においては、道路の舗装などにより土の露出面積が減った関係上から、個人の敷地内にある花壇や、児童が遊ぶ砂場などに排泄するため、猫が嫌う匂いの散布スプレー・赤外線探知によって猫の嫌う周波数の音波を発する装置・格子状に突起を並べたゴムシートなどの「猫よけグッズ」が市場で販売されている。

感染症にまつわる問題

狂犬病ウイルスヒトを含む全ての哺乳類に感染し、ネコも狂犬病を媒介する。モロッコでは、渡航者がネコにかまれ、狂犬病に感染し死亡した事例が発生している[10]

2017年に日本では、弱った野良猫を保護しようとした女性がマダニが媒介する感染症に冒された猫に噛まれ、10日後に死亡した[11]。これは、ダニ媒介の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)で、哺乳類を介して人が死亡した世界で初めての事例の可能性があったため[11]厚生労働省都道府県医師会などに、体調不良の動物等との接触に注意を喚起する通達を出したが[12]、咬まれたことが感染原因とは確定されていない[13]

引取りにまつわる問題

動物愛護管理法は、所有者不明の犬猫について、拾得者等からの引取りの義務を自治体に課している[14]。2013年の同法の改正により引き取り拒否の附帯決議が付された。附帯決議には、所有者不明の犬猫について引取りを拒否できる規定はなく[15]、法的効力なかったが[16]、政治的効果があり、「尊重することが求められ、無視はできない」・「将来の立法によるその法律の改善の表明」であることからか、多くの自治体が野良猫の引取りを拒否する運用をした[17]。同法の2019年の法改正で、自治体が所有者不明の犬猫の引取りを拒否できる場合が規定された[18]

動物虐待の被害者

人間からの動物虐待で狙われやすいのが、加害者の飼っているペットと並んで、これら野良猫である。

野良猫は、人間社会に溶け込んでいるため、他の動物に比べて、人間に対する警戒心が薄い。なかには餌をもった人間に無条件になつく個体も少なくない。虐待する目的をもった者が、餌を使い野良猫をおびき寄せて捕まえるケースもある。

また、これらの事件では、しばしば有害玩具が用いられているが、これらを購入した者が、実際に使ってみる実験台として、比較的捕えやすい野良猫を選んでいる。なお、これら有害玩具の販売に関する規制案も出されており、業界団体が自己規制を強めるなどの方策も採られているが、決定打とはなっていない。

これらは動物愛護管理法によって、懲役1年未満、または罰金100万円以下の刑が科せられる犯罪行為であり、逮捕者も多数出ている。それでもなお野良猫を虐待するものは後を絶たず、虐待した野良猫の死骸をわざわざ目につく場所に放置したり、瀕死の傷を負わせて放置する事件も起きている。

過去の連続殺人事件等においても、その予兆として動物虐待行為が起きている事例があるため、警察側が警戒を強めている。2002年にはインターネット上で猫を虐待死させた様子を中継した福岡猫虐待事件も起きている。

野良猫との共存

地元ボランティアによる去勢・避妊手術や避難小屋設置など手厚い保護を受け、観光客にも人気の的になっている竹富島コンドイビーチの「さくら猫
ボランティアによって設置された猫小屋

野良猫と共存する試みとして、地域猫活動と呼ばれる制度が派生している(詳細は地域猫を参照)。地域猫活動では、明確な管理者を設け、地域全体で一定量の野良猫を管理する。

日本国内の例では、沖縄県八重山諸島竹富島コンドイビーチでは、ボランティアにより野良猫が去勢・避妊手術を受け、耳にの花びら状に切り込みを入れられ「さくら猫」として食事を与えられた上、竹富島に移住したアメリカ人により風雨を防ぐための猫小屋まで作られ、数多くの野良猫が平穏に暮らしており、猫好きの観光スポットになっている[19]

避妊去勢手術

野良猫の異常繁殖や、野良猫により発生する様々な問題において、より積極的とされる方策には、避妊去勢手術の実施がある。餌を与える行為を通じてネコを慣らしていって、ケージや洗濯ネットに収容し、動物病院に持ち込み、手術を依頼する。このような野良猫の避妊去勢手術の趣旨を理解し、低料金で応じてくれる動物病院も存在する。場合によっては捕獲のための鉄製のケージを設置するケースもある。

なおこの方法は避妊去勢のための趣旨が周囲に理解されない場合、避妊去勢のためではなく、三味線業者の毛皮取りと混同され、誤解した近隣住民等が、せっかく捕獲したネコを逃がしてしまうケースがある。また捕獲された猫を、長時間に渡って風雨や寒暑にさらすのは、動物愛護(保護と管理)という観点から見て望ましくないため、定期的な捕獲装置の監視が必要である。これらには生き物を扱っているという責任感と、ネコの習性への理解が欠かせない。

三味線製造業者が野良猫の捕獲を行うことは現在はほとんどありえず、イメージは都市伝説の域を出ていない。俗に「猫取り」と呼ばれる猫捕獲専門業者の存在が噂されるなど三味線製造業者に対する偏見も加わっている。そもそも三味線の素材は交尾していない猫が最上級の素材ではあり、野良猫は交尾やケンカによる損傷もあるため毛皮の質が悪い。津軽三味線では明治初期から犬の皮が使用されており、通常の三味線も稽古用は犬皮や合成皮革などの別素材が使われている[20]

保護と譲渡

動物愛護に熱心な団体が野良猫を保護し、責任をもって飼育できる人にネコを譲渡する試みがある[21]。その際は、各種予防注射ノミなど外部・内部寄生虫の駆除を行うなどの健康管理が行われる。このような団体では、多くの場合、ネコに一通りのしつけを行い、団体によってはワクチン・避妊去勢手術を施してから引き渡している。

脚注

  1. ^ 川崎市猫の適正飼養ガイドライン
  2. ^ Clutton-Brock 1992, p.61
  3. ^ 藤原重雄『史料としての猫絵』山川出版社〈日本史ブックレット〉、2014年5月、80-82頁。ISBN 978-4-634-54691-2。
  4. ^ 平岩米吉『猫の歴史と奇話』築地書館、1998年11月、228-234頁。ISBN 4-8067-2339-8。
  5. ^ 東京都における犬及び猫の飼育実態調査の概要(平成29年度)p. 30 東京都福祉保健局
  6. ^ 東京都における犬及び猫の飼育実態調査の概要(平成29年度)p. 8 東京都福祉保健局
  7. ^ ふやさないのも愛環境省 p. 3 2020年5月21日閲覧
  8. ^ a b 愛媛県・青島「猫の楽園」の未来 昨年の不妊・去勢手術後もトラブルがたえず…”. 朝日新聞出版. 2020年5月21日閲覧。
  9. ^ 荒川区良好な生活環境の確保に関する条例 平成20年12月17日条例第23号”. 荒川区 (2008年12月17日). 2019年3月21日閲覧。
  10. ^ 猫にかまれて狂犬病に感染、モロッコへの渡航者死亡 英当局CNN.co.jp 2020年5月21日閲覧
  11. ^ a b マダニ感染症、野良猫にかまれ保護しようとした50代女性が死亡 世界初、厚労省が注意喚起”. 産経ニュース. 産経新聞社 (2017年7月24日). 2018年3月20日閲覧。
  12. ^ 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に係る注意喚起について
  13. ^ “重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A 第4版 「問6 ネコやイヌからSFTSウイルスに感染する危険性があると言うことですか?」”. 厚生労働省. (2017年7月24日). オリジナルの2018年3月22日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180323095032/http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/sfts_qa.html 2018年3月23日閲覧。 
  14. ^ 動物愛護管理をめぐる主な課題への対応について(論点整理) p. 14 平成30年12月 中央環境審議会動物愛護部会 2020年5月23日閲覧
  15. ^ 動物愛護管理をめぐる主な課題への対応について(論点整理) p. 3 平成30年12月 中央環境審議会動物愛護部会 2020年5月23日閲覧
  16. ^ 委員会の活動(1)法律案の審査参議院 2020年5月23日閲覧
  17. ^ 駆除目的で捕獲した猫の引取りについて全国アンケート公益財団法人動物環境・福祉協会Eva 2020年5月23日閲覧
  18. ^ 改正動物愛護管理法の概要 p. 14 2020年5月23日閲覧
  19. ^ 産経フォト - 肉球マニアのキャンプ地「猫巡り」第1球 竹富島の〝パラダイス〟2019.2.19 02:22”. 2020年3月27日閲覧。
  20. ^ 三味線皮”. 皮革用語辞典. 日本皮革連合会. 2017年5月10日閲覧。
  21. ^ 小笠原猫プロジェクトー人とペットと野生動物が共に暮らせる島をめざしてー中川動物病院 2020年5月21日閲覧

参考文献

  • Juliet Clutton-Brock『ネコ科の動物』(株)リリーフ・システムズ訳、株式会社 同朋舎出版〈ビジュアル博物館〉、1992年。ISBN 4810410889。

関連項目