風神

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

風の神/風神(かぜのかみ)[1][2]とは、第1義には、を司るであり[1]、その日本語名称、さらに言えば大和言葉に基づく名称である。同様の存在を漢語では中国語でも日本語でも「風神日本語読み:ふうじん)[1][3]」「風伯日本語読み:ふうはく)[4]」「風師日本語読み:ふうし)[5]」といい、日本ではシナツヒコ[6]や風三郎/風の三郎(かぜのさぶろう)[7]および風の又三郎(かぜのまたさぶろう)などが、中国では飛廉(いて座)や箕伯がこれに該当する神の一種といえる。

第2義には、風邪を流行らせる日本の疫病神を指す[1]

さらに第3義には、江戸時代の日本にいた乞食の一種で、風邪が流行った時に風邪の疫病神を追い払うと称して門口に立ち、をかぶりかね)や太鼓を打ち鳴らして金品をねだる者[1]、すなわち「風神払/風の神払い(かぜのかみはらい)[8]」を指す[1]

なお、風を司るか関わるかする精霊妖怪をもその名で呼ぶが、そもそも的存在である神や精霊・妖怪に定義し得るような明確な境目などは無く、自然のと同じように捉える側の感覚価値観が名称と扱いを決めているに過ぎない。

アジアにおける風神像の変遷
左:ヘレニズムの風神/2世紀ハッダにて、ガンダーラ美術の下で作られた像。風を蓄えた袋を背負っている。

中:キジル石窟の風神/7世紀タリム盆地で造営された仏教石窟寺院壁画に見られる風神の図。風袋を背負ってはいるが、ここではよりアジア的な、インド文化の影響の色濃い精霊の姿に変わっている。

右:日本の風神/17世紀日本の絵師・俵屋宗達が描いた風神図(風神雷神図屏風右隻の部分)。風袋を背負う様式を踏襲しながらも、姿は大きく変容し、青い鬼神になっている。
鬼神としての風神/俵屋宗達 風神雷神図屏風の右隻より、風神図(部分)
鬼神としての風神/日光山輪王寺大猷院霊廟の風神像
黄色い息を吐いて厄害をもたらす、邪神・疫病神としての風神/奇談集『絵本百物語巻第5 第39「風の神」。天保12年(1841年)刊。絵は竹原春泉による。

また、日本でいうところの風の神(第1義)に相当する霊的存在は世界に偏在する。文化的背景からして大いに異なるがゆえ、それらは様々に個性ある存在であり、の風を運ぶ神もいれば、暴風雨で破壊して廻る神もいる。その一方で、文化の伝播による関連性が見出される例も少なくはない(■右の画像も参照のこと)。

日本の風神[編集]

古事記』や『日本書紀』に記された神話の中では、シナツヒコが風神とされている。『古事記』では、神産みにおいてイザナギイザナミの間に生まれた神であり、風の神であるとしている。『日本書紀』では神産みの第六の一書で、イザナミが朝霧を吹き払った息から級長戸辺命(しなとべのみこと)またの名を級長津彦命という神が生まれ、これは風の神であると記述している。

太平記』の記述として、(元寇の際)伊勢神宮風宮に青い鬼神が現れ、土嚢(※風袋のこと)から大風を起こしたとあり、少なくとも室町時代には風神のビジュアル(風袋を持った青鬼)が確立していたことがわかる(※風袋に関して、大陸渡来であることは別項「風神雷神図」に詳しい)。このような鬼神型の風神は、青の姿で表現される一方で、遠くヘレニズム文化から伝播したと見られる風袋(※これをふいごのようにして風を起こす)を背負った様式で描かれる。俵屋宗達風神雷神図屏風はその代表的なものである。また、このような風神はの神と密接に関係しており、雨を呼ぶ稲妻を司る雷神は、風神と対をなす存在となっている。

平安時代の歌学書『袋草子』、鎌倉時代の説話集『十訓抄』には、災害や病気をもたらす悪神としての風神を鎮めるための祭事があったことが述べられている[9]奈良県龍田大社では7月4日に風神祭りが行われている。

風の又三郎(かぜのまたさぶろう)は、東北地方各地で信仰されてきた半ば妖怪ともいえる風の神であり、古来神社で祀られてきた。新潟県などで信仰されてきた風三郎/風の三郎(かぜのさぶろう)も同根である。このような形の風神は、日本各地に似たようなものが見られる。宮沢賢治短編小説風の又三郎』とその先駆作『風野又三郎』はこの風神に材を採った作品である。また、日本の楽曲北風小僧の寒太郎』にも少なくとも発想の上で影響が見られる。

疫病神としての風の神は、空気の流動が農作物や漁業への害をもたらし、人の体内に入ったときは病気を引き起こすという、中世の信仰から生まれたものである。「かぜをひく」の「かぜ」を「風邪」と書くのはこのことに由来すると考えられており、江戸時代には風邪の流行時に風の神を象った藁人形を「送れ送れ」と囃しながら町送りにし、野外に捨てたり川へ流したりしたという[9]。江戸時代の奇談集『絵本百物語』では、風の神は邪気のことであり、風に乗ってあちこちをさまよい、物の隙間、暖かさと寒さの隙間を狙って入り込み、人を見れば口から黄色い息を吹きかけ、その息を浴びたものは病気になってしまうとされる[10]。また「黄なる気をふくは黄は土にして湿気なり」と述べられており、これは中国黄土地帯から飛来する黄砂のことで、雨天の前兆、風による疫病発生を暗示しているものといわれる[9]西日本各地では、屋外で急な病気や発熱に遭うことを「風にあう」といい、風を自然現象ではなく霊的なものとする民間信仰がみられる[11]

日本の風神の関連作品[編集]

中国の風神[編集]

インドの風神[編集]

その他の世界の風神[編集]

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ a b c d e f 風の神”. コトバンク. 2019年5月5日閲覧。
  2. ^ 風神”. 小学館『精選版 日本国語大辞典』. コトバンク. 2019年5月5日閲覧。
  3. ^ 風神”. コトバンク. 2019年5月5日閲覧。
  4. ^ 風伯”. コトバンク. 2019年5月5日閲覧。
  5. ^ 風師”. コトバンク. 2019年5月5日閲覧。
  6. ^ 級長津彦命”. コトバンク. 2019年5月5日閲覧。
  7. ^ 風の三郎”. 平凡社世界大百科事典』第2版. コトバンク. 2019年5月5日閲覧。
  8. ^ 風神払”. 小学館『精選版 日本国語大辞典』. コトバンク. 2019年5月5日閲覧。
  9. ^ a b c 多田克己編 『竹原春泉 絵本百物語 -桃山人夜話-』 国書刊行会、1997年、166-167頁。ISBN 978-4-3360-3948-4。
  10. ^ 『竹原春泉 絵本百物語 -桃山人夜話-』 107頁。
  11. ^ 村上健司編著 『妖怪事典』 毎日新聞社、2000年、105-106頁。ISBN 978-4-620-31428-0。

関連項目[編集]