金妍兒による練習妨害発言

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金妍兒による練習妨害発言(キムヨナによるれんしゅうぼうがいはつげん)は、韓国フィギュアスケート選手の金妍兒(キム・ヨナ、当時18歳)が韓国のテレビのインタビューで大会のたびに練習を妨害されたと発言したことにまつわる騒動である。

2009年3月14日、韓国のテレビ局のSBSが金の練習を日本選手が妨害したと報じたことから騒動が始まった。放送後、韓国国内で日本選手が批判され、日本でもこれに反応してファン同士の感情対立に及んだ。3月23日までに日本と韓国両スケート連盟の調査結果と金の釈明により、日本選手による妨害疑惑は否定された。番組担当のレポーターの証言によると、日本選手が妨害したと報じられたのは韓国国内での反日感情を煽るのが目的であったことが判明した。

経緯[編集]

練習妨害発言[編集]

画像外部リンク
3月14日に韓国SBSで放送された番組
練習中に金妍児と日本選手とが接近している画像

世界フィギュアスケート選手権を目前に控えた2009年3月14日韓国SBSは「日本の選手が、公式練習中に金妍兒の練習を妨害した」とする番組を放送した[1]。番組ではアナウンサーが「少し衝撃的なニュースから始めます。キム・ヨナ選手がSBSとの単独インタビューで意外な悩みを明かしました」と語った後[2]、インタビューで金は、

これまで大会のたび、試合直前の公式練習中にジャンプの練習をすると進路を遮られました。特に今回の4大陸選手権(2009年2月、カナダ・バンクーバー)では少しひどいという印象を受けました。そこまでしなければいけないのか思うことが多かった。しかしそれに負けたくないですし、それに負ければ競技にも少し支障が出るかもしれないので、対処方法を考えています。

などと述べた[3][4][5]。金は具体名を挙げていなかったが[6][7]、SBSは金の進路を日本選手が妨害したとし、ヨナとモザイク処理された選手数人とがギリギリですれ違う場面を編集して放送した[5][1]。さらに、大会当時のブライアン・オーサーコーチが「日本選手の一人はキム・ヨナのジャンプの軌道だけを徘徊している」と抗議したとも報じた[8][9]

韓国の大手メディアもこれに追随し、「日本の選手達が金妍児の練習を妨害した」と断定的に報じた[3][4][5]。 インタビュー放送後、韓国のファンは金と複数の日本選手とがすれ違う写真や動画をインターネット上に掲載し、掲載サイトのアクセス数も急上昇した[10]。これら一連の報道により韓国国内では日本選手へのバッシングが過熱状態になった[2][3]

日韓スケート連盟の対応[編集]

韓国の報道を受け、日本のスケート関係者たちは「金妍児がそのような発言をするはずはなく韓国マスメディアによる誤った報道がなされているのではないか」と見ていたが[1]、日本のファンらにより「選手も守れないのか」や「なぜ抗議をしない」などの電話やメールによる抗議が日本スケート連盟に殺到することとなった[11][12][13]

3月17日、日本スケート連盟はいかなる抗議もいまだ受けていないと表明した[14][4]。また、伊東秀仁フィギュア委員長は2009年2月の四大陸選手権で現地入りしていたが、そこでも抗議はなかったとし[4]、「スケート選手は真剣に練習をしており、決して意図的に他人の妨害をすることはない。6人の選手が練習しているのでウォーミングアップでぶつかりそうになることは"普通"のことである」とも述べている[14]

3月19日、日本スケート連盟はヨナへの直接の事情聴取も含めた事実関係の調査と解明を求める文書を韓国スケート連盟に送った[12]。さらに理事会では国際スケート連盟に報告することも決定した[12][13][11]。吉岡伸彦強化部長は「日本選手の名誉にかかわる。韓国連盟には金選手への事情聴取も含め世界選手権前に、事実を明らかにしてほしい」と述べた[12]。同日、日本スケート連盟は公式ホームページで意図的に妨害行為をした事実はないとする声明文を出すにいたった。[15]

3月20日、韓国スケート連盟のイ・チサン事務局長は日本側の要請に対し「敏感な事案だ。キム・ヨナ選手はインタビューで特定の国名に言及していない。世界選手権の期間中に日本側の関係者に会い、説明する方針」と述べた[10]。「21日に米ロサンゼルスに行き、キム選手に会って事実を確認する」とも述べた[5]

韓国スケート連盟は3月23日までに日本スケート連盟へ文書で「特定の国や選手を名指ししたのではなく、一般的に選手が遭遇する状況を共有しようとした」、「スペースが限られたリンクでウォーミングアップをする時、周囲の選手によく気を付けた方がいいという一般的な状態を金妍児が言おうとしただけ」、「われわれはこのような誤解が再び起きないことを望む」などと回答した[16][17]

選手の釈明[編集]

四大陸選手権でのジョアニー・ロシェット、金妍児、浅田真央

四大陸選手権に出場していたジョアニー・ロシェット、金妍児、浅田真央の3人は以下のように答えている。

ロシェットは「わざとそんなことをする選手はいません。(練習時は)全員が自分自身に集中しており、その集中は激しく高まっていきます。リンクには同時に6人の選手がいて、ジャンプ、スピン、フットワークなどのウォームアップの為の時間は6分しかありません。皆で場所(リンク)をシェアする必要があるのです。誰一人として1分でも場所を独占することはできません。やりたいことをすべてやるには持ち時間は多くありません。時にそれぞれが集中しすぎて衝突が起きることはあります。しかしそれは決して意図的なものではありません。もちろんそれは腹立たしいことですが、それも試合の一部なのです。」[18][19] [20]と答えた。

3月22日、金は世界選手権のためにロサンゼルス入りした後、次のように述べた。

試合では全選手が競争するだけに、そうしたことが起こり得る。特定国家の選手に言及したわけではないです。選手たちがお互いに競争すると起きる一般的な話をしただけです。思ったより事が大きくなりましたが、あまり気を使わない。訓練に差し支えはないです。大会にだけ集中するだけです。[21]

[22]

3月23日、浅田は記者の質問に対し「このジャンプをしないと、とかで頭がいっぱいになる。自分のことで必死」、「人がジャンプしようとしているときはよけている。それはみんな、ちゃんと分かっています」と話した [23] [24] [25] 。 3月25日、浅田の発言後に朝鮮日報は「浅田はキム・ヨナに対して妙な神経戦を仕掛けた」と報じた[26]

世界選手権[編集]

金妍兒(2009年世界フィギュアスケート選手権)

3月26日、ニューヨーク・タイムズは、金が四大陸選手権で日本選手が意図的に練習を妨害したと示唆したことを受けて、ファンたちが金を守るために結集していること、日本スケート連盟が故意の妨害を否定しているにもかかわらずに金の同胞たちは怒っていることや「韓国民族にとっては、とっても大きな問題だ」、「彼女は我々の国宝だ!」との世界選手権開催地からの声を報じた[27]

3月27日 - 28日に開かれた世界フィギュアスケート選手権の女子シングルで、浅田は転倒するなどで4位という結果に終わった[28]。 一方、金は練習初日から絶好調の滑りを見せ最後まで調子の上がらなかった前世界女王の浅田に大差をつけて女子初となる207.71点を記録して初優勝した[18][28]

ライターの田村明子のコラムによると、金のコーチでもあるオーサー(当時)のコメントは「公式練習中に周りを見ていない選手がいて苛立ったことがあるのは事実だが、どこの国の選手と特定したことは一度もない。マスメディアが「日本の選手」と報じたのはライバル関係を煽って話を面白く作り上げるためではないか」と述べている。金も自らの発言と違う趣旨の番組が作られたとしてエージェントを通じてSBSに抗議をしたとされる[1]

専門家の見解と騒動の評価[編集]

この騒動に関して、専門家は以下のように説明している。

練習妨害が実際にあったかを元フィギュアスケート選手の渡部絵美も、「練習はジャッジの見ている前でするから妨害するメリットは全く無い。世界選手権が近いのでキム・ヨナ選手も気が立っていたのでしょう」[29]と否定した。また、自身が妨害受けたことはとの質問に「しょっちゅうありますよ。試合直前の練習は6分間で、最終調整に入りますので神経質になる。ぶつけに行こうかとか、よぎってやろうかなどと、そこまで余裕のある選手はいないと思いますよ」と述べた[2]

ジャーナリストの西村幸祐も一連の騒動の原因は韓国メディアの「反日無罪」体質にあると評している[30]。韓国国内で捏造報道が批判されていないことを挙げ、反日のためなら許されてしまう風潮を指摘している[30][31]。 金が所属するIBスポーツの対応も朝鮮日報が批判している。IBスポーツは「キム・ヨナ選手が何度も妨害されたと感じていたのは事実だが、特定の国を名指ししてはいない」とコメントする程度であり、対応をとるべき時に問題の本質とは関係のないPR的な寄稿文を書いていたとし[10]、 「キム・ヨナのマネジメントを担当するIBスポーツが、選手の発言背景や真意を把握し、メディアにきちんと伝えようという努力をしなかったの」が問題だったとも評している[10]

その後の韓国メディアの類似報道[編集]

  • 2010年2月のバンクーバーオリンピックの際には韓国スケート連盟のチョン・ジェウン理事が「エストニアエレーナ・グレボワが金の練習を妨害した」と発言している[33]。その直後にグレボワのホームページが炎上し、グレボワがホームページ上で謝罪する事態となった[34]

脚注[編集]

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  1. ^ a b c d 田村明子『パーフェクトプログラム 日本フィギュアスケート史上最大の挑戦』新潮社、2010年3月、pp.201-202
  2. ^ a b c 「キム・ヨナ『日本選手が妨害』 韓国で日本大バッシング」『J-CASTニュース』2009年3月17日更新、2009年3月21日閲覧
  3. ^ a b c 「<フィギュア>キム・ヨナ「日本選手に練習を邪魔された」 『中央日報』2009年3月16日更新、2009年3月16日閲覧
  4. ^ a b c d 「日本スケート界、キム・ヨナの練習妨害発言にピリピリ」『朝鮮日報』2009年3月17日更新、同日閲覧
  5. ^ a b c d 「フィギュア:ヨナ妨害発言に日本スケート連盟が声明」『朝鮮日報』、2009年3月20日更新、同日閲覧
  6. ^ 前田泰広「ライバルが練習妨害 キムヨナ選手主張」『読売新聞』2009年3月15日、第14版、第38面
  7. ^ 「ハーフタイム」『朝日新聞』2009年3月20日、第14版、第23面
  8. ^ 「김연아 연습방해 논란, 日연맹 한국에 조사 요구(キム・ヨナの練習の邪魔をめぐる議論、日本連盟、韓国に調査要求)」 『韓国財経新聞』 2009年3月19日 (朝鮮語)
  9. ^ 「キム・ヨナ衝撃発言…日本選手が練習妨害」『デイリースポーツオンライン』2009年3月15日更新、2009年3月21日閲覧 - ウェイバックマシン(2009年3月27日アーカイブ分)
  10. ^ a b c d 成鎮赫(ソン・ジンヒョク)「フィギュア:ヨナ妨害発言、波紋広がる」『朝鮮日報』/朝鮮日報日本語版 2009年3月21日
  11. ^ a b 「韓国報道にファン抗議!キム・ヨナ妨害を日本連盟否定」 『スポニチ Sponichi Annex ニュース』 2009年03月19日
  12. ^ a b c d 「韓国連盟にキム・ヨナの事情聴取を要求…日本スケート連盟」『スポーツ報知』2009年3月20日更新、2009年3月21日閲覧
  13. ^ a b 「キム・ヨナ選手妨害を日本側否定 韓国報道にファンの抗議殺到」『47ニュース』2009年3月19日更新、2009年3月21日閲覧、共同通信社配信記事
  14. ^ a b F-skating controversy hots up Asada-Kim rivalry フランス通信社 Mar 17, 2009
  15. ^ フィギュアスケートに関する一部報道について 日本スケート連盟 - ウェイバックマシン(2009年3月23日アーカイブ分)
  16. ^ “韓国スケート連盟が回答 金ヨナ“妨害”報道で”. 産経新聞. (2009年3月23日). オリジナルの2009年3月23日時点によるアーカイブ。. http://s02.megalodon.jp/2009-0323-2233-03/sankei.jp.msn.com/sports/other/090323/oth0903232145026-n1.htm 
  17. ^ “『特定の国でない』と韓国側=金妍児の『妨害』発言は誤解”. 時事通信. (2009年3月23日). オリジナルの2009年3月23日時点によるアーカイブ。. http://s02.megalodon.jp/2009-0324-2010-19/headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090323-00000165-jij-spo 
  18. ^ a b 「キムヨナを勝利に導いた?妨害発言の影響」 『ツカサネット新聞』 2009年4月6日
  19. ^ 『ワールド・フィギュアスケート No.38』 新書館、2009年4月16日
  20. ^ "2009 World Preview, Ladies" Ice Skating International: Online
  21. ^ 피겨 퀸 김연아, 세계선수권 우승 위해 LA 입성(フィギュア女王キム・ヨナ、世界選手権優勝のためにLA入り)”. スポーツ朝鮮 (2009年3月22日). 2012年7月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年10月11日閲覧。(韓国語)
  22. ^ 「ロサンゼルス入りしたキム・ヨナ」(3月23日) 『聯合ニュース』 2009-03-23
  23. ^ 「真央ちゃんが出発、故意の妨害は明確に否定」 『産経ニュース』 2009.3.23
  24. ^ 「真央ちゃん否定!韓国のキム・ヨナ妨害報道」 『SPORTS NIPPON』 2009年03月23日
  25. ^ 「真央「当たったことない」…24日・世界フィギュア開幕」 『スポーツ報知』 2009年3月24日
  26. ^ チョ・ヒョンサム「フィギュア:WBCに続き韓日対決、ヨナ意気込みを語る」 『朝鮮日報』 2009年3月25日 閲覧
  27. ^ Kim Yu-na Skates While Carrying the Hopes of South Korea New York Times March 26, 2009
  28. ^ a b 「日本選手バッシングの韓国マスコミ ヨナ「200点越え」で一転大はしゃぎ」 J-CASTニュース 2009年3月30日
  29. ^ 『真央チャン困惑』キム・ヨナの歪んだ敵対心 - ウェイバックマシン(2009年3月21日アーカイブ分) livedoor スポーツ 2009年03月19日 / 提供:ゲンダイネット『日刊ゲンダイ』2009年3月15日 2009年3月16日掲載
  30. ^ a b 西村幸祐「捏造・改変なんでもあり! やっぱり変わらない韓国メディアの「反日無罪」」『SAPIO』2009年5月27日・6月3日号。 - ウェイバックマシン リンク先は @nifty ニュースに配信されたもの、2009年6月8日更新。
  31. ^ 西村幸祐『メディア症候群』総和社、2010年9月 pp.93-94
  32. ^ 「일본 수구리 후미에, 김연아 연습방해 논란」 『スポーツ朝鮮』 2009.11.15
  33. ^ 「【冬季五輪】エストニア選手がキム・ヨナの練習を妨害?」 中央日報 2010.02.22
  34. ^ Elena Glebova, official website - Guestbook 2010.02.23