髭黒

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髭黒(ひげくろ)とは、源氏物語に登場する架空の人物。鬚黒と表記されることもある。

概要[編集]

玉鬘に求婚する貴公子の一人として登場する。登場時の官位は右大将右大臣を父に、承香殿女御を妹に持つということから血筋には何ら問題はないものの、髭が濃く、色黒な外見(「髭黒」の通称はこれに由来する)や、すでに兵部卿宮正妻長女(つまり紫の上の異母姉にあたる)を妻にしており、その妻との間に子もいることなどから玉鬘も養い親の光源氏も乗り気ではなかったが、玉鬘付きの女房をうまく手引きさせて強引に玉鬘を自分のものにしてしまう。

当時は複数の妻を持つこと自体は何の問題も無いとされている時代であり、すでに妻を持ちながら玉鬘を新たな妻として迎えること自体は問題とされることはなかったものの、最初の妻(兵部卿宮の長女)が以前から心に病を抱えていたため、玉鬘を新たな妻に迎えたことで最初の妻との仲が決定的に壊れてしまい、この先妻は娘の真木柱をつれて実家に帰ってしまう。

前述のように玉鬘を妻にした経緯こそ強引ではあったものの、妻とした玉鬘との間には幾人もの子を儲けており、光源氏の五十の賀の際には髭黒と光源氏の養女である玉鬘との間に出来た男子が、光源氏の孫の一人として光源氏の実子である夕霧の長男とともに光源氏の前で舞を舞っているなど光源氏一族との良好な関係を築くのに成功している。

また玉鬘の夫の地位を争ったライバルであった蛍兵部卿宮には先妻との娘である真木柱を嫁がせるなど、さまざまな勢力との良好な関係を築いており、今上帝の庇護者として右大臣までなった父を超えて太政大臣にまで登ることになる。

この髭黒は巻と匂宮巻の間の光源氏や頭中将と相前後する時期に死去したと見られるが、紅梅巻では先妻の娘真木柱(最初の夫である蛍兵部卿宮とは死別して紅梅と再婚している)とその娘(髭黒から見ると孫にあたる)「宮の御方」の様子が、また竹河巻では残された妻玉鬘とその子供たちの様子が描かれている。

登場する巻[編集]

髭黒は典型的な玉鬘系の人物の一人として直接には以下の巻で登場し、本文中ではそれぞれ以下のように表記されている[1]

呼称[編集]

「髭黒」という呼称は源氏物語の本文中には現れない。髭が濃く、色黒なことに由来する後世生まれた通称である。平安時代末期の成立と見られる九条家本古系図には「髭黒大臣」との呼称が見られる。その他この人物は「野路大臣」と呼ばれることがあり、紫明抄によれば行成卿自筆本には「野路太政大臣」という記述があったとされているが、この「野路大臣(のぢのおとど)」という呼称については本文中にある「後の大臣(のちのおとど)」を写し誤ったのではないかとする説がある。

家系[編集]

髭黒の父親は右大臣にまで登った人物であるとされるが、登場までの本文中には一切現れておらず、初登場の時点ですでに死去しているとされる。登場時点での東宮(=後の今上帝)の母・承香殿女御の兄にあたる。兵部卿宮の長女(紫の上の異母姉にあたる)とはすでに長年連れ添っており、女子(真木柱)と2人の男子をもうけていた。2番目の妻となった玉鬘との間にも大君など3人の男子と2人の女子をもうけた。

各巻での活動[編集]

登場時32歳から33歳程度。初登場時点の官位は左大将。玉鬘に心寄せる公達の一人として登場する。生真面目で一途な性格だが、複数の妻を平等に扱うことが出来ないなど、平安貴族としては欠点を多く持つ人物とされることや、すでに兵部卿宮の長女(紫の上の異母姉にあたる)とは長年連れ添い、子(真木柱)ももうけていた。このようないくつかの問題があり、玉鬘本人も養父の光源氏も玉鬘の結婚相手としては乗り気ではなかった(第24帖 胡蝶

そのような立場にあったにもかかわらず玉鬘の女房を味方にして玉鬘の寝所に入り込み強引に妻にしてしまう。同人の最初の妻(「鬚黒の北の方」と通称される)は「物の怪憑き」であり発作を起こすことがある。その心の病にも耐え続けてきたが、玉鬘を見初め強引に関係を持ち妻に迎えてしまったために最初の妻との亀裂が決定的なものとなり、この妻は娘の真木柱と共に実家に戻ってしまった。(第31帖 真木柱

真木柱を蛍兵部卿宮と結婚させる。(第35帖 若菜下

今上帝が即位すると、すでに死去していた今上帝の外祖父(髭黒の父)に代わり、今上帝の後見として太政大臣まで出世した。

後に玉鬘との間にも大君など3人の男子と2人の女子をもうけたが、本人は光源氏、頭中将などとともに巻と匂宮巻の間で死去している。(第44帖 竹河

参考文献[編集]

  • 篠原昭二「作中人物事典 髭黒」『源氏物語事典』 秋山虔編、学燈社〈別冊国文学〉No.36、1989年(平成元年)5月10日、p. 294。
  • 「髭黒」西沢正史編『源氏物語作中人物事典』東京堂出版、2007年(平成19年)1月、pp. 254-255。 ISBN 978-4-490-10707-4
  • 稲賀敬二「作中人物解説 髭黒」池田亀鑑編『源氏物語事典下巻』東京堂出版 1960年(昭和35年)(合本は1987年(昭和62年)3月15日刊)、pp. 388-389。 ISBN 4-4901-0223-2
  • 伴利昭「玉鬘と髭黒大将の意外性」日本文藝學学会編『日本文藝學』通号第16号(特集・源氏物語の世界)、日本文藝學会、1981年(昭和56年)3月、pp. 39-50。

脚注[編集]

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  1. ^ 稲賀敬二「作中人物解説 髭黒」池田亀鑑編『源氏物語事典下巻』東京堂出版 1960年(昭和35年)(合本は1987年(昭和62年)3月15日)、pp. 388-389。 ISBN 4-4901-0223-2