鉄道撮影

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鉄道撮影(てつどうさつえい)とは、鉄道を主題とした写真撮影、あるいは動画の撮影をすることである。特に列車を専門にしている場合は、列車撮影とも呼ぶ。

概要[編集]

鉄道趣味としては最も古くから行われてきた基本的な形態の一つである。また、それをメインとして楽しむ鉄道ファンのことを、近年は撮り鉄(とりてつ)とも呼ぶ[1]日本においては、明治時代に撮影された「岩崎・渡邊コレクション」が、当時の鉄道を克明に記録した資料として伝わっており、昭和初期に創刊された鉄道趣味雑誌も、写真撮影に主眼を置いていた。さらに、趣味から進んで、鉄道写真の撮影を専門とするプロ写真家である鉄道写真家も存在する。

撮影対象は、鉄道車両、構造物(駅舎や橋梁など)などから、鉄道関係者や利用者などの人物にまで多岐に及ぶこともある。撮影の目的や手法も多種多様である。

撮影手法[編集]

流し撮りの例
シャッタースピード 1/100

以前は写真撮影を趣味に置く人はフィルム式の一眼レフカメラが代表的であったが、デジタルカメラの普及も進んでいる。動画撮影にはビデオカメラを使用する。

駅のそば、駅の構内、あるいは同じ列車を追跡して何度も撮るなどの手法がある。

撮影に使用する道具[編集]

カメラ
2000年代に入ってからはデジタル一眼レフカメラも普及している。
三脚
夜間撮影のほか、望遠レンズや複数のカメラを使用する場合に用いられる。脚立と併用して使うものも多い。
※後述のとおり近年は安全のため、駅構内での三脚・脚立の使用を禁止している鉄道事業者もある。
脚立
高い位置から構えて撮影する場合に使用する。
携帯電話スマートフォンパソコンタブレット端末
列車の運行情報や撮影地などの地図の確認、SNS等を活用した情報収集・発信に利用される。カメラの次に必須道具。特にカメラ付き端末は2000年以降の鉄道撮影に使われることが多くなった。
鉄道趣味雑誌・書籍
近年では鉄道写真の撮り方についてレクチャーした書物や、鉄道写真専門の撮影地ガイドも多く販売されている。
その他
カメラなどといった撮影機材を入れるのに、「銀箱」と呼ばれるアルミケースやリュックサックなどを使う。

トラブル[編集]

撮影地で目的の列車を待つ鉄道ファンたち
撮影者の中には夢中になるあまりフェンスを破壊してまでカメラレンズを入れてしまう者もいる。これは犯罪行為(器物損壊罪)にあたる。画像は補修後の状態。補修されている所の色が異なる。

鉄道撮影は古くから存在し趣味として発展を遂げてきた一方で、一部の悪質なマニアの行動により、さまざまなトラブルが繰り返し発生している[2][1]。鉄道ライターの杉山淳一は、鉄道ファンの自浄作用は期待できないとした上で、違法行為や受忍限度を超える行為に対しては身柄を拘束し法的措置を講じるべきだと主張している[3]

目的の列車を効率よく撮影したり大きな脚立や大量の機材を運ぶため、移動手段に鉄道ではなく自動車を使い、鉄道事業者にお金を落とさない撮り鉄も存在するという[4]

マスメディアではこうしたトラブルが取り上げられることは多いものの、鉄道雑誌や鉄道書でマナーを特集したものは少なく、特に鉄道雑誌は写真機器メーカーが主要広告主となっていることが多く(カメラメーカーとのタイアップ記事が掲載されることもある)、鉄道撮影を批判・否定する記事を掲載しづらいという事情もあり、マナー違反を増長させる一因となっている。[要出典]鉄道ファン (雑誌)』では「マナーの問題はファンの自主性を最優先すべき」という方針から、トラブルに関する読者投稿を敢えて載せなかったことを明らかにしている[5]。その後『鉄道ファン』誌は、後述する2010年のジョイフルトレインあすか」の列車妨害事件に際しては、公式サイトで注意喚起の記事を掲載するとともに「マナーに関する特集を組む」と編集部で公言した[6](だが2018年現在までそのような特集は掲載されていない)。その一方で近年では、『鉄道ダイヤ情報』などの撮影をメインとした雑誌では写真撮影に関する注意事項が必ず掲載されるようになったほか、JTB時刻表の2015年9月号の特集「いつまで会える!?国鉄色を撮りに行こう!」の記事中で撮影マナーに言及する[7]、写真雑誌の『アサヒカメラ』で鉄道写真のマナーを考える特集が掲載される[8]など、これらの問題が顕在化しつつある近年では変化が見られる。

トラブルの実例[編集]

  • 1976年、SL列車を撮ろうとして周囲の注意を無視して線路に入った児童が列車に接触して死亡した京阪100年号事故が発生[1]。このことから、都市周辺での蒸気機関車保存運行を国鉄が断念し、地方線区での恒久的実施に方針を切り替えざるを得なくなる事態に発展している(1979年より「SLやまぐち号」として実施)。
ウィキニュース 2010年2月22日「マナー守れぬ鉄道ファンが列車を止める 相次ぐ運行妨害」も参照。

フラッシュ撮影[編集]

運行中の車両に対し、走行中・停車中を問わず、フラッシュを焚いたり照明を使用して撮影することは運転の支障となり非常に危険なため厳禁である[20]東京メトロ東京都交通局などフラッシュ撮影禁止を明示している鉄道事業者も多い[21][22]。また、フラッシュ撮影は危険行為のため乗務員から注意を受けることがある [23][24]

自撮り棒[編集]

その他、鉄道撮影に特化した機材ではないが、スマートフォンの普及とともに自撮り棒による撮影が増え、駅構内のプラットホーム上で架線に接触する危険があることから、自撮り棒の使用を禁止としている鉄道事業者もある。

鉄道事業者側の対策[編集]

2006年には、東日本旅客鉄道(JR東日本)新潟支社が、当時では異例ともいえる鉄道ファンへの注意喚起の案内を公式ウェブサイト上で2度にわたり公開したことがある[25]

2017年1月京王電鉄は列車撮影時における禁止行為(フラッシュ撮影、三脚・脚立の使用、黄色線から出ての撮影など)を書いたポスターを駅に掲示した[26][27]。他にも、駅構内や公式サイトで撮影に関する注意や禁止行為を明示する鉄道事業者が増えている。

2017年5月2日、東日本旅客鉄道の高級クルーズトレインTRAIN SUITE 四季島」の運行開始列車が上野駅から発車する際、乗車口の13番線ホームは乗客と報道関係者以外立ち入らせず、その対角となる14番線には回送列車E231系電車15両編成)を留置させ、14番ホームからの撮影を遮蔽した[28]

トラブルを避けるために引退車輌のラストランのセレモニーイベントを実施しないケースも出ている。

撮影地の問題[編集]

撮影地について、鉄道撮影趣味者と土地所有者や沿線の住民・農家などの間でトラブル(撮影に支障する樹木を勝手に折るなど)が起き、その後立ち入りが制限されたことや、侵入者対策として鉄道事業者や土地所有者が大型の安全フェンスの設置などを行った結果、良好なアングルで車両が撮影できるいわゆる「撮影名所」が消滅した場所もある。一例として、東海道本線JR京都線山崎駅近辺の「サントリーカーブ[29]、東海道本線(JR神戸線さくら夙川駅近辺の「夙川カーブ」、北陸本線新疋田駅近辺の「鳩原ループ」などの撮影地が挙げられる。

その一方で、鉄道事業者側が撮影者との共存共栄を図ろうと、鉄道撮影スペースの整備を図る例もある。IGRいわて銀河鉄道では鉄道写真家櫻井寛の提案により、約100万円をかけて滝沢駅上りホーム先端に安全に鉄道撮影ができる専用スペース「TRAIN SPOTTER'S」が整備され、2017年10月14日より開放されるなど新たな動きもみられる[30]。この滝沢駅の撮影専用スペースについて、櫻井寛は「おそらく日本初」としている[30]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 梅原淳、"写真のためなら手段を選ばない「撮り鉄」の恐るべき本性"、iRONNA、産経新聞社、2016年(ページ1234、2020年6月18日閲覧)。
  2. ^ “違法行為の撮り鉄、どう対処?”. MSN産経ニュース. (2013年3月22日). http://sankei.jp.msn.com/life/news/130322/trd13032207490003-n1.htm 2013年3月22日閲覧。 
  3. ^ 磨井慎吾 (2013年3月25日). “問題続発の「撮り鉄」--「違法行為には厳しく」「間接的には観光振興」 (1/2)”. ITmediaニュース. http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1303/25/news037.html 2013年3月29日閲覧。 
  4. ^ a b c 悪質な「撮り鉄」マナー 乗務員に向かってストロボ撮影、呆れたその言い訳とは? 朝日新聞社AERA dot.」、2018年11月5日、2019年12月19日閲覧。
  5. ^ 交友社『鉄道ファン』1986年6月号、p.145
  6. ^ a b 『鉄道ファン』編集部から読者のみなさまへお願いとお知らせ 交友社公式サイト「railf.jp」、2010年2月17日、2019年12月19日閲覧。
  7. ^ 佐々木実「日本の四季によく映える!国鉄色を楽しく撮るためのコツ」『鉄道ジャーナル』第1076巻、2015年9月、 巻頭カラー5頁。
  8. ^ アサヒカメラが「嫌われない撮り鉄になるために」を特集 この企画に込められた思いを聞いた ねとらぼ、2018年1月17日。
  9. ^ 【関西の議論】迫る「Xデー」、大阪駅に殺到する!?「葬式鉄」…豪華寝台特急3月ラストラン 一部の〝暴走〟どう食い止めるか 産経新聞(産経WEST)、2015年1月21日、2019年12月19日閲覧。
  10. ^ “「撮り鉄」節度を 踏切侵入、はねられ死亡…目立つマナー違反 JR、対策に躍起”. 朝日新聞東京朝刊: p. 39. (2009年3月14日) 
  11. ^ 鉄道ファンの線路侵入 鉄道雑誌も「犯罪」と警告 J-CAST、2010年2月20日、2019年12月19日閲覧。
  12. ^ SLファン滑落か…がけ下に男性遺体 読売新聞 2010年5月6日。2010年5月9日閲覧。(2010年5月9日時点のアーカイブ
  13. ^ “ドローンで鉄橋に違法接近 「電車撮りたかった」 千葉県警が書類送検”. 産経ニュース (産業経済新聞社). (2017年12月6日). http://www.sankei.com/affairs/news/171206/afr1712060049-n1.html 2018年1月26日閲覧。 
  14. ^ 【撮影時の場所取り①】 大井川鐵道株式会社【公式】 (@daitetsuSL) - Twitterアーカイブ。2017年10月17日、2019年12月15日閲覧。
  15. ^ 【撮影時の場所取り②】 大井川鐵道株式会社【公式】 (@daitetsuSL) - Twitterアーカイブ。2017年10月17日、2019年12月15日閲覧。
  16. ^ 「撮り鉄」路上に脚立置き「場所取りしてます」「撤去厳禁」と張り紙…法的にアウト 弁護士ドットコムニュース、2017年10月20日、2019年12月19日閲覧。
  17. ^ 撮影目的か、貨車に車3台がハイビーム 叡電「危険、やめて」 京都新聞、2018年11月30日[リンク切れ]。(2019年11月26日時点でのアーカイブ
  18. ^ 乗用車のハイビームを照明代わりに 叡山電鉄、撮り鉄の迷惑行為に異例のお願い「運転の妨害」語気強く ねとらぼ、2018年11月29日、2019年12月19日閲覧。
  19. ^ 【列車を撮影される方へのお願い】 叡山電車【公式】 (@eizandensha) - Twitterアーカイブ。2018年11月27日、2019年12月19日閲覧。
  20. ^ 森由梨香『鉄道写真の撮り方手帖』マイナビ、2013年11月、21頁。ISBN 978-4-8399-4194-9。
  21. ^ 東京メトロからのお願い”. 2018年12月23日閲覧。
  22. ^ 撮影にあたってのお願い 東京都交通局。「局施設でのロケ撮影にあたってのお願い」だが、文中に「駅ホーム上での照明器具等(フラッシュ・ライト)を⽤いた撮影は、乗務員への影響が大き いことから⼀切お断りさせていただきます。」とある。
  23. ^ フラッシュ撮影した客にメトロ運転士ブチ切れ 「すいませんじゃねーよ!」は暴言なのか J-CAST、2015年2月25日
  24. ^ 鉄オタまた“脱線”オレンジ電車引退でやりたい放題… ZAKZAK 2010年10月15日。2010年10月15日閲覧。(2010年10月18日時点のアーカイブ
  25. ^ 「鉄道ファン」の皆様へお願い
  26. ^ 「撮り鉄」にカメラを向けられた車掌のホンネは? 「事故になれば駅員の責任…」 朝日新聞社「AERA dot.」2018年11月9日、2019年12月19日閲覧。
  27. ^ 【激怒】いい加減にしろ! 京王線が鉄道オタクのマナー違反に我慢の限界! 撮影禁止事項を掲示 バズプラスニュース、2017年1月26日
  28. ^ 高級寝台『四季島』一番列車発車! 上野駅での対応に“撮り鉄”から不満の声も…… ガジェット通信、2017年5月2日
  29. ^ “「サントリーカーブ」にフェンス 惜しむ鉄道ファン”. 朝日新聞. (2008年10月7日). http://www.asahi.com/kansai/travel/news/OSK200810070020.html 2013年3月22日閲覧。 
  30. ^ a b 櫻井寛「IGRいわて銀河鉄道 滝沢駅プラットホームに撮影スペース TRAINB SPOTTER'S誕生」 『鉄道ファン』2017年1月号(NO.681)、交友社、132-133頁。

関連項目[編集]